第100話 解決したが悩みは尽きない。
祝100話!
明君の付き添いで入場した臨時株主総会も佳境を迎えた。
「見返りで相談役になっても、全てを牛耳るなんて出来ないでしょ?」
「普通ならな。経営者が完全なる無能の場合、簡単に傀儡に出来るぞ」
「完全なる無能……なるほど、丁度良いカモと思って寄ってきたんだね」
「見る目が無いから簡単に騙せたしな」
人を見る目だけが爺との差なんだね。
同じ無能でも部分無能と完全無能では違う。
私達が無能無能と言うから伯父の顔色が真っ赤に染まっている。
怒鳴り散らしたい雰囲気が隠しきれなくなっているよ。
「怒鳴りたいなら隣のハゲデブを怒鳴ればいい」
「そうだよね。そもそも関係者でもないのに、なんで経営者側に居るの?」
「無能の相談役だと思っているんじゃないか。悪知恵だけは無駄に働くから」
「なるほどね。そうなると自称相談役に十年も踊らされた伯父が可哀想だね。ハゲデブが絡んできたお陰で、追われなくてもいい立場から追われてしまうのだから」
当主にならずとも、そこそこのポストで一生を終える事だって出来たのに。
ハゲデブの野心に巻き込まれてしまい定年間近で完全に潰える事になった。
「終いには失踪した三男、その姪っ子の命まで狙う始末だもんな」
「外道に近寄ると外道に染まるんだね。恐いね、人付き合いって」
「ハゲデブの発案で破綻に導いたと聞いた時は本物の外道かと思ったぞ」
私達がそう発した瞬間、周囲がざわめいた。
明君の発した後半は嘘と真実を織り交ぜたブラフだ。
ハゲデブの発案は私達の憶測の域の話だったからね。
「三男というと、破綻させた、あの?」
「いや、先ほど破綻に導いたとか言っていなかったか?」
「おい、見ろよ。我起贋の顔?」
はずなのにハゲデブの表情が顔面蒼白になっている。
しかも『何故知っている』と、口の動きが見えたよ。
「マジで?」
「そうなると伯父は利用された側、被害者と」
「人を見る目がないと、ああいう輩に利用されるのな」
「私達も気をつけないとね」
「反面教師としてな」
ブラフかと思えば本当の事だったのだから驚くよね。
そんな中、父さんの順番になったのだけど、
「コホン、娘達が失礼した。咲、凪倉君、喋りすぎだ。静かにしなさい」
「「……」」
その前に怒られました。
あとで説教を喰らうかもだけど仕方ないね。
「私が聞くべきところは娘と娘婿が言ってしまったから省略するが……」
あー、父さんの台詞、奪っちゃったぁ!
これは説教三時間を覚悟しないと。
「答える前に何故娘とその婚約者がここに居る。ここは株主総会だ。無関係な者達の居ていい場所ではない! 即刻帰ってもらおうか!」
「娘は彼の付き添いだ。婚約者である彼は凪倉の令息で我が社の株主の一人だ。株主である以上、参加する権利は当然ある。株主ですらないのに経営陣の席に居座る我起殿だけには言われたくない話ではないですか?」
「ぐっ」
父さんも結構毒を吐くよね。
相手が憎き我起だから言える事だけど。
「ここまで華麗なブーメランは滅多に見ないな」
「帰れというなら我起もお帰り下さいになるもんね」
どちらの意見が賛同されるかは周囲の反応でも明らかだったね。
「株無し総会じゃないぞ、ここは」
「無関係な奴が関係者を追い出すって滑稽だな」
「白木と凪倉は持ちつ持たれつだから居たとしても不思議ではないよな。というか、その二家から婚約者が出るって繁栄にも繋がりそうだな」
「優木の長女も白木の長男と結婚したよな、そういえば」
「この結束を断ち切る術はもう無いだろうな」
引き剥がそうと躍起になっている内に、別方向では繋がってしまったもんね。
それも物理で数百回連続で繋がって、会長がしばらく無理と言ってしまう程に。
「そういえば長男って他に居たのか?」
「我起、言祝の托卵勢を除くと、今は兄さんしか居ないね。他の家は全て女だから」
「マジか」
爺の代では男子が多かったが息子達の代では私の家以外での男子は居ない。
それもあって爺は私の家をやたらと重用する。
それと最近気づいた事だけど、父さんが私に施した教育は、ある意味で周囲を欺くために行っていたとさえ思えるよね。
お陰でお金に対する有り難み、稼ぐ苦労だけは身をもって知ったけども。
「会長は本物の勝ち組だよね。令嬢だけど」
「夜の部では負け組だけどな。腰が抜けて」
「そ、そうだね」
兄さんの卒業後から年に一人のペースで子供を産んで育てそうな気がするよ。
こうして数時間もの総会は終わり、伯父は全会一致で退陣する事になった。
「ところで退陣後は何処に住むんだ?」
「留学する娘の近くにでも行くんじゃない?」
「娘にとってはいい迷惑だな。出会いの悉くを潰されそうだ」
「ああ、やりかねないね。あの伯父なら」
次の当主もその日の内に決まり、父さんが新当主になってしまった。
しかも私の実家が本家に置き換わり、今の実家が別邸扱いになった。
別邸も引退した両親がいずれ暮らしていく事になるので問題ないが。
「やはり、唯一の長男を産ませた功績があるか」
「そうだと思う。男系で繋いできたのに、兄さん以外は女子だけだから」
「女子と言うと咲もその内に入るけど?」
「それは言わないで」
私もその産物だって分かっているけど想像したくないよ。
父さんと母さんが裸で愛し合う姿なんてね。
私は咳払いして話題を変えてみた。
「ところで我起はどうなるのかな?」
「今までの悪行が表沙汰になるだろうから、完全に干されるだろうな」
「干される?」
「経済界への立入禁止、事実上の追放。各種犯罪行為にも手を染めているから、警察が動いて本来住まうべき塀の中で一生を終える事にもなるんじゃね? 知らんけど」
「あー、だから警備員に囲まれて警察が訪れるまで待っていると」
「捜査が進めば言祝も一緒に片付くだろう。一方的な逆恨みが仮に解決したとしても、虚しさしか残らないのにな」
「そうだね。そうなるといいな」
ここで関係終了なんて宣言すると第二第三の我起、言祝が出てくるから口には出来ないけれど。
白木は何気に恨みを買っているからね。
私達の代で全ての悪縁が終わればいいのだけど。
それは無理だろうな……とほほ。
なお、総会後は父さんに呼び出されて五時間の説教をいただきました。
二人揃って絨毯に正座。
両足が痺れてしばらくの間、動けなかった。
「ツンツン」
「ひゃあ! か、母さん! やめてぇ」
「ツンツン」
「ぐぉっ! か、勘弁してください」
「これに懲りたら賑やかしはしない事!」
「「はい、分かりました!」」
今後、総会がある時は黙って見守ろうと思った私達であった。
§
総会後、片付けを終えた父さんは当主になった事もあって、
「私達は引き継ぎがあるから帰るけど、二人は落ち着くまでここに居なさいね」
母さんと共に請け負った仕事の後始末に向かう準備をしていた。
引き継ぎというと別の誰かを経営者に据える予定なのだろう。
兄さんが居れば継がせるだろうけど、留学先に戻ったからね。
おそらくだけど後継者的な人物を育てていたのかもしれない。
「但し、羽目を外しすぎないように。ゴムは付けること、いいね?」
「「はい!」」
元気よく返事したはいいが、その関係には至ってないのだけど?
「ここが一応個室だからか?」
「そうかも。どうするやる?」
「生理は?」
「そろそろ時期かも」
「安全日まで添い寝でいいか」
「結局、いつも通りだね」
「不満か?」
「そうでもない」
私にとって明君と一緒に過ごせる時間はどんな事よりも大切だから。
「でも、スーツがきついから脱がせてくれると嬉しいかな?」
「脱がせるって何処まで?」
「下着まで」
「裸ではないと」
「そんなに見たいなら裸でもいいけど?」
「いや、下着までで」
「ヘタレだね」
「うっせぇ」
別にいいけどね。
私も本音では少し恥ずかしいから。
それに家で脱ぐのとホテルで脱ぐのとでは何か違う。
温泉宿では感じなかった明君の息づかいを感じるからだと思う。
「鼻息が凄いね」
「悪かったな凄くて」
「ごめんごめん。悪気はないから気にしないで」
なるほど、明君は脱がせる事で興奮すると。
そうなると碧の考えが的中したも同然だね。
私が着ていたスーツ等は都度明君の手で整えられていく。
その場に放置は絶対に行わない明君だった。
「きょ、今日の下着は……先日買った奴か」
「勝負だったからね。勝負下着を着けるのは当然でしょ」
「確かに」
本来の用途とは違うけど気合いを入れるために選んでみた。
まさか明君にこういった形で勝負下着を示す事になるとは想定すらしていなかったけどね。
私もドキドキしてきたよ。
で、運悪く始まってしまうというね。
「ごめん、トイレ」
「あ、うん」
間一髪、持ってきていて良かったよ。
黒下着でも経血で汚したくないしね。
私達は同じベッドへと横になりひと息入れる。
明君はパンイチ、私も下着姿のままだ。
「咲はナプキン派ではないと」
「もしかして、そっちが良かった?」
「全然。それぞれの好みもあるから、男の俺が問うような話でもない」
「良かった。理解していてくれて」
このままの流れで、なんて思ったりもしたが、子供が出来てしまうと困るので添い寝だけした。そもそもの話、寝室に放置したゴムも持ってきていないしね。
すると明君が天井を眺めて、
「九月に文化祭に行く話があっただろ」
何を思ったのか文化祭の話題を持ち出してきた。
「もし、あれなら俺も行っていいか?」
「行くって? 女子校に?」
「ああ。文化祭の空気っていうの? それを体験してみたくてな。企業イベントの経験はあるが、学生の作る祭りの空気を知らなくてな」
理由を知った私は明君との認識の差違に気づかされた。
(だから企画の段階で見当違いな方向に?)
経験が無いから大々的になって顧問から苦言を呈された?
「そういう事なら付いてきていいよ」
「本当か? 行っていいなら助かる」
「うん。デートにもなるし、楽しみにしていてよ」
「おう。楽しみにしとく」
急遽、降って湧いた明君との文化祭デート。
それが別の騒ぎを生み出す事になろうとは、この時の私は知る由もなかった。
意味深な終わり方だなぁ(´・ω・`)