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塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第二章・状況変われど振り回される。
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第59話 もどかしい気持ちと現実と。

 体育祭の後、いつもの日常に戻った。

 そのまま試験期間に突入して学校は試験一色に変化した。

 私も休憩時間にクラスメイトと会話しながら自習を試み、


(さき)、ここの公式は?」

「さっきも教えたじゃん」

「すっぽ抜けしたもん!」

「それはそれでどうなのよ」


 期末試験での(あき)君との勝負に向けて邁進していた。

 昼食はいつも通り(あき)君のスタミナ弁当を食べたけどね。

 スタミナ弁当と言っても身体に精力が付く訳ではなく私の心の癒やしの意味でそう名付けているのだ。

 心の癒やしの理由は普段の生活に戻った事が要因だ。

 体育祭の準備中は(あき)君に九。

 クラスメイトに一の割合で関わってきた。

 日常に戻ると(あき)君に三、クラスメイトに七の割合に戻った。

 一応、交際している事は認めてもらっているが頻繁にイチャつける訳ではない。

 クラス委員長の立場があるから否が応でも満遍なく関わる必要があった。

 (あき)君と関わる前から行ってきた分け隔てなく関わる対応。

 それを急に変える事は出来なかった。

 頼りにされる事が私の本意でなくてもね。


(来年は絶対、クラス委員長にはならないよ)


 来年はもっと面倒な仕事が控えているしね。

 (あおい)ちゃんに願われて決定同然の次期副会長の地位が存在するから。

 (あき)君は引き続き会計をするそうだけど。

 書記は来年の一年生から選ぶ事になるだろうが、固辞されたら三人で取り組むしかない訳で。

 ウチの生徒会、人気が無さ過ぎでしょ?

 進学しようと思ったら入りたがると思うのにね。


(もしかすると……生徒会関連でも噂が拡がっているのかも)


 体育祭で発覚したある先輩の逆恨み。

 その先輩は激辛パンの洗礼を受けて策の海に沈んでいった。

 教師達の罰も一年間の停学処分という願っていた事とは真逆の結果となった。

 危険人物は学校とは関わらせない方がいいのに残す意味が分からなかったね。

 教師達はその先輩の報復を恐れているようだけど、被害に遭うのは教師ではなく学校の知名度と女子生徒達の貞操だから、そこをはき違えないで欲しいよね。


(一年後……私達の任期中に復帰するのかぁ。しかも留年して同学年として)


 めっちゃ億劫だよね、それを考えると。

 心が嫌だって悲鳴を上げているし。

 そんな中、ガタッと物音が背後から響いた。

 振り返ると(あき)君がバッシュの入った袋を持って出ていったのだ。


(え? ちょ、ちょっと! 出かける時は声をかけてって言ったじゃん!)


 きょとんの私を一瞥する事無く、(あき)君は第二体育館へと駆けていった。


(こ、これは追いかけないとね。あ、でも……)


 クラスメイト達は気づいていない。

 今なお、公式がどうとか聞いてくる。


(う〜ん、もどかしい!)


 表情を取り繕った私は内心でイライラしながらも応じるしかなかった。

 解放されたのは昼休憩があと少しで終わる頃合いだった。

 トイレや飲み物を買いに向かう子達が思い思いの行動を始めたからね。

 私もトイレを経由したのち、大急ぎで第二体育館へと向かった。

 第二体育館では(あき)君が軽い調子でドリブルしていた。


「なんだあのドライブ。速すぎる……」

「彼の仮想敵って誰が相手なんだ?」

「もしかすると(あかり)か?」


 先輩方は呆気にとられていたが、もしかしなくても尼河(にかわ)君だと思う。

 練習に付き合っては弱点を教える(あき)君。


(監督として赴任した方がいいとさえ思えるよ)


 だがそれは私が許さない!

 一緒に居る時間を取られてなるものですか!

 私は練習中の(あき)君に声をかける。


(あき)く〜ん? 何してるのかなぁ?」


 笑顔を意識して怒りを露わにしないように。

 頬が若干、引き攣ったけど仕方ない。

 私に気づいた(あき)君はたじろいだ。

 私が怒っていると気づいたからだ。

 その後は先輩方に挨拶だけして強引に右手を引っ張って教室まで向かった。

 (あき)君が同じ教室に居るだけで私の心は落ち着くのに居ないなんて耐えられない。


(一緒の時間を絶対に作ってやる!)


 そう思いつつ教室前まで到着すると不意に身体がつんのめる。

 振り返ると(あき)君が立ち止まっていた。

 表情を見ると思い詰めた様子だった。


(あき)君? どうかした?」


 私が心配しつつ声をかけると、


(え?)


 (あき)君が勢いよく私を抱き締めた。

 それも夢にまで見たバックハグ。


「ふぇ? あ、(あき)君?」

「少し、このままで」

「う、うん」


 思わぬ展開に心が昇天しそうになったよ。

 私の下腹部がキュンとなり冷静では居られなくなった。

 だがここは教室前の廊下だ。

 ここで乱れる訳にはいかない。

 意思の力で性欲をねじ伏せた私は、


「あ、(あき)君? もう、いい?」


 名残惜しいが(あき)君の手を解いた。

 正直に言うと耐えられなくなりそうだから。


「す、すまん。急に愛おしくなったから」

「そ、そう?」


 それを聞くと何度目かのキュンがくるよね。

 なので無意識なまま続きを願った私であった。


「ど、どうせならキスしてほしかったけど」

「……」

「か、帰ってからでも、いいか?」

「う、うん。いいよ」


 いや、気づいたら急に恥ずかしくなったよ。

 ここは廊下! 人目がある!

 廊下の奥には(あおい)ちゃんのジト目もある。

 そんな(あおい)ちゃんも(あき)君に触発された尼河(にかわ)君に気づくことなくバックハグを頂いていた。


「きゃ!」


 叫んで振り返って身を委ねて。

 幸せな雰囲気を醸し出す様はほっこりしたよね。


「あらら。(あおい)ちゃん達もやるねぇ」

「そうだな。冷静に見ると……なんか、すまん」

「別にいいよ。私も落ち着いたし」


 本音ではまだ落ち着いていないけど。

 教室前なので猫を何重にも被る私だった。

 すると私の変化に気づいた(あき)君が、


「クラス委員長も大変だな」


 頭をポンポンと叩きながら心配してくれた。


「大変なんだよ。来年はしないけど」

「それは出来ないだろうな」


 廊下の中心でピンク色の空気を作り出している。

 そのバカップルの片割れから願われている案件があるしね。

 バカップルの抱擁は予鈴が鳴るまで続いたのだった。

 教室に入った私はさっそく自慢したのだけど、


「さっき、抱いてもらっちゃった!」

「いいなぁ。私も彼氏が欲しい!」

「でもでも、(さき)は未開通じゃん!」

「ぐっ」

「私の方が一歩先に行っているよね!」


 瑠璃(るり)にマウントを取られて負けてしまった。

 こういう時、経験した者が勝つのは仕方ないよね。

 なので二人三脚後にチラ見した事案をネタに話を振った。


「で、でも、大きさなら負けてないよ」

「それはなんの大きさよ!?」


 瑠璃(るり)は気づいているが美紀(みき)には通じなかった。


「普通に考えると胸よね?」

「胸かぁ……私も大きくしたい!」


 ま、まぁ胸なら瑠璃(るり)に勝っているね。

 なお、この話は(あき)君も知らない事だ。

 当人は上手く隠したようだけど、空を見上げている時に見ちゃったんだよね。

 私の身体で元気になったご子息の姿を。


(互いに我慢しあっていたなんてね)


 それを知ると瑠璃(るり)の言う身体の相性も悪くない気がした。

 午後の授業と放課後を経て、エントランスで(あき)君と別れた。

 家に帰って着替えて夕食までのひと時を一人で過ごしていると、


「あ、(あき)君から電話だ」


 (あき)君から連絡が入って驚く結果を示された。

 なんでも管理人さんが離婚した旦那さんと寄りを戻すというのだ。

 詳しい経緯を聞くと離婚の原因となっていた姑が亡くなったらしい。

 元々は母子家庭でもあったそうで、気兼ねなく生活が出来るとの事。

 その余波で(あき)君が追い出され私の家に転がり込む事になった。


「掃除は……(あき)君がするから、し、下着だね。見せては不味い下着はクローゼットに片付けて。あ、お風呂場に干している下着もあった! あれも片付けて」


 私の家は言うほど汚部屋ではない。

 母さんが顔を出して抜き打ちチェックするし。

 私がバタバタと思いつく限りの掃除を済ませると玄関のチャイムが鳴った。


『来たぞ〜』

「はいはーい。今開ける」


 格好はジャージ姿のままだけどいいよね。

 将来は結婚するのだし、今更……隠したとしても意味は無いし。

 玄関の姿見で髪型だけ整えた私は玄関の鍵を開け、扉を開いた。

 そこには制服姿のまま荷物を抱えた(あき)君が居た。


「えっと……どうぞ」

「おう。お邪魔……じゃないな。た、ただいま」

「! う、うん。お帰りなさい」


 なんだろう、すっごい新鮮な感じだよ。

 新婚って感じがしてドキドキしてきた。


「ところでその荷物……」


 (あき)君が背負っているのはスポーツバッグと学校の指定鞄。

 大きめのスーツケースが二つだけあった。

 急な引っ越しと聞いて大荷物と思ったが、割と旅行に行く的な気軽な装いだったので拍子抜けした私だった。


「ああ。俺の私物だよ」

「え? これだけなの?」

「圧縮してある物もあるが、これだけだな。元々、親が転勤族だったから」

「品物をそんなに持っていないと」

「そういう事だ」


 それを聞くと思い出の品は割と無さそうだよね。


(ん? 思い出の品?)


 不意に思い出した私は(あき)君に問いかける。


「ところでビデオレターは?」

「それはこっちのスーツケースの中だ」

「そ、そうなんだ」


 良かった。

 それだけは大事に取っていたんだね。

 私は自分の部屋ではなく、(あき)君が住むであろう個室に案内した。

 同じ部屋でもいいけど、まだ同衾する勇気はない。

 何より耐えられなくなるからね。


「まだ、品物はそんなに無いけど」


 部屋の中は殺風景なままだ。

 軽く掃除はしたけどね。

 室内にはカーテンとテーブル、小さい本棚だけ。

 寝具などは掃除が大変になるから置いていない。

 床暖房はあってもフローリングだけなので辛い就寝になると思う。


「いや、寝られるだけでいいぞ」

「でも寝具は?」

「これから先は雑魚寝でも大丈夫だ」

「いや、流石にそれは……」


 家主として心配になるよ。

 こうなると一緒の部屋で寝るか一時的にリビングで寝てもらうしかない訳で。

 すると(あき)君はスマホを取り出して、


「なら、寝具を買うから注文していいか?」


 ネットショッピングのページを開いていた。

 そ、それならいいかな?


「うん。注文していいよ」

「分かった。届け先は……(さき)の名前に修正して」

「え?」

「いや、急だったから住所の手続きが出来ていないし」

「あ、そういう事ね」


 郵便物の転送は必要だもんね。

 急な引っ越しだった訳だし。

 学校の届け出は無視出来ても、それは必要な事だった。




突然始まる同居生活?

いや、これは同棲か?

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