2話 パーティータイム1
魔王が討伐されて約一ヶ月。王都への帰還を果たした彼等は、今夜に城で開かれるパーティーへ参加するための準備に勤しんでいた。
―――城内のとある一室にて。
「やれやれ……いくら魔王討伐の祝いのパーティーだからといって、十日も連続でやられたらさすがにしんどくなるぜ」
自慢の長い金髪を後ろに束ねるエルフのザクノバは、ウンザリした口調で愚痴を吐く。
「フォフォフォ、そう嘆くでないザクノバよ。せっかくの美味い飯にありつけるのじゃから」
「はぁ~、ジイさんは相変わらずの食い気だな。ところでギルハート? お前の方はどうなんだ?」
「ボクの方? 何がだい?」
鏡の前でタキシードの襟を懸命に正すギルハートは、視線を合わせないままに応える。
「惚けるなよ、あの件についてだよ。そろそろ何かしらの発表をしとかないと彼女に示しがつかないんじゃねぇのか?」
「……ああ、それか。それなら心配しなくても大丈夫だよ。彼女とは既に話し合って、今夜のパーティーで大々的に発表する手筈になっているから」
「そうか、それを聞いて安心したぜ。まぁ、その……なんだ? せいぜい二人で幸せになってくれよ♪」
「うん。ありがとうザクノバ」
「よせよ……っで、肝心の彼女は今どうしてるんだ?」
「ああ、彼女なら―――」
男三人が順調に準備を進めるなか、別の部屋では残り一人のメンバーが大いに苦戦していた。
「イタタタタ!! ちょ、これ絞め過ぎじゃないの!?」
「これくらいは我慢してくださいよアディアさん。今日のパーティーは目一杯のお洒落をしたいと頼んだのはアナタ本人でしょ!」
年輩の侍女から叱られながら、コルセットをきつく締められて悲鳴を上げるアディア。日頃の鍛練で培った筋肉が邪魔になって、なかなかに苦労している様子だ。
「そ、そりゃあ頼んだのは確かに私ですけど、まさかこんなに大事になるとは……グェッ!」
「潰れたカエルみたいな声をあげない。大切な人にでも聞かれたらどうするんですか!?」
「うう……ハイ」
「反省はいいですから。それよりもホラ、思い切り息を吸って!」
「グエェェェ~!!」
カエル声のアディアが苦悶してる一方、パーティー会場ではゆったりとした音楽が流れ、大勢の紳士淑女で連なる貴族達がダンスや食事で賑わいを見せていた。
「―――モグモグ……それにしても今夜は、いつにも増して人が多い気がするのぉ」
会場内の隅っこにあるテーブルで骨付き肉を頬張って周囲を気にするロゴス。その隣では、親しげに談笑するザクノバとギルハートの姿があった。
「そういえばそんな気もするな。ギルハートは知ってるか?」「今夜のパーティーはセシリア姫が直々に主催してるからね。たぶんそのせいだと思うよ」
「姫? ああ確か何年か前に魔王軍との戦いで亡くなった両親……国王と妃に代わってこの国を治めてるんだったよな?」
「そうだね。当時はかなり大変だったらしいけど、今じゃこんなパーティーを開けるくらいの余裕はあるみたいだね」
「へぇ、女だてらに大したもんだなぁ……」
ザクノバは感慨深く頷いて続ける。
「それじゃあ今日参加してる連中は、あわよくばその余裕ある姫様にあやかりたい連中になるわけか」
「ザクノバ……その言い方は少し不謹慎が過ぎるよ」
「へいへい。ところで一つ気になったんだが、お前、パーティーなのにわざわざそんなもんを持ってきたのか?」
ザクノバはギルハートの腰にかかる剣を不思議そう眺めて言う。
「これは一応の用心のためさ……っていうか、キミだって愛用の杖を持参してるじゃないか」
「オレのはいわゆる“受け狙い”ってヤツだ。これでちょっとした魔法を手品みたいに披露してやると淑女方がすこぶる喜んでくれるのさ!」
そう言って、杖の先に小さな炎を灯して得意気になっていたら……
「フォフォフォ。おなごの気をひくか……じゃがのぅザクノバ。そのために道具に頼るのはちと情けなくないか?」
「言ってくれるねジイさん。だったら、アンタの場合はどうやるんだい?」
「ワシか? ワシならこんなふうに……ほれ!」
ロゴスは食べかけていた骨付き肉を手にしたまま、その場で華麗な宙返りを披露。
『おおーーーー!!』
たまたま近くにいた数人の貴族達が喝采を上げて拍手してくれたので、愛想良く手を振って応える。
「なぁ? 道具がなくとも何とかなるもんじゃろ?」
「ハハハ、ジイさんにはかなわねぇよ」
和気藹々で賑わうメンバー三人。するとそこに、もう一人のメンバーの姿が……
「お待たせみんな。衣装の準備に手間取っちゃったわ!」
現れたのはアディア。見事な赤いドレスを着飾った彼女は、彼等の前に煌びやかに立っていた。




