第14話 殺伐より癒やしがいいだろ。
裏サイトから拾い上げた各種テキスト情報。
それを解析した結果、該当IPアドレスが判明した。
「書き込んだ主は同一人物か」
それも検索エンジンからもキャッシュが拾えるという色々と心配になるサービスだった。
「この裏サイト。誰でも書き込みが可能ってバカなのか? 運営者が」
お陰で何処の回線事業者を使っているかが判明するよな。
これらは侮辱罪に相当する行為だ。
ここから先は飲兵衛の出番かね?
「それってどういう意味?」
「利用規約が無い。免責事項も無いから、これらの書き込みで問題が発生した時、書き込みを放置した運営者が一方的に訴えられる可能性があるんだよ」
「ああ、そうか。とっても重要な項目に不備があるから」
「規約が無いから荒れ放題だろ? 個人情報なんて知るか的な名指しが凄まじいぞ」
「ま、まさに暗部だね」
「本当にそう思う。こういうサイトの場合、普通は秘する必要があるから会員制を選択するはずなんだが、個人情報でもあるメールアドレスを得たくなかった背景が見てとれる」
「で、でも、内容的に個人情報の塊じゃ?」
「そこなんだよな。書き込まれた内容が個人を中傷する物ばかりだから、何を思って設置したのやら?」
「それこそあれじゃない?」
「あれ?」
「王様の耳は……ってやつ」
王様の耳……童話の話だよな? それ。
「ああ、吐き出すだけ吐き出せ的な。ストレス解消の?」
「そうそう」
ガス抜きの場として提供か。
学校名を表記しているから関係者しか書き込まない前提で放置と。
(ある意味、学生の心理を利用しているのか?)
知らない名称は興味ない。
知っている名称でのガス抜きが誰でも行えるから書き込む的な。
「それで書かれた方がストレス過多になったら本末転倒だろ?」
「だから書かれた方にも逆に書かせるようにしているんじゃない」
「まさか、同罪扱いにすると?」
「そうそう」
「なんて悪逆非道なんだか、こんなの通報一択だろ」
「でも、無くなったら無くなったで矛先がどうなるか分からないよ?」
「あ、そうか。最悪は物理的ないじめに発展するか」
「書き込まれている時点でいじめだけどね」
「に、日本の学生、業が深すぎね?」
「私も明君も日本の学生だよ?」
「……」
それを言われたら反論出来ないな。
一先ず裏サイトの運営方針は考えない事にした。
これなんて学生の抱える闇……病みそのものだしな。
幸い、組んだプログラムが軽かったからか、サーバを落とす事なく情報が拾えたから良かった。というか無駄に高スペックのサーバを使っている事が不可解だった。
(ドメインは代行。用意周到が過ぎる割に、変なところでザル過ぎだろ、これ?)
俺は咲の勉強を見つつデータ解析を進めていく。
「これは?」
「こちらの公式を使うといいぞ」
「ありがと」
「あ、途中式のここが違う」
「え? 何処?」
「ここ」
「あ、yなのにxになってる。ありがと」
中学と高校。
どちらもIPが同じだけでなく最初の公開時刻も近かった。
内容は若干変えているがタイミング的に同時に書き込んだ物だろう。
高校の方は『そんな生徒居たか?』とコメントがあった。
このコメントにはスレ主も無言の構えだった。
だが、ある日を境にそのスレが取り立たされた。
(ここでリンクを張っているな。過去にやった奴と同じ……と)
それは俺が願書を提出した当日と同じ日付だった。
時間的には昼間。
IPから察するにこのスレ主は固定IPを用いている事が分かる。
そうなると使える通信サービスは限られていて、
(これを用いるって事は運営者か?)
固定を用いるに足る理由も想定出来た。
裏側、管理する側だけは固定でアクセスが可能なのだろう。
管理人と書かれたリンクを踏むとアクセス拒否になるからな。
余程の問題となる書き込みがあれば削除しているのかもしれない。
俺は改めて書き込まれたページを覗き見る。
ソースを開いて書かれている内容を調査する。
(ここだけ……管理者権限? 表記は他と同じだが)
コメントアウトにロールと書かれている項目があった。
それは管理者向けの機能を用いた事を示す項目だった。
つまり発端を記した者は裏サイトの運営者なのだろう。
すると隣の咲が興味深げに覗き見た。
「うわぁ。なに、この文字列?」
「ああ、表示に必要なコードだよ」
「そ、そうなんだ。読めるの?」
「読めるぞ。クラックされたページの解析もしていたからな」
「ふぁ?」
ま、専門分野の話をしても通じるものではないか。
その後、ソースを下までスクロールすると開発者の名があった。
「ああ、これは有償プログラムなのか」
「それってどういう代物なの?」
「待ってくれ。開発者のページを開くから」
「うん」
俺は底部にあったアドレスをコピーしてページを開く。
「そうだな。有償だが非商用限定、誹謗中傷に関する利用は不可とあるな」
「そ、それなんて?」
「規約違反だ。あとは何々? 違反を確認すると機能停止に追い込むようだ。内部で認証しているのかもな」
「終わったね。ここの管理者?」
「だな。それと開発者へのリンクも表記しろとあるが……していないな。コメントアウトで消し込みしているわ」
「わぁお! 酷い利用法だね」
「悪意ある利用法か。これは通報案件だな」
「え?」
通報すると代替が必要になりそうなので、昔作った掲示板を立ち上げる事にした。
それはスマホ限定かつボットを弾くもの。
会員制も可能だが使わない方がいいだろう。
禁止ワードに触れたら代替文字に置き換わる。
画像投稿は自動的にモザイクがかかる。個人名を使うと書き込み不可になる。
イニシャルなら可、個人が特定可能な文字列は不可だ。
利用規約と免責事項もトップに置くので「違反は法的措置」を匂わせれば異常な書き込みは減るだろう。
幸い、クラウドサービスを契約したばかりなのでそちらに置けばいい。
ドメインは既存サービスの物を用いる事になるが仕方ないよな。
あれも反映されるまで二日以上かかるから。
時間が惜しい時はそちらを使うに限る。
俺がカチャカチャと下準備を始めると、
「つ、通報するの? それだと……」
きょとんとしたまま固まっていた咲が再起動した。
「いや、代替を立ち上げるから大丈夫だろ」
「代替?」
「ああ。一時的に混乱を招くだろうが、移管しましたと書き込めばいい」
「じゃ、じゃあ」
「通報後は弾かれるってこった」
内部で認証しているってことは何かしらのシステムが裏に居るって事だから。
機能停止となるとシステムの根幹かもな、きっと。
準備を終え、エミュレータ越しにアドレスを追記した。
IPだけはプロキシを通したのでこちらのIPが知られる事はないだろう。
「さてと、待ちに待った」
「通報だね!」
本来ならこういう事をすべきではないのだが、陥れられた身としてはざまぁしたいわけで。
「おうよ。慌てふためく様が見てとれるぞ!」
「え? 管理人が誰か分からないけど?」
「いや、管理人は既に判明したぞ」
「はい?」
そう、調べている内に判明したのだ。
実は登録時のメールアドレスがソースに載っていて、それを調べるとSNSに行き着いた。そこから写真を探すと見覚えのあるバカが顔を出した。
変なところで穴があるってこういう事を言うんだな。
「いや……アイツかって思ったぞ」
「し、知っているの?」
「嫌な記憶しかないけどな」
「だ、誰?」
「陽希祝」
「ふぁ? そ、そ、それ、それって」
「俺にカンニングだなんだと難癖をつけたゴキブリ野郎だな」
思い出すだけでも腹立たしいよな。
そこからだ。全てが狂い始めたのは。
咲も覚えがあるのか、
「あ、あいつが。明君を……担任の抱き込みだけでは飽き足らず噂まで」
俺の知らない事情を口走る。
「は? それってどういう事だよ?」
「当時の担任って奴の実の姉だよ」
「なんだと?」
ということは……姉弟で、俺を?
「だ、だが名字が」
「離婚しているの両親が。姉は母親の名字なの」
「あ、そ、それで……だが、身内は担任になれないだろ?」
「隠していたんだよ。それだけではなく試験問題の」
不正取得までも行っていたと。
それで俺が現れるまでは成績トップ?
「カンニングより質が悪いぞ、それ?」
「模範解答も含めて取得していたらしいよ」
「うへぇ。そんなの暗記すれば一番じゃねーか」
ちなみに、件の陽希祝は文系クラスに居るため俺達の観測範囲には居なかった。
それが奴の行った自身の存在隠しなのかもしれない。
もしかすると俺の理系行きも関与しているかもな。
(咲も直前まで文系だったし。俺を理系にやって? 何が目的なのやら? ヤリモクか?)
仮にヤリモクなら許せる話ではないな。
それはともかく。
「早速、閉じられたな」
「これって……どういう状況?」
「無事に違反確認が出来たって事だろ」
「ああ、開発者が見に来たと」
閉じられた事で画面が真っ黒になった。
文字も書き込めず閲覧も出来ない。
しばらくすると存在しませんのページになった。
「リモート削除まで可能かよ」
それくらいは用意していても不思議ではないか。
おそらくデータベースも含めて削除済みなのだろう。
「証拠の確保後に通報して正解だったな」
「そうだね。消えていたら大事だったよ」
それと同時に俺の立ち上げた掲示板のアクセス数も増えていた。
「これの需要は恐ろしいな」
「うん。こんなに利用者が居るなんて」
書き込みを見ると例の固定IPも見かけた。
「えっと。急に閉じやがった。誰がこんな物を用意したんだ。許せない?」
「何を書いているんだろうね?」
「案の定、名前を書き込んで書けなくて」
「イニシャルになったね。内容は同じ物みたい」
「だが、代替文字列になっているからにゃーって」
「ふふっ。猫語だと言葉が通じないよね」
ストレス解消で書いたはずが呆れかえる内容になってしまい、結果的に違う利用法を模索する者達で溢れた。
猫語を連発したり、あえて語尾に入れるようにしたり。
それこそ猫集会になったな。
「殺伐空間が可愛らしい空間になってる」
「お陰で奴の書き込みも埋もれてしまったな」
「皆、癒やしを求めていそうだね」
「だな」