第四章:『魂の在処』
夕暮れの光が病室の窓から差し込み、壁に長い影を落としていた。蒼幽の姿は、その薄明かりの中で一層凛としている。
「人は死を受け入れられない生き物です。だからこそ、私たちは記憶を残そうとする。でも、それは本当に正しいことなのでしょうか?」
蒼幽の声は静かに、しかし確かな重みを持って響いた。彼女は窓の外を見やりながら、言葉を続けた。瞳の奥には、深い懐いと悲しみが混ざり合っているようだった。
「わたしがデジタル霊廟を作ったのは、人々の魂の探求のためでした。死者の記憶を保存することで、生者は『生』の意味をより深く理解できるのではないかと考えたのです」
蒼幽は一瞬言葉を切り、深いため息をついた。
「しかし今、このシステムは、多くの人々にとって『死』から目を逸らすための道具になってしまっている……」
その言葉は、先ほどの父の言葉と、不思議なほど重なり合っていた。私は思わず、父と蒼幽の間に流れる不可視の糸のようなものを感じた。
「でも、記憶があれば、お父様との対話を……」
私の声は震えていた。必死で何かにすがりつこうとする自分がいた。
「対話?」
父が静かに笑った。その笑みには、どこか慈愛のようなものが滲んでいる。
「美影、お前は誰と対話したいんだ? データの中の俺か? それとも、本当の俺か?」
その問いかけに、私は答えることができなかった。データの中の父。それは確かに父の声であり、父の姿であり、父の記憶だ。でも、それは本当に「父」なのだろうか?
途方に暮れた私の表情を見て、蒼幽が静かに口を開いた。その目には、深い理解の色が宿っていた。
「美影さん、少しお話ししませんか?」
その声には、不思議な温もりが感じられた。まるで、私の心の中の混乱を全て理解しているかのように。
窓の外では、夕焼けが濃さを増していた。オレンジ色の光が、白い病室の壁を赤く染めている。その光の中で、父の横顔が一瞬、若かりし日の姿と重なって見えた。