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塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第三章・執着の恐怖を打ち払いたい。
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第65話 去る者は泣き来訪者は笑う。

 昼休みの終わり、F組の某男子が教室で土下座していた。

 叫び声と尋問の声音を聞いただけで何が目的か判明したのだが、


「ところで、あれ……」

「どうかした?」

「いや、あの位置の土下座って」

「あの位置?」

(かしわ)のパンツ、見えてね?」

瑠璃(るり)のパンツ……あ!?」


 現在進行形でセクハラが起きている事にも気がついた。

 (さき)も気づいて立ち位置を入口前から俺の席寄りに変える。

 状況を把握して焦った様子で注意した。


瑠璃(るり)! 下がって! もっと、後ろに下がってって!」

「「「(さき)?」」」

「見えてるから! その位置、瑠璃(るり)のパンツが見えてる!」

「え! ア、アンタ!?」


 (かしわ)は気づいてスカートを押さえつつ後退る。

 表情を見るに怒りの中に怯えと嫌悪が混じったな。

 アレクに見られるなら構わないがキモい男子が見る行為は誰であれ嫌だろう。


「あ、視線をそらした……マジか」

「「最低!」」


 これには周囲の女子も極寒の空気を醸し出した。

 (かしわ)のスカート短すぎ問題。

 それがここにきてセクハラに発展しようとは。


「私の椅子に座っただけでなく」

「ひぃ!」


 (さき)も底冷えするような声音で侮蔑の表情を露わにした。

 (かしわ)の隣に移動して、守るように抱き寄せた。

 表情を維持したまま吐き捨てるように、


「土下座はね、やっている方は謝罪を示しているけど、やられる方はドン引きだから覚えておいて。大体、徹底的に潰すって言ったのに懲りずに訪れるとかバカなの?」


 最後通牒を突きつけていた。

 俺は呆れを示しつつ(さき)の言葉尻に乗っかった。


「謝意を示すなら土下座は悪手だ。頭を深く下げるだけでも謝意は伝わる。お前の育った環境ではそれが普通だったとしても、世間一般では非常識だと心得ておけよ」


 そう言いつつ自分の席に座って午後の授業の準備を始めた俺だった。

 言葉が通じているか不明だが無視すると彼氏としての面目が潰えるしな。


「それはそうと、風紀委員。風紀を乱しているバカをいい加減、連れて行けよ」

「「あっ、そうだった!」」

「風紀委員が仕事を忘れるってどうなのよ?」

「いや、あまりの剣幕に、な?」

「うん。瑠璃(るり)の怒鳴り声って耳にくるから」

「「「分かる」」」

「なんで!?」


 本来は野郎が去るまで待つつもりだったが、状況が状況だからな。

 ここでクラスメイトを守らないで(さき)だけ守る。

 彼氏としては当然の行為でも、周囲の心証を度外視すると後が恐かった。

 気づいていて言わないのは、(さき)の交友関係を壊す事と同義だから。


「お前も、いい加減、立てよな」

「うっ。あ、足が痺れて……」

「おい。本格的な荷物じゃねーか」

「立ってくれないと私も近寄れないんだけど?」

「見えるもんな」

「うっさいわね」

由真(ゆま)は更衣室でスパッツ穿いてきたら?」

「穿いてきてもスカートの中を見られるのはちょっと」

「忌避感はあるだろうけど片付かないよ、このゴミ?」

「ゴミ!?」

「ゴミ以外に何があるのよ」

「この場合は粗大ゴミだな」

「粗大ゴミ……」


 つか、本物の荷物になっていやがる。

 俺は前の光景を見て頭痛のする素振りのまま、鞄から一枚の薄板を取り出した。

 これは軽量コンパクトのカートだ。

 人一人の重量なら問題なく運べる強度を持つ。

 本来は買い物で使う便利道具なんだが今回は致し方ないだろう。


山田(やまだ)、ちょいゴミを軽く持ち上げてくれ」

「お、おう。凪倉(なくら)の右手のそれ、なんだ?」

「折りたたみ式のカートだよ」


 俺はそう言いつつカシャカシャ音をさせて組み立てていく。


「「「カート!?」」」


 (さき)も驚いているな。

 これはあとで教えないと。

 薄板といってもA4コピー用紙と同程度のサイズだがな。


「小さかったのに大きくなった?」

「これなら乗るね。この粗大ゴミ」

「粗大ゴミ……」


 厚みは車輪と取っ手、折り畳んだ板がある関係で九センチある。

 主に教科書不要の日しか入れていない品だ。


「カートをゴミの両脚の下に押し込んで」


 座らせたまま取っ手を引けば移動が可能になった。


「「「おー!」」」

「F組まで連行するならこれで一発だろ」

「「確かに」」


 風紀委員達は俺の貸したカートを引っ張ってF組まで向かった。

 予鈴が鳴る前に片付けばいいが、本当に最後の最後まで面倒な(ゴミ)だった。


(あき)君、あれ?」

「昔、作った道具だよ」

「作った? 売り物ってこと?」

「いや、特許こそあるが、あれは試作品だ。強度を取ったらコスト面がクリア出来なくてな、結果的に製品化が出来なかった品でもあるんだ」

「そうなんだ」


 不良在庫一直線な品だけに同じ物を作ろうと思ったら素材から見直しなんだよな。

 すると男子達が物欲しそうに語りだす。


「あんなのあったら、資料運び、楽じゃね?」

「ああ、楽だな。階段以外は……だが」


 そうか、あれは平地移動の道具と思われたのか。

 俺は訂正するように簡単にだが黒板に記した。


「あのカートは階段の登り降りも出来るぞ」

「「なん、だと?」」


 厚みの理由は内部機構にあったりする。


「階段の登り降りでは油圧ダンパーで水平を維持しているんだ」

「へぇ〜。車輪かと思ったけど裏面が無限軌道なんだ」

「ブレーキ付きで重量軽減の仕組みもあると」

「だから階段での登り降りが常時可能と」

「流石に斜度が極端にある階段は無理だけどな」

「それなんて学校の階段だと問題ないな!」


 その分、油圧ダンパー等の強度が必要になり商品化も頓挫した。


(あき)君? それ、文化祭の準備に使えるんじゃ?」

「使えるかもな。ガスボンベなんかを載せるのは無理だが」


 いくら強度はあっても百キロを超える重量は無理だ。

 一人分の重量かつ階段の登り降りがなければ問題ない。


「結構、細々とした荷物が行き交うからアリだと思う」


 (さき)はブツブツと真剣に考える。

 数ヶ月後の事だから今から動いても仕方ないのだが。

 すると、


「壁に立て掛けるだけでいいんじゃ? 階段脇に置いてあるだけでも大助かりだよ」


 俺がきょとんとなる改良案を提示してきた。

 つまり、持ち運び前提ではなく設置型にすると。


「機構だけ残せば問題ない商品が出来そうだよ?」

「そうだな。そこはお義父さんとの相談になるが」


 カートは文化祭までに用意出来ればいいからな。


「父さんなら、利になると思えば食いつくと思う」

「ま、昔と比べて今は新素材なんかもあるもんな」


 その後の俺は特許番号と共に(さき)のお父さんにメッセージを送った。

 結果は分からないが検討の余地ありのスタンプが届いたので大丈夫と思いたい。


「あの夫婦、将来会社経営しそうじゃね?」

「だな。今のうちに交流を深めておくか」

「将来の安定のために?」

「もち」


 おいこら、会社経営する気なんて毛頭無いぞ。

 俺はサラリーマンとして(さき)を養えたらそれでいいのだから。


「夫婦……ふふっ。夫婦……、ふふふっ。夫婦」


 あ、(さき)が妄想の世界に飛んでいってる。

 表情が緩んで普段の凜々しさも消え去っていた。

 こうなると戻ってくるまで時間がかかるので、


「戻ってこい。表情筋が緩んでる」


 耳元で囁いて状況を教えてやった。


「表情きん……はっ! だ、大丈夫?」


 戻ってきて周囲をキョロキョロみつめる。

 幸い、(さき)の表情を見たのは女子だけだった。


「これはこれで珍しいものを見た気がする」

「だね。(さき)の顔は緩むとこうなると」

「私は知っていたけどね。婚約者を語る時に何度か見たし」


 (かしわ)は仕方ないだろうな、親友だし。


「み、見られちゃった……」

「ドンマイとだけ言っておく」


 校内で俺達相手に夫婦という単語は禁止だな。

 (さき)が飛んで使い物にならなくなるから。

 昼休憩後も授業は進み、あっという間に放課後となる。

 部活が再開される事もあって校内は活気に満ちあふれていた。


「試験期間は静かで良かったけど、やっぱりこの空気がいいね」

「ああ。頑張るぞって意気込みが感じられるしな」


 俺達も雑務があるので生徒会室に向かった。

 文化祭も大事だが、他にもやることがあるからな。


「交流会、か」

「交流会だな」


 それは近隣の高校、各生徒会との交流会だった。

 今年は我が校が幹事となっていて別の意味で大忙しだった。

 行うのは夏季休暇の半ば、(あかり)達とのデートの前日だ。

 一日だけの交流会だが、気持ちが疲れるのは必定だった。


尼河(にかわ)君が翌日に時間を取った理由は」

市河(いちかわ)さんのリフレッシュも兼ねているんだろうな」


 各校の上級生や下級生相手に心労で疲れるから。


「次期会長という地位もあるしね」

「生徒会選挙は実質、信任不信任だけだからな」

「誰もがやりたがらない仕事って何なのだろう」

「それだけ責任のある仕事なんだろう。下手すると逆恨みも受けるから」

「逆恨みかぁ」


 会長でさえ任期中に、逆恨みの影響を受けていた。

 逆恨みの暗躍者が、尻尾を掴ませなかったからな。


「何処で恨みを買うか分からない仕事だけに」

「耐えられる者しか出来ないってことかぁ」


 市河(いちかわ)さんの場合、一見すると忍耐力が無さそうに見えるが、そこは(あかり)の応援があってこそ、なのだろう。


「私も出来るかな? 副会長」

「猫の皮を何重にも被れば?」

「それだけでは無理だと思う」


 (さき)も御嬢様然とした忍耐力はあるが根底は普通の女の子だ。

 俺の支えがあってこそ耐えられるってことかもな。


「ま、困ったら助けてやるよ」

「うん。絶対、助けてね」

「当たり前だろ」


 今はこれしか言えないよな。

 将来の事なんて分からないから。

 生徒会室に到着すると見覚えのない女子生徒が居た。

 服装は我が校の制服ではなくセーラー服。

 その子は室内を見回していて楽しげだった。

 髪は黒髪だが瞳の色が鮮やかな碧瞳で、


(何処かで見た顔だよな? 誰だ?)


 白い肌と均整のとれた体型が印象的だった。

 すると俺達に気づいて声をかけてきた。


「あ、先輩!」

「「先輩?」」


 俺達を先輩と呼ぶということは一年生か。

 生徒会室には彼女が一人。

 市河(いちかわ)さんも不在。

 珍しく会長達も訪れていなかった。


「申し遅れました。私、優木(ゆうき)李香(りか)と申します」


 ん? 優木(ゆうき)


「会長の妹さんだよね?」

「はい!」

「なんでこの時期に(・・・・・)校外に居る(・・・・・)の?」


 (さき)が疑問気に彼女へと問うと、


「実は転入する事が決まりまして、隣人(・・)としてもよろしくお願いします!」

「「はい?」」


 驚く一言を吐いた。




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