第8話 「夏の終わり」
夏休みが、ついに終わる。
そして、晴蘭と海音は?
子供の頃、毎年の夏休みの終盤では、なんとも寂しい気持ちになってたものです。
今では、「暑いからサッサと秋よ来い!」なんて思ってますが・・・
文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。
「そっかぁ~ おかん、別にサクラ婆ちゃんの事を、嫌ってたんとちゃうかったんやぁ?」
「当たり前やろ! なんで私がお義母さんを嫌わなあかんのよ?」
「そぉ~じょなぁ~?」
俺は、白鳥 晴蘭。中学1年のイケメン・・・元イケメン紀州男子(自称)の転生女子だ。
俺と話しているのは俺の母親で、白鳥 楓。
そして今日、父親の白鳥 直登が、単身赴任が開けて帰ってくるらしい。
何かしら母親が嬉しそうなのは、それが理由だ。何しろ、春にサクラ婆ちゃんが亡くなった時に、チラッと帰って来たとき以来だから、数ヶ月ぶりだな。その前は、俺がまだ小学4年生だったな。まったく仕事仕事の家族を顧みない野郎だ。俺達を養ってくれているのだから、文句は言うつもりはないが、もう少し母親に対して気遣ってやってもいいんじゃね?とは思う。
正直俺も、会う度に「だれ?」って思ってしまうほど、あんまり親父の顔に馴染んでいない。それくらい会ってないからだ。
だが今回は、完全に仕事をやり遂げたらしく、もうイギリスには行かなくて良いらしい。
なにせ、何時もヘラヘラしている風な顔しか見た事がない気がする。「嫁に尻に敷かれる」って、こう言うのを言うのだろう。
それはそうと、母親から聞いた限りでは、サクラ婆ちゃんも魔法使いだったらしいのだが、俺が物心ついた時からサクラ婆ちゃんは、人として極々当たり前に年老いて、そして今年の春に他界した。うん。世間一般的な人としての人生を全うした感だと思う。
でも、俺の母親と父親は同い年の54歳と聞いていたが、実はそうではないらしい。
なんと、サクラ婆ちゃんの本当の年齢は、577歳で、父親の年齢は354歳なんだとか? 母親がそう言っていた。
だったら、母親の本当の年齢も、350歳超えてるのか? と聞いたら、頭を小突かれた。
どうやら母親の年齢は、間違いなく54歳のようだ。母親の免許証には、生年月日が昭和44年になっていたから本当らしい。
そうそう。
元々サクラ婆ちゃんと父親は、「魔法の国」と呼ばれる、「魔女と魔法使い達だけの異世界」からやって来たと言うのだ。
信じられるか? 普通・・・
こんな、ファンタスティックな事言われて、「はい、そうですか!」って、なる訳ないだろう。
でも、実際に俺が男から女に変身したり、魔法使いになって魔法が使えるようになったのは事実なので、やっぱり本当の事なのかも知れないが、未だに半信半疑だ。
それはそうと。
夏休みもあと数日。俺は今は、宿題に向かってラストスパートをかけている真っ最中だ。
読書感想文・・・
魔導書以外何も読んでない。
各教科テキスト・・・
海音と一緒になんとかやり遂げた。
自由研究・・・
魔法しか研究してない・・・パス!
工作・・・
空間拡張キューブ 収納型魔法鞄?
ダメだよな・・・
いやいや、確か俺は「転校生」って設定だったはず。宿題って意味なくね? でも、母親が一応やっておけと言うので、鞄を作ったって事にした。でもコレ、工作になるのか?
ってか、女子は裁縫だったような? 俺はどっちをやれば良いんだ? んま、知らね! なるよーになるさ!
とにかく、今は日記に奮闘している! 何十日分もの日記を書くのは大変な作業である。
なにせ、夏休みがスタート!いえーい!!ってときに、いきなり女の子に変身してしまい、それからというもの毎日グルグルと大変な事ばかりだったので、だいたい思い出せるとは思おうが正直日記で書ける内容ではない。
だって、魔法使いとして世間に知らしめるのは、あまり良くないんだよね? どないすんの?コレ・・・
仕方ないから、適当に書いておこう。天気は? 知らん! テキトーはい!
そんなこんなで、適当に日記を書いていたら、母親が部屋にやって来た。
「どう? 捗ってる?」
「うん? ああ、今、日記を適当にやっつけてるとこ!」
「左に同じ!」
「・・・アンタらねぇ 適当の本当の意味解ってる?」
「「え?」」
「適当って本当の意味は、『適して当てはまる』って意味やで? 決していい加減って意味ちゃうからね?」
「「おお━━!」」
「それはええ事聞いたわ! 1個ベンキョーになった!」
「うん! 左に同じ!」
「アカンわこの娘ら・・・」
母親は、呆れた顔で首を振りながら、両手の平を上に向けて、「Why?」みたいな仕草で去って行った。
とにかく、日記をクリアした! これで思い残すことはない!! 残りの数日は思い存分ゲーム三昧だ! 海音は一旦家に帰ると言う。仕方ない、1人でゲームすっか!
なんて思っていたが、俺の身体に異変が起きた!
なんか、下っ腹が熱いような、痛いような、腹でも壊したかな?と思って、便所に行った。用を済まして紙で拭いたら、紙が赤茶色になってた。パンツにも色が付いてた。
何だこれ・・・・・・
しかも、後から後から、少し間を置いては流れ出てくる不快な感覚? まるで、熱湯が出てくるような感覚だった。段々と赤茶色から真っ赤になったので、マジビビった。死ぬんじゃないかと思った。頭の血が一気に引く気がした。頭に孫悟空の緊箍児の輪があって、締め付けられてるみたいに、脈打つように頭がズンズン痛かった。しばらくの間何も考えられずフリーズしていた。気が付いたら泣いていた。
そして、落ち着いてから、炊事場に立つ母親に話してみた。
「ん? どうしたん?! 真っ青な顔して!」
「・・・血ぃ出た」
「え? ち?・・・ああっ! うんうんうん! そーやね! うん!」
「へ?」
「そっかあ! 晴蘭もとうとう」
「なに? 何なんよ? ちゃんとゆってよ!」
「あんね? よく聞いてな?」
「・・・うん」
母親が言うには、俺に起きたのは初潮だというのだ。女の子はある程度成長すると、赤ちゃんを産むための準備をするのだとか。
赤ちゃんを迎えるために、子宮と呼ばれる赤ちゃんが寝るための部屋に、お布団を敷くんだと。んで、赤ちゃんが来なかったら、そのお布団は必要なくなるため、子宮から剥がして捨てちゃうらしい。その時に、痛みと血が出るのだとか。
「ふぅん・・・そうなんや?」
「そっかぁ! うんうん! 晴蘭も一人前の女性になったんやねぇ!」
「やめろよ! 恥ずかしわっ!!」
「でも、女の子やったら誰でも通る事やで?」
「でも俺、女の子ちゃうかったやん」
「でも今は、女の子やろ?」
「んぐぬっ・・・」
まったく、コッチは真剣に悩んでいるのに、母親ときたらメチャ嬉しそうに話すもんだから、話して損した。
別に悪いことではない。当たり前に起きうることなんだと。
でも何んとなく、自然に身体が男に戻れるんじゃないかと期待していたが、もう絶対に男には戻れないと本気で思った瞬間だった。
その後、母親は出掛けてった。
買い物して、俺のために俺専用のナプキンを買ってきてくれたのだった。
もう1つ、パンツの上に穿くバンツ?まで買ってきたとか。それは穿くのも穿かないのも自由にして良いらしい。身体に合わないと思ったら、穿くのをやめた方が良いとのこと。
ナプキンの使用は、初めはナプキンの存在を意識してか、違和感バリバリだったが、慣れると着けてるのを忘れた。問題ない。
そして夜。お赤飯だった。
次の日の朝、目が覚めると、顔を洗って歯を磨き、便所で何して、何時ものように母親の手伝いをして、庭の花に水やりをして、海音が来るのを待っていた。
来ない・・・・・・
はて? 海音の奴、どうしたんだ?
もしかして、また寝てしもたんか?
なんて思って、海音の家に行ってみたら、昨日俺と同じように初潮があって、今もショックで起きてこないんだとか。俺は案外すぐに受け入れたが、海音はそうではなかったようだ。
海音の母親からそう聞いて、海音の部屋の前まで行ってみたが、海音の部屋からは、うんともすんとも返事が無かった。あまり、無理に接しても可哀想だから、強くは何も言えなかった。
海音の母親は、俺に海音を任せると言って、仕事に出掛けた。
任せると、言われても・・・
海音が女の子に変身したのは、俺のせいでもある。何だか申し訳なかった。もしあの日、俺と一緒に蔵に入らなければ、海音はこんな事など一生経験することなどなかったはずなのに。すまん・・・
仕方なく、家に戻ろうと玄関を出ようとしたとき!
「はっ! セーラちゃん?」
「え? 虹音姉ちゃん?」
ピョン! シュタ!
「あ、飛んだ」
ドタバタドタバタッ!
バタァン!
「ぎゃ!」
「あ、転んだ・・・」
玄関から家ん中を見ていると、キッチンから虹音姉ちゃんが顔を見せたと思ったら、チュパカブラのように廊下へジャンプして、クル!と、こちらへ向きを変えたら、いきなり飛びかかる勢いで向かって来た!
と、思ったら、廊下ですっ転んだ!
と、思ったら、そのまんまの四つん這いの姿勢で走って来たぁ!!
バタバタバタバタッ!
「ぬをぉおおおおー!!」
四つん這いで迫ってくる虹音。
「ひっ!」
思わず恐怖で仰け反る晴蘭。
ベタバタベタバタッ!
(虹音の手と足で走る音)
「ひぃきゃああ━━ー!!」
「セーラちゃーん!!」
虹音姉ちゃんの、飢えた猛獣が獲物を見付け狂喜乱舞するかの様に、髪を振り乱しながら妖怪染た笑顔で、四つん這いで迫って来るその姿は、さながら「妖怪うわん」の様で、それはそれはもう、全身悪寒が走る程におぞましく恐ろしかった! 思わず恐怖の余りに悲鳴を上げてしまったし、おしっこチビりそうになった。
「セーラっっっちゃあ~~~ん!」
「うをわあっ?!」
ガバッ!
いきなり晴蘭を抱きしめる虹音。
「きゃふっ!」
「ああ~~~ん! 今日もセーラちゃんに会えた~~~♡」
晴蘭を力いっぱい抱きしめながら、ゆさゆさ揺さぶる虹音。
「んぶっ! ぐ、ぐるじぃ~」
海音の姉、虹音姉ちゃんに捕まってしまった。
虹音姉ちゃんは、俺を捕獲すると、頭から被り付くように俺を抱きしめ、片足で俺の足に絡みつき、俺の頭を痛いくらいに顎でグリグリしたり頬ずりしたりする。痛い痛い!禿げるって! 今朝のご飯は、味噌汁と納豆食べたな? 虹音姉ちゃんの荒い息と鼻息から、味噌汁臭と納豆臭がするぞ? 正直俺は、あまり納豆が好きじゃない。でも、大好きな虹音姉ちゃんだから、ちっとも不快ではないが。
しかし、金髪碧眼美少女が、なにやってんの?! まったく、類稀なる変態・・・げふん!げふん! 個性が強すぎると言うか。一歩家を出たら、それはそれは超イケてる金髪碧眼別嬪コーラ瓶体型ボン!キュッ!ボン!ナイスバディー・クールビューティー・美少女(晴蘭評価目線)なのに、なんで家ん中で、俺の前では、ここまで精神崩壊するのかね?
正直、気になったので聞いてみた。
「ねえ、虹音姉ちゃん?」
「なぁに?」
「・・・んとな? 今みたいに、俺に噛み付くみたいな抱きしめ方は、他所ではせんほーがええよぉ?」
「ええ? そんなん、するわけないやん!」
「そう? ほな、良かった」
「せーへん!せーへん! こんなん他所でやってたら、変態やん!」
「自覚はあんるんや・・・」
「ん? なんて?」
「うぅん! なんもない! なんもないよ!」
「そう? んじゃ、これから私の部屋で、にゃんにゃんする?」
「しません!!」
「あ~~~ん!」
「・・・・・・」
にゃんにゃんって、何だ?
また、意味不明なワードが出てきたぞ?
これも、金髪碧眼美少女専門用語か?
後で、ネットでグルグルってみたのだが、「にゃんにゃん」とは、「性行為を表す隠語」らしく、猫の「グルーミング」と言って心を落ち着かせたりする時に、猫がお互いの身体をなめ『ピー!』事を言うらしい。
なんじゃそれ?! めちゃヤバくない?
あ、いや、大好きな虹音姉ちゃんとなら・・・って、いか━━━ん!!
頭から削除ー!! 健全な女子JCには不適切極まりない用語ですますだすどす!!
しかし、このままで居たら、虹音姉ちゃんに、市中引き回しの刑にされちゃう!
夏休み終盤、なんとしても、自分の思い通りに遊ぶんじゃ!
・・・って、予定だったのに、結局は虹音姉ちゃんが新しく開発したと言う、一瞬で、岡っ引きが下手人を捕らえた時に縛るような括り方で拘束する、その名も「御用だ!」で縛られてしまった。
御用だって、なんじゃそりゃ?! 俺は下手人か!
「な、なにこれ?! ん゛ん゛~~~ 解けない~~~」
「はぁい! 大人しくしなさい!」
「ふぇ~ん! 何も悪いことしてへんのにぃ~」
「でもまた逃げるやろ?」
「そりゃ、逃げますよ! また水着ですかー?!」
「うぅん! 今日は、魔法少女のドレス!」
「げっ!!」
この間は、水着の着せ替え人形させられて、しこたま写真に撮られて、アルバムみたいに永久保存版にされて、今日は「魔法少女」てか?!
ふぇ~~~ん! 勘弁してくれぇ~~~
こうして、虹音の、「セーラちゃんコレクション」がまた増えるのだった・・・
そして、やっと虹音に解放されて、晴蘭は自宅へ帰った。
門を抜けて、自宅の玄関の戸を開けようと思ったその時、後ろから母親に声をかけられた。
キキー!
「おーい!」
「ん?」
母親が、買い物から帰って来た。メイプル・バックファイヤー2号機(自転車)から降りて、押しながら歩いて来る。
「晴蘭ー!」
「ん? おかん! 買い物か?」
「うん もう、お父さん帰って来てるから」
「へえ そうなんや」
「あ、そうそう! あのね、お父さんの好きな゛ししゃも゛買うの忘れてしもたんよ」
「はは 相変わらずやな」
ははは。母親は、買い物に行くと、必ずと言って良いほど何か一つ買い忘れてくるのだ。今日は、旦那が帰って来てるというのに、旦那の好物を忘れるとは、愛が足りねんじゃね? なんて思ってた。
「もっかい買いに行って来るから、コレ家ん中に入れといてくれる?」
「ああ うん ええよ」
母親は、買い物袋を俺に渡す。そして、買い忘れた「ししゃも」を買いに、またスーパーへ向かう。
「はぁ・・・もう・・・ししゃも無いだけで機嫌悪くなるんやから、ホンマに面倒な人々じょ」
「ははは まあ、ししゃもくらいええやん? 久しぶり帰って来たんやから、好きなもんくらい食べさせちゃってよ」
「なんて?!」
「えっ?!」ビクッ!
「久しぶりって、お義母さんが亡くなった時にちょっと帰って来ただけで、他は何年も帰って来ぃへんかったんやでぇ?!」
「お・・・おう・・・」
えっ?! なんだ? 何で怒った? 俺、何かしでかしたか? 思わず、ポカーンとしてしまった。
「なっにっがっ 久しぶりよ?!」
「ひえっ?! あ、いやいや、言い方悪かった! えっと、まあ仕事なんやし、なかなか帰れんのも、仕方ないわなぁ?」
「晴蘭まで、そんな事言うん?!」
「ええー?! 何で怒ってんの? 俺、何かやらかした?」
「もう、ええわっ! どうせ、直登さんは、仕事にしか興味無いわよ!! 私がどんなにどんなに・・・あーもー! お父さんに、ししゃも食べさせてあげたいんやったら、晴蘭が買って来てあげたらええやん!!」
「ええ━━ー?! ちょっと、待ってよ!」
「はい! ししゃも代!」
「へっ? って、たった200円?! 今日日200円で、ししゃも買えるかいな! ちょっとー!」
「知らん! 足らんかったら、晴蘭が出してあげたらええやろ!!」
「んなっ?!」
ガラララララ ピシャン!
「!!・・・何なんじゃよぉ? って、メイプル2号機(自転車)わ?!」
何か分からん内に、俺が買い物に行かされる羽目に。母親は、俺から買い物袋を奪い取るように取り上げると、ポケットの中から200円を取り出し俺に渡し、サッサと家の中へ入ってしまった!
あぁあ・・・帰ったら早速ゲーム三昧やと思ってたのに! しかも母親は、メイプル・バックファイヤー2号機の鍵を持って家の中に入ってしまった。
この流れだと、歩いて行けと言う事か? メイプル・バックファイヤー2号機を貸して欲しいなんて言える雰囲気ではなさそうだ。仕方ないので、歩いて買い物へ出掛ける事にした。
あーもー! これもみんな、おとん(お父さん)が悪いんや!! まったく、なんて日だ!
そして、買い物から帰り・・・
「ただいまぁ~」
「おおー! お帰り晴蘭」
「?!」
すると、奴がいた。白鳥 直登、俺の父親だ。今までイギリスに単身赴任していたが、ようやくやり切ったとかで、日本へ帰って来たのだった。
ふん! 1日遅れか? 昨日帰って来ると言っていたのに、帰って来なかったもんだから、おかん(お母さん)は機嫌が悪くて俺はトバッチリを食らったんだそ!
今日は1日ゲーム三昧だと思っていたのに、ちょっと父親の肩を持ったせいで、何でこんな事になるかな? あームカつく!!
「ん? ああ、おとん(お父さん)? お帰り」
「ちょっ! 何んなその、興味無さげな生返事わ!」
「んー? それより、もうイギリスには行かんでもええんか?」
「おう! もう完全に片付けて来たからな!」
「・・・そうか ほな、また呼ばれたら行くんやろ?」
「うん?!・・・それは、まあ・・・」
「ふん なるほどな おかんの言う通りやな」
「ちょちょちょっ! 何じゃその意味深な言い方わ? 楓が何か言うてたんか? どな? こっそり教えてくれへんか?」
「そんなもん、直に聞いたらええやいしょよ」
こう言う奴なんだ。なんちゅーか、父親の威厳っちゅーもんを、たまには見せてみぃーっちゅーねん!
「そんなん言うなよぉ~? なっ? 男同士の友情ってことで、ここは1つ・・・」
「男同士?」
「おうよ!」
おおっ?! やっばり父親は、俺の事をちゃんと男として見てくれてるんだな! うんうんうん! 良い奴じゃないか? よしよし! ここは男同士、アンタの肩を持ってやろーじゃないの!
「あんな?」
「うんうん」
俺は、チョイチョイと手招きする。すると父親は、しゃがんで俺の口へ耳を寄せる。
「おとんは、おかん(お母さん)の事好きか?」
「え? そ、それは、あ、当たり前やないか?」
「ほほーん!?」
「ちょっ、あ前、からかうなよ!」
「はいはい! ほな、その気持ちをちゃんと伝えちゃらなあかんやろ?」
「伝えるて、そんなんわもう、俺らは言わんでも通じてんのやから、別にかまへんのじゃよ」
ほぉーら! やっぱりだ! コイツは、愛さえあれば言葉なんて要らないーなんて言いたいんだな? それは、あきまへんで旦那? 女っちゅーもんはな、言葉だけだと、態度で示せと言うし、態度だけだと、言葉で示せっーちゅう生き物なのだよ。俺には解るんだ。なぜなら、俺は半分女だからな!
「ほぉら! おとんの、そーゆーところがアカンのやぃてよ!」
「え? そーゆーところって、何なんよ?」
「せやからな? その、好きっちゅー気持ちをやな、ハッキリ言葉にして伝えちゃれってゆーてんのよ!」
「ええ━━・・・」
「女っちゅーもんはな? いくら態度で解っててもやな、ちゃんと言葉で伝えてもらわんと不安になる生き物んじゃよ」
「んぐぐっ・・・そ、そんなもんか?」
「おうよ! おとんは何時も、コレっぽっちも、好き言わへんから、おかんも怒るんやで? わかってる?」
「んんん・・・そーゆーもんか?」
「おうよ! 俺は半分女やから解るんや!」
「うん? んん・・・確かにな」
「やろ? ここはな、俺に騙されたー思て、一言でもええから、゛好き゛ってゆーてみな? ぜっぜん違うぞ?」
「そ、そうか?」
「うんうん!」
こうして俺と父親とで、「楓に愛を伝えるぜ」作戦会議を開くのだ。
と、その時、海音と虹音が、家にやって来た。2人して家に来るとは珍しい。
ガラララララ!
「セーラちゃぁ~~~ん!」
「んお?! 虹音姉ちゃん? なんで?」
「ああ、隣の娘か?」
「うん 今日午前中に家に行って来たばっかりなんやけどな」
「ほお?」
「晴蘭ー! おるかー!」
「海音?!」
「うん?」
晴蘭は、驚いた。ショックで寝込んでいたのに、もしかして立ち直ったか? 声からして、もう落ち込んではなさげだった。少し、ホッとした。
「海音か、どーしたー? 虹音姉ちゃんもー!」
「上がってえーかー?」
「おう! 入って来なーよ!」
「おー!」
「はぁーい!」
ガラララララ ピシャン!
どうやら、2人とも入って来たようだ。
「海音の奴、もう立ち直ったんやな?」
「立ち直ったって?」
腰を曲げ、晴蘭の顔を覗き込むように聞く父親の直登。
「おお、俺と海音な? 昨日、アレがきてな」
「アレって?」
「女の子の日よ」
「女の・・・・え?」
父親は、みるみる顔が赤くなっていった。何で、アンタが恥ずかしがるんじゃ?
「よお!」
いつもの笑顔の海音。
「よお! もう、だいじょぶか?」
「おお! まあな! 来たもんはしゃーない! 俺もそろそろ女のとして、自覚を持たんとな!」
「ふっ・・・女のとしての自覚か 女の子の浴衣を着たからって、女の子として自覚してるとは言えんぞ?」
「なんなよ?」
「いや?」
そう言う海音を見て思わず笑ってしまった。確かに見てくれは女の子らしい。ピンク色の生地に花火の柄の可愛らしい浴衣を着た海音は、お世辞抜きで本当に女の子らしくて可愛かった。
だが、「女として自覚」とは言うわりには、言葉遣いは男のまんまだ。まあ、俺もそうだけどな。
でも、明日から学校となると、俺と海音は「転校生」って設定だったはず。なら、言葉遣いも女の子じゃなきゃ不自然だな。でも、正直出来そうにもない。身体は女の子になっても、心は男のまんまなんだから。
とはいえ、俺は「転校生の女の子」なんだから、女の子言葉を使ったとしても何も変ではないはず。変ではないのだ。だが、できない・・・
「お前もいい加減に、女として自覚せんとあかんぞ? もう明日からガッコなんやからな!」
「お、おう・・・」
学校か・・・・・・
そう。もう明日から学校が始まる。いきなり現実に戻された気分だ。そう言えば、俺は女の子に変身してからと言うもの、夏休みらしい雰囲気をひとつも感じられなかった。実に勿体ない。
今年の夏休みは、海やプールには一度も行かなかったし(行く機会はあった)、BBQもしなかったし(スポンサー兼アッシーの父親が居なかった)、夏祭りや花火大会にも行けなかったし(それどころじゃなかった)、まったくもって最悪な夏休みだった・・・
しかし、海音と虹音は、夏休み最後の日の午後のこの貴重な時間に、いったい何の用なのか? ふと見ると、虹音がまた何か持って来ていた。嫌な予感しかしない。
「ほら! セーラちゃんの浴衣も持って来たで!」
紙袋を手に満面の笑顔の虹音。
「えええ━━?! もう勘弁してくださいよぉー!」
「おおーええやん! 晴蘭、着てみたらどうよ?」
「おとん! 無責任な事言わんといてくれ! それ着て恥かくんわ俺やぞ!!」
「恥かくって・・・」
「ひどい!」
今にも泣きだしそうな虹音。
「えっ?!・・・」
あちゃ! しくったぁ! これ、虹音姉ちゃんが作った浴衣やったか!! 待ってくれ! 恥をかくって言うのは、その浴衣がみっともないとか、そんな意味ではないのだ!!
「あああー! ちゃうちゃう! 虹音姉ちゃんの浴衣が変なで恥かくって事とちゃうんやで? あの・・・」
「ほな、着ちゃれよ?」
「海音、お前ねぇ~人事や思て・・・」
「俺も、姉ちゃんが作った浴衣着てるやないか?」
「!!・・・そうか そーじょな」
「着てくれる? 私も着るから」
ズッキュ━━ーン!(クリティカル!)
「ひでぶっ!!」
あざとく上目遣いで晴蘭を見つめる虹音。晴蘭は、そんな虹音に弱いのだった。しかも、虹音の浴衣姿が見れるオマケ付きだ!
「はぁい! 着ます! 是非着たいです! 今すぐ着ます! 明日も着ます! 一生着ます!」
「あははっ! 一生は無理やわ でも、ありがとう!」
「うぅん!」
「はぁ・・・」
上目遣いの虹音に弱い晴蘭。
虹音の浴衣姿が見れるのなら、本気で死んでも良いとさえ思ってる。浴衣の胸元からチラ見できるかも知れない虹音の大きな胸を想像して、鼻血ブ━━寸前だったが、何とか堪えた。
横で呆れる海音。
何が何だか理解できない直登。
取り敢えず、浴衣に着替えた晴蘭。
水色の生地に、黄色や赤の花火の柄の可愛らしい浴衣だ。
虹音の着る浴衣は、赤い生地に、色々な色の花火の柄の浴衣で、そんな虹音はとても綺麗だった。
結局、この後は撮影会となってしまった。
そして、俺達の、いや、俺と海音の撮影会は終わり、俺と父親は、父親から母親への「好きだよ言っちゃうよ計画」を進めるべく、ここで離脱を願い出たが・・・
「セーラちゃん、花火しよう!」
「花火ぃ? でも・・・」
「・・・」
俺と父親は、計画の遂行が怪しくなってきたのでちと焦っていた。すると・・・
「聞いたでぇ~オッチャン!」
手を後ろで組んで、直登の顔を覗き込む虹音。
「へっ?! な、何を?」
「うん?」
はて? 何の事だ? と、頭ん中が「?」の俺と父親。
実は、虹音と海音の母親は、俺の母親と以前から父親について相談していたとのこと。
魔導具開発に熱を入れるのは良いが、余りにも家族を顧みない態度が酷すぎるんだと。いくら魔法使いは長寿だからと言っても、下手すると10年近く1度も帰らない。結婚して大晴が生まれるまでの20年間では、たったの3回しか帰らなかったとか。
なので、もう海外単身赴任はもうしないのであれば、家族を大事にするのと、楓を愛しているなら、ちゃんと言葉で伝えてやってほしいと言われた。
そこで! 今日は皆で花火をしようとなったので、せっかくだから、直登と楓には良き雰囲気になってもらい、そこで「好きだよ」言っちゃえ!と、直登にお膳立てするときたもんだ!
なるほど! 俺と父親の計画にまさに打って付けだ!!
「それ、ええーやん!」
「やろー?」
「おいおい! ちょっと待ってくれ! そんな勝手な事してくれんな! 俺は・・・」
「おとん! せっかくのお膳立てや! ここで逃げたら、おとん、オトコちゃうで!」
「うぐっ・・・」
「そーやで、オッチャン!」
「うんうん! オッチャンの男気見せてくれ!!」
「んぐぐぐぐ・・・うううう~~~わかったぁ!」
「「「やったぁ━━!!」」」
そろそろ夏の終わりを感じさせる、少し涼しくなった夜のこと。
こうして俺達、浴衣魔女っ娘ギャルズは、直登と楓の「愛のキューピット」となった。
そして、2人は夜の街に消えてった・・・
その後、直登と楓は、とても良い雰囲気になりました。
晴蘭が眠りにつく頃には、2人は夜の街へ消えました。
もう、ここまで書けば解りますよね?
近い未来、晴蘭には・・・うふふ♡