表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第三章・執着の恐怖を打ち払いたい。
68/131

第68話 上の空の恐ろしさを感じた。

 (さき)から驚くべき真実を聞かされた。

 驚いた俺は就寝中の親父を叩き起こすようにメッセージを何通も飛ばした。


「うぉ。マジかぁ……マジだったかぁ」


 親父からは知ってしまったか的な「てへぺろ」が届いた。

 イラッとしたよな、その文言を示されたら。

 母さんが使うならまだ許せるが、親父が使うとイラッとする。

 理由を聞けば母さんと親父は遠縁の親戚でもあったらしい。

 血縁で言えばめっちゃ薄いが、互いに一目惚れして今があるそうだ。


「ね、熱愛の結果、俺が生まれたとか気まず過ぎるだろ」

「へぇ〜、いいね、それ? 私も早く熱愛したいよ」

「はぁ? してるだろ?」

「ううん。こちらの関係はまだだよ?」

「お、おいこら。ここでスカートを捲るな!」

「てへっ」


 それはともかく、本家といえど体力は衰退していて立場が逆転しているらしい。

 それであっても優木(ゆうき)家は過去の主従関係を重んじているという。

 だから持ちつ持たれつで、いざという時は凪倉(なくら)家も動くと。


「会長が名字呼びする理由はそこにある?」

「それか私への遠慮もあると思うけどね?」

「なるほどな」


 白木(しらき)の相談役は現役で、優木(ゆうき)家と連動して動かれると詰むのは必定だった。


「爺さんまでコンサルティング業をしているとはな」


 両親の仕事と同じのため簡単に納得出来た俺だった。


「それが一種の家業なんじゃない?」

「かもな。親父達は関係者として経験値を得ている最中と」

「こうなると白木(しらき)の命運が李香(りか)ちゃん一人にのし掛かるって不運だよね」

「何を思って優木(ゆうき)家を狙ったんだか」


 現在の優木(ゆうき)家は白木(しらき)家の傘下にある。

 だがそれは、あくまで企業提携的な関係なのだろう、持ちつ持たれつ的な。

 毒親がその点を考慮していないクズとすると本物の毒でしかない。


「それで爺さまの動きはいつ頃からだ?」

「既に動いていると思う。私に監視を命じたから」

「可愛い孫娘に命令するってよっぽどだな?」

「それくらい切羽詰まっているみたい」


 相談役の関係者にクズが唾を付けたから。

 耳に入るだけで大惨事になる事案だから。

 幸い、俺達の周囲に人影がない事が救いか。

 俺達は飲み物を買ったあと、


「こんな理由なら中庭のど真ん中に陣取って正解か」

「だね。膝枕している風にも見えるしね」


 (さき)が芝生にハンカチを敷いて座り、俺が膝に頭を乗せて横になっていたのだ。

 一見するとイチャつくバカップルだが、重苦しい会話をしているとは誰も思わなかっただろう。

 告白中の野郎共もそれを夢見ているみたいだが、しばらくは道化として頑張ってくれと言いたくなる光景だった。

 告白される本人には悪いけど。

 

「スカートを捲った時はヒヤッとしたぞ」

「スパッツを穿いているから大丈夫だよ?」

「いや、(さき)。すまん」

「なんで謝るの?」


 今日の(さき)はどうもボケボケらしい。

 おそらくこの一件を知って気が気でなかったからだと思う。

 自分がミスると俺との関係が拗れると想定してな。


「自分の尻に触れてみろ」

「私のお尻? う、うん」

「何か感じないか?」

「何か……。あれ? 妙にゴワゴワする……あっ」


 この瞬間、(さき)の全身が真っ赤に染まった。


「ドンマイとだけ言っておく」

「え、えっと、そ、その、ふ、不可抗力!」

「分かっているから。チラッとしか見えてないし」

「そ、そう?」

「一瞬だが、白い素肌だけが見えた」

「そ、そうなんだ。それは良かったような、惜しかったような?」

「惜しいって」


 普通、トイレの時点で気づくものだが、上の空は事故を招くよな、マジで。


「風が吹いたら事故るから、今日は短パン履いて過ごした方がいいぞ」

「うん。校則違反だけど、仕方ないね」


 本日の体育は教師不在でないのだが、女子は常に持ち歩いているらしい。

 風の強い日はパンチラ避けで使うそうだ。

 俺は予鈴が鳴る前に(さき)の正面に立って壁となった。

 (さき)はスカートの前後を押さえて立ち上がる。


「後ろから抱きつく感じで付いてきてくれよ」

「うん。それならお尻だけ押さえればいいね」


 女子トイレの近隣まで連れていき(さき)は急いで中に入った。

 短パンは鞄の中に入れているようだから、穿くまでの辛抱だよな。

 出てきた(さき)は小声で俺に問いかける。


「危なかったよ。(あき)君以外には見られていないよね?」

「大丈夫だろ。誰もが気づいていなかったし」


 男子達の視線は常に李香(りか)へと集中していたからな。

 誰もが(さき)よりも綺麗とかなんとか言って。

 俺は(さき)の方が綺麗だと思うけど。


「は、はやく、この一件が解決して欲しいよ」

「そうだな。そうしないと(さき)がユルユルで登校するから」

「う、うん」


 幸いなのは例の土下座野郎が転校したあとって事だな。

 奴が居たら何が起きていたか。

 多分、俺が半殺しにしていたと思う。

 今度は伝手を頼って製品(・・)を手に入れたからな。

 衆目の中、全てぶちまけて社会的な半殺しをしていただろうから。

 すると、二人の男子が俺達の横を素通りする。

 そこまでは普通なんだが、話題が聞き捨てならないものだった。


「マジ? 優木(ゆうき)さんってそういう気があるのか?」

「ああ。新聞部が隠し撮りしたみたいでな? 流石に物が物だから会長に知られる前に希望者のみに有償配布するとか言っていたぞ」

「配布だって? いくらだ?」

「詳しくは知らないが、一万はするはずだ」

「一万か。いつするんだ?」


 隠し撮り。

 それだけなら奴等の行いとしては常套手段だ。

 ただな、毎回会長と大喧嘩して部費を削られるだけ削られているのだが。

 反省していないのか、新聞部?


「一万で有償配布?」

「おそらく部費の補填に回す気かもな」

「でも、何を配布するつもりなの?」

「会話から察するに李香(りか)の何か、だろうな」

李香(りか)ちゃんの何か?」


 俺は思案しつつ(さき)の下半身に意識を割く。


「もしかすると」

「何か思いついたの?」

「一年の教室に向かうぞ」

「え?」


 きょとんとする(さき)を抱き上げた俺は大急ぎで一年の教室まで向かった。


「急にどうしたの? お姫様抱っこは嬉しいけど」

「女の園に居た人間が動物園に放り込まれた」

「昨日の話だよね、それ?」

「あえて聞くが(さき)は動物からの視線に気づけるか?」

「動物は流石に無理かな? いやらしい視線なら分かるけど」

「普通はそうだよな」

「どうかしたの?」

「環境変化で戸惑いのある人間が、その視線に意識を割けると思うか?」

「と、戸惑い?」

「期待と不安で上の空、離れられた事の安堵、様々な気持ちが渦巻く中、新しい生活に大挙で訪れる下半身元気の猿山。それに戸惑わない女子は居ないだろう?」

「あっ」

「女子校暮らしの長かった者が異性の不可解な行動に対応出来ると思うか?」

「で、出来ないかも」


 そこへ、今回の新聞部の隠し撮りが発覚。


「何処で写したか知らないが、新聞部が会長を警戒しているって事は」

「相当不味い代物が写っていると?」

「着の身着のままで引っ越しした女子高生のな」

「着の身着のまま。あ、今日の私!?」

「未確定だがな」


 俺は会話を続けつつ一年の衆目を浴びながら李香(りか)の教室に辿り着いた。


「お姫様抱っこ!?」

「それはいいから。(ひかり)李香(りか)は何処に?」

「えっと、(なごみ)とトイレですが?」

「そうか。(さき)!」

「うん! 行ってくる!」


 (さき)は俺の一言を受け、一年女子のトイレへと駆け込んだ。

 二年生が何を思って駆け込んだのか疑問に思う一年生が多かったが。

 しばらくすると顔を真っ赤にした李香(りか)(さき)達が戻ってきた。


(あき)君、大当たり」

「マジか」


 これは会長に報告だな。

 新聞部は廃部の危機だが、大丈夫かね?

 奴との一件でも、やらかしていたからな……あいつらは。


「放送部と統合されて報道部になりそうな気配がする」

「気配というか、統合待ったなしだと思うよ、それ?」

「やはりか」


 俺からの報告を受けた会長は血相を変えて買ってきた短パンを手渡していた。


「まだ間に合うから穿いてきなさい!」

「う、うん。姉さん」


 李香(りか)は真っ赤なままトイレに戻った。

 普通は気づける話なのだが、上の空が要因かもな。


「まさか朝風呂に入ったあと忘れるとはね」

「は? それなんて、(さき)?」

「ノーコメント」


 (さき)も休日にやらかしたもんな。

 その時はショートパンツだったので下着の線が見えていない事を教えると慌てて脱衣所へと穿きに戻った。

 すると市河(いちかわ)妹が事情を打ち明ける。


「休憩時間は告白があったのでトイレに行く余裕がなかったようです」

「私が入った時には気づいた後だったよ」

「今回は油断が招いた事故だったか」


 (さき)からも事情を聞いた俺は会長を一瞥する。

 頭を抱えて苛立ちを浮かべる会長。

 瞼を完全に開いている事から、


「全てあの子の自業自得か。だが、報告にあった事案は別問題だ」


 会長の怒りが垣間見えた。

 一年生は凍結したかのように固まっているがな。

 三年の憧れの先輩が素顔を晒しているのだから。

 こうやって見ると姉妹だと嫌でも理解出来る。


「放課後、新聞部を強制廃部にするわよ」

「強制廃部!? そんな事が可能なんですか?」


 会長の決定に驚いたのは新聞部に所属している一年生だろう。


「再三注意したのに反省の色が無いからね。次に問題を起こしたら廃部にすると宣言済みなのよ。部費も残りの一割が消えるから事実上の廃部ね」

「そんなぁ」


 会長を警戒している理由はそこにあるんだよな。

 一度目は広報誌、二度目は俺のゴシップ記事。

 俺にとってはいつもの事なので受け流したが会長が許さなかった。

 三度目は(さき)への罵詈雑言。

 権力を使ったと大騒ぎし塩対応の対象者となった。

 一度目以外は体育祭の準備期間にあった事だ。


「早い内に放送部に鞍替えしとけ。どうせ統合されるから」

「と、統合?」

「うん。チビ先輩の下に付く事になると思うけど、悪いようにはしないと思う。関係が険悪な部長と副部長は除くけどね」


 新聞部と放送部は部長同士の仲が悪い。

 副部長も険悪な仲で常に喧嘩するのだ。

 かつての生徒会は中立として両者と親密に関わってきたが、広報誌の一件で新聞部と仲違いし、放送部を優先するようになった。

 これが更なる悪化を招いて今に至る。

 ちなみに、(さき)の言うチビ先輩とは(いつき)雲母(きらら)先輩の非公式な呼称だ。

 本人に聞かれると烈火の如く怒るので要注意だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ