18話 約束
「う、う~ん……朝か」
忌まわしき悪夢の夜が明けてからの無駄に爽やかな朝。ベッドで目を覚ました魔王は、昨夜の自分に大蛇の如く巻きついていたアディアがいなくなっていた。
「ふぅ、どうやら解放してもらえたようだな」
安堵のタメ息を吐いて寝室から廊下へ出ると、突き当たりにある工房の扉がわずかに開いているのが目に入る。
「……そういえば、朝から銃の整備をするとか言っていたな」
昨夜のアディアの発言を思い出す魔王は、こっそりと中の様子を覗く。するとそこでは、彼女が作業台で銃と真剣に向きう合う姿があった。
「う~ん……やっぱりここが少しひっかかるかぁ……」
様々な工具を使い作業に集中する様を見て、魔王は昨夜に交わした約束を思い出していた。
「朝飯……作ってやるか」
―――リビングの奥にあるキッチンに立つ魔王。まずは食材の有無を確認するために保冷箱を開く。
「昨日の野うさぎの肉がまだ残っているな。あとは少々の野菜……それと保存か効く黒パンといったところか」
食材を確認し、そのまましばし思考。
「ふむ、サンドイッチでも作るか」
メニューが決まっていよいよ調理の開始……っと思いきや?
「まな板の少し位置が高いな」
案の定、子供の身体が邪魔をする。
「ちっ、まったく不便な身体だ」
自分の現状にムカっ腹を立てつつも、仕方なくリビングにあった椅子を足場にして調理開始。
「さて、始めるか」
魔王はさっそく保冷箱から野ウサギ肉と野菜を取り出して適当な大きさに切り分ける。
「これでよし!」
次に熱したフライパンに油を馴染ませてから、切った肉と野菜を放り込んで塩胡椒を手早く振る。
「味付けはこれでいいな。あとは……」
最後は食材に程よく火が通ったところを確認し、溢さぬようにパンへ挟むと……
「出来あがりだ!」
見事なサンドイッチを完成。そして、そのまま一息……つく間もなく、アディアがリビングの扉を開く。
「わぁ! 美味しそうなサンドイッチじゃない♪」
「……約束したからな」
「フフフ、ありがとう。じゃあ手を洗ってくるから、先に席で待っててよ」
「うむ」
二人が席に着くと、各々が勝手に皿に乗ったサンドイッチを口へ運ぶ。
「美味しい!!」
素直に感想を述べるアディア。どうやら口に合ったらしい。
「ねぇ魔王。モグモグ……もしかして、普段からこんな料理をやってたりする?」
この質問に、魔王は視線を合わせずに答える。
「……時々やってたくらいだ」
「へぇ、それでこの味なら大したものじゃない……モグモグ」
「ふん、褒めてもこれ以上は何も出んからな」
ぶっきらぼうに返してるが、内心ではまんざらでもない様子。
「ところで貴様、銃の整備はどうなってるんだ? 予定では今日の昼頃には終わると聞いてたんだが?」
「モグモグ……それならもう殆ど終わったわ。御希望ならすぐにでも試し撃ちができるわよ」
「えらく早いな。では、食べ終わったら試させてもらうぞ」
「いいわよ、それじゃあ急いで……」
直後、アディアはあっという間にサンドイッチを口に頬張る!
「おいおい、もう少しゆっくり食べたらどうなんだ?」
落ち着けと注意する魔王。しかし、それをした時には既に彼女の皿は空になっていた。
「ガツガツ……ゴクン! それじゃあ準備するから後片づけはよろしくね!」
「……わかったわかった。とにかく慌てずゆっくりやってくれ」
リビングから慌ただしく出てアディアを見送る魔王。だが、これで彼はいよいよ銃の訓練を始められることになる!




