第24話 自己愛者は害悪でしかない。
※ 後半、閲覧注意!
「学校の回線すらも利用してやらかしていたとは」
「私的利用が過ぎるわね。普通なら出来ない事よ」
「そもそも奴は普通ではないですよ。根からの非常識ですし」
「あ、そうか。貴方は一番の被害者だったわね?」
「ええ」
明君と生徒会長が隣の部屋から戻ってきた。
前を歩く生徒会長は数枚のコピー用紙を持っていた。
戻ってきた生徒会長は担任にコピー用紙を手渡した。
「先生。こちらが証拠の品です」
「しょ、証拠?」
「学校のインターネット回線の私的利用です。授業とは関係のない個人サイトの更新に使われていました」
「こ、個人サイト?」
「学校裏サイトです。生徒の個人名が大量に書き込まれたとんでもサイトですが」
「個人名が大量に? そ、それは流石に不味いでしょう?」
「大いに不味いですね。流出したら最後、どうなるやら」
「流出以前に検索結果で出てくるのでかなり不味いです」
「なっ! なんてことなの……」
「大まかな転送量はプロバイダーに問い合わせる必要がありますが、彼がアップロードしたデータ量から察するに軽く数ギガは超えているでしょう。分割で数十回に渡って送っているログも残っていましたし」
「そ、それなんて」
「校則には載っていない穴。ある種の刑法に類する内容ですので、先生方が判断すべき事柄ですね」
「あぁ……。緊急職員会議が決定、か」
会話を聞く限り、相当不味い行いをしていた事が分かった。
「先日通報して封鎖させたのに復活したの?」
「ああ。見事に復活していた。俺の事もそうだが咲の事も、実名も含めて書かれていたしな」
「うげぇ。誰が書いたのよ? そんなの顧問弁護士が動く事案じゃないの」
「クラスメイトの男子達なのは確かだ。廊下側で駄弁っていた、な?」
「あっ! あいつらかぁ……明日、シメる!」
「ほどほどにな」
そうして話し合いを終えた私達は職員室を退出した。
担任は気分の悪そうな表情で教頭先生の元に向かっていた。
すると明君が生徒会長に問いかけた。
「ところで奴は今、何をしているんですか?」
どうも件の会計の動向が気になったのだろう。
「ああ。先ほどまで体育祭の段取りをしていたね」
「体育祭ですか。それは全員で?」
「途中まではね。残りは市河さんと二人きりで作業していると思う」
市河さんというと、小柄で大人しい書記の女の子だよね。
成績で言えば学年四位で大っぴらにひけらかさない女子だ。
それを聞いた明君、
「二人きり? ですか……」
重苦しい空気を纏いつつ特別棟に向かって遠い目をした。
「な、何か、気になる事があるの?」
「いや。これは中学時分の話なのですが」
そういえば同じ中学出身だったね。
「奴は中学の頃から生徒会に関わっていまして」
「「「……」」」
「生徒会室で女子と二人きりになると悪癖が出ると女子の間では有名でした」
「「「あ、悪癖?」」」
「女子が警戒するような行いですね。アレと二人きりにならないよう誰もが二人以上で行動していましたから」
「「女子が警戒する?」」
「そ、それは本当なの?」
「中二の頃、女子達の会話を聞いて知りました。当時はそんな外道も居るのだなっと受け流していましたが」
えっと、それって相当不味くない?
(あ、そういえば……美紀が顔以外はダメって言っていたのはそれがあるから?)
これは詳しく聞いてみる必要があるね。
同じ中学出身者しか知らない悪癖だから。
「あれも結局、卒業前には俺がやった的な話に噂経由で置き換わりましたけどね」
外向きには明君に擦り付けたとんでも事案。
あれも裏を返せば奴の行いそのものだったんだね。
噂を信じる者が大半で事実を知っている者達は口を噤んだ。
「訂正はしたのよね?」
「しましたけど、拡散済みでしたね」
拡散済みだから空気を読んで黙って見過ごしていたと。
明君も諦めムードだったから周囲に同調して流されていたと。
擦り付けた者は裏サイトの管理人だから自由自在に意識誘導が出来たと。
なんていうか、それを知るとやりきれないよね。
「そ、それはなんというか」
「酷な話ですね。私も脅されていた側ですけど」
「生徒会には不要な人物だと思わざるを得ないわね」
「申し訳ないです。会長」
「脅されていたのだもの。それは仕方ないわ」
とはいえ状況が切迫しているのは確かで、
「二人きりは危険なので確認に行ってみては?」
「そうね。もし最中だったら止めないとだし」
「見たくないブツを見る事になりそうですが」
「致し方ないわ。それは仕事で忘れましょう」
それを聞いた生徒会長と副会長は急ぎ、生徒会室に向かった。
私達も歩みを速めてあとを追ってみた。
「奴は冤罪をでっち上げる癖でもあるの?」
「あるんじゃないか。他人に罪を擦り付ける天才ではあるからな」
「嫌な天才だぁ。というか市河さんは、どこ中出身なの?」
「同じ中学校ではないな。多分、私立か県外から引っ越してきたんじゃないか」
「そうなると知らないよね?」
「知らないだろうな。というか既に食われてそうな気もする。昨年からだろ?」
「あっ。そうだよ……うげぇ」
そう言いつつ私達が特別棟に近づくと、
『生徒会室で何をやっている!』
生徒会室の方角から副会長の怒鳴り声が響いてきた。
『これは由々しき問題ね。君たちは付き合っているのかな?』
『つ、つき』
『何とか言ったらどうなんだ? 市河さん』
『そ、それ、は』
『……』
目撃されたからか、奴は沈黙しているようだ。
私は生徒会室に近づき中を覗き込む。
そこではパンツ一枚の奴と裸のまま座り込んだ市河さんが居た。
「あらら。これはまた……酷い状況だぁ」
「俺は見てないぞ?」
「それは知ってるよ」
私以外の女子の裸は見たらダメだもの。
私なら存分に……心の準備をしてからなら……見てもいいけどね。
「副会長がブレザーを着せたね」
「それって市河さんの?」
「副会長の。市河さんのブレザーが汚れているから」
「汚れている? それって澱粉糊みたいなものが付着しているか?」
「澱粉糊? 見た感じそうかも? 異臭もあるみたい」
「なんてもんをぶっ放すんだよ。掃除とかどうしていたんだか」
それが何なのか知らないけど、掃除は大変そうだよね。
『校内での不純異性交遊。この場合は性交にあたるか』
『生徒会役員が校則違反とは頭痛がするわね』
生徒会長と副会長が呆れを滲ませると、
『べ、別にいいじゃないか。付き合っているのだから何処で何をやろうが俺の勝手だ!』
開き直った奴が大声で叫んだ。
(付き合っているなら、私に告白してきたの、無効だよね?)
堂々と浮気しますよって宣言したも同然だし。
私は浮気が嫌いだ。
明君の件はギリギリで許したけどね。
あれも状況が状況だったし、明君も本番まではいっていないしね。
「開き直っても状況は打開出来ないよな。相手が大人しいからといっても素肌に触れたらアウトだ」
「痴漢そのものだよね。ここに暴力行為が加わったら強姦だよね」
「いや、同意の無い性交は全て強姦だ。男はどうあっても負ける」
「そうなんだ」
「だから咲には手出しが出来ない」
「何を言ってるの? 私は同意の上だけど?」
私はそう言いつつ胸の下に両腕を組んで強調してあげた。
触れてもいいよ? 揉んでもいいよと顔に近づけて。
「……」
「明君が何を言っても同意するよ。但し、変態的な行為だけは拒否するけど」
「それを言われて、どう反応していいか分からないんだが?」
「それこそ本能に身を委ねたら?」
「ぜ、善処します」
善処ときたかぁ。
今はそれで我慢してあげようかな。
私も心の準備が必要だしね。
口ではなんとでも言えるけど本番はまだ恐いから。
組んでいた腕を解いた私は明君の左腕に抱きついて、先々を憂いた。
「この一件、先生方の気苦労が追加されたも同然だな」
「そうだね。問題案件になってしまったね。どちらが問題児なんだか」
明君は静かに遙か遠くを見ている。
一瞬、胸に視線を向けたけど自制したらしい。
それこそ生徒会室で騒ぐ奴とは違うと……強く意識しているように見えた。
『何処で何をやろうが俺の勝手……ねぇ。ここを何処だと思って言っているのかしら?』
『ここは生徒の代表が執務を行う場のはずだけど。そういった性交も執務に入るとでも言いたいの?』
『お、俺だって役員だ。だから』
『何をやっても許されると?』
『許されるのは公序良俗に反しない行いよ。半裸で裸の女子を襲う事が反しないと言い切れるかしら』
『俺が決めたルール上は問題ない!』
『『は?』』
えっと、ひっじょーに非常識な言葉が聞こえたのだけど?
「彼って自分の世界だけで生きているタイプ?」
「そうとしか思えない発言がきたな。そら、罪をおっ被せる事も出来るわ。自分ルールで生きているなら」
あまりの一言に明君も茫然自失だった。
「これって仮に裁判になっても控訴するタイプだよね」
「世間が悪い。法律が悪い。俺は悪くないって輩と同類だ」
生徒会長達も同じ考えに行き着いたのか、呆れていた。
『こんな非常識が我が校に入学していたなんて前代未聞だわ』
『当時の内申書を寄越して検証する必要がありそうですね?』
『そこは先生方の責任問題になりそうだから、どうかしら?』
『無理っぽいですね。忙しさに感けて上辺しか見ていないし』
成績もそれなりに良かったから内申書を鵜呑みした結果か。
(ブラコン的な姉の行動が非常識を入学させてしまったと)
それを知ると何をどう信じて良いか分からなくなるね。
「面接だけでは汲み取れない深層意識。入試に心理テストを盛り込む必要がありそうだな」
「それこそ用務員さんのような書類ではなく子供を見る人が少ないからじゃ」
「ん? 用務員さん? なんで用務員さんが話に出てくるんだよ?」
「ああ。用務員のおじさんって元教師だよ。明君の入試に関わっていた人だけど」
「そうなのか?」
「うん。入学出来たのは用務員さん。元学年主任のお陰らしいよ」
「そ、そうだったのか。今度、お礼を言っておくか」
「それがいいかもね?」
明君もこの件は知らなかったみたいだね。
やり手教師が用務員になっているとは思えないもの。
陽希の頭は非常におかしい、ね(-ω-;)