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9話 魔王の決断

 既に夕暮れに差しかかろうとする時間の森の奥。アディアと魔王は対峙する形で地面に腰を下ろして対話を続けていた。


「―――ところで魔王、どうしてそんなかわいらしい姿になっちゃたの?」


 アディアはかつての宿敵へ対し、純粋な疑問で訊ねた。


「……さぁな。まぁ可能性があるとすれば、余が復活する際に使用した魔力が足りてなかったのが原因だろうな」


 魔王は力のない目で答えた。


「魔力が足りてなかったって?」

「そうだな……簡単に説明すれば、今の余は貴様等に絶命させられた後に散らばった魔力の“欠片(かけら)”によって再構築した集合体に過ぎない。つまり、この姿はその欠片が少なかったが故の事故ということになる」

「ふーん、要は無理矢理に復活したら大失敗したわけね」

「……腹が立つ言われ方だが、それで正解だ」

「元の姿には戻れるの?」

「気長に魔力の回復を待てば、あるいは……な」

「“気長に”って……例えばどれくらいかかるの?」

「強いて言えば、神のぞみが知るといったところだ」


 魔王は自虐的なセリフをそこまで言い終えると、スッと立ち上がる。


「どうするの?」

「余はこれより姿を消す。力を失った魔王なぞ、惨めなだけだから」


 彼がそう言って立ち去ろうとした時、アディアは思い切ったように呼び止める。


「ちょっと待って!」

「何だ?」


 去り際だった魔王は、背中を向けたまま聞き返す。


「ねぇ、私がギルハート……勇者へ復讐したいと言ったらどうする?」

「勇者の仲間である貴様が復讐? 冗談にしてはつまらぬ話だ」

「いいえ、私は本気よ。本気で勇者に復讐するつもりよ!」

「なに?」


 予想外のセリフを聞いて振り返る魔王。視界に映る赤髪の女の瞳には一切の嘘を感じない。


「どうやら私の話に興味があるようね?」

「……話してみろ」

「そうさせてもらうわ」


 アディアは城のパーティーで起きた出来事。そして、ギルハートへ対する憎悪を包み隠さず伝えた。


「―――痴情が縺れた挙げ句に復讐か……人間とはかくも愚かな生き物だな」

「そうかしら? 男と女にとって愛情はとても大切で神聖なもののはず。だとすれば、それを汚した者にはそれ相応の罰が下って当然のはずだわ」

「当然か……では聞くが、具体的にはどんな罰を与えてやりたいんだ?」

「そうね。パッと思いつくのは男の象徴を切り落として、一生後悔させるとか?」

「………………」

「どうしたのよ。急に黙って?」

「あ、いや……な、なんでもない」

「そう? じゃあ話は戻るけど、私が勇者に復讐したいと言ったら、アナタはどうする?」

「……何が言いたいんだ?」

「私に協力して、一緒に勇者へ復讐しないかって聞いてるの」

「なっ!?」


 突然の要請に驚く魔王。だが、すぐに気を取り直して言う。


「……こんな身体の余に復讐ができると?」


 現実的な返答だ。しかし、彼女は敢えてそれを無視する。


「不利を言い訳に、尻尾を巻いて逃げるつもり?」

「何?」


 眉をピクリと動かす魔王にアディアは続ける。


「だってそうでしょ? アナタは自分の身体がちょっと縮んだくらいで勇者から逃げようとしている。違う?」

「ぬぐっ!」

「私は逃げなかったわよ。怖くても逃げずにアナタと正面から戦ったわ!」

「!!」


 瞬間、魔王はかつて脆弱だったはずの人間が必死になって自分と戦った記憶を思い出す。


「今一度だけ問うわ。私と一緒に勇者へ復讐しない?」

「……ぬぐぐっ!」


 魔王の心が揺れ動く。いや、そもそも揺れ動いた地点で彼の中に“未練”という感情が残っている証拠。


「聞かせて! アナタの考えてる答えを!!」


 問われる彼の選択は?


「い、いいだろう。貴様の話に乗ってやる!」

「それってつまり?」

「貴様と共に勇者へ復讐をするっということだ!!」

「フフフ、そうこなくちゃ!」


 未練を打ち消すため、再び宿敵と相見える決断だった!

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