オレサマ×ルームメイト×オレサマ
篠崎芳乃は私立校入学を機に地元を出て、大遅刻。
入学式には出られず、翌日学園に辿り着けば、手違いで女子寮に空きが無いという。
そして、通された生徒会室。
生徒会長、叶夏樹は窓辺で鼻を鳴らし、
「お前が大遅刻のおまぬけ女か」
ぶん殴ってやろうかと思ったが、なんとか堪える。
「寮の調整に一週間ほど貰う。その間、お前はオレの部屋に来い」
「はあ~っ!?」
夏樹は無遠慮に近付くと、芳乃の鼻先を突ついて、
「お前みたいなちんちくりん相手なら、間違っても間違いなんか起こらないさ」
こいつはいつかぶん殴ると、芳乃は心に決めた。
男子寮の最上階フロアは、生徒会専用になっていた。
その一番奥。造りは丁寧、広さはそれなりの二人部屋。
当然寝室はひとつ。
緊張した面持ちでその中を見やる芳乃。
夏樹はその後ろに立ち、
「就寝時間だ」
芳乃は慌てて振り返り、
「変な事したら直ぐにーー」
その声は、夏樹を見て途中で止まる。
「なんですそれ?」
「お前はセントバーナードも知らんのか?」
夏樹は、犬のぬいぐるみを抱いていた。
「それが無いと眠れない、とか?」
呆気に取られた様子の芳乃に、夏樹はきょとん、と目を瞬かせる。
「ぷっ。あははははっ!」
緊張が一気に緩和し、大笑いしてしまう。
「ば、馬鹿にするな! こんなもの無くても眠れる!」
夏樹は、ぬいぐるみを大事そうにクローゼットに仕舞い込んだ。
ごそごそ、もぞもぞ、ごろんごろん。
「会長、無理しなくていいですよ?」
「な、なにがだ!」
すっかり緊張が解けた芳乃は、クローゼットから犬のぬいぐるみを取り出す。
「ほら、抱いて寝ていいですよ」
ベッドで所在無気にしていた夏樹にぬいぐるみを押し付けると、
「~~~~」
夏樹は不貞腐れたようにそれを受け取って、頭からシーツを被った。
翌朝、夏樹は何事も無かったようにふんぞり返り、
「着いて来い。食堂まで案内してやる」
「それはいいですけど……会長、ネクタイは?」
ブレザーの胸元に、ネクタイは無かった。
「オレは何物にも縛られん」
なんとなくピンとくる。
「結べないんですか?」
「ば、馬鹿にするな! こんな物、こうやって、この……っ!」
ポケットから出したネクタイで首を締めそうになる夏樹を笑い、
「貸してください」
ネクタイを締め、ぽん、と胸元を叩いて、
「ほら、これでカッコいいですよ」
見上げる夏樹の顔が赤く染まって、
「ふ、ふん! 行くぞっ!」
逃げるように背を向ける夏樹が子供のようで、芳乃はまた小さく笑った。
俺様の折れる様、という事で。