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女装剤  作者: 嬉々ゆう
85/91

第84話 「ひとみちゃん⑮『可愛い』」

ひとみちゃん、可愛いけど、自覚なし。


文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。



 ・⋯━☞土曜午前9時過ぎ☜━⋯・


 ••✼••アパート仁美の部屋••✼••



「で?・・・どうすんの?」


「え? どうすんのって・・・」



 仁美は、女の子に変身してしまったリョウに今後についてそう聞くが、リョウ本人は勢いで女装役剤を飲んでしまったが、その後の事は何も考えていなかった。

 ただ、大好きになった仁美が男嫌いと言うのなら、『女になれば良いのでは?』と単純な発想だったリョウなのだが、いざ女の子になった今は、どうすれば良いのか何も考えていなかったのでテンパってしまって困ってしまう。


 仁美は、サワサがリョウに女装役剤を飲ませたのが理解できない。

 その場のノリだとしたなら、とんでもない事だ。

 なにせサワサは魔族である。

 人の事情や常識などには、何一つ考えてくれてはいなさそうだったので、そんな無責任なサワサに頭に来て仕方がない。



「あ、それより!! ちょっと! サワサさん!!

 なんでリョウに女装役剤を飲ませたんですか!?」


「え? え? だって、女になりたいみたいな事を話していたので・・・(汗)」


「それだけっ?!」


「はい!」


「はいって、あのねぇ・・・どぉ~すんのよこの子ぉ!

 しかも100yearって言うたら、もう完全に男には戻れやんやん!」


「そうですね!」


「そうですね~~~と、ちゃうってえ!!」



 サワサが持ち出した『女装役剤100year』を飲んでしまったリョウは、どこから見ても完全に女の子に変身していた。

 今時の若者に流行っているのかどうかは知らないが、後ろから両サイドを刈り上げた、いわゆる『坊ちゃん刈り』だった髪は少し伸びてショートボブになり、胸はまあそこそこ、日本人女性っぽい小さなお尻に。

 ちょっと太めの眉が田舎娘っぽくて、なんだか可愛い。

 って、いやいやいや!

 見た目の感想なんて要らないし!

 

 1人焦ってる仁美を他所に、和美達もリョウも妙に落ち着いている。

 皆んな仁美とリョウを残して、朝の食事の用意をテキパキとし始める。

 特にリョウよ! 今のこの状況を理解しているのか?

 それより、何から話せば良いやら分からない。

 さて、どうしたものかと思案していたら・・・



 シュパァン!


「わあっ!! リオリオさん?!」


「わっ!! だ、誰?!」



 突然、仁美とリョウの前に現れたリオリオ!


 もう、仁美の身辺で女装剤や女装役剤による男性の女性化が起きると、必ずと言っていいほどの登場っぷりだ。

 だがここはやはり、リオリオに頼る他は無い。



「え? ホンマや! リオリオさん!」


「リオリオさん お久しぶりです!」


「おう!」


「やっぱり来ましたね! リオリオさん」


「はっはっは! そりゃあな!」



 朝の支度をしていた和美達も、リオリオの側へ寄ってくる。

 ただ1人、突然現れたリオリオを知らないリョウだけが、リオリオの醸し出す異質な雰囲気にオロオロと慌てふためく。

 リオリオについて何も知らないリョウにとっても、リオリオはとんでもなくヤバい人だという事はなんとなく理解できていた。

 リオリオは、そんなリョウに向かって1度コクリと頷くと、また仁美に向かっていつもの呼び方で、まるで仁美が悪いみたいに少々呆れた様子で話しかける。



「わっ⋯わっ⋯わっ⋯なになになに?!」


「よお! バカ娘!

 また1人巻き込みおって懲りん奴じゃな!」


「へっ? はあ?! いやいや! 待ってくださいよ!

 巻き込んだんわ俺とちゃいますし!!」


「「「「・・・・・・(汗)」」」」


「・・・???」



 リオリオにそう言われて、ふと和美達に仁美が視線を向けると、和美とホノカは気まづそうな顔をしていたが、サワサとマコは悪ぶれた様子もなくキョトンとしていた。



「「ははは・・・(汗)」」


「「・・・???」」


「まあ、なってしまったもんは、仕方あるまい?

 このアパートには、まだ部屋が残っているんじゃろ?」


「あ~~~確かに」


「なら、そこをこの()の部屋にしてやれ!

 後は私が、何時ものようになんとかすらから」


「・・・はい(汗)」


「・・・?」



 リオリオは、もう既に粗方リョウの事情を把握していたようだ。

 一体、何処から見ていたんだ?

 と、時々リオリオが怖くなる仁美。


 リオリオは、何時ものように、女になってしまったリョウに対して、先ずは『魔法使いになる気はあるのか?』の質問から入った。

 リョウは、もちろん二つ返事で了承!

 やはり、1番大きい理由は、大好きな仁美と一緒に居られる事が多いこと。

 単純に、魔法に憧れていること。

 そして、高校卒業後の進路について、まったく何もする気が無かったことだそうだ。

 あと、リョウには2つ歳の離れた兄が居るそうだが、親は兄にばかり構っていて、弟のリョウにはあまり関心がなさげだとか。

 なので、一応は大学への進学も考えてはいたが、特に父親からは、『大学へ行きたきゃバトでもして、なんちゃらかんちゃら・・・』と、まるで他所の子扱いで自分でなんとかしろと言いたげだったので嫌気が差したそうだ。

 まあ、リョウ本人も父親を親だとは思ってもいないが。

 なにせ両親は再婚だそうで、弟のリョウは後妻の連れ子なのだとか。

 義父はとある会社経営者。そして義兄は義父の会社を継ぐ予定。

 義父は、ただ世間体で再婚しただけにすぎない。

 なので後妻の連れ子のリョウは、母親にこそ構っては貰ってはいるが、義父からは完全に空気扱いとか。

 だから、高校卒業と同時に家を出る事ばかり考えていたらしい。

 今は、仁美がよく通うコンビニでバイトをしていて、そろそろ一人暮らしのために安物件を探していたところに、仁美と同じアパートに住めるってんで、正直なところ仁美と出会って、何もかもが願ったり叶ったりだった。

 てな訳で、1階の3号室はリョウが住むからと、なっちん!


 ※『なっちん』とは、和歌山の方言で、『取った!』とか、『唾付けた!』などの意味。


 そしてリョウは、この日の夜から早速リオリオと一緒に異世界ムトランティアへ!

 次の週の金曜日の夕方には、立派な魔法使いとして帰って来たそうな。

 


 ・⋯━☞次の週の金曜夜☜━⋯・


 ••✼••アパート・リョウの部屋••✼••



 ムトランティアをログアウトしたリョウが、目を覚ます。




 フッ・・・


「!・・・ううん・・・ふう~~~」


「どうじゃ? もう魔法使いとして自信が付いたかえ?」


「はい! ありがとうございますリオリオ様!」


「あっはっはっ! 様は付けんでええ!」


「それより、何か家具が増えてますよね?」


「そうじゃな! マコとサワサに頼んでおいたんじゃが、どうやら既に何時でも住めるようには整ってるようじゃな」


「へえ~~~すごい なんか、自分の部屋と違うみたい」


「ふふん まあ、私の役目はこれくらいじゃな

 後は、仁美にでも頼れ! うまく構ってくれるじゃろ」


「はい! ありがとうございました!」


「うむ!・・・ではな!」


「はい!」


 シュパァン!



 こうして、リオリオは去っていった。


 リョウは、数日間はリオリオと共に、戸籍の書き換えや、女性としての必要な物資の調達などで走り回り、残りの3日間は全てムトランティアで費やした。

 日本では学校を休んで連続的に3日間の72時間しか経っていなかったが、ムトランティアでは連続的に72日間過ごしたので、日本に戻ったのは、とても久しぶりに感じた。


 リョウは、自分の部屋の中を見て回った。

 照明は全てLED、テレビは薄型の48型魔導テレビ、最新型を模した魔導PC、四畳半用の魔導エアコン、130Lサイズの魔導冷蔵庫、魔導電子レンジ、魔導IHクッキングヒーター、魔導シャワー付きトイレ。

 魔導バスや魔導キッチンでは、お湯が何時でも出る魔導湯沸かし器が玄関先に設置されている。

 どこもかしくも、魔導・魔導・魔導・・・。

 それらの快適装置は皆魔導具化され、魔導湯沸かし器に内蔵された魔導発電機によって電気代要らずで、財布の紐を緩める必要なし。

 この部屋に住むにあたってお金が必要なのは、固定電話は無いが、ネットと地上波&CS放送の光ケーブル代くらいか。

 アパートの敷地内には、白野菜の畑と、小さいが甘い木の果樹園がある。

 錬金術で料理も調味料も食器なども作れる。

 全て、リオリオが設置開拓してくれた。(勝手に)

 なので食事にも、お金はほどんど必要なし。

 よって、リョウが支払うのは、部屋代(家賃)とネット代とテレビ代と税金くらいなもの。

 月に10万稼げたならば、一人暮らしなら十分にやっていける。


 移動手段も、解決済み。

 リョウには、去年の夏休み中に取得した原付免許がある。

 お金を貯めてバイクを購入しようと考えていたらしいが、リオリオが何処から持って来たのかスクラップ同然のボロスクーターを元に、魔晶石と白野菜で改造して作った『魔導バイク』を貰ったとか。

 どこから見ても、普通のガソリンエンジンのバイクにしか見えない。

 しかもとっても機能的!

 AR表示できるマップには、ナビゲーションシステムも完壁!

 危険察知機能もあり、自動回避に自動ブレーキも当たり前!

 なのに、動力は魔晶石の魔力で動く魔導エンジン。

 普通のエンジンにそっくりな効果音付き♪

 なのでガス欠の心配なしの、オイル交換の心配なし。

 減るのはタイヤくらいである。

 でも、そのタイヤも白野菜を使用して修復すれば問題なし。

 連続で8時間も走れるとか? すんげぇ!

 たとえ動力源の魔晶石の魔力が枯渇しても、4~5時間ほど放置すれば魔力満タン!


 と、誰もが羨む至れり尽くせりな生活環境だ。

 リオリオからのアフターケアも、至れり尽くせり!

 リョウは殊更(ことさら)素直な性格だからか、リオリオのお気に入りのようだ。


 なにそれ、反則?! ズルい!!

 そう、仁美達がリオリオに文句を言いたくなるのは当然だろう。

 だが、散々リオリオの世話になっうえに迷惑もかけた仁美と和美なので、何も言えないのだった。


 リョウは、まだ高校卒業をしていないが、もうこの日からアパートに住む予定。

 気にかけてくれる母親には悪いが、早くあの家から出たがっていたので、ちょうど良かったそうな。

 幸い義兄は、母親には優しいらしいので、最悪の事態は避けられそうなのは唯一の救いだ。


 ただ1つ問題があるとすれば、まだ18歳と若いリョウが魔法使いになったので、肉体年齢が12~13歳くらいに。

 バイクに乗っていたら、お巡りさんに止められないかと、心配しているらしい。

 仁美にすれば、取るに足らない心配である。

 仁美なんて、見た目JCになったり、JKになったり、大人の女性になったりと、その度に人目が気になり気が気でない日々である。


 とりあえず落ち着いたリョウは、仁美の部屋に行ってみる。

 


「ふう・・・仁美さんの部屋に行ってみよっかな」



 トンテントンテントンテン・・・


 アパートの外階段を登り、仁美の部屋の前に立つ。

 すると、ドア越しに何人かの女性達の声が聞こえてくる。

 とても賑やかで楽しげな声だ。



「あれ? 仁美さんとこ、チャイム付いてないんやな・・・」



 そうなのだ。

 リョウの部屋にはチャイムが付いているが、他の部屋にはチャイムなどの気の利いた代物は付いていない。

 なぜ付けないのか?

 それは、少しでもバージョンアップ(?)してしまうと、家賃が上がってしまうと思っているから。

 なぜなら、仁美、和美、マコは、1ヶ月の家賃は15,000円。

 でも、アパートを綺麗に改装してから後に入居したホノカ、サワサは、1ヶ月の家賃は18,000円。

 しかし、リョウの部屋の1ヶ月の家賃は20,000円だった。

 そりゃあ、仁美達よりも快適な魔法尽くめの部屋なのだから、家賃が高く設定されていてもおかしくはない。

 なので、仁美達は今以上家賃が上がらないようにと、あまり快適装置などの追加はしないようにしていたのだった。

 そんな事など知らないリョウ。

 とにかく、仁美の部屋のドアをノックする。



「・・・ま、いっか」


 コンコンコン!


《はあ━━━い!》


「・・・」



 ノックをすると、仁美の返事をする声がする。

 日本では、リョウが女の子に変身してから、ほんの1週間ほどしか経っていなかったが、実際は異世界ムトランティアへ3ヶ月近くも行っていたので、仁美に会うのは久しぶりとなる。



 カチャ!・・・


「・・・誰?」


「仁美さん!」


「おう?・・・・・・・・・お前、リョウか?!」


「はあい!」


「おおおお━━━っ! ムトランティアから戻って来たんやな?」


「はあい! 今しがた戻って来たところです」


「そうかそうか! ちょうど、朝飯出来たところなんじゃよ

 まだ食べてないんやったら、これから一緒に食べるか?」


「いいんですか?」


「おおうっ! ええぞぉ? 入れ! 入れ!」


「はい・・・」


 パタン!



 仁美は、リョウを部屋に招き入れた。

 すると、仁美の部屋の狭い空間に、真ん中にちゃぶ台と少し大きめの四角いテーブルが並べて置かれ、その上に所狭しと、5人分の朝食が並べられていた。

 

「・・・狭い」


 それは、リョウが感じた率直な感想だった。

 だが、そんな狭い部屋の中に、5人も集まって楽しげに、ちょっと遅い朝食をとろうとしている。

 しかも、ここに居る全員が大の大人の筈だが、みんな見た目は小学生~高校生くらいの少女。

 正直、異様だった。

 ここは本当に独身女性用アパートなのだろうか?

 一見すると、まるで少女達の秘密基地である。



「ほら! ここに座んな!」


「・・・ありがとうございます」



 皆んながリョウのために、少しずつ横にズレて、リョウが入れるスペースを開けてくれる。

 リョウも、その中に入れてもらった。

 和美が、さも当たり前かのように、リョウの分の朝食を用意してくれた。

 そして・・・



「では、いただきま~~~っす!」


「「「「いただきま━━━っす!」」」」


「いただきます・・・」



 最初に仁美の『いただきます』の食事の挨拶を合図に、皆んなも一斉に食事の挨拶をする。

 リョウも一拍置いて、食事の挨拶をする。

 大好きな仁美が、向かい合わせに座っている。

 リョウと目が合うと、仁美はニコッと笑ってくれる。



『仁美さん! かっ・・・かわいい・・・好き好き大好き♡』



 恥ずかしくて、照れ臭くて、思わず下を向いた。

 それに、めちゃくちゃ緊張して、味がまったく分からなかった。

 食べ終わって食器を片付けられると、何を食べたかさえ思い出せない。

 いや、どんな食事だったのか、何を見て食べたのかなんて、仁美の顔を見るだけで幸せで、食べ物なんて認識していなかった。

 それくらいリョウの頭の中は、『仁美・仁美・仁美』だった。


 気が付くと、いつの間にか自分の歓迎会をしようという話しになっていた。

 流石に、アパートでは狭くてできないので、どこかへ出掛ける話しになっていた。

 結局、リョウの歓迎会なのに、仁美が外食したいとごねるので、和美も折れてしまい、『餃子の金将』へ食べに行こうという事になり、夕方に出掛けようという話しに決まった。

 だがリョウは、なぜか心ここに在らずで、呆けていた。

 仁美に名を呼ばれていたのに、気付かないほどに。

 


「ょう・・・リョウ?・・・リョウ!」


「はっ! えっ? は、はい?!」


「リョウは、どっか行きたい所はあんの?

 俺は、『餃子の金将』がええなと思うんやけど」


「それは、仁美だけやろ!」


「今さっき、皆んなええって言うたやんかあ!」


「しゃあないなあ~~~もお~~~(汗)」


「へっへっへっ♪」



 なんだかんだ言っても、仁美には甘い仲間達である。

 それほどに、仁美は仲間達から愛されている。

 仁美と、そしてそんな仲間達と居られる事が、リョウにとっては心地よくて嬉しくて心やすらぎ癒されるのだった。

 だがら、自分の歓迎会だと言われても、特に望みなどはなかった。

 リョウにとって、仁美が良ければ、それで良し!だった。



「え? えっと・・・」


「リョウ君の歓迎会だよ?

 あ、今は、リョウちゃん、だったね?」


「!・・・えええええと・・・ リョウ君でいいです(汗)

 やっぱり、仁美さんの言うように、『餃子の金将』でいいです」


「そっか・・・ごめんね?」


「いえ・・・」


「中華は美味い! 中華は安くて腹いっぱい食えるから正義!」


「仁美さん、煩いです ソレもう聞き飽きました!」


「なんなよぉ~~~ほほほぉ~~~ん

 なんか和美ってば、エラい辛辣やぞお~~(泣)」


「はいはい! 分かりましたよ」


「うぅむ・・・和美、最近あんまり構ってくれへん」


「構うって、子供ですか!!」


「っふう~~~ん・・・(泣)」


「仁美さん、いい加減にしてください!

 いいですか? 今日は、リョウ君の歓迎会をするんですよ!

 なのに、どうして仁美さんが~~~なんたらかんたら・・・」


「~~~(泣)」



 また、和美に叱られる仁美だった。

 仁美が和美にしこたま叱られたあと、皆んなでサワサが作った女の子の服を着ると言う話しになった。



「じゃあ、先ずはこの服に着替えましょう!」


「えっ?! もう作っちゃったんですか?!」


「え? それって、リョウの女の子の服?」


「はあい♪」


「「「「はやっ!!」」」」


「も、もう作ってもたん?! いつの間に???」


「はあい♪」


「はあいって、めっさ早いなおい!!

 サイズとか、いつの間に測ったん?!」


「そんなの見れば直ぐに判ります!」


「すっごっ!!」


「流石はサワサさん!」


「ほらほら、リョウちゃん! 早くこれに着替えて!」


「えっ?・・・えっ?・・・」


「仁美さんと同じ薄ピンクの耳付きモコモコパーカーに、ピンク色のプリーツスカートです!」


「「「「可愛い~~~♡」」」」


「ええ~~~また俺もコレ着んのぉ~~~?」


「あっ・・・えっ?・・・(汗)」



 リョウは、あれよあれよという間にジャージを脱がされ、サワサの作った女の子の服に着替えさせられていた。

 ガラパンのまんまは、武士の情け。。。

 リョウは半思考停止状態なまんま、あっという間に可愛らしい女の子に!

 だがスカートなんて生まれて初めて穿いたリョウは、足元が頼りなくて心許なくて、オマケに寒い・・・



「ああ・・・あの・・・足が、スゥスゥするんですけど(汗)」


「「「「女の子は我慢!!」」」」


「ええ~~~! 仁美さんはスカートは穿かないんですか?」


「俺は今日はスカートなんか穿かんくってもええの!」


「なんで?」


「だって、俺は主役とちゃうから!」


「はあい?」



 などと言っていると、和美が仁美に説教をする。



「仁美さあん!! またそんな事を言ってる!」


「ぴゃあ!!・・・か、和美・・・さん(汗)」


「・・・ポカーン」



 リョウは、仁美と和美のやりとりを見て、ポカーンとしていた。

 自己紹介してもらった限りでは、仁美は和美の先輩になるはずにに、仁美が和美に叱られている?

 リョウは、その後も2人のやり取りを見ていた。



「仁美さんも、女の子なんですってばあ!

 先輩女子として、リョウちゃんの良き見本とならなければならないでしょ!」


「いやいや! でも今回はリョウの歓迎会なんやから、先輩後輩って関係ないやろ・・・」


「それでもですうっ!!

 普段から女の子として自覚できるように、ちゃんと女の子として振舞ってください!

 服装だって、女の子としての身嗜みです! 重要ですよ!

 それが仁美さんの為にもなるんですから!」


「そんな事は・・・重要やなんて・・・(汗)

 それに、なんで俺の為になんか・・・」


「なるんですう! 今日もすっごく心配したんですよ!

 普段から女の子として振る舞わないから、怖い目に遭うんですよ!

 もう、大男だった頃の事は忘れてください!

 魔法使いとは言え、今の仁美さんは一介のか弱き女子なんですよ!!

 女子、危うきに近寄らず、ですう!」


「それ、女子じゃなくて、君子やろ?

 だいたい、『一介』とは、取るに足らないって意味で、

『君子』とは、立派な人って意味やん?

 和美はおそらく『魔法使いと君子』をかけてんのやろけど、

 なんか言ってる意味が難解になってしもて・・・」


「まあた! 屁理屈を言うっ!!」


「うぐぐっ・・・(汗)」


「ほら! つべこべ言ってないで、さっさと用意して!」


「はいはあい! もお~わかったからあ~~~(汗)

 そんな怒らんでもええや~~~ん(泣)」


「まったくもお! ぷんぷん!」


「・・・(笑)」



 確かにそうである。

 今の仁美は、若干言葉遣いや仕草は女子っぽく(子供っぽく?)はなった様に見えるが、仁美の行動自体は、誰の目にも男だった頃の感覚が抜けきれていない様に見える。

 仁美自身も、今でも男の頃の感覚で人と接してしまうので、特に素行の悪い男相手には怖い目に遭う事が多かった。

 自分は女の子なんだと自覚して、自分から危うきに近寄らないようにしなければ・・・と、和美は言いたいのである。

 分かってる。 分かってはいるが、染み付いた心根はそうやすやすと変えられるものではない。

 

 だが、そんな仁美と和美のやりとりを見ていたリョウは、クスッと笑う。

 その光景がなんだか可笑しくて面白くて、思わず笑ってしまったのだ。

 そんな喜劇のようなコミカルな2人のやり取りが妙に新鮮で楽しく感じたのだった。

 居場所の無かっ形ばかりの家族の中では、こんな楽しいやり取りなんて全く無かったから。



「クスッ・・・ふふふ・・・」


「「うん?」」


「どした?」


「ふふ・・・なんか、皆んなでワイワイと・・・

 こんなのって楽しくてええなぁ・・・って思って!」


「「!・・・」」


「楽しい?」


「正気かお前?」


「俺、兄が居ますけど、父親が母親の再婚相手で義理の父親で、兄も義理の兄なんです

 だから、本気で喧嘩腰に話し合う事なんて無かったし、それ以前に相手にもしてくれへんかったかな

 俺も義兄を避けてたのもあるとは思うんやけど・・・」


「「・・・」」


「俺は母親の連れ子やったんで、何時も気を使ってて窮屈で、家族でこんな感じでワイワイ楽しく過ごすって事なんか無かったですから

 なんか、二人を見てると、喧嘩するほど仲がいいっていうか・・・

 こんなのも、なんかええなって・・・」


「「・・・・・・」」


「なんか、なんか見ててすっごく楽しいです」


「そうか・・・」 


「ふふ・・・でも、これからはそんな感覚もすぐに無くなって、毎日が騒がしく鬱陶しくなるかも?

 楽しい事ばかりでは無いと思いますよ?」


「もういやっ! ってなるかも?」


「はは・・・(苦笑)」


「もういやって・・・仁美さんが、聞き分けが悪いからです!」


「聞き分けが悪いって、俺は子供ちゃうぞ!!」


「何時も、子供みたいじゃないですかあ!!」


「ひっどっ!! な! どうよ?

 後輩のくせに、こんなんやで? どう思う?

 俺、和美の先輩なんやけど?」


「先輩だと言うのなら、もっと先輩らしくしてください!」


「ほぉら! また怒る・・・」


「仁美さんが、そうやって子供みたいな事を言うからです!」


「あははっ・・・(笑)」


「たはは・・・(汗) はいはい! どうも、とぅいまてん!

 まっ! 俺は楽しくやってるけどね!」


「そのせいで、皆んなが迷惑してますけどね!」


「ひっどっ!!」


「でも、仁美さんは不思議と聞き分けが悪く子供っぽくても、なぜかイライラしないと言うか、おバカで抜けてるところが可愛らしくて憎めないんですよねえ」


「言い方あっ!!」


「あははははははっ!」


「まあ、こんな感じで毎日騒がしいけど」


「そうなんですか?

 でも、その方がええかも? 楽しそう♪」


「「ふふふ・・・」」



 どうやらリョウは、はやく仁美達と打ち解けそうだ。



 

 ・⋯━☞夕方午前4時過ぎ☜━⋯・


 ••✼••餃子の金将 信時店駐車場••✼••




 マコは仲間が増えた事もあり、車を買い換えた。

 今乗っている車は、PONDAのステータスワゴン。

 色はワインカラーと言うのだろうか。派手だ。

 もちろん中古車である。8人乗りなので楽々だ。


 向かったのは、餃子の金将。

 ここは比較的安くて腹いっぱい中華が食えるってもんで、何か祝い事があればよく来る店だ。




 ••✼••餃子の金将店内座敷••✼••



「わあ~・・・俺、金将初めてですよ!」


「「「「そうなん?!」」」」


「ひぃちゃんも初めて~~~」


「そうやなあ~~~ひぃちゃん、俺と一緒に食べよっか~~~」


「うーん! 仁美ちゃんと食べるう~~~」


「そっかそっか!」


「私がひぃちゃんのママなのに・・・(拗)」


「まあまあ(汗)

 じゃあ、マコさんは仁美の隣に座って!」


「はいはい」


「ふふふ・・・なんかええなあ~~~」


「うん? リョウ君?」


「あ、いえいえ!

 俺、こんな風に家族で外食って、全然無かったから」


「「「「・・・・・・」」」」



 なんだか、ちょっとしんみりしてきたけど、リョウ自身は楽しそうだった。

 歓迎会とは言っても、大した事はできないが、リョウにとっては誰かと遠慮せずに和気あいあいと過ごせるのが新鮮で楽しめたようで、皆んなも来て良かったと思えた。



「ひぃちゃんは、何が食べたいん?」


「ひぃちゃんねえ~~~コレと! コレと! コレと・・・」


「「「「えっ・・・(汗)」」」」


「コレと! コレと! コレと! コレと~~~コレっ!」


「「「「無理無理無理無理無理無理~~~(汗)」」」」


「ええええ~~~ん?」


「ぷっ!・・・(笑)」



 ひぃちゃんは、キッズメニューの欄に並ぶ料理を、端から順番に指差して言う。

 石油王の爆買いか!

 そりゃ確かに、ひぃちゃんは魔族だから実際食べられるかも知れないが、ここでは普通の人の子供を演じてもらわないと・・・(汗)



「じゃあ私は~~~コレと、コレと、コレと、コレと・・・」


「「「「はあ・・・?(汗)」」」」


「コレと、コレと、コレと、コレに~~~コレっ!」


「「「「無理無理無理無理無理無理~~~(汗)」」」」


「「ええええ~~~ん?」」


「ええ~~~ん、じゃない!」


「ひぃちゃんまで・・・(汗)」


「ぶわはっ!・・・あっははははははっ!!(爆)」



 今度はサワサが、ひぃちゃんと同じように、メインのメニューのベージを捲りながら指差して言う。

 皆んなで『無理!』と言ったら、またひぃちゃんまで一緒になって、『ええ~~~』と言う。

 まったく魔族とは、何日も食事をとらなくても平気な反面、食べるときはアホほど食べるのだから・・・(汗)

 サワサによると、魔族とは食べ過ぎても、過食分のカロリーは魔力に変換する事が可能らしい。何それ羨まし!!

 まあ、サワサは億万長者なので金銭面では構わないっちゃ構わないのだが、一応は周囲の人の目を気にして欲しい。

 首にはスカーフを巻いていて、感情が高ぶって首がすっぽ抜けないようにとの意識してもらってはいるが、なんとか堪えて欲しいものだ。

 でも、首が繋がっていないのに、食べた物はどうやって体内に運ばれるのだろうか?

 などと、今はどうでもいい事を心配していた仁美達だった。


 途中、仁美がビールを注文しようとして、また和美に叱られていた。

 少し、シュン太郎になる仁美・・・

 いくら実年齢は28歳とはいえ、流石に見た目JKがビールを人前で飲むのはダメでしょ。

 それでも、仁美達も、そしてリョウも、とても楽しく食事をする事ができた。

 結局、ひぃちゃんは、餃子3人前(18個)、若鶏の唐揚げ、酢豚、天津飯を平らげた! マジか!!



「しかし、よお食べたな~ひぃちゃん!」


「うん 結局は大人用のメニューでしたもんね?」


「こんな小っちゃな身体の、どこにあんなけ入んのよ?」


「「魔族ですから!」」


「「「!!・・・そうですか(汗)」」」


「はあ~~~・・・魔族すごい(汗)」



 マコとサワサは、口を揃えてそう言う。

 仁美と和美とホノカは、ただただ唖然・・・である。

 でも、ひぃちゃんは、お腹がいっぱいになったからか、仁美に抱かれたまんま眠ってしまっていた。

 仁美は、そんなひぃちゃんを起こさないように、そっと抱っこして歩き出す。

 するとマコが・・・



「仁美さん」


「なに?」


「寝ている時くらい、ひぃちゃんを私に抱かせてくださいよ」


「・・・うん」


「うふふ・・・ひぃちゃ~~~ん ふふふ♡」


「・・・」



 仁美は、渋々ひぃちゃんをマコに渡す。

 マコは、本気で嬉しそうに、ひぃちゃんを抱っこして微笑む。

 少し、ひぃちゃんを独り占めし過ぎたかと、マコに申し訳なく思った仁美だった。


 ひぃちゃんは、マコの部屋に帰ると、寝る時は保護ケースの中に入らなければならない。

 なぜなら、ひぃちゃんは普通の魔族ではなく、マコが仁美の遺伝子を使って生み出したホムンクルスだからだ。

 ※(第77話 ひとみちゃん⑧『マコとホムンクルス』を見てね)

 なので、寝ているひぃちゃんを抱く事があまりないマコだった。

 ひぃちゃんは、仁美の血を引いてはいるが、本当の母親となるのはマコである。

 ちょっと、ひぃちゃんを独り占めし過ぎたかな?と思った仁美。

 仁美は仕方なく、ひぃちゃんをマコに任せた。

 すると仁美は、ある物が目に入ったので、その方向を指差して皆んなに聞いてみた。



「ねえ、アッコに行ってみぃへん?」


「「「「え?・・・」」」」



 仁美が指差したのは、『GROUND BOWL』だった。

 仁美には、看板横のボーリングのピンの大きなオブジェが目に入ったのだ。



「ボーリング・・・ですか?」


「おう!」


「でも、ひぃちゃんが・・・」


「あ、そっか・・・」


「いいですよ? 私がひぃちゃんを見てますから

 ひぃちゃんは、寝てしまうと少々の音では起きたりしませんから!」


「「「「へえ~~~」」」」



 流石は、ひぃちゃん!

 将来は大物になるぞ!!



「おおっ! そう? どう、皆んな!」


「俺、ボーリングした事ないです」


「「「マジっ?!」」」



 なんと! リョウは、ボーリングをした事がないそうだ。

 もちろん、どんなゲームかは知ってはいるが、ルールなどはまったく分からないらしい。

 ボーリングさえした事が無いような家庭環境だったのかと、皆んなリョウを哀れみの目で見てしまう。


 それなら一層のこと、ボーリングせなアカンなっ!

 リョウにも、ボーリングを体験してもらわなきゃ!


 と、そう意気込む仁美。


 それに仁美は、ボーリングは好きな方だった。

 決して上手ではなく点数はあまり稼げないが、力任せに玉を投げて、パカーン!とピンが割れるのではないか?と思うほどに豪快に弾けるピンと音が快感なのだ!

 余りの玉のスピートに、勢い余ってピンが前に飛ぶ事もあるとか。

 とはいえ、それは仁美が男の頃の話し・・・

 今の見た目JKのひ弱な仁美に、そんな芸当ができるとは思えない。


 でも今日は、リョウの歓迎会。

 


「なあなあ! 今日はリョウの歓迎会やろ?」


「仁美さんが、ボーリングをしたいたげじゃないんですか?」


「ギクッ・・・(汗)」


「まったく・・・それに今日は皆んなスカートですよ?」


「え? 何か問題あんの?」


「ありますよ! しかも、皆んなロングスカートなんです!」


「それが何か?」(気取って言う仁美)


「何を気取ってるんですか! らしくない!!」


「うっはいわアホぉ!!」


「いいですか? 女性プロボーラーがなぜミニスカートを穿いているか知っていますか?」


「しらーん」


「!・・・(怒) あのですねえ・・・

 中には女性にも男性のようにパンツを・・・と言う話しはよく聞きますが、ミニスカートの方が動きやすく、ボールを投げるフォームで足を思い切り広げられるからなんですう!」


「『ボール』じゃなくて、『玉』って言えへんの?」


「はあ?! ボールでも玉でも、どっちでもいいでしょう?!」


「はいはい! ほほーん でもそれやったら、長いスカートでも足は広げられるで?」

 

「確かにそうですけど、問題は長さなんです!

 僕達のスカートはボーリングでは長すぎるんですう!!

 ボールを投げる時にスカートが邪魔で転んだり、スカートの裾を踏んで転んだり、スカートがボールに絡んで転んだり、スカートが足に絡んで転んだり、スカートを気ししすぎて転んだり、スカートでバランスを崩して転んだり・・・とにかく、ボーリングに長いスカートは危ないですぅ!」


「転んでばっかりやな、おぇい!・・・(汗)」


「とにかくうっ! ボーリングに長いスカートはダメですう!」


「あ”あ”~~~んもお”お”~~~(泣)」


「あーんもーじゃありませんってばあ! んもおー!!」


「ぷぷうっ!!・・・(笑)」



 確かにそうだ。

 もちろん、スカートでボーリングをしてはいけないなんてルールは無いが、あまりお勧めできない。

 和美の言うように、特に仁美達のようなロングスカートでは、ボールや腕がスカートに絡まり、転倒する危険があるのは本当である。



「だから、ね? ボーリングは、また今度にしませんか?

 豪快に転んで恥をかく程度ならまだしも、怪我でもしたら・・・」


「ああんもぉわかったあ! ボーリングはしませぇ~~~ん!」


「あれ? 今日は意外と聞き分けがいいですね?」


「ふう━━━んだっ! 別に今日せーてんでもええし?

 別にボーリングしたかった訳とちゃうし?

 今日はリョウの歓迎会やったから思っただけやし?

 リョウがボーリングした事ないって()ってたからやし?」


「!・・・まったく、子供ですか? 拗ねちゃってもぉ・・・」


「うっさいなあ! 子供ちゃうし! 大人やし! ふん!」


「そんな誰が見ても子供の身体をして、オカメみたいに頬を膨らませて言われてもですねぇ・・・

 リョウ君を出汁にしているようですが、仁美さんの言い分には、ぜんぜん説得力の欠片もないんですよ!」


「誰がオカメじゃ!!」


「ぷぷぅっ! クスクスクス・・・(笑)」 


「ちょっ! リョウもボーリングしたかったら、言いなあよ?」


「いえ、今日は和美さんの言う通りにしましょう?

 俺もこの長いスカートを穿いて、ボーリングをするのはちょっと勇気がいると言うか・・・」


「・・・そうか?

 リョウがそう言うんやったら、しゃーないな?

 はぁ~~~あっ! ざぁ━━━んねん!」


 タッ⋯タッ⋯タッ⋯タッ・・・


「「「「「クスクスクスクス・・・(笑)」」」」」



 そう言って仁美は、手を後ろで組んで、下唇を突き出して、兵隊さんのように大股で歩いていた。

 そんな仁美を見ていた和美達は、拗ねる仁美が本当に可愛らしくて愛おしくて堪らなくなるのだった。

 リョウもまた、そんな仁美が可愛くて愛おしくて、ますます仁美が好きになるのだった。


 だが、せっかく可愛く愛おしい仁美を見ていて、ほわわんな気持ちになっていたのに、ぶち壊す輩が現れた!



「お姉え~~~ちゃん!」


「?!・・・おまっ・・・」


「こんな所でまた会えるやなんて、もう運命やなあ!」


「・・・チッ!」


「「「「!!・・・」」」」



 いかにも遊び人風の若いナンパ野郎に声を掛けられた仁美。

 仁美は思わず、『チッ!』と舌打ちをしてしまう。

 でも、ナンパ野郎には聞こえなかったようだ。

 和美達は、慌てて仁美を助けに行こうと駆け出そうとするが、ホノカが和美達を止める。



「待って!」


「ちょっとホノカさん!? 何のつもりですか!!」


「ええから!」


「なんっ?!・・・なんで?」


「アイツ・・・私を騙した男・・・アキラの仲間の1人やで?」


「「「ええっ?!」」」


「え?・・・なになに?」



 和美とマコとサワサは、驚いた!

 奴、『アキラ』と名乗った奴の仲間がまだ和歌山に居た?!

 だとしたら、奴(自称アキラ)もまだ和歌山に?

 ホノカは正直な気持ち、足がすくむ思いだったが、今もアキラの事を思い出すと(はらわた)が煮えくり返って仕方がない。

 もちろん、もう忘れたいし、できる事なら関わりたくなどない。

 でも、アキラにギャフンと言わせたいのも本当の気持ち。

 だからと言って、今仁美に声を掛けた奴が、ホノカから200万を騙し取ったアホボケ男の自称アキラと、どこまで関わっているのかも不明だ。


 だが、ホノカも和美達も知らなかった。

 自称アキラがリオリオに女にされて、仲間達に女として扱われ、それが思いの外、当の本人の自称アキラも女の自分を気に入ってしまって、素行の悪い仲間達とも縁を切り、今では全うに女性として暮らしているらしいなどと。

 ホノカは、自称アキラが、まさかそんな事になっているなど知る由もない。



「私・・・私を騙したアキラって男が、今どこで何をしているのか知りたい・・・」


「ホノカさん・・・」



 和美達は、ホノカの気持ちも解らなくもないので、足を止めてしまった。

 その時、仁美は・・・



「なんなよ? 俺、もう帰るんやけど?」


「おおっ! 俺っ娘? 可愛いやん?」


「チッ!・・・気持ち悪い」


「ん? なに? 聞こえへん」



 男は、わざとらしく顔を仁美の顔に近付ける。

 気持ち悪くて、嘔吐(えず)く仁美。



「うっ!・・・くっ・・・うえっ・・・

 なんもないよ! とにかくもう帰るんやから、放っておいてくれへんかな」


「ええやん! ほら、そこにボーリング場あるから、ちょっと遊びに行かへん?」


「はあ? この長いスカートでか?

 こんな格好でボーリングなんかでけへんやろ

 怪我でもしたら、お前責任取れんのか?」(和美の受け売り)


「大丈夫! 大丈夫!

 スカートなんか捲り上げたらええやん?」


「はっ! 正気かお前? それ、セクハラやし」


「ええから! ええから! ほら、行こ行こ!」


「わっ! ちょちょっ・・・」



 男は、仁美の手を掴み、無理やり連れて行こうとする。

 男の身長は170チョイくらいか。

 男性の身長としては平均位だが、今の仁美からすると、見上げる背丈だ。

 しかし、今の仁美は、どうも男を相手にすると、調子が出ない。

 気持ち悪くて、吐き気がして、生理的に受け付けない。

 


「痛っ! 離せよ! 離せってえ!!」


「ええから! ええから!」


「んもお━━━おっ!! おんしゃあ━━━っ!!」


 ブォン! ドスッ!!


「ぐふっ!・・・んぐぐっ・・・お前・・・」



 仁美は、思い切り男の脇腹に蹴りを入れてやった!

 男は脇腹を押さえて、しゃがみ込んでしまった。

 怪我は無いはずだが、痛みは相当なものだろう。

 その反動で、奴の手が離れたので、仁美は急いで和美達の側へと走った!



 パタパタパタパタッ!


「助けてぇ!!」


「ご・・・ゴラァ!・・・待てっ・・・んあ?!」


「ちょっとアンタ!! 私の顔を覚えてるやろ?」 


「!!・・・お前っ・・・(汗)」



 ホノカは、男に向かって睨みつける。男は、すぐにホノカを思い出したようだった。

 今のホノカはミサンガを着けていたので、男もホノカが誰なのかすぐに気付いたようだった。

 男は立ち上がってホノカに向かって凄むが、他にも和美、マコ、サワサ、リョウが壁となり、仁美とホノカを守るように立ちはだかる!

 男は分が悪いと思い、慌てて逃げて行った。



「チッ! このブスっ!!」


 タッタッタッタッ・・・


「あっ! ちょっと、待ちなあよ!!」


「ホノカさん!「ホノカ!!」


「!!・・・」



 仁美と和美が同時にホノカを制止させる。

 ホノカは、フッと我に返るように、表情が和らぐ。

 だが、吐く言葉は汚いが・・・



「ふん! クソがっ!! 頭と目ぇ噛んで死ねっ!!」


「ホノカさん・・・言葉(汗)」


「ええやん! ホンマにアイツらはクソなんやから!!」


「まあ・・・な でもなんでこんな所に居ったんや?

 ってか、まだアイツら和歌山に居ったんやな

 暇かよ? 仕事せぇーよ! 仕事をおおおー!」


「ホンマによ! どうせ今でも女の子からお金騙し取って、そのお金で遊び呆けてんのやろ」


「「「・・・あはは(汗)」」」


「・・・(汗)」


「でも、なんで俺ばっかりこんな目に遭うんなよ・・・

 俺って、そんなに憎たらしい顔してんのかなぁ?」


「「「「「・・・(汗)」」」」」



 まったくである。

 なんでこうもトラブルばかり起こるのか・・・

 それも仕方ない事。

 仁美の顔が憎たらしいのではない。

 仁美は、男が放っておかないほどに可愛いからである。


 和美達も、仁美は可愛いと思っている。

 和美達から見る仁美は、可愛くて、愛おしくて、守ってあげたくて、構ってあげたくなる『可愛さ』である。


 だが、男から見る仁美の可愛さとは、また別ものである。

 なんとしてでも手に入れたい! 自分のものにしたい! 食べたい! 抱きたい! 犯したい! めちゃくちゃにしたい!

 そんな『可愛さ』であった。


 当の本人の仁美はまったくの自覚は無し。

 だが、我ながら容姿は普通くらいだとは思ってる。


 今の仁美の『称号』には、『庇護欲(ひごよく)引き立て少女』と、『擁護欲(ようごよく)引き立て少女』と、『妖艶美女(ようえんびじょ)』と、『妖艶美少女(ようえんびしょうじょ)』がいつの間にか追加されていたが、仁美はまだ知らない。


 すると仁美は何かを思い出したかのように、クルリと回ってスカートをヒラリと広げて、イタズラをする子供のような笑顔でこう言う。

 また、そんな仁美が可愛くて愛おしい。



「なあ? 俺が運転しよっか?」


「「ダメですよ!!」」


「何言ってんですか!? 教育者としてアウトですよ!!」


「冗談やんかよぉ~(汗)」


「アホなん? カスなん? ゴミなん? ボケてんのん?

 可愛いからって、その発言笑えやんで?

 もちょっと考えてモノ言いなぁよ?」


「相変わらずキッツイ言い方するなぁ~ホノカわぁ~~(汗)

 でも、ツレ(友達)の工場の中で、無免許のおっちゃんが運転してたの見たことあるで?」


「そりゃあ工場内なら、無免許でも乗れるモノがあるかも知れませんけど、僕まだ死にたくないですから!」


「ひどっ!! 冗談ってゆーてるしっ!!」


「ってゆーか、たぶんそれは、フォークリフトですよ!?

 普通の自動車免許とフォークリフトの免許は別ですから!」


「そ・・・そうなんや? へぇ・・・

 あのオモチャみたいなんでも、免許要るんや?」



 仁美は、知り合いに食品会社の社長の息子が居るのだが、よくソイツの工場へ遊びに行ったものだった。

 と言うのは、ちょっと手伝いをするだけで、知り合いの親父さんから、お小遣い2000円と賄い飯を食べさせてくれるから・・・という下心があっただけなのだが。

 その工場の中では昔から電動の特殊なフォークリフトが走り回っていたのを見ていた。

 電動だし、まるで見た目もオモチャのようだったので、運転に資格は要らないと勝手に思っていた。



「「当たり前です!!」」「アホぉ!!」


「きゃあ!」


「無免許運転がバレて、検挙されたらどうするんですかあ!!

 無免許運転をさせたとして、減点25点の一発免許取り消しですよ!!」


「あうう・・・ご、ごめん(汗)」


「それに、学校にバレて、懲戒解雇にでもなったら、それこそ死ぬよりも最悪です!!」


「なんじゃそれ?! 言い方あっ!!

 死ぬよりも、懲戒解雇の方が悪いんかよ?!」



 免許取得者の中には、事故って死ぬよりも、罰金や免停の方が怖いと言う人も居るとか・・・

 それに似たような心境なのだろうか?



「そうやで! 仁美は、原付きの免許しか持ってへんやろ?」


「持ってないよ? 原付しか! 悪いか? ふん!

 なんなよ! ふん! ふん! っふ━━━ん!!

 皆んなアッチ行け! なんなよなんなよ! アッポケ!」


「「「「「~~~~~~(照)」」」」」



 アスファルトに直に座り込んで膝を抱える仁美。

 まるで子供のように駄々をこねる仁美だった。

 皆んなは、そんな仁美ですら、可愛くて愛おしくて堪らない。


 だが・・・



「ほら、子供みたいに拗ねてないで立ってください!

 スカートが汚れちゃいますよ?」


「あぅぅ・・・(泣)」



 やれやれと、和美に手を引いて立たせてもらう仁美。

 面倒くさそうに、渋々立ち上がる仁美。

 今の仁美は、完全に拗ねて不貞腐れている少女である。



「ふん なんよ、自動車の免許くらいで!」


「はあん?! 言うたな! 言うたなホノカあ!!

 ほんなら、そう言うホノカは自動車の免許持ってんのかよ!?」


「持ってるよ!」


「がああああああ━━━ん!!

 まっ・・・マジか・・・ホノカまで・・・いつの間に・・・(震)」


「当たり前やん!」


「へっ? 当たり前?」


「そおよお! 和歌山って田舎やから運転頻度が日本全国で第2位やで!!

 東京みたいな都会やったらいざ知らず、アラサー女が和歌山みたいな田舎暮らしで自動車の免許持ってへんって有り得へんわ!!」


「きゃいぃいぃいぃいぃいぃ~~~ん!!

 ひどぉ━━━いっ!! ホノカ辛辣ぅ~~~!!

 アラサー女は関係ないやんかよお~~~!!」


「今の仁美かて、アラサー女やんかよお!!」


「きゃいぃいぃいぃいぃいぃ~~~ん!!

 なんか、『オッサン』って呼ばれるより、『アラサー女』って言われる方が心に来るモンあるわあ~~~

 かわいそ! かわいそ! どーしてこの世に生まれたの?

 ぶう━━━っ!! くっ!殺せ━━━っ!」


「「「「あははははははははっ!!」」」」


「僕は東京に住んでる時に免許を取得しましたけどね!」


「だああああ~~~!! ダメ押しやめてくれぇ~~~!」


「「「「あははははははははっ!!」」」」


「ばあ━━━かっ! 悔しかったら、はよ免許取りなあ!」


「うえぇえぇえぇえぇえぇ~~~ん(泣)

 和美ぃ~~~! 自動二輪1個あったら、別にええやろ?

 和美の自動車の免許ちょうだい!!」


「んなっ?! ほんっっっとにバカですか!!」


「ふえぇえぇえぇえぇえぇ~~~ん(泣)」


「「「「「~~~(笑)」」」」」



 また、仁美は膝から崩れ落ちた・・・

 その後の仁美は、自動車学校に夜間2時間だけで通うようになり、3ヶ月かけて卒業し、普通自動車AT車限定解除を取得するのだが、それはまだまだ先のお話し。




皆んなに愛されている、仁美ちゃんでした。

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