第77話 「ひとみちゃん⑧マコとホムンクルス」
日課が増えます。
文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。
・⋯━☞11月半ば☜━⋯・
••✼••アパート仁美の部屋••✼••
・⋯━☞朝6時☜━⋯・
コンコン!
《仁美さぁん! おはようございます!》
「んごっ!・・・すう・・・ふう・・・すう・・・」
カチャ!・・・パタン!・・・
「ほおら! 朝ですよお~ 起きてください!」
ゆっさゆっさ・・・
「ふがっ!・・・んん? ああ、はいはい・・・落ちます・・・
ふぁあ~~~あぁあぁあぁあぁ~~~きゅっ」
まだ寝ている仁美を、揺さぶる和美。
仁美は目を覚ますと、のそのそと布団から起き上がり、大きなあくびをする。
でもまだ、シッカリ目が覚めていないようで、言っている事が謎である。
「あははっ! 落ちて、どうするんですか?(笑)
ほらほら! はやく、起きてください!」
「ふぁい・・・」
「じゃあ、顔を洗って来てください」
「ふぁい・・・」
「よっ! よっこらしょっと!」
パンッ! パタパタ・・・
和美は、仁美を起こすと、布団に顔を押し当てて匂いを嗅ぐ。
こらこら、何をしてるだ?
・・・と言いたいところだが、仁美はそんな和美には気付いていない。
和美は、しばらく仁美の布団に染み付いた仁美の匂いを嗅いだあと、満足したのか少し顔を赤らめてニッコリ微笑み、布団を畳んで押し入れに仕舞う。
仁美の香りは、なぜだか桃のようなココナッツのような甘い香りがする。
和美は、仁美の香りが大好きだった。
そして、折りたたみ式の『ちゃぶ台』を設置して、向かい合わせに座布団をしき、ちゃぶ台の天板を布巾で拭いて朝食の準備をする。
昨夜のうちに洗っておいたお米を炊飯器にセットして『炊飯ボタン』をピッ!と押しす。
棚から出汁の粉を出して、お鍋に水を入れたらガスレンジで火をかけ、出汁の粉を入れる。
冷蔵庫から、お豆腐、ナメコ、ワカメ、味噌、卵を2つ出してきて、お豆腐、ナメコ、ワカメを包丁でトトトっ!と手頃な大きさに切ると、たぷたぷっと鍋に沈める。
煮たってきたら、沸騰しないように火を弱くして適量の味噌を網でこしながら溶かし、味見をして良かったら、卵を2つ割って、とぷん!と入れたら蓋を少しズラして閉める。
コトコトと吹いてきたら、火を消して蓋を閉じ、余熱で卵を温める。
この味噌汁は、実は仁美の母親の味噌汁の作り方であり、以前に和美に話した時から、和美がこの味噌汁を作ってくれるようになったのだ。
卵を入れると少し濁ってしまうが、仁美はこの卵入りの味噌汁が大好きだった。
余熱で卵が煮えた頃合で、お味噌汁の出来上がり。
上手くできたなら、卵は半熟になるのだ。
この半熟の卵が堪らなく美味いのだ。
朝食なんて、ご飯とお味噌汁だけでも良いのだが、なにか物足りないと、もう1品何か作ろうと冷蔵庫から取り出したのは塩サバだ。
余分な塩気を洗い流して、水気をキッチンペーパーで拭き取り、ガスレンジのグリルに塩サバ1切れを入れて焼き、焼けたら2つに切って、百均で買って来た長方形の皿に乗せて、その横に沢庵をチョコンと添える。
するとその頃には、ご飯が既に炊けて保温になっており、15分ほど蒸し終わった頃で、丁度良さげな食べ頃となり、ご飯をお茶碗によそって、ちゃぶ台に並べる。
急須にパックのお茶っ葉を入れて沸いた湯を注ぎ、しばらく蒸らしたら湯呑みにお茶を注ぎ、仁美と和美はちゃぶ台に向かい合わせに座って、『いただきます』をする。
「いただきます!」
「はい! おあがりなさい では、私もいただきます」
「じゅる・・・あちちっ!・・・
ふぅ~~~! ふぅ~~~! じゅるる・・・うまっ!」
「ふふ・・・」
こうして何時ものように朝食をとる。
これが、仁美と和美の朝の日課となっていた。
この頃になると、和美は一人称を、『僕』と『私』とを使い分けていた。
どちらかと言うと、仁美と2人で居る時は、『僕』と自分の事を呼ぶ事が多いようではあるが、いずれは『私』と呼ぶことに馴染みそうだ。
暫くすると、このささやかな幸せに水をさす、ファック・リリーの声が聞こえてきた。
マコがこのアパートへやって来てから、もう半月が過ぎた。
マコは寂しがり屋なのか、毎日のように仁美の部屋に来る。
あのスケベ犬の、リリーも一緒に。
《ホワォウ! ホワンホワン!!》
「ぶっ! けほっ! けほっ!!」
「あっ・・・また来ましたね(汗)」
「なんなんなよ? こんな朝っぱらから」
コンコン!
《大川さぁん! おはようございますぅ!》
「ああんもお! やっぱり来た!」
「はぁ・・・しょうがないですねぇ」
仁美と和美は、マコとリリーが正直苦手である。
それでも来てしまったのは無視できず、仕方ないので出迎える。
無視をする訳にもいかないので、和美は玄関のドアを開けるのだった。
トットットットッ・・・カチャ!
「ホワンホワンホワンホワン!!」
「きゃあっ!!」
「ふぉっ?!」
バタバタバタバタッ!!
「うをわあああっ!!」
和美が玄関のドアを開けると同時に、マコの愛犬リリーがビックリ箱の様に飛び込んで来た!
リリーは、和美をまるで『トコロテン』の様に流れるようにスラリと交わすと、仁美に目掛けて猪突猛進!!
朝食を並べた たちゃぶ台を飛び越えて、仁美に向かって豪快にタックル!
味噌汁はひっくり返るわ、持っていたご飯入りのお茶碗はすっ飛ぶわ、お茶は服にぶっかかるわで、まるで部屋の中に台風が吹き荒れたように最悪を絵に描いた様な有様だ!
慌てて逃げようと四つん這いになった仁美に、リリーが後ろから乗りかかり、また腰を激しく動かしていた。
「ファオウン! ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」
「いやあああああああ~~~! 助けてぇえええ~~~!!」
「仁美さん!! ちょっと! マコさん、なんとかしてください!!」
「あらあらあらあら? リリーちゃんったら、よほど大川さんが好きなんですねぇ~?」
「こらあ━━━っ! 何を呑気なことを・・・
ちょおっ! このファック・リリーをなんとかしてえ!!
ってわあっ! いやいやいやいやっ! やめてぇ~~~!!」
「もおっ! マコさんってばあ!!
笑ってないで、早くなんとかしてください!!」
「あっ! そうやったね? はいはい
ほらほら! リリーちゃん! オイタはダメですよぉ?」
「フワッ! オン! キュウゥウゥウゥン・・・」
「え?」
リリーは、やっと離れてくれた。
なぜ、仁美がマコの愛犬リリーを、『ファック・リリー』と呼ぶのか?
その理由は、なぜか仁美はリリーに気に入られてしまい、リリーに何時も襲われるからである。
『襲う』と言っても、噛み付く事はしないが、仁美の上にのしかかって交尾をするかのように腰を振るのだ。
だから仁美は、リリーの事を、『ファック・リリー』と呼ぶのだった。
マコは、リードを掴んでグイッ!と引っ張り、仁美からリリーを離す。
流石にリリーほどの大型犬になると、マコ1人ではどうにもできず、リードを無理やり引っ張るしかなかった。
仁美には、怪我はなかった。
だが、仁美の腰の部分には、なにかベタつくものが付いていたが、仁美には確認できなかったので気付かなかった。
でも和美はすぐにソレに気付いたので、仁美に服を着がえるように言う。
仁美は着替える意味が分からなかったが、首を傾げながらも和美の言うように着替えたのだった。
そのあと、仁美と和美はまだ朝食を食べきっていなかったが、散らかって残飯と化して無駄になった食事や食器類を黙々と片付ける。
そんな仁美と和美と部屋の様子を見て、マコも流石に申し訳なく思ったのか、片付けを手伝ってくれた。
『当たり前やろ!!』
ただ、リリーたげは、無関係を装って、ハッハッハッハッと舌を出して満足気に笑っていた。
本来なら、『犬も歩けば棒に当たる』である。
たとえ犬にしてみれば、『私は何も悪い事などしていませんよ~』と、人様の敷地内に勝手に入り込んだとしても、その屋敷の主人に、『この糞犬! 勝手にワシの屋敷に入り込みよって! 出て行け!』と、棒で叩かれるってもんだ。
自分は、『悪い事をしていないつもり』でも、逆の立場から見れば『悪い事、迷惑な事』なのかも知れないのだから。
正直、めちゃくちゃ迷惑だが・・・
マコには、もう少しリリーの行動に注意して欲しいものだ。
ようやく片付けも終わって、もう出掛けなきゃって時に、マコが仁美に本題を話す。
「あの、大川さん」
「なんですか?」
「新谷さん」
「あ、はい なんですか?」
「お2人にお願いがあります!」
「「?!・・・はあい なんですか?」」
「私も魔法使いになりたいですっ!!」
「「ええっ?!」」
まさに! 唐突であった。
はあっ?! どう言う事?!
リオリオさんに、会ってないの?!
この、犬飼 真心という女性は、確かに以前は男性だと言っていた。
だとしたら、『女装役剤or女装剤』を飲んで女性に変身した訳であり、それはつまり『大魔法使いリオリオ良子』と、何ら関わりがあるはずなのでは??? と、そう思った。
だったら、マコにも既にリオリオが接触していて、『アンタ魔法使いにならへんかえ?』なんてリオリオから聞かれていたとしても、不思議では無いはずなのに・・・
「おの、ちょっと待ってください!
貴女は、『女装役剤か女装剤』を飲んで女の人に変身したんですよね?」
「そうですよぉ? そう! その有名な女装役剤でしたね!」
「女装役剤って有名なんや・・・」
「ふむ・・・」
「まあ、そりゃそうやわな・・・
元男なら女装剤か女装役剤を飲まんと女にならへんわなあ・・・」
「だとしたなら、大魔女のリオリオさんには会わなかったんですか?」
「だいまじょのりおりおさん? 誰ですかそれ?」
「「はあいっ?!」」
あれれ? 大魔女リオリオを知らない?!
バカなっ! リオリオに会ってないどころか、知らない?!
仁美と和美が『女装役剤』を飲んで女に変身したときには、2人とも必ずリオリオから来てくれた。
いや、リオリオから会いに来ていた!
は? リオリオを知らない? は? はあ? はああ?
これは、いったい・・・
「ちょっと、待て待て! リオリオさんに会ってないって、それホンマに?」
「はい! 今、そのリオリオさん?って方のお名前は初めて聞きました!」
「「?!・・・ええ~~~~~~???」」
仁美と和美は、目を丸くした。
そしてその時、和美がある事が気になった。
マコがなぜ、女装役剤を飲む事になったのかを。
和美は、その訳についてマコに聞いてみた。
「あ、なら、マコさんは、どんな経緯で女装役剤を飲む羽目になってしまったんですか?」
「あ、そうや! そうそう! そこ!」
「どんな経緯で・・・? 飲む羽目・・・?
ああ、そう言う事ですか!
お2人は、女装役剤を飲まなきゃいけない事態に巻き込まれたんでしたよね?
職場の上司から、そうお聞きしています」
「「う・・・うん(汗)」」
職場の上司?
いったい、仁美と和美の事を何処まで知っているのだろうか?
リオリオのように、やはり魔女か魔法使いなのだろうか?
めちゃくちゃ不安だが・・・
「私は、特にそんな事態に陥った訳ではありません!
私は、自分で入手して、自分で飲みましたから!」
「「はあっ?!」」
「ちょちょちょっ! 待って待って待って! いやいやいや!
意味わからへん!! 自分で入手? はあい? マジ?!
なんで、そんな事をした?!
それって、女装役剤を自分の意思で買って自分で飲んだって事?」
「もちろん! そうですよ?」
「「えええ?!」」
「え、え、え、ええっ?! うそ?! 本当に?
で、では、マコさんは、女性に変身するのもちゃんと理解したうえで、自分で女装役剤を飲んだって事ですか?」
「はあい! その通りです!」
「「えええっ!!」」
「そ、それ、わ、分かってて?!
ほな! ほなよ、女になりたくて、女装役剤を飲んだって事?」
「はい! そうですよ?」
「「?!・・・おおう・・・(汗)」」
仁美と和美は、信じられなかった・・・。
仁美と和美は、女になりたくて女装役剤を飲んだ訳では無い。
飲まざるを得ない状況に陥ったために、仕方なく飲んだのだ。
和美は、命がかかっていたので仁美に飲まされた。
仁美は、『罰ゲーム』で飲まされたのだが。
「で、では、女性になってからの、戸籍などの様々な公的な変更手続きや、その他諸々の事務処理などは・・・」
「あ、はい! 全て、自分でやりました!」
「「すごっ!!・・・・・・(汗)」」
なんと行動力のある・・・と言うか、この人凄いわ。
もし、仁美と和美が、リオリオの助け無しでだったなら、ちゃんと全てできただろか?
身体の性別が変わったからと言って、戸籍の性別を変えるには、まず何処へ行って何から始めなきゃいけないのかすら分からない。
リオリオさんは、司法機関でも堂々と手を回し押し通せるほどの権力を持っているらしく(流石大魔女!)、難なく何でも熟してしまう。
だが、普通一個人が戸籍の名前の変更をするだけでも、改名しなければならない余程の正当な理由が無ければならない。
でもそうではなく、ただ名前を変えたいだけなら7年はかかる。
日本では、『偽名を名乗ってはいけない』と言う法律は無いので、名前を変えたいのなら、変えたい名前を何年も使い続けなければならないらしい。
そしてその名が『通名』となり、その名を何年も使い続けていた証拠があるなら、名前の変更はできるらしいが。
基本変更可能とされる必要年数は、名前なら5年以上、苗字なら10年以上と言われている。
苗字は、結婚として離婚して苗字が変わったり戻って場たりした合なら、2つ前まで変更できるとか?
それを、あっさりやってしまうとは、マコさんっていったい・・・?
ってか、性別が変わったのだから、正当な理由ではあるが。
改名する前の男の頃の名前は、犬飼 誠だったそうな。
元々は、マコも九州出身だとか。
仁美と似た境遇で、マコが生まれてすぐに母親は産後の肥立ちが悪く他界。
そして数年前にも父親を病で亡くしているそうだ。
父親は、とある結構大きな食品製造業の社長だったそうだが、その父親が他界したら、父親の弟の叔父あたる人の娘 (イトコ)と無理やり結婚させられそうになったんだと。
だが、その彼女がかなりの性格に難アリで、そもそも誰とでも結婚なんて嫌だったし、会社も継ぐつもりも無かったので、無理やり結婚できない理由を作るために女装役剤を飲んで女になったんだとか。
日本では、同性同士の結婚は認められていないからだ。
誠は、あっという間に戸籍まで変更。
そこで、誠が女になったことを知った叔父は、娘に『男装役剤』を飲めと強要したが、娘は断固拒否!当たり前だろう。
そこまでして、マコと我が娘を結婚させたかったのか・・・
そして、父親の残してくれた遺産の行方は、父親が持病により余命を知った時点で、息子の誠が困らないようにと身体が動ける内に既にシッカリと弁護士に財産分与の事なども任せていて、父親の他界後には揉め事もなく解決済みであるそうな。
揉めなかったのは、完璧に父親が手を回していたので、為す術が無かったと言うのが正解か。
それでも叔父には贅沢などしなければ十分に暮らせるくらいの相当な額の遺産が入ったはずなのだ。
とにかくマコは自由になりたかったので、ちょうど高校卒業だった時期でもあり、高校卒業を機に叔父に会社を丸投げして、マコと父親が2人で住んでいた父親の建てた立派な豪邸も叔父に譲り今に至る・・・だそうだ。
それでもマコには、贅沢をしなければ仕事もしなくても一生苦労せずに楽々と暮らせるほどに、そこそこの貯蓄はあるらしい。
それも、父親が誠の名義で積み立てしていたお陰だ。
その上、遺産が入って相続税もかなりの額を持っていかれたのだが、それでも父親の豪邸が何軒も建つほどの大金が残ったとか・・・
それなら、アパートの修繕費くらい出せよ。
今は亡き父親も、マコが会社を継ぐ意思は無いものと理解していたのだろうとマコは言う。
マコが女性となり、戸籍の書き換えもなども済み、和歌山へ移り住んでからは、会社を継いだ叔父からは、一切連絡は来ていないそうで、マコも和歌山に居ることを叔父には伝えてはいないらしい。
また、マコが叔父の娘のと結婚を拒否し女になった時には、叔父からは連絡してくるなとも言われているんだとか。
嫌われたもんである。誰がするか!ってなもんだが。
マコに言わせれば、叔父やその娘なんてどうでも良いとのこと。
父親が他界して、マコが、ひとりぼっちになったからと、恩着せがましく偉そうにする叔父が大っ嫌いだとも言っていた。
だが、時々心配して連絡してくれる、マコと今も連絡を取り合っている、かつての父親の側近の部下だった人から聞いた話しでは、叔父が社長を継いだはいいが、ハッキリ言ってクソの役にも立たないし使えない奴で、毎晩のように飲み歩き、女遊びで金をばら撒き、昼前に出社したと思ったら、ランチに出掛けたっきり会社には帰って来ない事が多いとか。
商品開発も、人員関係も、今後の会社としての運営も、様々な決定事項も、叔父は彼に何もかも丸投げの任せっきりで、重要な判断を仰がれても『それでいいんじゃない?』で、終わりとか。
実の所、叔父は仕事に関しては知識も経験も皆無なので、彼がいなければ叔父は他社の重役とはまともな話しもできず仕舞い。
それでも亡きマコの父親(前社長)の意思を継ぐ腕の立つ部下達のお陰で、なんとか今は会社としては成り立ってはいるが、それが綻びるのも時間の問題と言う。
オマケに叔父が好き勝手に入れた性悪な部下の横領にも気付かないようなので『お飾り社長、カカシ社長、マヌケ社長』と社員からは陰で呼ばれているらしい。
そして娘は娘で、現社長の叔父から分け与えられた銀行の家族カードで毎日のように数十万も引き出し、仕事もしないで毎日男を引っ替え取っかえ遊び呆けているとか。
唯一まともだった叔父の奥さん(叔母)は、家庭を顧みない夫と娘には愛想が尽きて、とっくの昔に既に離婚。
父娘口を揃えて、『離婚しなきゃ今頃は社長夫人だったのに』と、バカにしているらしいが・・・
マコからすれば、ほんの一時期裕福に暮らせたとしても、すぐに地獄となるのならば、叔母の判断は正解だったかも知れないと思っている。
会社もこのままでは、叔父が何もしないで潰すか? 娘が食い潰すか? の、どちらが早いかと噂されているらしい。
本気でマコの父親の前社長の意思を継ぐのならと、取締役員会議で叔父を解任する案も出ているとか。
それでもマコは、叔父とはもう二度と関わりたくないし、会社の事はサッパリ解らないしで、全てを彼に委任しているらしい。
仮にマコが会社を継いで、叔父の娘と結婚していたとしても、結婚しなかったとしても、たぶん会社も私生活も、必ず叔父やイトコに邪魔をされて上手くはいかなかっただろうとマコは言う。
それに、叔父もイトコも、マコの事は今はコレっぽっちも話さない所から、最初から叔父もイトコもマコの事なんて自分達の豪遊生活のためにの出汁にしか考えていなかったという事だ。
まあ、今となっては、それぞれがそれぞれの人生を歩むと、捨てて捨てられた仲だ。
今更、マコには何の関係も無い話しである。
本当、仁美と似た境遇だった。
それはそれとして、マコは何もかも自分で熟してしまったので、リオリオとはただの1度も会ってもいないし関わっていないらしい。
だから、このまま何もしなければ、魔法使いになんてなれるチャンスは限りなく無いに等しいのかも知れない。
だからこそ、魔法使いの仁美と和美に、『魔法使いになりたい』と言ってきたのは、その夢が叶うチャンスが非常に大きくなる判断だと思うし、まさに大正解だと思う。
そしてその日の夜、仁美と和美はリオリオを呼び、『魔法使いになりたいと言う人が居る』とマコを紹介し、リオリオも二つ返事でマコを受け入れた。
その後は、マコが魔法使いになるのは、あたかも以前から決まっていたかのように、トントン拍子に事が進み、めちゃくちゃ早かった!
■===========■
・⋯━☞STATUS☜━⋯・
■===========■
名前 マコ
性別 女
年齢 19
種族 女性魔法使い
職業 魔法使い見習い
・⋯━━☆★☆━━⋯・
状態
【健康】
・⋯━━☆★☆━━⋯・
LV 88
HP 188
MP 296
STR 11
ATK 44
DEF 46
INT 26
SPD 61
LUK 110
EXP 148347
・⋯━━☆★☆━━⋯・
習得魔法
【ヒールLv2】【オール・ヒールLv1】【アンチ・ポイズンLv2】
【ハイ・ヒールLv1】【オール・ハイ・ヒールLv1】
【サンダーLv1】【シールドLv1】【バリアLv1】
【時間短縮魔法Lv2】
・⋯━━☆★☆━━⋯・
習得スキル
【魔力制御Lv2】【魔力操作Lv2】【魔力量計測】【鑑定Lv1】
【パワー・アップLv1】【ディフェンス・アップLv1】
【スピード・アップLv1】【魔法薬精製Lv5】【錬金術Lv4】
【クリーンLv2】【御用だ!Lv2】【テイムLv2】【シーズLv3】
・⋯━━☆★☆━━⋯・
装備によるスキル
【変身ミサンガ】
・⋯━━☆★☆━━⋯・
称号
【腐女子予備軍】【地味子】【KY無自覚毒舌】【黒の魔術師】
・⋯━━☆★☆━━⋯・
資格
【普通自動車】【原動機付自転車】
・⋯━━☆★☆━━⋯・
■===========■
・⋯━☞土曜深夜1時☜━⋯・
••✼••アパートマコの部屋••✼••
仁美と和美とリオリオとマコが、ムトランティアから日本へ帰って来た。
仮死状態の仁美達の身体に、精神体が戻る。
ブウゥウゥウゥ~~~ン・・・
「はっ!・・・えっ?」
「はうわっ?! なんじゃココ?!」
「ふん! マコの部屋じゃよ」
「「ええっ?!」」
「そう 私の部屋ですよ?」
「ちょ、ちょお待ってえ?! ムトランティアへ行く時とは違うやん!!」
今回、初めてリオリオ、仁美、和美、マコの4人でムトランティアで過ごしてから、日本へ戻って来て驚いた!
確か、4人でムトランティアへ行くからと、マコの部屋からムトランティアに、金曜の午後9時頃にログインしたのだ。
なにせ、このアパートは、1階の1号室と2階の6号室だけ、少し広く作られている。
仁美や和美の部屋では、4人で並んで寝るのが狭かった・・・
そして、戻って来てみるとマコの部屋が一変していたのだ!
「なんで? なんでこんな・・・」
「これは、マコの趣味なんじゃよ」
「「趣味っ?!」」
「うっわぁ~~~マジか?」
「なんだか、悪い魔法使いのお婆さんが出てきそうな雰囲気・・・(汗)」
「うんうん! そんな感じ!!」
「悪い魔法使いのお婆さんって・・・(悲)」
実はマコは、魔法使いになってから、『魔法薬精製』と、『魔導具生成』にえらく興味を持つようになった。
それは、日本に戻ってからもだ。
マコの部屋は普段は普通の部屋なのだが、夜になると部屋中の壁紙や天井が真っ黒に変わり、壁にはドクロや鹿の頭の剥製などの不気味なオブジェが飾られ、テープルの上には怪しい薬品らしい液体の入った器だとか、ビーカーだとか、アルコールランプだとかが、何に使うのか分からない品々が、ごちゃごちゃに乱雑に乗せられている。
壁には、何のハーブか分からないが、沢山の乾燥された植物が逆さまにぶら下げ掛けられている。
なんとなく部屋中が『お茶屋さん』みたいな香りがする。
これは、時間帯によって変化する『模様替え魔法』である。
マコの部屋は、昼と夜とでは、姿を変えるのだ。
『夜に誰かが訪問したら、どうするつもりなんですか?』
と、和美が聞いたら、『チェンジ』の合言葉で、瞬時に模様替えができるらしい。
すごいな・・・おい(汗)
また、マコはいったい、夜な夜なこの部屋で何を作っているのか?
聞きたいような、聞きたくないような・・・
知りたいような、知っちゃいけないような・・・
仁美と和美は、何も知らないが、リオリオが呆れているところを見ると、あまり堂々と言えるものではなさげだ。
「マコよ・・・ほどほどにしておけよ?」
「はい? 何の事ですか?」
「はぁ・・・まったく困ったもんじゃわえ
どうして私が世話する奴らは、こんなにも一癖も二癖もある奴ばかりなんじゃ・・・(困)」
「「あはは・・・(汗)」」
「・・・???」
そう言う、お話しですから・・・(作者談)
そして、和美がある物に気付いた。
部屋の隅っこの角に、何かが立っている。
「あれって・・・何かな?」
「うん? どれ?・・・・・・え?」
「ああ、それは・・・」
仁美は、その物体の側まで寄ってみた。
トットットットッ・・・
「ん?・・・んんん~~~? ゔえ”っ?!
なんじゃこりゃあ~~~!!」
それは、肉体年齢5歳くらいの、頭に羊のような角の生えた女の子の人形?のようだった。
お尻からは、紐みたいな細い尻尾に、先には黒のハートみたいなのがくっ付いている。
背中には、コウモリのような翼も。
『これは、魔族だろうか?』
自然と、そんな疑問が湧いた。
その人形?は、電話ボックスを小さくしたみたいなガラスケースに入れられていた。
しかも、全裸である。
「それは、大川さんをモデルにした、ホムンクルスです!」
「ええっ!! 俺っ?!」
「ホムンクルスう?!」
「はあい!」
「・・・(汗)」
マコは、悪ぶれた様子もなく、嬉しそうに話し続ける。
「この魔導グラス製の蒸留器ケースの中で、白野菜と、青野菜と、黄野菜と、赤野菜と、甘い実と、虹のキノコと、大川さんの卵子と血液を混ぜて作った粘土をよく捏ねて、本来なら40日間密閉させなければいけないところを『時間短縮魔法』で4時間で粘土の透明化、スライム化に成功させたんです!」
「「「・・・・・・・・・???!!!(汗)」」」
「そして、そのスライムを37.5℃で温め温度をキープしながら、毎日大川さんの血液を40週間与えるところを時間短縮魔法をかけて、4日間でホムンクルスの赤ちゃんになりました!
そしてホムンクルスの赤ちゃんを、甘い実から作った発育促進剤を飲ませることで、ここまでのホムンクルスにまで育てたんです!」
「え”え”っ?!」
「っっっはあああああ~~~~~~!!??」
「やっぱりのお・・・遂に完成してしまったのかぇ(怖)」
『怖い! 怖いぞマコぉ!!
ホムンクルスって、コレ生きてんの?!
確かによく見ると、胸が動いている。呼吸しているようだ。
ってゆーか、俺の『卵子と血液』って?!
もしかして、この前に強引にこの部屋で受けさせられた『身体検査』がソレかっ?!』
後からリオリオから聞いた話しでは、ホムンクルスの作り方とは、数種類のハーブと、精液と、糞とで作った粘土をよく捏ねて密閉した容器の中で40日間放置すると、成功したなら透明なスライムができるそうだ。
そのスライムを、人の微熱程度の温度(37.5℃程度)を保持し、40週間毎日血液を与え続けると、ホムンクルスの赤ちゃんが生まれると言うのは本当なのだそうだ。
だが、精液と糞と言うのは少々躊躇していまう。
それに、『精液』なんて入手できないだろう。
ここには、男は居ないのだから。
そこでマコがとった行動は、仁美に身体検査と言って、奪取スキル【シーズ】で仁美から卵子と血液を取り出したようだ。
ホムンクルスを作るために。
どうも最近、ちょっとフラフラするな・・・と思っていたのは、血液を抜かれていたからだった。
もちろんそれは、リオリオが教えた訳ではなく、マコがムトランティアの何処かで誰かに聞いたか自分で調べたのだろうとのこと。
元々は、『悪魔召喚で有名なソモロン王』の悪魔召喚を復活させたと言う『アレイタスー・クウロリー』の著作物を見たのでは?とのこと。
マコは、『トップシークレット!』と言って、ガンとして何も話さないが・・・
それにしても、仁美そっくりである。
まるで、仁美を保育園児の女の子にしたような姿だった。
頭に羊の角が生えてはいるが。
「え?・・・そ・・・それで・・・こ・・・こ、こここ、これ、これで・・・い、いったい・・・な、なに、なにを?」
「使い魔が欲しかったからです」
「「「へっ!?・・・・・・・・・」」」
「リオリオさんには、妖精リオティーが居るでしょ?
だから私も妖精を生み出そうとしたのですが、なぜかこんなにも可愛い魔族の女の子に育っちゃいました!」
「「「????!!!!・・・・・・・・・・・・」」」
みんな、マコが言った言葉に凍りついた。
つまりマコは妖精が欲しくて、仁美にそっくりなホムンクルスを作り出したと言うのだ。
妖精とは、魔晶石から生まれるものであり、生み出した魔女や魔法使いの子供でもあり、最強のパートナーでもある。
だが、マコにはまだ妖精は生み出せない。
まだまだ魔法使いとしては、力不足である。
手に入らないなら、作ってしまえ!ってか?
安直やし極端すぎるやろ!!
なんとも、恐ろしい魔法使いが誕生したものだな・・・
「はぅわわわわわわ・・・(震)」
「仁美さん・・・大丈夫ですか?(汗)」
「お・・・おう、なんとか(汗)」
「この、ホムンクルスには自我はあるんかえ?」
「はあい! 大川さんに似た性格ではありますが、私にゾッコンに設定しています!
名前は、『ひぃちゃん』です
とっても賢くて聞き分けの良い娘なんですよ!
あ、でも、心配しないでください!
部屋のお外には、一度も出したりしていませんから!」
「えええええ・・・何それえ? 怖い(震)」
「「ひぃちゃん・・・て(汗)」」
マコは、生み出したホムンクルスに『ひぃちゃん』と名前まで付けて可愛がっているらしい。
「バカ娘達よ 気をシッカリ持つんじゃぞ!
そしてマコよ! このホムンクルスは、まだ生きているんかえ?」
「あ、はい! もちろん生きていますよ!
今は眠っているだけです」
「「「?!・・・・・・」」」
「ど、どれくらい生きられるんじゃ?」
「今は魔力が満タンだから、魔力の消費具合から考慮して・・・
このケースから外に出たなら、1年生きるかどうか・・・というところでしょうか?」
「「「?!・・・」」」
「では、そのケースから出さんかったら、どれくらい生きられるんじゃ?」
「ふぅん・・・魔力さえあれば、しばらくは生きられるんだけど、このまま放置して魔力が尽きるまでが・・・1年程度?
食事を与えたなら、数十年?
でも、魔力切れに気を付けながら魔力を注ぎ続けて育てたならば、何も飲んだり食べたりしなくても何年でも何百年でも生きるかも?」
「「「!!!!!!!・・・・・・(震)」」」
とんでもないモノを作り出したマコ。
本来妖精とは、核に魔晶石を持つ。
なのにマコが生み出したホムンクルスには、核が無い。
普通の魔族として、2つの心臓を持つ。
なので、完全な魔族の子供なのである。
しかも、生まれた時から、マコと同程度の知識を持ち、会話も普通にするらしい。
だが、性格は仁美なんだとか?
そして、マコにゾッコンなんだと言う。
だが、考え方によっては、ホムンクルスの生みの親は『精霊の倫理』に関係なく、極悪非道な使い捨ての恐ろしい魔女や魔法使いだって生み出せるって事になる。
マジで怖いんですけど・・・(震)
でも、ホムンクルスって、ちゃんと自我があって、思考して、意思があるとは言うけれど、やはり生みの親の育て方がとても影響するのだと思う。
その旨を、リオリオはマコに伝えた。
「・・・と、言う事じゃぞ?
お前さんは、その事をどこまで考えて、このなものを生み出したんかえ?」
「!・・・なるほど そんな事も可能なんですね
でも私・・・そこまで考えいませんでした
私はただ、妖精が欲しくて・・・それで・・・」
「「・・・・・・(汗)」」
「な? 考え方ひとつで、この世界をも破滅に追いやる事だってできるんじゃ!
ムトランティアでも、ホムンクルスの生成が『禁忌』とされている訳を理解したかえ?」
「・・・はい ごめんなさい
リリーと、別れなきゃいけない事になっちゃって・・・
私、寂しかったんです・・・だから・・・」
「「はあ?!」」
「リリーと別れる?! なんじゃそれは? どう言う事じゃ?」
「実は・・・」
「「・・・・・・・・・(汗)」」
マコは、かなりリオリオの言われた事に堪えたようだ。
だが、ホムンクルスを作る事になったのは、リリーと別れる事になったからだそうだ。
結局、このアパートでは犬は飼ってはいかないというルールが実はシッカリとあり、リリーを手放せないなら、このアパートから出て、『動物OK』のアパートなどを探さなきゃいけなくなる。
それにマコは、仁美と和美とは違って、管理人もしているからと、ほとんどタダ同然の家賃で住まわせてもらえているのだそうで、他所に移り住むのは考えられないとか。
なのでマコは、泣く泣くリリーと別れる事に。
では、リリーは何処へ行くのか?
マコの上司からの勧めで、ちょうどリリーみたいな大型犬が欲しいと言う若い夫婦が居たので、その夫婦が引き取るとこになったそうな。
なので、マコはまた、ひとりぼっちに。
だから、ホムンクルスを生み出す事を決めたんだそうだ。
でも、理由はどうあれ、禁忌であるホムンクルスを生み出してしまった。
だからと言って、この日本では、ホムンクルスを生み出したからと罪になる法律なども無いし、魔管保省も管轄外だ。
生み出してしまったのは仕方ない。
驚異とならないようにシッカリと教育して、大切に育てるしかない。
ホムンクルスとは言えど、命と心を持ち生きているのだ。
それを消すと言う事は、命を奪うと言うこと。
流石にそれはできない。
マコの生み出したホムンクルスの『ひぃちゃん』は、マコとリオリオの監視の下、大切に育てる事になった。
・⋯━☞数日後の朝☜━⋯・
••✼••アパート仁美の部屋••✼••
コンコンコン!
《仁美ぃ~~~! 起きてる~~~?》
普段聞こえる事の無い、小さな女の子の仁美を呼ぶ声がする。
その声の主は、ひぃちゃんだった。
「お! ひぃちゃんか! 起きてるよ~~~!」
《入ってもいぃ~~~い~~~?》
「おおうっ! 入っちょんなぁ! 入っちょんなぁ~~~!」
ガチャ!・・・パタン!
ドタドタドタドタッ!
「ひっとみぃ~~~!!」
ガバッ!(仁美に飛び付き抱付くひぃちゃん)
「おおうっ! わっはっはっは!
元気やなあ~~~ひぃちゃんわ!」
「うーん! ひぃちゃんね、元気いっぱい!!」
「あははっ! そうかそうか!」
「「ぶう・・・(拗)」」
朝から、仁美とひぃちゃんは、本当の母娘のように抱き合ってイチャイチャしている。
そんな仁美とひぃちゃんを見て、和美とマコはずっと拗ねていた。
仁美は、ひぃちゃんが可愛くて仕方が無かった。
なにせ、本当に仁美にそっくりなのだから、我が娘のようで、もう可愛くて可愛くて堪らない♡
それに、仁美の血を分けて生み出したホムンクルスなのだから、本当の母娘と言っても間違いではないだろう。
確かマコの話しでは、ひぃちゃんはマコにゾッコンに設定していると言っていたが、それはどうやら正しくないようだ。
もちろん、マコにゾッコンだが、仁美にもゾッコンだからだ。
「ひぃちゃん? そろそろ、お家に帰りますよ?」
「ええ~~~ん? もっと仁美ちゃんと遊びたあい!」
「あはは でも、ママが言うから、もうお帰り?
また明日、遊びにおいで!」
「はぁ~~~い」
「ひぃちゃん、またね!」
「和美ちゃんもね! バイバイ! 仁美ちゃんバイバイ!」
「「バイバイ」」
・・・・・・パタン!
と、こんな風に、これから騒がしい日々が続くのだった。
仁美に、可愛い娘ができたした、
・・・のか?




