第80話 「ひとみちゃん⑪『魔法使いと、霊と、魔族』」
魔法使いと、霊と、魔族。
文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。
・⋯━☞数日後☜━⋯・
••✼••アパート仁美の部屋••✼••
コンコンコン!
《仁美! 仁美ぃ━━━っ!》
「んがっ?! はっ、はいっ!!・・・へ?」
今日は、和美ではなく、ホノカに起こされた。
ホノカとは、仁美が男だった頃の元カノである。
大谷 穂花という名の仁美と同い年の女性であり、実は浮気されて別れた奴なのである。
だが、浮気相手は根っからの遊び人だったようで、お金は騙し取られるわ、2、3回遊んで終わり・・・という、ホノカもなんともおバカな捨てられ方をされたものもある。
相手は元々金目当てであり、ホノカには愛情の欠片も無く、金だけ取られて終いだったようだ。
肉体関係が無かったのが幸か不幸か・・・
ホノカが汚れなくて良かったと心の横隅でそう思う仁美。
そんなホノカは、仁美の部屋に当たり前かのように出入りしている。
女になった仁美の部屋にだ。
いったいホノカは、何を考えているのか?
・・・と、思いきや、数日ほど来なかったと思えば、なんとホノカが魔法使いになって、仁美の部屋にやって来たのだ。
ホノカの何やら楽しげな声が、玄関のドア越しに聞こえてくる。
休みの日なので昼まで寝るつもりだったのに、まったく迷惑な奴である。
「あん? 今何時・・・って、まだ5時過ぎやんかよ!!」
コンコンコン!
《ひぃ~とぉ~みぃ~~~!!》
「チッ! うっさいなぁ!
せっかくの土曜やっちゅーのにぃ!!
ゆっくり寝させてけれよお~~~(怒)
ってか、なんで尻が痛いんやろ?」
ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ! ガチャ!
仁美は、怒り任せにわざと足を大きく踏み鳴らして歩く。
そして、荒々しく玄関のドアを開けて、ホノカに向かって怒鳴る。
「なんじゃい! うっさいなあ~土曜の朝っぱらからあ!!」
「やっと起きた! ヤッホー!」
「やっほーちゃうわあ!!
んっ?!・・・って、なんじゃお前、その格好?!」
「えへへ どう? 似合う?」
「・・・・・・・・・変っ」
「ひどっ!!」
ホノカは、魔法使いそのものの格好だった。
魔法使いの先の折れたエナン帽、トグルボタンの褐色の魔法使いの服、魔法使いの先細りの爪先が上に曲がった焦げ茶色の革製の網紐靴、魔法使いの裏地が赤い黒マント、首には重そうなデッカイ魔晶石をぶら下げて。
ホノカの、その姿を見れば嫌でも解る。
ホノカも魔法使いになってしまった事を・・・
それはつまり、これからもホノカとの、『元恋人で、現女同士の腐れ縁の友』みたいな?この変な関係が続くと言う事である。
仁美は、深くため息をつく吐くのだった。
そして、何を言い出すかと思えば・・・
「はあ~~~・・・んで? なんのようや?」
「私、ここに住む!!」
「はあっ?! 嘘やろ!! 何考えてんじゃお前!!」
「あ! 今更、もう何言うてもアカンでぇ!!」
「はあん?」
「犬飼さん・・・管理人さんが、ええって言うたんやもん!」
「マコがあ?!・・・あのバカ!
ここは、教職員住宅やったんとちゃうんかえ?!」
「あ、それ! 表向きはそうやけど、入居者がガッコの先生やなくても別にええんやってえ!」
「はあい?! マジか? って、この部屋は1LDKやぞ!!
2人で住むには、狭すぎるやろ!
まあ、一応バス・シャワートイレ付きやけどな?」
元々はトイレは汲み取り式の所謂『ボットン便所』だったが、仁美と和美が魔法で快適近代的機能的魔導的水洗シャワートイレに変えてある。
「違うよお! この隣の部屋よ!」
「隣ぃ? ああ、10号室か」
「そう! それより、家賃が18,000円って、激安っ!!
こんな優良物件、何処探しても無いよ!!」
「うっ・・・まあ、それはそうやけどな」
『あれ? 家賃3,000円高くなってへんか?』
そう思ったが、仁美と和美がオンボロだったアパートを、魔法を使ったとは言え、外見も内装もキッチンやトイレやバスも、ビジネスホテル並に綺麗にしたのだ。
だから今でも仁美と和美だけは、家賃15,000円である。
そのうちに階段にも屋根を付けて、エスカレーターかエレベーターか登り棒かエアーシューターにする予定だ。(嘘)
これほどの自他共に認める優良物件だ。
新居者の場合が3,000円ほど高くなっていたとしても文句は無いだろう。
「そうか・・・隣に住むんか・・・
まあ、好きにすればええんとちゃか?」
「うん! そうする!」
「・・・・・・(困)」
パタン!・・・
••✼••アパート仁美の部屋••✼••
「うああああ・・・何でアイツがこのアパートに?
って、俺が拒んでもしゃあーないし・・・(困)
なんでアイツは平気で居られるんじゃよお!!
俺はアイツの顔を見るだけでも戸惑うのにぃ~~~!
アイツは気不味く感じへんのんかあ~~~?!
ああああああもおおおおおお~~~!!
嫌な予感しかせぇ~~~へぇ~~~ん!!」
わしゃわしゃわしゃ・・・
仁美は、頭をわしゃわしゃと掻きむしる。
そして、布団の上でゴロゴロ転がりながら悶々としていた。
そんな事をしていると、もう時刻は6時に。
するとそこへ和美が・・・
カチャ!・・・
「仁美さーん! おきて・・・あれ?」
「なに?!」
「あの仁美さんが、土曜の朝早くから起きているなんて珍しいですね!
雨か槍か人工衛星でも振るんでしょうか?」
「なんじゃそりゃあ!!(怒)」
平日は、何時もこの時間に和美が仁美を起こしに来るのだが、今日は土曜日だったので、普段なら用事がないなら10時過ぎまでは仁美は起こすなと和美に言っていた。
ただ今日は仁美の部屋の隣の10号室に、新しく入居者がやって来ると言うので、たまたま早く起こしに来たのだった。
また、仁美だけが知らなかった・・・
「ちょっと! それ、どういう事なんよ?!」
「え? なにがですか?」
「だから、ホノカがこのアパートに住むって事よ!!」
「それは、先週のお好み焼きパーティーのときに、マコさんとホノカさんが話していたじゃないですか?」
「知らん! ぜんっっっぜん知らんっ!! 聞いてへん!!」
「あ、ほら! 仁美さん、ビールだけじゃなく、チューハイも飲んで、ヘベレケになっていたじゃないですか!
だから、覚えていないんでしょ?」
「はん?!・・・そう・・・やったんか?」
「きっと、そうですよ!
僕も、ホノカさんがこのアパートに住むって話しは、ちゃんと聞いてましたもん!」
「あるるぇえええ~~~~~~?」
仁美は、今度は両手の人差し指をコメカミにあてて、首を傾げた。
そうなのだ。
仁美は、牛脂が食べられなかったからと言って、『やけ酒やー!!』と言って、アホほどアルコールを飲んだのだ。
500mlのセットになったビール6本と、麦焼酎900mlの瓶2本を空けたのだ。
こんなペッタンコな腹の中に、お好み焼きを3枚と、唐揚げ20個と、酒をしこたま飲んでと、よくもまあこんなにも入ったもんだと我ながら関心する。
結局、お好み焼きのトッピング用として買ったはずの唐揚げを、ほとんど仁美が1人で食べてしまった。
・・・と、今しがた和美から聞かされた。
「ありゃりゃ・・・それは、まあ、そのぉ・・・ごめん(汗)」
「いえ、別に怒ってなんかいませんよ?
ただ、僕達の仲とはいえ、人前で裸になるのは・・・」
「え”っ?!・・・」
「そして、ひぃちゃんを抱きながら、なぜか泣き叫んじゃって寝ちゃったんですよ?」
「いやあああああああ~~~!!」
仁美は、その場に崩れ落ちるように蹲り絶叫した。
しかし、なんにも覚えていない。
慣れ親しんだ仲とはいえ、みんなの前で裸になってしまうだなんて、羽目を外した酔っ払いを超えて露出魔だ。
恥ずかしくて死にそうだ!
くっ! 殺せっ!
「まあ、アパートで良かったですね?
もし、他所でそんな事をしたなら、公然わいせつ罪で逮捕されますよ?」
「ふぁい・・・面目ない・・・(泣)」
そんな話しをしていると、マコがやって来た。
「仁美さあん! ホノカさんが・・・どうしたんですか?」
「いや、昨夜の事でちょっと・・・」
「!!・・・」
「ああ~~~! 昨夜の仁美さんは大胆でしたねぇ~~~
真っ裸になって、みんなに抱き付いてキスしてましたからね~~~(照)」
「?!っっっ(赤面)」
マコはそう言って頬に手を当て、顔を赤くした。
「いやあああああああああああああ~~~!!」
「ちょっとマコさん! それを言っちゃ・・・(汗)
ようやく立ち直れそうだったのに追い打ちは・・・」
「あれま!」
仁美はマコに、『仁美が真っ裸でみんなに抱き付いてキスをした』と聞かされて、渾身の一撃を食らった!!
「ああああ・・・うううう・・・
もう生きていけない・・・殺してっ(泣)」
「仁美さん、大丈夫ですか?」
「仕方ありません・・・今日は、そっとしておきましょう?」
「・・・そうですね」
なんて言っていた所に、今度はまたホノカか来て・・・
玄関のドアが、壊れてしまうのでは?と思うほどに荒々しく開けられる!
ガチャ!バァ━━━ン!!
「「「?!」」」
「露出魔の変態の仁美ぃ━━━っ!!」
「ひゃあ?!」
「「あっ!!」」
「リオリオさんに叩かれたお尻は、だいじょぶ?」
「ちょっとホノカさん!」
「え? なに?」
「それは、言わない方が・・・追い打ちはダメですよ(汗)」
「え? 追い打ち??? なんの事?
仁美が真っ裸になって、みんなに抱き付いてキスをしたから、リオリオさんが怒って仁美のお尻を叩きまくったら、仁美がひぃちゃんを抱きながら大泣きしちゃって失禁して失神しちゃった事?」
「へあっ?!・・・
いやあああああああああああああああああああ~~~!!」
「「「?!・・・」」」
「きゅうっ・・・」
パタン!
「「「ええええ~~~?!」」」
とうとう仁美は、余りの恥ずかしさに卒倒・・・
とどめに、渾身の一撃と会心の一撃を食らい、仁美は白目を向いて失神してしまったのだった・・・
その後、仁美が目を覚ましたのは、昼過ぎだった。
・⋯━☞昼過ぎ☜━⋯・
••✼••アパート仁美の部屋••✼••
「んがっ!!・・・あ、あれ?」
「つんつん! つんつん! 仁美ちゃん起きたあ?」
「ひぃちゃん?」
気が付くと、ひぃちゃんが仁美の頬を指で突っついていた。
仁美の狭い部屋に、和美、マコ、ホノカまで来ていた。
なぜだか皆んな何時も、仁美の部屋に集まるのだった。
「うん 起きた起きた・・・よっこいしょ!」
「仁美ちゃん、もうお昼過ぎてるよ?」
「んん? ホンマや・・・もうすぐ1時になるんか・・・」
「仁美ちゃん! お墓に遊びに行こう!」
「うええっ!! またあ?! 先週行ったばっかりやん?」
実は、仁美の両親のお墓があるのは、このアパートの裏手にある霊園だったりする。
先週に、仁美が両親のお墓参りに行ったときに、初めてひぃちゃんも一緒に来てくれたのが始まりで、ひぃちゃんにとって『お墓参り』とは、『お墓に遊びに行く』という感覚のようだ。
ひぃちゃんはマコが産み出したホムンクルスである。
マコと同等の知識を持つのなら、『お墓参り』の概念を理解しているはずなのに・・・
身体がお子ちゃまだから、思考もお子ちゃまへ寄るのだろうか?
そして、ひぃちゃんには、所謂、『幽霊』という存在が見えるらしい。
また、魔法使いも『幽霊』という存在が見えてしまうのだった。
なので、魔法使いとは、精霊以外の『物質的な肉体を持たない自我』という存在の、『妖精』や、『幽霊』や、『念』というものまでもが見えてしまう。
妖精は、普通に見える。
まるでビデオ映像にCGアニメーションを合成したかのようにクッキリと。
幽霊は、少し透けて見える。
だが、時々ハッキリクッキリ見える事もあり、ごくごく普通に人が居る様に見えてしまうことも。
例として、交差点を横断中に不幸にも事故に遭ったなどの突然命を失った所謂『突然死』の霊達は、たまに自分が死んだ事に気付いてない者も居るようだ。
信号が青に代わり歩き出すが、道路の真ん中で唐突にフッ!と消える・・・などを繰り返す霊を見た事も。
おそらく消えた場所で突然車に跳ねられて亡くなったのだろう。
なので死んだことに気付いていないので、そんな行動を繰り返していたり・・・。哀れである。
何時かこんな事があった。
死んだ事を理解していない様子の霊を、仁美がたまたま見付けてしまった。
するとその霊が、仁美には自分が見えると気付いたようで、仁美にしつこつ話し掛けて来るのが怖いし面倒で堪らなかった。
霊本人としては、やっと自分に気付いてくれた人が居たって訳で、嬉しくて話し掛けて来るのだろうが、仁美にとってはガタブルものである。
念は、姿形を成さない。
ただ1つの感情だけだが、煙のように見える。
感情だけなので、自分が何者かという認識すら無いから、形をなさないようである。
その煙に向かって意識を集中すると、その念の感情、つまり気持ちが伝わって来ることもある。
なので、仁美も初めは怖くて仕方がなかったが、今では慣れたもので、裏手の霊園でウロウロしている霊などを見えも、『またか・・・』程度な感覚だった。
なにせ霊であっても普通の人にしか見えないからだ。若干透けてはいるが。
だが流石に、血だらけだったり、落ち武者だったり、ベターな『恨めしやぁ~』な幽霊だったりするとやっぱり怖い。
そして霊側としても、相手が魔法使いだと警戒して、無闇に近寄っては来ない。
リオリオから聞いた話しでは、下手に魔法使いに近寄って、浄化(成仏)でもさせられたら堪らないと思っているのだそう。
霊にも、いろいろ居て、自分が死んだ事に気付いていない者は、下手に干渉すると頼られたりして困るけど、自分が死んだ事を理解していて、自由になった今を楽しんでいる者は、浄化させられたら困るので、魔法使いには下手に近付かないのだとか。
と、リオリオが話していた。
だが仁美は、普通の人に見える霊ならともかく、これぞ霊の代名詞!というような、ザンバラな黒髪ロン毛で白い着物を着て両手を前に垂らし『恨めしやぁ~』みたいなベターな霊は怖かった(汗)
「えええ~~~ん? ひぃちゃんちゃん、お墓行きたあい!」
「ああもお、しゃあないなあ・・・
ひぃちゃん、お墓を遊び場と勘違いしてない?
そもそも、ひぃちゃんって、お墓って何なのか知ってんのかな?
まっ! とにかく、ちょっくら お花買って来よか~~~」
「あ、じゃあ僕も一緒に行きます! ちょっと明日のご飯のオカズに色々と足りないので!
丁度、『マヨネーズ』と、『めんつゆ』と、『卵』も買いたいんです!」
「ふむ そか」
「あ、あと! お味噌と、キャベツと、キュウリと、キノコ類と、ニンジン、ダイコン、ジャガイモと、あと~~~・・・」
「もうそれ、ちょっと足りないって量ちゃうよね?(汗)」
「だって、今日からホノカさんも増えるんだから、買い物の量も増えるのは必然ですよね」
「えっ?・・・ホノカも一緒に食べるん?」
「なんよお! 私だけ仲間はずれぇ?!
私もお金出すんやから、別に迷惑かけへんし!
それとも、私と食べんのが嫌なん?」
「そんな訳ちゃうけど・・・まあ、そーゆー事なら・・・(汗)」
どうやら、ホノカも今後は仁美達と食事を一緒にする気のようだ。
そしてそれを、和美もマコも受け入れているようだった。
これまでも、和美もマコも買い物にはお金を出し合ってくれていた。
だからホノカもお金を出す。
それについては、金の無い仁美も有難い事だっただけに、受け入れるしかなかった。
しかし、何時の間に・・・(汗)
「じゃあ、私が車を出しますね」
「ああ、ありがとう んじゃ、よろしく!」
「って、俺らん仲で、車持ってんのはマコしか居らんやん」
「仁美さん まぁ~た、そんな言い方をするぅ!」
「だって、車持ってんのマコだけやし?
どぉーせ俺ってば、原チャリだけやし?」
「そんな言い方を事をするう~~~」
「ちょっ! ひぃちゃん・・・(汗)」
「仁美さん 言い方ですよ!
もう少し、言葉を選んでくださいね!
捻くれたお子ちゃまの嫌味にしか聞こえませんよ?」
「えっ?!・・・そう? ごめんごめん! あはは(汗)」
仁美は、ついつい偏屈っぽく言ってしまう。
仁美は、車の免許も自家用車も持っていないので、ただの妬みである。
「ダメですよ! そんな子供みたいな言い方!
ちゃんと、お礼を言って!」
「うっ・・・(汗)」
「仁美ちゃん! お礼を言って! ね!」
「ひぃちゃん・・・はいはい すいません・・・(凹)
あ、あり、ありがとう⋯ございます⋯です⋯はい(汗)」
「うふふ 構いませんよ(笑)」
「構いませんよお~~~きゃははははっ(笑)」
「・・・(汗)」
マコも今更ながらである。
仁美が妬みや偏屈を言うのには悪気はまったく無く、ついついおちゃけて言ってしまう・・・
小学生の男の子が、気になる女の子につい憎まれ口を言ってしまうようなものである。
仁美がそういう人だとマコは知っているので、何も言わないし傷付きもしないが。
和美も和美で、仁美の偏屈なところを直してやりたいと思うものの、そんな子供っぽい仁美も好きだったりする。
するとホノカも、買い物へ行くと言い出す。
「私も一緒に行ってもいい?」
「え? ちょっと買い物に行くだけやで?
それに、全員マコの小っちゃい車に乗るのは・・・」
「小っちゃいって・・・(汗)」
「だから仁美、言い方!」
「たははっ・・・(汗)」
「マコさんの車って、あのシルバーの小型車やろ? 大人4人に子供1人やから、乗れやん事もないんちゃうん?」
「そりゃ、そうやけど・・・」
マコの車は、トヨータの1500ccのシルバーのビッツ。
所謂、小型のファミリーカーである。
5人乗りの乗用車なので、マコが運転手、和美が運転助手、として後部座席に仁美とホノカで、間にチャイルドシートでひぃちゃんが座れば、少々キツイが乗れない事もない。
ただ仁美は、ホノカと一緒に食事を食べる事にならないようにと、なんとか理由を見付けたかったのだが思い付かなかった。
今回の買い物だって、ホノカと一緒に居るのが正直キツい。
まだ仁美にとっては、ホノカとは昔の様に面と向かって話す事さえ気が引けると言うもの。
なぜホノカは、あんな事があったのに、こんなに普通にできるのか、仁美は不思議でならなかった。
結局、仁美のお墓参りのためにのお花を買いに行くついでに、オカズの買い物にも全員で出掛ける事になった。
買い物先は、和美の買い物もあるので、スーパー松減本ノ木店へ行く事になった。
って、またあの松減本ノ木店か・・・
あの『仁美ちゃんナンパからの~突き飛ばし事件!』から、ちょっと行き難くなっていた。
また奴に会うのではないか?と思って。
でも、奴には会う事はなかった。
••✼••松減駐車場••✼••
仁美達が買い物を済ませ、駐車場へ出て来たところで・・・
仁美は、先週の嫌な出来事を思い出した。
思わず、身体がピクッ!と止まる。
そして、あの黒いワンボックスカーを探してしまう。
・・・居ない。
でも、身構えてしまう。また現れるのでは?と・・・
あの時、男の頃のように何も考えずに飛び出してしまったが、奴らに『お姉ちゃん』と呼ばれて我に返ったような気がした。
『そうやった・・・今の俺、女の子やったっけ』
運転席の野郎に手首を掴まれて振り解けなかったとき、初めて男相手に『負ける!』と思った。
マジでヤバいと思った。
長身短髪五分刈り8の字強面全身ムッキムキ日サロ黒助アラサー独身野郎だった事から、『おいたする馬鹿野郎を教育してやろう!』的な気持ちになってしまうこの悪い癖は、そろそろやめないと何時かは痛い目に遭うかも知れない。
仁美は考え込み、ひぃちゃんを抱く腕に力が入ってしまう。
「痛い・・・仁美ちゃん?」
「ん? な、なに? ひぃちゃん」
「痛い・・・(汗)」
「あっ! ごっ、ごめん! ごめんねぇ?」
「仁美さん、どうしたんですか?」
「「ん?・・・」」
「ああいや! なんもないよ! なんもない!!(汗)」
「「「・・・?」」」
仁美は、それでも駐車場に例の車が無い事を十分に確認してから、マコの車に向かって歩き出す。
奴の車は今はこの駐車場には無いと分かっていても、また来るんじゃないかとビクビクしてしまう。
どうしようもなく、足が震えてしまう。
『今の俺って、こんなにも男が苦手なんや・・・?』
男の頃なら、ただ相手を見下ろすだけで、自分よりも背の低い奴らならどんな野郎達でも怯んで逃げてった。
たとえ自分よりも背の高い奴でも、身体を鍛えていたからか、大概の奴らは目も合わせずに去って行った。
夜の店で独り飲んでいたときでも、なぜだか8の字の奴からが難癖付けられ、後ろから頭を殴ってきたが、じっと耐えながらも頭に来て手に力が入り、持っていたグラスを握り潰したら、8の字の奴らはバタバタと慌て飛ぶ鳥のように逃げてった。
なのに今では、自分よりも背の高い男が近寄るだけでも、思わず身構えてしまう。
今では、あの日のグラスを握り潰した時にできた手の平の傷も跡形もなく消えてしまっている。
まるであの時の手の傷も、手の痛みも、男だった事も、全てが嘘だったかのように。
『今の俺は女で、『男』に対してビビっている』
我ながら、情けない事だ。
今の自分は、ミサンガ無しでは身長165cmほどの見た目JKの女の子。
これでは、教え子の男子生徒相手にしても、力比べでは負けてしまうだろう。
ミサンガを着けて、見た目年齢20歳の身長178cmの身体に変身していたなら、なんとか対抗できるかどうかと言うところか。
仁美はこの時、決心した!
「俺、もっと身体を鍛える!!
ムキムキ筋肉女に! 俺はなるっ!!」
「「「はあ?!」」」
「なんですか突然?!」
「そうですよ ムキムキ筋肉女ってなに?!」
「どうしたん? またなんか変なもんでも拾って食べた?」
「食うかっ!! もう二度とアッポケ野郎共に負けやんように、身体をムッキムキに鍛えるんや!!」
「「「はあ~~~?!」」」
仁美は左手を握り締め、空を見上げて右手人差し指を一番星を指さす様に高く掲げ、深く固く決意したかのように言う。
あの、あまりにも有名な昭和スポコンアニメの、『強人の星』のように。
「ふう・・・ なんなんですか藪から棒に!」
「あ、この間の男が原因ですか?」
「「?!・・・」」
「ええと、確かアキラとかいう奴でしたっけ?」
「「ビクッ!・・・(震)」」
和美とマコの言葉に、ビクッ!とする仁美とホノカ。
「え? あ、まあ・・・それもあるけど、俺は女になってから、トレーニングが疎かになってたからな!
もっともっと身体を鍛えて、以前のムキムキな肉体を目指して・・・」
「「やめてください!!」」
「えっ?!」
「アホちゃう?」
「はあ?! なんでなよお!!
男として単純にムキムキの筋肉に憧れるやろ!」
「今の仁美は、女の子やろ!!」
「ぐぬぬ・・・(汗)」
「そうそう!」
「むむむ・・・(汗)」
「そうですよ!!」
「うむむむむ・・・(汗)」
「ムキムキ仁美ちゃんなんて変!」
「ひぃちゃんまで?!」
「・・・(汗)」
この時ホノカは、仁美達が話している男とは、ホノカから200万を騙し取った奴だと理解した。
だが、ホノカにとっても、奴には会いたくもないし、思い出したくも顔を見たくもない憎らしい奴。
今更どうなろうと知った事では無いが、顔を思い出すと仁美を裏切ってしまった申し訳ない気持ちもあり、辛く悲しい気持ちになるのだった。
幸い今日は、奴とは会うことはなかった。
会うはずがない。
リオリオから聞いた話しでは、奴は仲間に対しても結構な酷い事をしていたらしく、今頃は女装役剤を飲まされて女にされてから、かつての仲間達に弄ばれるという罰を受けているだろうと言っていた。
それはそれで、決して同情ではないが、気の毒にも思い、ゾッとした。
そして、実は『アキラ』とは偽名だそうで、本名は?と聞いたが、『知る必要などない』と言われ、リオリオは教えてはくれなかった。
まあ確かに、知りたくもないがな。
知ったところで、今更何もする気もないし、関わるつもりもないのだから。
仁美は、アパートに帰ったら、リオリオから聞いたアキラの成れの果ての事をホノカに話してやった。
••✼••アパート仁美の部屋••✼••
「そう・・・なんや・・・」
「うん リオリオさんが言うには、もう忘れてしまえって!
200万は、確かに痛いし悔しいやろうけど、もう戻ってこんやろうって。
本名も知る必要もないし、元々潜りやから和歌山の人間でもないし、今頃は他府県へ出てるって話しやで?」
「・・・そっか」
「それと・・・その・・・」
「なに?」
「いや、うぅん・・・なんやその・・・」
「うん? なんよう? ハッキリ言いなあよ!」
「あ、うん ゴホン!・・・
まあ、なんや・・・アイツに・・・抱かれたんか?」
「はあ?! そんなんしてへんよ!」
「そ、そうか・・・」
「2、3回会って、最後の日にお金渡したら、全然近寄ろうともせんかったわ!
最初っから、お金だけが目当てやったんよ! アイツ!!」
「そそ、そうか・・・そうか・・・」
「なんよ? 私が誰とでも寝る女やとでも思ってんの?」
「いやいやいや! ちゃうちゃう!!
そんな風には思ってへんよ! 失言やった! すまん!
ただ、元カノとは言え・・・そうやったら嫌やなって・・・」
「ふん! ばあ━━━か! スケベ! アホお!!」
「んなっ?! なんじゃそれ!! 人が心配してやったのに!」
「ええよ! そんなん心配してくれやんでも・・・
私は仁美を裏切ったんやから・・・私みたいなアホな女なんか・・・」
「・・・・・・(汗)」
「・・・・・・・・・(汗)」
重っ!! めっさ空気重おっ!!
この後、どんな言葉を繋げたら良いのか互いに解らなかった。
すると・・・
パチン!
「「?!・・・」」
「はいはぁ━━━い! この話しはココまで!!」
和美が手を叩いて、この重い空気を振り払った!
仁美とホノカは、我に返るようにハッ!とする。
「和美・・・」
「・・・」
「ほらほら! お花も用意できた事だし、仁美さんのご両親のお墓参りに行くよ!」
「お・・・おう(汗)」
「そうやね・・・」
「仁美ちゃん! 行こっ!」
「ふふ・・・はいはい! ほな、行こか!」
「はあい!」
「「「ふふふ・・・」」」
こうして仁美達は、両親のお墓参りに行く事になった。
とはいえ、すぐ裏手の霊園だが。
••✼••〇〇〇聖地霊園••✼••
「ここが、俺の両親の墓や」
「ふうん なかなかご立派な!」
「そやろ? ホンマに、ホンマに仲良くて優しい両親やったらからな
それに、親(祖父母)や親戚らに蔑ろにされてたから、俺以外は墓参りに来る奴らなんか居らんし・・・
ま、ここに両親の墓があることすら知らんはずやしな!
来るはずがないし、来て欲しいとも思わんけど!
それより墓くらい、俺が立派なものにしてあげたかった」
「うん・・・」
「「「・・・・・・」」」
「さっ! 花取り替えて、拭き掃除して綺麗にしてやろっかな!」
「「「うん!」」」
「ひぃちゃんも、するう~~~!」
「そかそか! お父ちゃんも、お母ちゃんも、喜んでくれると・・・おも・・・・・・え?」
「「「うん?」」」
「はあはっ・・・?! お父ちゃん! お母ちゃん!」
「「「ええっ?!」」」
「あれえ~~~?」
なんと! 仁美の両親の墓の両サイドに、仁美の両親が浮き出るように姿を現したのだ!
少し透けているところから、やはり本物の霊なのだろうか。
だが、その姿はすぐにフッ!と消えてしまったが・・・
だが 皆んな、それを見逃さなかった。
「い、今のは?」
「見た見た!」
「もしかして、仁美さんのご両親?・・・え? 仁美さん?」
「ううぅ・・・お母ちゃん・・・お父ちゃん・・・グスッ」
「「「・・・・・・・・・」」」
仁美は、涙をポロポロ流していた。
仁美達が見たものは、確かに仁美の両親の姿だった。
2人とも、ニッコリ微笑んでいて、何度も頷いていた。
そして、消えたのだ。
でも仁美は、寂しくなどなかった。
つい泣いてしまったのは、また両親の姿を見見る事ができたからだ
それに今の仁美には、こんなにも自分を大切にし愛してくれる人達がいる。
「お母ちゃん・・・お父ちゃん・・・ありがとうな
これからも俺を4次元(天国)から見守っててくれな!」
「ふふ・・・ほら! お花を変えないと!」
「ああ、そうやった! うん!」
「じゃあ僕、綺麗に拭いてあげますね!」
「おお、サンキュー! 頼むわ!」
「私は、草むしりかな」
「私も!」
「ひぃちゃんわ?」
「ひぃちゃんは、一緒にお花を変えよう?」
「はあい!」
こうして仁美達は、お花を取り替えて、白饅頭と熱いお茶を供えてて、皆んなで手を合わせてお墓に向かって願った。
『これからも、天国から私達を見守っててください』
・・・と。
仁美の両親は、霊園から去って行く仁美達を、肩を寄せ合いニコニコ笑顔で見送ってくれていた。
••✼••アパート仁美の部屋••✼••
「なんか神秘的でしたねえ~~~」
「うん! 不思議! 霊って本当に居るんですねえ!」
「あははっ! 俺ら魔法使いも本当に居るんやからな!
霊くらい居るんわ、当たり前なような気がするわ」
「ホンマやねえ? でも、他にもたくさん居ったよお!」
「言わんといてえ!!」
「「「ええっ?!」」」
実は皆んな、仁美の両親以外の霊を見ていた。
いや、見えていたのだった。
「あれえ? 仁美ちゃん、どうしたぁん?」
「えええ⋯いやいやいや⋯ななななな、なん、なんもないよ!」
「ふふん! 仁美、ご両親の霊は怖くないけど、他の霊は怖いんやろう?」
「そん! そん、そんな事わない⋯ですわよお?」
「ああ~~~確かに! 僕も見ましたよ!
なんだか頭が欠けてる人とか、全身血だらけの人居たかなあ?」
「ひいぃいぃっ!!」
ポン!
「いやあああああああああああ~~~!!!」
「「あるるえぇっ?!」」
「ちょっと! 仁美?!」
仁美は、あまりの恐怖からか、ミサンガの魔力が暴走し、あっという間にミサンガの魔力が枯渇してしまい、身体も肉体年齢16歳の女の子に戻ってしまった。
仁美はホノカの背中に隠れるように、頭を隠していた。
まさに、頭隠して尻隠さずである。
「なんよお仁美?! やっぱりお化けが怖いんやあん?」
「ええ? ご両親の霊は怖くないのに?」
「やっぱり、身体の何処かが欠けてるとか、全身血だらけは、流石にギョッ!となるよねえ?」
「いやああああああ~~~!! 言うなあ~~~!!」
「「「あはははははははははっ!!」」」
「仁美ちゃん、ゴーストが怖いん?」
「ううう・・・(震)」
ブルブルガタガタ・・・
「取れた首を手に持ってる人も居たのお~~~!」
「ひいいっ!!・・・・・・」
パタン!・・・
「「「えええええ~~~!!?!」」」
「ぶくぶくぶくぶく・・・(泡)」
仁美は泡を吹いて卒倒してしまった・・・
「あっちゃあ~~~(汗)」
「失神してしもうた! なっさけなっ!!」
「仁美さん、やっぱり幽霊が怖いのねえ~~~」
「仁美ちゃん 寝たん? つんつん」
「でも、取れた首を持ってたって、それってデュラハンじゃないのかなあ?」
「え? それって、魔族?」
「「魔族だねえ」」
この地球にも、魔族は居たのだった。
決して悪の存在ではなく、あくまでも人族以外の異種族の1種である。
だが、ムトランティアのような異世界よりも圧倒的に数が少ないし、信じる人も少ないので、堂々と姿を表さないだけである。
それでも、霊感の強い人には時々見えるらしい。
そんな魔族が、このアパートの住民となる日が来るのだった。
この地球にも、魔族は居たのでした。




