8話 魔王の力
「う、嘘だ……魔王である余が……こ、こんなちんちくりんな姿にだと!?」
現実を信じられなくて全身をわなわなと震わせる魔王。だが、それでも己の力を信じる彼は!
「ま、まぁいい……いくら身体が縮もうとも、余には絶大なる魔力があるのだからな!!」
果敢にも目の前に立つアディアを排除しようと、己が得意とする魔法を撃ち放つ!
「くらえ! ダークネス・アロー!!」
「し、しまった!」
完全に相手の姿に油断していたアディアは、不意を突かれて無防備に攻撃を受け……
「え? 何、このフニャフニャした黒いものは?」
視界に捉えらたのは、数本なヒジキみたいなものがヒョロヒョロと空中を漂う光景だった。
「……これ、もしかして魔法?」
あまりにも情けない攻撃で呆気に取られるも、今は仮にも戦闘中。よって彼女は直ぐ様に気を取り直して反撃へ打って出る!
「これでも喰らいなさい!」
アディアは力強く前へ踏み込むと、容赦のない回し蹴りを魔王の小さな身体へ叩きつける!
「ぐっ、ぐぐぐ……こうもやすやすと余にダメージを与えるとは……やるな!」
苦悶の表情を浮かべて余裕ある姿を演じる魔王。だがこの光景、端から見れば明らかに大人が小さな子供に対して理不尽な暴力を振るったようにしか見えない。
よって、攻撃を加えたはずのアディア自身も思わず罪悪感が湧いてしまい……
「ご、ごめん……咄嗟のことで……その、悪いことをしたわね」
自分のしでかした行為について謝罪までしてしまう始末。
「フ、フフ……まさか魔王が人間に攻撃されて謝られるとはな……こんな理不尽な侮辱を受けたのは初めてだ!!」
しかし、謝罪された側は誇りを傷つけられと憤り、再度の攻撃を仕掛ける!
「次はこいつだ! 最大奥技インフェルノ・ブレス!!」
大きく開いた口から吐き出される灼熱の炎が、アディアの全身を瞬く間に包み込……み?
「え?」
彼女はまたもや呆気に取られる。何故なら、最大奥技といわれる攻撃は誕生日ケーキの蝋燭をかき消すくらいに弱々しい風だったからだ。
「ハァ、ハァ……どうだ! 人間よ!?」
息を切らして自信たっぷりに“どうだ”と言われても困るみたいな感じでアディアは言う。
「え、え~と……ちょっといいかな?」
「ハァ、ハァ……い、命乞いなら聞かんぞ!」
「あ、うん。それはないから……ってか、今のって全力でやった?」
「ほぉ、挑発のつもりか? この期に及んで大した度胸だな」
「あ、だからそんなのじゃなくて……その、アナタの攻撃、ぜんぜん効いていないんですけど?」
「余の攻撃が効いていないだと? そんなたわけた妄言をほざいても……え? 効いてない?」
ここで魔王は、ようやく攻撃を与えたはずの相手が何事もなく立っていることに気づく。
「ま、まさか……いや、そんなはずは……!?」
頭を抱えて混乱する魔王。そこへアディアが残酷な事実を突きつける。
「悪いけど、今のアナタは身体はおろか、魔力も子供並みでしかないわよ」
「なっ!? よ、余が子供並み!?」
「もう気づいているんでしょ? 自分にかつての力が微塵も残ってないことを」
「…………ぬぐっ!」
完全に図星を突かれて押し黙る魔王。もはや彼の言う誇りとやらは、ズタズタに切り裂かれるのみあった。




