13話 お宅拝見!
「さぁて……せっかく家主からの許可をもらったんだ。好きに見学させてもらうとするかな」
アディアが不幸な事故でシャワーを浴びてる間、魔王は文字通り家の中での見学を開始すようとするが……
「しかし、いざ見て回るにしても何を見ればいいんだ?」
今立っているリビングを見回すが、目につくのは使い古しのテーブルと備え付けられた椅子。それに仕切りなく繋がったキッチンくらいだ。
「……別の部屋にいくか」
早々に見切りをつけて廊下に出ると、シャワー室からはアディアの鼻歌とお湯が流れる音が聞こえてくる。
「ハハハ。家の中で魔王が彷徨いているのに、鼻歌とは呑気なものだな」
彼女の無頓着さには苦笑しつつ、手をかけた扉は?
「まずはここからだ」
ガチャ!
「……トイレか」
別に催してもないので扉はそっと閉める。
「さて次だ。確か突き当たりに工房があって、あとは寝室だったはずだ」
どちらを調べるか悩むが、答えはすぐに出る。
「……寝室だな。ああいった場所には、意外と何かあるかも知れん」
若干の期待を胸に抱えて向かった先は?
「……まぁ、こんなもんだろうな」
紛れもなくただの寝室だった。小さな窓がある壁側から少し離れた場所にやや大きめのベッドが一つ。反対側には、クローゼットとその半分くらいの背丈があるタンスが二つ並んで置かれてある。
「一応調べてみるか」
怪しいものはないかと、適当にタンスの引き出しを開けてみると?
「どれどれ……おおっ!」
中には彩りの華やかな花園が広がっており……
「って、ただの派手な下着があるだけか。はぁ~」
無駄な労力を消耗してタメ息を吐いたその時だ!
「何をしてるの?」
「うわぁ!?」
完全に不意を突かれた魔王は、肩をビクつかせて驚く!
「な、貴様は……」
声の主は当然の如くアディア。彼女はバスタオル一枚を身につけた格好で、怪訝そうに腕組みをして立っていた。
「ふ~ん。人を吐瀉物まみれにした挙げ句、今度は下着泥棒とは……魔王様はホントーーーーに油断なりませんね?」
見下し蔑む彼女の目は、明らかに汚物を見るものだ。
「ま、待て! これは誤解なんだ!」
「ふ~ん。じゃあ、その大事そうに手に持ってるものは何かしら?」
「手……あっ!」
見つかった際に余程慌てていたのだろう。魔王の右手には紫色の乳隠しがガッチリ握られていた!
「な、なんでこんなものが!?」
「“こんなもの”ですって? 私の一番なお気に入りを握り締めて言うセリフかしら?」
「なっ、違っ!」
あらぬ疑いをかけられて焦る魔王。額には大量の汗、右手には派手な乳隠しを握る姿は、まさに下着泥棒の犯人が現行犯で捕まる一歩手前の状態だ!
「ま、待て! 本当に誤解なんだ! 話を聞いてくれ!!」
「言い訳なら地獄の閻魔にでもしてみることね」
「オ、オイ! 落ち着け!」
落ち着かない彼女は拳を強く握り込む。そして……
「くたばれ痴れ者!!」
無抵抗の魔王の顔面めがけて猛スピードで打ち―――!!
「や、やめろォォォォォォォーーーーーーん?」
込まない。絶対絶命をもたらすはずだった拳は、当たる寸前で辛くも止められていた。
「え、え? ど、どういう……?」
困惑する魔王にアディアは冷静な口調で話す。
「本当はそこまで怒ってないわよ。元を正したら私に魅力があり過ぎるのが悪いんだから」
「は、はぁ?」
自己肯定増し増しのセリフに呆れているところへ、さらに続く。
「そんなに下着が欲しいなら、一枚くらいはあげるわよ」
「そ、そうか。それはありがた……いや、違う! 余が言いたいのはだな!!」
安堵して一瞬流されかけたが、それは違うと猛抗議!
「ハイハイ、私の下着に欲情したからやりたいことをやりたいわけね。いいわよ、少しの間だけ部屋を出ていくからさっさと済ませてちょうだい」
しかし当の彼女は、とんでもない発言をしてそっぽを向く始末。よって魔王の必死の訴えは……
「だから聞けって! そもそも余は―――!!」
「ハイハイ、早く済ませてね」
最期までまったく聞き入れられることなく、ただ悲しき汚名を着せられて終わるのであった。




