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塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第二章・状況変われど振り回される。
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第39話 置き土産は混乱を招いたよ。

 今週の挨拶運動は報道記者の張り込みで中止となった。


「この件はしばらく尾を引きそうだね」

「ところで会長の家からは出ているので?」

「ウチの報道部門は空気を読んで訪れていないよ。減給三ヶ月が半年に延びてしまうからね」

「それを聞くと報道記者って意外と現金ですね」

「ん? 現金が欲しいのは社会人共通だろ?」

「何故か言い得て妙な発言に聞こえたわね?」

「そうですか?」


 (あき)君もこういう点では日本語に慣れていないよね。

 それはともかく。

 予定していた活動が制限されたので急遽生徒会室に集まって、


「今日から本格的に体育祭の準備を始めるのだが……」


 実行委員会との最終調整を行う段取りを始めた私達だった。

 今日の放課後が最終調整の会議なんだよね。

 ルール改定やタイムテーブル。

 各選手の出場表等は私達が用意して管理している。

 体育祭の設営に関しては本日決定して本格的に動き始める予定になっているのだ。

 しかし、画面を見つめる会長の表情が何処か優れないでいた。

 何度もマウスを動かしてカチカチとクリックしていく。

 珍しく焦りの色を帯びた会長。


「ん? 会長、何かありました?」


 副会長も不穏な気配を感じ取って声をかけた。


「いや、今気づいたんだが、議事録は何処に?」

「「え?」」


 議事録は何処?

 それって……え?


(あおい)ちゃん。議事録は保存したんだよね?」

「ええ、きちんと保存していますよ。共有の体育祭実行委員のフォルダに日付毎に振り分けていますが」

「だよね? 先日見た時には全て存在していたし。だが?」

「も、もしかして、無くなったので?」

「ああ、綺麗さっぱり消え去っているね。検索をかけたけど、ありません、と出る」

「「えぇっ!?」」


 えっと、それって不味くない?

 それを聞いた(あき)君が会長の背後に立って状況を注視する。

 すると何か思いついたのか指示を出した。


「会長。隠しフォルダを表示して下さい」

「あ、ああ。隠しフォルダね」

「次に、トラッシュを開いて」

「え? トラッシュって」

「共有の親に隠れています。ゴミ箱ともいいますが」

「ゴミ箱か。分かった」


 会長は指示された通りにフォルダを遡っていく。

 私は真剣な様子の(あき)君へと質問した。


(あき)君? そのトラッシュって?」


 それは私達の知り得ない名称だったからだ。

 会長ですら、知らなかったみたいだしね。

 (あき)君は画面を注視したまま答えてくれた。


「学校の共有はゴミ箱機能を有しているんだよ。完全消去しない限りそこに隠れている事もある」

「それで、そこを見るよう、教えたのね」

「誰かが誤って削除しない限り見に行く事はないけどな。ファイル数が膨大で探す方が大変だから。ただ」

「「「ただ?」」」

「ハードディスクを無駄に圧迫する機能でもあるから、完全消去のタイミングに引っかかると詰む」

「「「えっ!?」」」

「そうなったら復旧ソフトを走らせる必要があるけどな。勿論、システム管理者の許可を得てからになるが」


 そ、それって結構不味いのでは?

 そうなると消えていない事を望むよ。


「会長、一つ一つ探すと大変ですから内部検索して下さい」

「了解した」


 会長は(あき)君の指示通りに検索窓へと該当文字を打っていく。


「これでヒットしなければ職員室に連絡かもな」

「それはそれで、手続きが大変になりそうだね」


 しばらくすると、


「「よっし!」」


 ヒットしたのか該当ファイルが見つかった。

 良かったぁ〜、見つかって。


「あ、でも過去録が消えてる?」

「ガッチリ消去されていますね。あと、念のため、他の行事関連も調べてもらえますか?」

「他の行事も?」

「ええ。なにやら不穏な気配を感じたので」


 (あき)君は見つかったファイルの詳細を見つつ、そう呟いた。


「不穏な気配?」

「次に権限項目でこちらのIDを指定して下さい」

「了解した」


 権限項目? もしかして会長のアカウントが管理者だから可能なのかな?

 (あき)君が指定したIDは数十桁の番号の羅列だった。


「え? 文化祭、入学式、卒業式、交流会、各行事のファイルとフォルダが」

「やはり消していましたね。これは故意による削除ですね」


 故意による削除?

 そんな事が可能なの?


「い、一体、誰がこんな事を?」

「管理者に問い合わせないと分からないが、このIDが削除済のアカウントなのは確かだ」

「「「「削除済?」」」」


 この名称は会長も知らなかったっぽい。

 (あき)君はトラッシュの中から該当ファイルを回収していく。

 どうも会長の手が止まっていたので代わりに行っているようだ。


「普通、アカウント名が表記されますが、削除するとIDに置き換わるんですよ」

「そ、そんな風になっていたんだね。初めて知ったよ」

「プログラミングの授業ではそこまで詳しく教えませんからね」

「今回は(あき)君が居てくれて助かったともいう?」


 私がそう言うと会長達が何度も頷いた。

 とんでもない状態になってしまうから。

 それでも(あき)君は謙遜するよね。


「それは分からないが、今回はそのIDを元に検索をかけた。するとゾロゾロとファイルが出てきた。完全消去するタイミングは三十日前に保存された物が条件だから過去録が消え失せたのはそれが原因だな」


 拾ったファイルは体育祭関連だけ。

 他の行事はフォルダこそ残っていたが中身は空だった。


「最新情報は体育祭だけと。これは正直参ったね……お手上げだよ」

「バックアップが有れば幸いですが、そこまでいくと管理者に問い合わせですね」

「そうなるね。なら、その手続きは私が行っておこう。申請理由はどうする?」

「故意とすると面倒なので、誤って消していたとすればいいでしょう」

「そうだね。まだ誰が消し去ったか不明だから」

「あとはこのIDが与えられた、元の持ち主の調査依頼をして下さい」

「分かった。それも申請しておこう」


 たちまちは回収した議事録を開くしかないね。

 安堵した私達は自分の席に座ってひと息いれた。

 直後、ファイルを開いた(あき)君が両目を見開いて、頬を引き攣らせた。


「げっ!」

「どうかした?」

「やられました。ここまでするか? 普通」

「何があった……は?」


 (あき)君と会長は目が点となっている。


「何があったの?」

「暗号化されてやがる」

「「「はい?」」」

「鍵を外さないと中身が見られなくなっているんだ」

「えっと……それって?」

「消した奴の置き土産だろうな」

「「「置き土産?」」」


 (あき)君は思案しつつ自分の鞄からパソコンを取り出した。

 どうも、必要と思って持ってきていたらしい。


「一先ず、解析するから少し待ってくれ。メール送信して」


 受信したファイルを何らかのプログラム上にて開いた。


「時間がかかるか、直ぐに終わるか、桁数にも依るが」


 しばらくして結果が出たのか天井を見上げて頭を抱えた。


「これは、なんていうか、犯人が判明したな。こん畜生」

「「「「犯人って?」」」」

婦女暴行犯(地雷)

「「「「!!」」」」


 (あき)君の一言で顔を見合わせた私達だった。

 気を取り直した(あき)君はパソコン越しにパスワードを読み上げる。


「会長、パスワードを言いますね」

「あ、ああ。頼むよ」


 そのパスワードを聞いた時、私はブルリと寒気がした。


(私の誕生日とかやめてよぉ! ストーカーで訴えたい)


 (あき)君の言った「こん畜生」とはそういう意味だった。


「八桁の数字とは。総当たりしても時間がかかるね」

「幸い、ロックしたり消えたりはしないですけどね」


 パスワードは仕方ないとしても議事録が開けたから助かったね。

 会長は設定されたパスワードを解除して保存しなおしていた。


「とんでもない置き土産をしていったね。奴は」

「バックアップが残っている事を願いましょう」

「そうだね。今はそれしか望みが無いし」


 (あき)君もパソコンからメールとファイルを削除して鞄に戻した。


「それはそうと、ID申請以前に犯人がバレましたね」

「それならば解任した役員が消した事にしておこう。最悪、学校も動くだろうしね」

「ですね。検索前のファイル一覧の中に教員人事もあったので」


 え? そんなファイルもあったの?


「そちらもサルベージしておきましたから顧問の先生に報告ですね」

「そうだね。普通、学生の身ではアクセス出来ない代物なんだけどね、それ?」

「どうせショルダーハックして教師の振りをしたのでは?」

「ああ、それくらいなら平然とやりそうだね。彼は」


 こうして早朝に発覚したファイル消失問題は無事に解決したのだった。



 §



 本日の昼休み、申請したバックアップを取り寄せると直近の消えたファイルが戻ってきたのは言うまでもない。

 どうも、完全消去前にバックアップを走らせるようになっているらしい。


「便利だね、その機能」

「迂闊に消して大事になると大変だからな」


 私達は放課後の段取りがあるので生徒会室に集まって昼食を摂っていた。


「稀に間違えて消していた先生が後になってアタフタする事もあるそうよ」

「その先生って誰なんだろう?」

「誰とは言わないが、ショルダーハックされたD組の担任なのは確かだな」

「それは言っている事と同じですよ?」

「オフレコで」


 D組の担任というと古典の山路(やまじ)眠子(ねむこ)先生かな?

 名前からして常に眠そうに舟を漕いでいるイメージがあるけど。


「これは管理者に申請したあと発覚した事だが、生徒会の被害だけでなく教師のファイルも根刮ぎ消されていたらしい。教師関連の削除を行ったアカウントは山路(やまじ)女史で間違いないだろう」

「乗っ取りを受けた先生にとっては痛手ですね」

「今回はショルダーハックされているから山路(やまじ)女史の油断が招いた事案だろうね」

「というよりパソコンに付箋を貼っていた事が原因ですね」

「あらら。それは見られて覚えられても不思議ではないね」

「危機管理意識の欠如ですね。今回の件でシステム管理者が徹底して再教育するそうです」

「「「酷な事で」」」


 これはどちらに対しての酷なのやら?

 ボケボケ先生へと教育を施すシステム管理者か。


「で、全てのファイルが暗号化済と」

「悪意しか感じませんね。重要書類でもないのに」

「少しでも困らせたかったと」

(あき)君? 流石にもう無いよね」

(さき)、それはフラグだぞ」

「ふぇ?」


 フラグって?




ヒロインはフラグメーカーかな?

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