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塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第二章・状況変われど振り回される。
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第56話 感謝してもしきれないよな。

 体育祭の午前の部が終了して昼休憩に入った。

 昼食の購入は体力的に余裕のある俺と(さき)が向かった。

 昼食の購入場所は事前に聞いていた通り、


「うへぇ。一人三つまでなのに……何、この人数?」

「何ていうか、男子の大半が亡者に見えるんだが?」


 学食の入口前。

 臨時の販売コーナーにあった。

 だが、全校生徒が集まったとしても黒山の人集りと思えるほどの人数が入口前に群がるとは誰が想定出来ただろうか?

 会長の注意事項でも購入は代表者が向かって下さいと口を酸っぱくして言っていたはずなのに現実は無情なものだった。


「パッと見、全校生徒の半数以上が居る気がする」

「え? 見ただけで分かるの?」

「いや、単純計算しただけだ。面積から算出してな」

「ああ、それで」


 幸い、女子生徒はあの中には居なかった。


(いや、居ないように見えて潜んでいる気がする)


 俺達も昼食を買わねばならず、どうするべきか悩んだ。


「これは覚悟を決める必要がありそうだな」

「か、覚悟って?」

「午後の競技、出られなかったら、すまん」

「え?」

「それくらい危険な空間が目前にあるんだ」

「危険な空間?」


 (さき)は絶句するが想定すればするほど起こり得ると思えてしまう。


「隠れ女子による痴漢騒動とかな」

「あ、そ、それは、あり得るね」

「これは熱りが冷めるまで待つしかないかもな。リスクヘッジとして」

「う、うん。それがいいかも」


 一応、全員が購入出来るだけの物量は届いているが、


「買い終わった男子が再び並んでいたりするから、悩みどころなんだよな」

「え? どういうこと? 一人三つまでだよね?」


 この分だと売り切れになりそうな予感がするんだよな。

 何故か……そう思える動きが見えたから。


「一人三つまでとしていたが、職員がこの人数を捌く以上、顔は見ていないよな?」

「と、いうと?」

「購入は金さえ支払えばいいから、職員も誰が買ったかなんて認識は皆無だと思う」

「ふぁ? じゃ、じゃあ?」

「最悪、買い占めが起きて俺達が買えなくなる」

「……」


 これはルールの穴を突かれた感じだな。


(あのクズは抜け穴を探す天才なのかもな、きっと)


 それなら留年しないよう穴を突けば良いのに、異性を突くことに執着したから留年したのだろう。

 言葉にすると(さき)から白い目で見られるので言わないがな。


「これを知ると事前の根回しが必要だっと思うぞ」

「そ、そうだね。事前確保が必要だったかもね?」


 全員が同じルール上で買うことになっているから出来ない話なんだよな。


「ほれ、あいつなんて」

「あ、さっき買って行ったのに戻ってきた?」

「二年生の男子か。こういう時、名札無しが」

「うん。判別出来なくて困るよね」


 同じような行動は三年生にも居た。


「あのプリンは大量買いしていたような?」

「買って戻って並んでいるな。誰が食べるんだ?」


 あんな大食は市河(いちかわ)さん以外には居ないはずだが。


「まさか、わざと買い占めているの?」

「その可能性が高いな」


 男子達の行動が転売ヤーのそれであった。

 すると俺達に向かって野太い声がかかる。


「お? そこに居るのは……おーい! こっちだ、こっち!」


 俺と(さき)はきょとんとしつつ声のする反対側に視線を向ける。

 そこには以前、契約書を交わした学食のトップが居た。

 学食のトップこと上司さんは手招きで俺達を呼ぶ。

 顔を見合わせた俺と(さき)は人集りを避けながら近づいた。


「どうしたんだ? 入口前で立ち止まって」

「いや、人数に驚いてしまって」

「人数に?」

「ええ。これだけの人数が一度に集まっていましたので」

「なるほど。普段からすれば大した事はないんだが?」

「「そうなんですか?」」


 これには驚きでしかない。

 もしかすると普段からこれ以上の人数を捌いているのかも。


「今日は比較的少ない方だな。代表制にしたからだろうが」


 普段を知るから分かる事でもあるのか。

 こういう時、弁当組だった事が不利になるなんてな。

 だとしても、今回の男子の挙動が異常に思えた俺は問う。


「でも、買い占め勢も居ますよね?」


 すると、訝しむ視線を俺に向けてきた。


「何?」

「いえ、購入後に何処ぞへと持っていって、戻ってきた生徒が並んでいましたから」

「それは本当か?」

「ええ。私も確認しました」


 (さき)も同じように戻ってきた男子の顔を何度も見ている。


「代表制に加えて過剰購入か。これは早い内に手を打つ必要があるな」

「手? ですか?」

「ああ。これはちょっとした対策だ」


 上司さんはスマホを取り出し、何らかの操作を行った。

 直後、入口前に鎮座していた物言わぬ液晶が点灯し、押し合いへし合いの学生達の顔を映し出した。

 そこには輪郭を覆うように白い線が現れた。

 赤い線の出ている者が近づくと職員のインカムに自動音声の指示が飛んだ。


「はい。君には売れないよ」

「な、なんで!?」

「既に五回も買っているよね。隠せると思ったら大間違いだよ。販売開始と同時に録画されているからね」

「う、嘘だろう」


 問われた生徒は愕然としたまま離れていく。

 同じ光景は他の列でも起きていた。

 それを見た俺はあまりの事に驚きを隠せないでいた。


「まさか……転売ヤー防止の?」

「知っていたか。これは転売者対策として導入したんだ。今回寄越した機材は各種イベントで使っている品物でな。特別に親会社から借り受けたんだよ」


 知っているも何も、開発したのは俺ですが?

 それよりも気になったのは親会社だった。


「「お、親会社?」」

「知らないのか? ウチは白木(しらき)の子会社だぞ」

「ウチぃ!?」


 これには(さき)も驚きでしかないな。


「どうかしたのか?」


 表情を取り繕った(さき)はきょとんとする上司さんに質問する。


「えっと、親会社の経営者の名前……分かります?」

白木(しらき)善継(よしつぐ)さんだが?」


 すみません、お義父さんです。


「すみません、父です」


 (さき)と意見が一致した件。


「は?」


 それを知った(さき)は猫を被り、御嬢様然とした態度で自己紹介した。


「父がお世話になっております。私は娘の白木(しらき)(さき)です」

「ふぁ?」


 上司もまさか親会社の娘が公立高校に在籍しているとは思うまい。


「こ、こいつは驚いた。いや、失礼」

「いえいえ。私はただの女子高生ですので」

「所属は俺と同じ生徒会執行部ですけどね」

「そ、そうか。なんというか長い付き合いになりそうだな」

「そうですね。そうありたいです」


 マジで驚くような出来事があった。

 その驚きは別の形でも発覚する訳で。


「親父!?」

「お? (あかり)も居たのか」

「「はぁ?!」」


 この反応から察するに市河(いちかわ)さんが率先して学食に向かった理由が分かったかもしれない。

 ある意味、嫁ぎ先のお義父さんって事だからな。

 こうして俺達は特別に確保されていたであろうパンを買って本部に戻る。


「まさか尼河(にかわ)君のお父さんだったなんて」

「ああ。世間は広いようで狭いな。ビックリだ」

「普段は表に出てこないのに何で今日に限って居るんだよ」


 おそらくそれは未来の娘が気になったからじゃないか?

 あとは生徒会の次期生徒会長でもあるから、末永く見守りたい的な。


「先日も居たけどな」

「はぁ! 居たのかよ!?」

「学食との契約で」

「あ、ああ、あの時か」


 そういえば名字を確認していなかったが尼河(にかわ)だった気がする。

 ゴツい体型はまさしく親子って感じがするが。


「一先ず、これの立役者は陰ながら応援してくれた父親達だよな」

「そうだね。本当にそう思うよ」

「父親達?」

「入口前にあった液晶は親会社から借りたそうだぞ」

「あれか!」

尼河(にかわ)君もお父さんだったしね」

「それで、父親達と」


 俺が作った機材は別としても、予測して動くあたり、経営者は凄まじいよな。

 自販機で飲み物を買った俺達は本部席に戻るのだが、


「で、結局……転売ヤーのお陰で」

「買えなくなった生徒が大量発生と」

「食い物を無駄にしやがって。何を考えているんだ!」


 腹を押さえて蹲る生徒が大量に居た事に気がついた。

 肝心のパンは自販機のゴミ箱の中へと大量にあった。


「金の無駄、食材の無駄、捨てた生徒は地獄に落ちればいいのに」

「全くだ。それなら地獄にでも落としてやるか?」

「「何かするの(か)?」」


 それを知った俺は、お義父さんに連絡を入れ、映像データを寄越してもらった。

 送られてきたのはあくまで顔写真。

 転売ヤーの顔を印刷して風紀委員に手渡した。

 それはパン食い競争で残った激辛パンも含む。


『三年B組、三年D組、二年D組……最後に我起(わだち)(いわお)


 呼び出しを受けた男子達は風紀委員に連行され、


「買い占めまでは分かるけど捨てるって何を考えているのよ! そんなアンタには激辛パンを独り占めさせてあげるから、存分に食べなさいね!」


 羽交い締めののち激辛パンを口に放り込まれた。

 それは首魁として指示を出したの我起(わだち)(いわお)の口にも放り込まれた。


「や、や、やめろー!? か、辛いのは苦手なんだ!」

「知るか! 食べられなかった者達の恨み、存分に味わいなさい!!」

「ぎ、ぎゃー!」


 与えたのは風紀委員長。

 奴の絶叫はグラウンドまで響いてきた。

 一方、地獄に仏な状況がグラウンドで巻き起こる。


「の、残り物の激甘パンがこういう形で売れるとはね」

「ま、まぁ、激辛パンも片付いたし良かったのでは?」

「良かったような悪かったような。正直、微妙だけど」


 それは買えなかった者達に対して激甘パンを全提供したのだ。

 本日中に消費する必要があったから生徒会としても助かった。

 捨てられたパンは焼却処分する事になったが、甘過ぎるパンでも昼が食べられないよりはマシだからな。

 一人一個までとなったが喜んで貰って帰っていた。


「そうなると、次回からこの手のパンは止めさせましょうか?」

「そうね。普通のパン食い競争がいいわね」

(あおい)ちゃんが交渉すれば一発で通りそうだしね?」

「そうだな。責任者も市河(いちかわ)さんには甘そうだし」

「え、えっと……そうですね、はい」

「「え? どういうこと?」」


 この感じ、会長達は知らないんだっけ?


「実は学食の責任者が尼河(にかわ)君のお父さんだったんですよ」

「俺も今日知ってビックリしました。未来の娘可愛さに顔を出したのでしょうね」

「「どういう事なの?」」

「ノーコメント」




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