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塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第一章・状況の打開は大変だと思う。
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第4話 不安と期待で綯い交ぜだよ。

 (あき)君をいつまでも苦しめる例の噂。

 私は改めてその発端を思い出す事にした。

 気持ちの良いものではないけどね。

 それは人伝に聞いた噂の元となる出来事だった。


「確か、転入初日に告白してきた女子が居たんだっけ?」


 それを拒絶するかのように手酷くお断りしたらしい。

 恋に恋して楽しいかとか、顔で選んで楽しいかとか。

 性格を知ってから付き合うならいいが、知り合ったばかりでは無理だと返したらしい。

 流石の私も(あき)君の返答には唖然としたが、


「私も似たような事を言われそうで恐い。それだけは絶対に」


 自分の身に降りかかると想定すると身体の芯から寒気がした。

 ちなみに、(あき)君は私との関係を知らされていない。

 ここで知られてしまうとお断りされて私の心が保たないからだ。

 あれは先の誕生日のパーティーでの事。

 私のお祝いもかねて婚約者を紹介する流れになったのだ。

 だが、当人不在のままでは出来なかったので言葉を濁すだけになった。


「今は一部の身内しか知らされていないんだよね。身内以外には教えられないと私が説得したっけ」


 そう、私から二家と関係する親族に言わないでと願ったのだ。

 昔の(あき)君なら受け入れてくれたと思うけど、今の(あき)君は受け入れないと思う。何せ教室での私の態度。周囲の空気に同調して毛嫌いしている風に相対しているから、ここでネタばらしされでもしたら私の心が死んでしまうもの。

 愛して止まない相手から特大級の拒絶を喰らう。

 そんなの被虐癖を持つ者以外は耐えられないと思う。

 親族の中には(あき)君と同居する管理人さんも居た。

 その時は同居しているなんて知らなかったけれど。

 それはともかく、


(あき)君が手酷く振って告白した女子に好意を持っていた男子が報復を行った、か」


 それが噂の発端で告白した女子が求めていない大変やり過ぎた報復だった。

 そこへ担任教師も報復に参加して内申書にあることないこと記したそうだ。

 噂の域を出ない内容。異常な偏差値。

 それを見た教師達は何を信じてよいのか頭を抱えただろう。

 だが、結果はご覧の有様で嘘で塗り固められた噂だけを信じる者が多かった。


「我が校の教師共は一人を除いて真に受けたんだよね。本人が正そうとしないから信憑性があると信じて」


 これは告白した女子、本人から直接聞いた話だ。

 他の高校の子だけどバイト先の先輩から紹介されてバイト先で事情を聞いたのだ。好意を持っていた男子はやりきった風に犯罪自慢を繰り出して告白し、見事に玉砕した。


『性格ブスが味方になったつもりで居るなら、余計なお世話だよ。二度と私に近寄らないで!』


 そう、返したそうだ。

 当人も手酷い振り方ではあったが、ある意味で正しかったと思い知ったそうでね。

 顔で選んでも性格ブスが居る現実を、報復してきた男子が示してしまったから。

 それとその男子の名前を聞けば大変イラッとくる人物だったよ。

 小学生の頃、私に気持ち悪い視線を向けてきた男子だったのだ。

 で、問題の男子は頭の中身が成長することなく私達と同じ高校に通っている。


「パンツが真っ赤だとゲラゲラ笑って、ずっと絡んできたよね。本当に退学にすべき生徒は(あき)君ではなく奴だと思うよ」


 そいつは瑠璃(るり)と半年間だけ付き合っていた。

 瑠璃(るり)の初めてを捧げた相手でもあるのだとか。

 それを聞いた時、瑠璃(るり)を心配したのだが、


『細い、柔い、早いの三拍子で痛みすらなかったよ』


 意味不明な回答をいただいて反応に困ったよね。


『感じていると思い込んで乱暴にするから別れてやったわ。大体、下手くそなのよ! もっと上手い相手と付き合ったら、アイツがどれだけ下手だったか思い知ったね!』


 あとに続く暴露でどういう人間なのか理解が出来た。

 内容はともかく関わるべきではない人物だと分かった。

 その後は性懲りもなく私に告白してきたよね。付き合おうって。

 なのでいつもの常套句でお断りした。それを伝えれば手出ししない男子の方が多いから。それでも付き合おうと絡んできたから防犯ブザーの紐を引っ張って周囲の大人を呼び寄せた。


「嫌な事を思い出したよ。噂の発端、首謀者の下品な笑みは怖気がするね」


 この告白はクラスの親睦会の間に行われた。

 参加・不参加は事前に話し合っていた事だったが、他クラスも同じ場所で行っていたため、呼び出しを受けてしまったのだ。他クラスの女子から呼び出されて駐輪場の脇に向かうとそいつだけが居たってね。私は防犯ブザーの大音響に慌てた首謀者を放置してカラオケボックスから一人で抜け出した。

 その際に筆箱を忘れていた事に気づいたので、慌てて学校へと戻ったのだ。


「で、戻ったら一人寂しく掃除中の(あき)君が居たと」


 掃除当番は残るようにと伝えたのに、誰一人と残らず親睦会に来ていたのは頭痛がしたよね。男子のクラス委員が掃除当番を放ってきていたから、余計にそう思った。

 とりあえず誰が見ているか分からないので素っ気ない態度で応対したけど、


「四十六人分の机を一人で拭くのは困難でしょ。女子の机だけでも拭いてあげたし、喜んでくれたかな?」


 流石に気になったので机だけは拭いてあげた私だった。

 内心ではごめんなさいを連呼していたのは内緒だけどね。

 私の掃除当番は来週。だが、クラス委員長として相方の尻拭いは仕方ない。


「それこそ(あき)君が私の相方なら良かったのに。あの噂が払拭出来ない以上は、どんな役職にも就けないだろうな。なんか嫌だなぁ。同じクラスになったのに一年の時と同じ……(あき)君への塩対応はしたくないよ」


 私は涙がほろりと落ちた事に気づき、右手で涙を拭った。

 掃除後は一緒に帰ろうと思って校門前で俯きながら待ってみた。

 案の定、無視されたけど(あき)君の背中は昔とちっとも変化していなかった。背丈は私よりも十二センチ高い。髪型を整えたら絶対にモテると思う。


「いや、モテたらダメだね。彼の素顔は私だけが知っていればいいんだから」


 制服越しではひょろがりな印象を持たれる(あき)君だが、その実……本場のバスケを直で経験している肉体派な男子だ。

 引き締まった肉体をビデオレターで見た時は本気で抱かれたいと思ったよね。


「沈黙の空気も何処か懐かしかったし」


 昔も同じように歩いていたよね。

 四才児が何をやっているのかと思うかもしれないけど。

 その後、(あき)君が買い物に立ち寄った。

 私も減っていた生理用品を買う必要があったので一時的に離れて買い物篭に収めていった。無人レジで代金を支払っていると反対側から(あき)君の視線を感じた。

 視線はレジの奥に向かっていたので何を見ているのかと思いつつ睨み返した。

 購入した物が物だけにジロジロ見られるのは恥ずかしいからね。

 ただね、そこが瑠璃(るり)のバイトするスーパーマーケットだった。


「捕まって愚痴を聞かされたんだよね。(あき)君は存在に気づいて逃げていったけど」


 ファミレスでは仕方なく同僚になっているけど、プライベートまで一緒に居る必要は無いと思うんだよね。このマンションの事も瑠璃(るり)には明かしていない。

 普段は実家から通っている風に示しているから訪れる事のない送迎車を待ちつつ、クラスメイト達とバイバイして帰宅する事が多かった。


「私を誘蛾灯のように扱う親友と四六時中も一緒に居たいとは思えないよ」


 ベッドで横になったまま天井を見上げるとスマホがバイブで揺れた。

 気づけば時計の時間がかなり過ぎていた。スマホには一本のメッセージが届いていた。既読スルーにならないようアプリを開いてみると送ってきた主が見知らぬ相手だった。


「これって……誰? アイコンは三毛のブサ猫?」


 内容は『ご飯を食べに来て!』とあった。

 そこだけ示されても反応出来ないよね。

 どちら様と返答するしかなく送り返した。

 すると送った相手から返答が直ぐに届いた。


「あ、管理人さん。でも、アカウントが違うような?」


 このアカウントはどのグループにも所属していなかった。

 直後、続け様に新しいメッセージが届いた。


「イタズラされた。何処の誰とも知れない方へ、ご迷惑をおかけします?」


 管理人さんが他人のスマホを用いてなりすましを行った?

 それだけなら良くある話なので受け流そうとしたが、


「待って?」


 続けて届くメッセージにはお詫びで夕食をご馳走しますとあった。

 管理人さんからメッセージが届いて、夕食をご馳走される? 私が?

 

「あ、管理人室へどうぞ。相手が住人だと知った?」


 この瞬間、三毛のブサ猫が誰のアカウントか判明した。


「ふふっ。猫派は相変わらずかぁ。私も猫派だからいいけど」


 嬉しくなった私は友達ではなく家族として登録しておいた。

 あとは家族のグループにも入れておいた。

 通知は入るが受け流してくれるだろう。

 何故にときょとんとしそうな気もするけれど。


(そうなると……やることは決まったね!)


 下着姿だった私は着替えを持ってお風呂に向かう。

 好きな人の住まう家にお呼ばれされるのだ。

 身嗜みを整えるのは当たり前だと思う。


「香水は要るかな? いや、毛嫌いされるから止めておこうかな」


 化粧もあまり好まないと聞いていたのでいつも通り薄化粧だけにしておいた。

 髪を染める事も好まないらしいしね。

 なんでそういう認識になったのか聞きたいけど、


「ま、先ずは信頼を得ないとね。塩対応のツケがここにきて」


 それを聞くのは今ではないと不意に思った私であった。



 §

 


 お呼ばれされるので着飾ろうと思ったのだが、


「素の私の方がいいかな?」


 どうせ将来は私と結婚する相手だ。

 着飾った姿を見せるのも見られるのも疲れる。

 恥ずかしい格好以外なら問題ないと判断した。


「となると部屋着? ジャージは論外ね。どうしよう、迷う」


 一応、実家から持ち込んだ私服もあるにはある。


「他の住人に出くわしたら面倒だよね。会長と副会長も同じマンションだし……」


 それに管理人室にはスウェット姿でゴロ寝する残念美女も居るからね。

 そこで私一人が着飾るとおかしな事になりかねない。


「そうなるとワンピースとジーンズでいいか。コンビニに向かう時の格好だけど」


 この格好ならば仮に誰かと出くわしても問題は無いと思う。




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