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女装剤  作者: 嬉々ゆう
74/91

第73話 「ひとみちゃん④『悲劇』」

何時ものような休日だと思ったら・・・


文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。




 ・⋯━☞翌日の日曜日の午前☜━⋯・



 ••✼••和歌山市内某所••✼••



 キュウゥウゥウゥウゥ~~~ン・・・(モーター音)


 トゥンツクトゥントゥン~~~♪(オーディオ)


「っはあ━━━っ! まさか和美が、車の免許持ってたとわなぁ?

 アウトドアとは無縁の、インテリ・インドア・お真面目君やと思ってたのに、これはこれは、おっどろき~~~やわ!

 ひゃっほぉ~~い! いぇい! いえええ~~~い!」


「あはは・・・(苦笑)」



 仁美と和美は、レンタカーの電気自動車に乗っていた。

 カーオーディオには、和美が持参した『マイ・ベスト曲集』のSDカードを入れて、車内には軽快な曲が流れている。

 仁美は助手席で、まるで何処にでも居るごく普通の少女のように、無邪気にはしゃいでいる。



「いやいや! 僕の方こそ驚きましたよ!

 まさか仁美さんは、原付免許しか持ってなかったなんて」


「ぶぅ・・・それ、嫌味か?」


「いえいえ! 可愛いなって♡」


「っはあっ?! 可愛い? お前、頭沸いてないか?」


「ぷぷぅっ!! クスクスクスッ・・・(笑)」


「なんなよ! なんで笑うんな?!

 今のとこで、笑う要素あったか? ああん?」


「いえいえ! やっぱり今日の仁美さん、可愛いなって♡」


「はあん?! こいっつぅ~バカにしてるやろ(怒)」


 ドタドタドタドタドタッ!!


「あっはっはっはっは! 子供ですか?」


「ムッキィ~~~~~~(怒)」


 ドタバタドタバタドタバタドタバタッ!



 仁美は頭に来て、足をドタバタさせていた。

 また、和美の勝ち誇ったような笑顔がムカつく!



『今日は、和美が俺をドライブに連れて行きたいと言い、和美が車をレンタって来たので、ちょっとしたお出かけなんて久しぶりなので、付き合ってやった。

 だって、朝早くから居なくなったと思ったら、いきなり車に乗って来るんやから、せっかくやし? 乗ってあげやな可哀想やし? レンタ代勿体ないし? 仕方ないし?

 和美は、大学の頃には既に、『普通自動車免許(AT車限定)』を取得していたらしい。

 なんとまあ! 充実した学生生活だったのね?ってか!

 チッ! この羨ましいってばよ!・・・ムカつく!』



 和美は、助手席で頬をプク~っと膨らませて拗ねている仁美が、可愛くて仕方がなかった。

 そんな和美の発言は、正直な気持ちだったのだが・・・



『俺、年上ですけど?』



 仁美には、伝わらなかったようだ。

 なにせ、仁美は今でも自分の顔を思い浮かべると、『短髪五分刈りアラサー独身野郎』の顔が浮かんでしまう。

 だから和美が、こんな年上のオッサン相手に、何を言うのか!!と思ってしまうのだ。

 だが、ふと足元を見ると、リオリオやカウンセラーから強く勧められて着るようになった、スカートとローヒールの靴が目に入る。

 手を出せば、先細りのスラッとした綺麗な手と指が目に入る。

 今の仁美は、ちょっと大き目でブカブカのクリーム色のパーカーを着て、下は薄ピンク色のプリーツスカート。

 そんな自分の服装を見て、ハッ!と思い出すかのように・・・


『あ、そっか! 今の俺は女やったっけ?』


 と、思い出すかなように自覚するのだった。

 それに、今の自分では、言葉でも力でも和美には勝てない気がして、少々ムカつくが大人しくするのだった。



「で? 何処へ連れてってくれんのよ?」


「そうですねぇ・・・海楠(かいなん)の水族館はどうですか?」


「水族館か・・・ふぅん えんちゃう?」


「ふっ 分かりました! じゃあ、水族館に向かいましょう!」


「・・・で、金は?」


「・・・もう、分かりましたよ! 僕が出します!」


「やったあ!! 水族館♪ 水族館~~~♪」


「はぁ・・・まったく仁美さんは、本当に子供みたいですね?

 この見た目は無邪気な美少女が、まさか元、男性ホルモンの塊の・筋肉ムッキムキの・短髪五分刈り頭の・8の字強面の・アラサー・独身野郎だったとは、とても思えませんね(汗)」


「はん? 何かゆーた?」


「べぇ~~~つに!」


「ふふん! 水族館♪ 水族館♪」


「ふふふ・・・」



 こうして仁美達は、海楠市の水族館へ向かった。

 男の頃なら、水族館なんてまったく興味が無かった。

 でも今は、水族館と聞くと、ワクワクする!すごく行きたい!って気待ちになる。

 これも、身体が女だから、心も女性っぽくなるのだろうか?


 だが2人は、水族館には行けなかった・・・



 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・




 いったい、何が起きたのか?

 何か水滴がポト⋯ポト⋯ポト⋯と落ちる音が微かに聞こえる。

 遠くで、何人かの人達が、ワイワイ騒いでいるような声がする。

 身体中が痛い。

 頭がフワフワする。

 まるで夢でも見ているかのような感覚だ。

 両腕も首も上半身も動くが、足が動かない。

 両足の膝から下が、ピクリとも動かないのが解る。

 と言うか、両足にだけ、まったく感覚が無い?

 いや、あるような感覚なのだが、痺れていて足の指先も動かないような?

 そして何やら、額がベタベタするので、手で触ってみたら、ヒヤリとした冷たい液体に触れた感覚がしたので、なんだと思ってその手を見てみたら、それは真っ赤な血だった。

 どうやら、頭を怪我しているようだ。

 もう、身体のそこら中が痛くて、しかも痛い場所が段々増えていくようで、頭のどの部分を怪我しているのかさえ解らない。

 俺はいったい、どうしてしまったのか?


 和美は?!


 薄暗くて、あまり視界が良くない。

 痛む身体を少しよじって、自分の胸辺りを見てみたら、ダッシュボードが目の前にあった。



『はあ?・・・なにこれ? どうなってんの?』



 よく目を()らして見てみる。

 何か白いふにゃふにゃした物が、ペロンと垂れ下がっている。



『ん? これ・・・AIRバック?』



 それは、明らかに1度膨らんでしぼんだAIRバックだった。



『事故ったんか?!』



 その時やっと、乗っていた車が事故に遭ったことを悟った仁美だった。

 だが、走っていて何かにぶつかった記憶が無い。

 いったい、どんな事故だったのか、まったく思い出せない。

 と言うか、気が付いたら、こんな状態だったのだ。



『和美は?! 和美は、何処?!』



 仁美は、和美の安否を確認する。

 幸い、生きてはいたようだ。

 だが、状況はけっして安心できるものではない。



「和美・・・! 和美、だいじょぶ・・・か?」


「ううう・・・」


「和美! どうした?! 何があった?!」


「赤・・・信号で・・・ゔっ!・・・止まって・・・い・・・たら・・・と、トレーラーが・・・車を・・・次々に・・・く、ううっ・・・跳ね飛ばしながら・・・はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯僕達の車に・・・つ、突っ込んで・・・来て・・・」


「ふえっ?!」



 そう言えば・・・!

 微かに覚えている? いや、思い出した!

 事故の衝撃で、しばらく記憶が飛んでしまっていたようだ。


 確かに、赤信号で片方2車線の大型交差点の一番先頭で止まっていたら、突然和美が、『うわっ!』と、悲鳴にも似た叫び声を発したかと思ったら、反対車線側からトレーラーが赤信号で停車中の車を次々にボーリングのピンのように跳ね飛ばしながら、仁美と和美の乗る車に向かって突っ込んで来たのだ。

 その光景は、あもりにも壮絶すぎて、さながらハードアクション映画のワンシーンのようで、まるで現実感が無かった。

 

 とにかく、今の自分達の状況を把握したい。

 自分は今、仰向けになっているのは解る。

 だが、脚がまったく動かないし、感覚もない。

 多分・・・もう潰されているか、それとも・・・

 とにかく、和美にも聞いてみる。



「和美? だいじょぶか? どっか痛い所はあるか?」


「む・・・腹部が・・・」


「腹部? 腹か? ちょっ、ちょっと待てよ? 確認するから・・・」



 仁美は、身体をひねって、なんとかうつ伏せになる。

 すると、頭から流れ出る血が、顔にまで流れてきて目に入る。

 景色が、一瞬真っ赤に染まって見えた。

 そんな目を、パーカーの袖で拭き取り、よく車内を見回すと、どうやら車は横転しているようだった。

 座席も何もかもが真っ逆さまだ。

 だが、まるで凄まじい力で引き裂いたかのようにダッシュボードだけを残して、他は計器類やハンドルなどが、全く無い!

 グシャ!と、ひしゃげたガラスの割れたフロントガラスの部分が少し隙間が開いていて、前方が少し見える。

 その隙間から外を見てみると・・・

 ボンネットと言うか、車の先端部分と言うのか、エンジンルームも何もかもが、ゴッソリと無くなっていた。

 そして自分の足元に目をやるが、自分のスカートから出ているはずの足が見えない。

 しかも、スカートの裾が真っ赤な血に染っている。



「なんじゃコレ?!・・・俺の足は・・・???」



 思わず声に出していた。

 スカートの裾から出ている筈の両下肢が完全に無くなっていた!

 なのに、全く痛みも痒みも感じなかった。

 それよりも、とにかく今は和美を・・・!


 そして、運転席の真上にあたる位置に、和美がコチラを向いて腹を両手で抑えている。

 どうやら、腹部を痛めているのは確かなようだ。

 しかし、何がどうなっているのか、理解できない。

 いったい、自分は何を見ているのか?

 最初は和美が、グシャグシャに丸めたビニール袋でも使って、お腹を抑えているのかと思った。

 だが、それはビニール袋などとは違った・・・

 仁美は、目をこすって、何度も見直した。

 そして、それが何かのかを理解した時、仁美の思考は一瞬フリーズした!



 その時! 仁美は、信じられない光景を目にする!



「ちょっと、我慢してくれよ?・・・・・・え?」


「・・・仁美さん? ど、どうしたん・・・ですか?

 ぼ、僕は今・・・ど・・・どうなって?」


「いやあああああああ~~~!! 和美━━━っ!!」


「え?・・・なに? ど、どうし・・・」



 なんと、和美の腹部には、ボッコリと大きな穴が開いていて、ピンク色の腸や、真っ赤な肝臓らしき臓器などの内臓が飛び出していたのだ。



「いやあああっ! なんで!? なんでぇええええっ!!」


 ぴちゃ⋯ぴちゃ⋯ぐにゅ⋯


「仁美・・・さん・・・泣かないで・・・」


「和美っ! 和美ぃっ! 死ぬなっ! 死なんといてぇ!!」


 ぷちゅ⋯ぴちゃ⋯ぐちゃ⋯



 仁美はパニックになり、和美の開いた腹部から飛び出した内蔵を元の腹部の中へ戻そうと、両手で必死に押さえ込もうとしていた。

 そんな事をしても無駄なのだが、この時の仁美には、こうする事しかできなかった。

 仁美の両手は、和美の流した血によって真っ赤に染まる。


 そんな時!


 後部座席辺りから転げ落ちるように、目の前にマジック・バッグがある事に気付いた!

 そうだ! 女装役剤!!


 仁美は、マジック・バッグから女装役剤を取り出し、和美に飲ませようとするが、上手くできないし、1本をほとんど零してしまった。


 その時、仁美は徐々に意識が希薄になってくるのを感じた。



『ヤバい! 俺も和美も、このまま意識を失ったらお終いや!』

 


 仁美は諦めずに、もう1本女装役剤をマジック・バッグから取り出した。

 そして、上半身だけの力で、なんとか和美のすぐ近くにまで来れた!

 だがその時に気付いた!

 

 仁美の両足が、膝から下がまったく無い!


 その事態に気付いた仁美は、一瞬気を失いかけたが、なんとか踏ん張って気持ちを奮い立たせ、腕だけの力で和美の顔のすぐ横にまで移動できた!

 そして今度は、自分の口に含んで、和美に口移しで女装役剤を飲ませた。


 今度は、上手くできたよだ。

 

 すると、和美の身体は青白く光り輝き、みるみるうちに和美の腹部から飛び出した内蔵は逆再生のように腹部へ戻り、腹部の穴もみるみるうちに塞がり、和美の身体は完全に五体満足な身体へと回復したのだ!



「仁美さん! 仁美さん、大丈夫ですか!!??」


「和美・・・良かった・・・治った・・・んや・・・な・・・」


「仁美さあん! シッカリしてくださあい!

 えっ?! 仁美さん、その足!?

 うわあああああああ~~~!! ちきしょー!!

 はっ! そうか! 魔法薬!!」



 和美は、仁美が飲ませてくれた女装役剤で自分が回復した事を思い出し、マジック・バッグから女装役剤を取り出しそうとした!


 だが!


 マジック・バッグは、何も反応しない!

 なぜなら、仁美のマジック・バッグは、所有者の仁美と、製作者のリオリオにしか使えないからだ。



「なんなんだよコレわあっ! なぜ、なにも出てこない?!」


「和美・・・それは・・・あかん・・・意識が遠く・・・」



 和美が、必死になってマジック・バッグから魔法薬を取り出そうとするが、なにも起こらないし、どうにもならない。

 仁美は、出血多量で、意思を失う寸前だ。

 でも、なんとか意識が薄らいでいくなか、仁美は出せる力を振り絞って、マジック・バッグから女装役剤を取り出す事ができた!

 和美は、仁美の手からマジック・バッグを奪い取るように受け取ると、女装役剤を口に含んで仁美に口移しで飲ませた!


 すると次の瞬間!


 仁美の身体は青白く光り輝き、切断されていた両足も、みるみるうちに再生して、元の綺麗な足に回復していた!

 なんとか、和美と仁美は、命を失う寸前で助かったのだった。



「仁美さん! 大丈夫ですか?!」


「あ・・・ああうん・・・まだ、血が足らんのか、フラフラするけどな・・・」


「そうですか・・・僕もです・・・

 でも、良かった! 良かったあ━━━っ!!」


「いででっ・・・いだいよぉ~~~和美~~~(汗)」



 和美は、ひっくり返った車内で、仁美を力任せに抱きしめた!

 だがこの時の和美は、自分が女に変身しているなどとは、知る由もなかった。




 ・⋯━☞約30分後☜━⋯・



 ピピー! ピピー! ピピー!・・・


「はい! 巻いてー! ごーへい! ごーへい!」


 ガキン! カラカラッ・・・カランカラン!・・・

 ガラガラガラガカラ・・・ガシャシャーン!


「「うわあ~~~・・・(汗)」」



 やっと、パトカーや、救急車や、消防車や、クレーン車や、牽引車が来て、交通整理をしながらの現場検証が始まった。


 作業員達が、和美が運転していた変わり果ては姿のレンタカーにワイヤーを掛け、クレーンへ向かって巻き上げの合図をする。

 すると徐々に浮き上がる車の中や外から、部品やら積荷などがすごい音を立てて落ちる。


 仁美と和美は、自分達が乗っていた車を改めて見てゾッとした(怖)


 外からだと、車体の全体像がハッキリと解る。

 運転席から前がゴッソリ無くなってるし、屋根はペシャンコだし、ガラスは全て割れてるし、タイヤは前輪2つ無くなってるし、逆さまな車を上下元にひっくり返えすとき、車内から血がポタポタ滴り落ちてるしで、ホラーですよ! ほら! ホラーですよ!!

 



「・・・なあ?」


「なんです?」


「あの、滴り落ちてる血って、俺らの血やよな?」


「ですね・・・」


「すんごい量、出てたんやな?」


「ですね・・・」


「ホンマに・・・よお、俺ら生きてたな?」


「ですね・・・」


「ですねぇ~以外に、他に何か言えやんのかえ?」


「ごめんなさい・・・」


「へ?」


「あの時の事を思い出すと、震えてきて・・・」


「あああ~~~ごめん! ごめん! 確かにな!

 俺も、なんか現実感が無くて、なんか妙にテンション上がってしもて、今でもなんか夢見てるみたいやわ・・・」


「はい・・・でも、良かった・・・」


「あ、うん・・・」


「僕・・・仁美さんを失ってたらと思うと・・・」


「それは、俺も同じじゃよ~~~え?!」


「ひっく! うううう~~~(泣)」


「ちょっ! おいおい!(焦)」



 そう言って、和美は子供のように泣き出してしまった。

 確かに、仁美も凄く怖かったし、マジでもうダメだとも思ったし、なんとかこうして今生きているのが不思議で、『これは夢を見ているのではないか?』と、思ってしまうほどに、目の前の惨状はあまりにも悲惨なせいか、混沌とした事故現場と化していた状況を、なぜだか他人事のように客観的に見てしまっていた。

 だが幸いな事に、手足の骨折などの重傷者は数人居るものの、死者は1人も出なかったらしい。

 血を流したのは、仁美と和美だけだったのだ。


 だが、1番悲惨な状態だったのが、仁美と和美が乗っていた車で、完全に原型を留めていなかった。

 それに、仁美も和美も全身血だらけになっていたのに、擦り傷一つしていないのが、救急隊員や警察官も不思議だと頭を抱えていた。

 でもやはり血が足らないのか、フラフラする。

 あれほどの出血多量にも関わらず、女装役剤を飲んだからなのか、少し血が増えたのだろうか?

 車内で悪戦苦闘していた時よりも視界はハッキリしているし、思考もシッカリ働いている。

 魔法薬というものは、上手くできているのだなと感心した。


 でも見た目は身体中に少し赤黒くなった血だらけの、ボロボロのビリビリに引き裂かれたゾンビの服みたいなホラーな姿だったので、救急車に乗せられ病院にへ運ばれそうになったが、本当に怪我をしていなかった(女装役剤で回復した)から、他の事故の当事者達と、現場検証に立ち合った後、念の為にと病院に運ばれてしまった。


 事故の発生した原因は、トレーラーの運転手の『プチ脳梗塞』らしいとのこと。


 ちょっとだけ脳梗塞になって、すぐに治ってしまうってヤツだ。

 トレーラーの運転手の話によると、突然頭がポア~となり、左目が見え辛くなくなったと思ったら、右半身が急に痺れてきて動かなくなって、右手がハンドルから滑り落ちたと言う。

 慌てて左足でクラッチを踏んだものの、右足が麻痺って石のように重くてブレーキを踏む事ができずに、ノンブレーキで前方の赤信号で停車中の5台の車を次々に跳ね飛ばして、反対車線に止まっていた仁美と和美が乗る車に突っ込んだのだそうだ。

 そしてそのまま、仁美と和美の乗る車を押し続けながらしばらく走り続けて、ガードレールをまるで紙かゴムかのようにグニャグニャにしながら、仁美と和美が乗る車を押し続けたんだとか。

 だから、仁美と和美の乗る車の前方が千切れ、仁美の両足をバツン!と切断し、和美の腹部をガードレールの破片でえぐり取ったのだと考えられる。


 後に、事故を起こしたトレーラーの運転手は、皮肉にもプチ脳梗塞が治り、今は何ともないらしい。



「凄いっすね! あんなになった車内に閉じ込められていて、よく僕達生きてましたね?」


「そ、そらぁ・・・まあ・・・な?

 ここでは、大きな声では言えやんけどな・・・(汗)」


「ですよね・・・(汗)」



 今こうして、2人は平然として話してはいるが、事故現場はさながら地獄絵図だった。

 なんと、壮絶だろうか・・・



 この事故は全国ニュースとなり、仁美と和美は大破した車から救出されて、奇跡的に助かった2人の若い女性として報道された。

 だが、怪我の状態などは、うやむやにされた。




 ・⋯━☞30分後☜━⋯・



 ••✼••某救急病院••✼••



 ••✼••処置室••✼••

 


「仁美さん・・・」


「なに?」


「なんで僕は女の子になっちゃってるんですか?」



 病院では、和美は完全に女性として扱われた。

 今の和美は本当に女性だし、免許証には性別が載っていないからだった。

 また、名前も『新谷(にいや) 和美(かずみ)』なので、女性としても通る名前だったし。

 顔写真も、少しあれ?ってなるところだが、押し通された。

 髪を伸ばしたからだろうと・・・

 そして保険証が、なぜか紛失してしまっていたのだった。

 和美が女性として扱われるのは、仕方がなかった。

 そこで初めて、和美は自分が女に変身していた事に気付いたのだった。(遅っ!)



「あは・・・まあ~~~そりゃあ~~~あ前~~~な?

 お前を助けるために、女装役剤を飲ませたからやん?」


「それは、本当に感謝してますよ?

 今もこうして生きているのは、仁美さんのお陰です!

 仁美さんは、僕の命の恩人ですからね!

 でもね? 確か、『男装役剤』もあるはずでしたよね?」


「あはは~~~んんん~~~確かに~~~ね? 知ってたん?」


「ですよねえ? はい! 知ってましたよ!

 って、教えてくれたのは、仁美さんじゃないですか!!

 だったら、なぜ『男装役剤』を飲ませてくれなかったんですか?!」


「そんな事言われてもやなぁ~~~

 緊急事態やったし? 思い付かへんかったわ! てへ♪」


「・・・仁美さんの『てへぺろ』は可愛いですよ?

 うん! すんごく可愛い!!

 ですけどねぇ~~~!! 誤魔化さないでくださいよお!!

 なんで僕まで女の子に、なんなきゃいけないんですかあ!!」


「ちょっ! 声がでかいって(汗)」



 和美は、仁美が飲ませた『女装役剤』で、見た目年齢18歳くらいの、とても可愛らしい女の子に変身していたのだった。

 髪はショートボブで、ちょっと垂れた大きな瞳に、厚めのプニプニな唇に、胸は並より少し大きめで、どちらかと言うとスレンダー美人と言うところか?

 185センチあった身長は結構縮んで、172センチであった。

 声なんて、鼻詰まりっぽいアニメ声だったりする。



「でも、さっき『男装役剤』を飲ませてあげたやんかあ?」


「はい! でも、男には戻れませんでしたけどね!!」


「そそ、そんなに怒るなよぉ~~~ごめんってぇ~~~(汗)」


「ほんっっっとにもお!! ぷん! ぷん!」


「あはは・・・(汗)」



 そう言って腕を組んで、そっぽを向いて頬を膨らませる和美は、とても可愛かった。


 和美は、女にされた事を怒ってはいたが、どこか本気で怒ってる様子には、仁美には見えなかった。

 たぶん、命の危機でもあったし、仁美を事故に巻き込んでしまった事に責任を感じてもいたのだろう。

 和美は、責任については、とても煩いヤツだったから。



 仁美が和美に飲ませた女装役剤とは、『女装役剤100year』だった。

 つまり、異性と性行為をしようが、初潮を迎えようが関係ない!

 もう、100年も女性に変身し続けるとなれば、そんなの一生女性のまんまと言っても過言では無い。

 それに、男性が女装役剤を飲んで女性化した場合、男装役剤を飲んだとしても、もう男性には戻れない。

 しかし、女性が男装役剤を飲んで男性化した場合ならば、女装役剤を飲めば簡単に女性に戻れる仕様らしい。


 何にしても、もう和美は男には戻れないのである。



「あぁあぁあぁあぁあぁ~~~もぉおぉおぉおぉおぉ~~~」


「そんなに落ち込むなよ~ な? 和美ちゃん?」


「和美ちゃんなんて『ちゃん付け』で呼ばないでください! ひとみちゃん!」


「お前もな!!」



 この日、病院から解放された後、貰い事故とは言え、レンタカーの事務所での保険の手続きやら、事故を起こした相手の運転手の雇い主からの話し合いやの、警察へ行って落し物の引き取りなどと、大忙しだった。

 だが、ほとんどが滞る事もなく、サクサク済ませる事ができた。

 実はそれは、陰でリオリオが動いてくれていたからだった。




 ・⋯━☞翌日の月曜日☜━⋯・



 ••✼••アパート和美の部屋••✼••



 アパートの和美の部屋には、リオリオが居た。



「はあ・・・わ、わかりました(汗)」


「うむ 誰かと違って、この娘はえらく聞き分けがええの?

 ああだのこうだのと、能書きばっかり垂れるヤツとは大違いじゃわえ」


「あはは・・・すんません(汗)」



 また、例の如く、リオリオのサポートが始まった

 今度は、和美である。

 またこれから数日間リオリオに連れ回され、病院、家裁、役所、その他諸々の然るべき機関での手続きや変更などを行い、女性として必要な物資の調達から、カウンセラーの紹介などなど。

 和美は、仁美よりも早く終わり、1週間で終了した。

 名前は、そのままだった。

 ただ、東京の実家のご両親は、酷く悲しんだそうな。

 3人姉弟の1番末っ子だった和美は、たった一人の男だったのだそうで、お嫁さんを連れてきて姓を継いでくれる事を、ご両親は期待していたらしい。


 でも、女になってしまったものは仕方がない。


 男は捨てても、命は捨てられない。

 その事もふまえて、なんとか納得して貰えたそうな。




 ・⋯━☞1週間後☜━⋯・



 ••✼••アパート仁美の部屋••✼••



 仁美と和美は、ビールを持ち、乾杯をしていた。

 いよいよ和美が、女性として新しい人生の始まりである。

 仁美にとっては、和美への祝いのつもりだったが、和美はそうではなかった。



「お疲れさん!」


「あ、はい、どうも・・・」


 ブチッ! プシュー!


「カンパーイ!」


「乾杯・・・」


「なんななんなあ? そんなしけた顔すんなよぉ?

 俺にとっては、仲間ができて、めっちゃ嬉しいんやけどな?」


「仲間って?」


「せやから、男から女になった仲間やんかよ?」


「はあ・・・僕は、悲しいですよ・・・」


「なんで? 女になった事が、そんなに嫌やったんか?」


「当たり前じゃないですか!!

 僕は、仁美さんと結婚したかったのに・・・

 こんな身体にされちゃって・・・もうお婿に行けない・・・」


「ぶほっ!! けほっ! けほっ!」



 仁美は、思わず口に含んだビールを吹き出した!



「ちょっ、おまっ、ぷははっ!

 俺と結婚って、マシか・・・俺が嫁ってか? ふははっ!」


「なにが可笑しいんですかあ!!」


「いやいや、ごめんごめん!

 そりゃあまぁ、女の子なんやから、お嫁には行けても、お婿には行けやんわなぁ? あはは・・・」


「あははじゃ、ありませんよぉ!!

 あああもおおおお~~~! あの時、ドライブになんか行かなきゃ良かった・・・

 もう、仁美さんを抱けない・・・すんすん・・・」


「ぶはあっ! そ、それはまあ・・・なあ?

 せやけど、ハッキリ言うなお前・・・(汗)

 俺も、ちょっとばかし、残念な気もするけど・・・

 あんなに『ええもん』持ってたのにな?」


「なんですかそれぇ━━━っ!!

 今更、そんな事言われたって嬉しくないですよおっ!!

 うわあああ~~~ん!! 仁美さんのバカぁ~~~!!」


「バカって、あはは・・・あぁあ・・・(汗)」



 和美は、本気で仁美と結婚したかったと言う。

 でも仁美には、そんな気などさらさらない。

 抱かれても良いと思う男は和美だけだったが、他の男に抱かれるなんて虫唾が走るってもんだ。

 だが、そんな和美相手にしても、結婚は考えられなかった。

 仁美にとっての和美とは、『可愛い弟』みたいなものだったし。


 それより、ここ数日で仁美の身体の変化が著しい。

 なにせ、若返って見えるのだ。

 肉体年齢としては、16歳くらい。

 身長も、165センチにまで縮んでいた。

 一見すると、女子高生くらいだろうか。

 美人ではあるが、あどけなさが残る美しさである。



「それより仁美さん?」


「なんやあ?」


「なんだか、若返ってません?」


「ほお? やっぱり気付いたか?!」


「え? やっぱりって、何があるんです?」


「まあ、その話しは後々な?」


「はぁい???」



 仁美は、なぜか身体の変化については、口を濁した。

 別段、話せない訳ではないのだが、仁美にはそれよりも、やらなければならない事があった。

 もちろん、それは和美に対してである。

 今までは仁美にとっての和美とは、『可愛い弟』みたいな存在だったが、今では『可愛い妹』的な存在であろうか?


 だがしかし!


 そんな仁美にも、和美に対して多少の恨みはあった。

 なぜなら・・・



「ところでよ? 和美・・・」


「はい なんですか?」


「ジャジャ━━━ン!」


「・・・は?」


「コレ、なぁ~~~んだ?」


「それって・・・まさか! 電動コケシ?!」


「あら? よくご存知じゃないのぉ~~~和美ちゃあん?」


「まっ・・・まさか・・・それで僕を?」


「そう! その、まさかです!!」


「ひいぃいぃっ!!(汗」



 実は仁美は、和美に処女を奪われた事を根に持っていた。

 自分の行いが事の発端だとは理解していても、やっぱり大事なものを奪われたまんまでは面白くない!!



「ちょっ、いやいやいや! 待ってくださいよ!!

 まさか、本気でソレで僕の・・・を奪うつもりですか?」


「当たり前やないかい! 俺はやられっぱなしで、のほほんと居られるような男じゃ・・・女じゃないんやわ!」


「!!!!・・・しっ・・・失礼しますぅ!!」


 バタバタッ!!



 和美は、仁美から逃げようと立ち上がって玄関へ向かって走り出したのだが・・・



「御用だ!!」


 ジュルルパァン!


「きゃあ!!」


 ドテッ!!


「きゃふっ!!・・・な、なんですかこれぇ?!」


「相手を縛り付ける魔法スキルじゃよ! 魔法スキル!」


「まっ・・・魔法スキル?! 仁美さんって、魔法使いだったんですかあ?!」


「ふふん! 実はなぁ・・・」



 実は仁美は、2週間ほど前から、リオリオの教えによって、魔法使いになっていたのだ!!

 だが、まだまだ魔法使いになりたての、魔法使い見習いみたいなものだが、今ではこうして簡単な魔法やスキルなら発動できるまでになっていた。

 他にも、簡単な回復魔法の『ヒール』だって使える!

 もちろん、日本だけでは難しいので、ムトランティアへ行っての修行である。


 そして実は、リオリオから渡されている『変身ミサンガ』があるのだが、それを腕に着けると、以前の肉体年齢20歳前後の、身長178センチの女性の姿へと変身できるのである。

 ただ、1日中とはいかず、1日約12時間ほどしか効果は無く、使用しない時は外して魔晶石から魔力を移さなければならないらしい。

 まあ、言わばスマホの充電みたいなものである。

 また、激しい運動や、急激な心境の変化などがあると、変身できる時間が減ってしまうと言う。

 つまり、余分に魔力を消費するのである。

 なので、変身できる時間も減ってしまうのだと。



「そんな・・・まさか!」


「ふはははははっ! これからは私の事を、『魔法使いひとみちゃん』と呼べっ!!」


「?!・・・・・・はぁ~~~? バカですかぁ?」


「なんてよ貴様ぁ~~~!!」


「きゃああっ!! やめっ! ちょっ! やっ?! やあっ!!

 いやああああ~~~!! パンツ脱がすなあ~~~!」


「お前なんか、こうしてやるっ!! ふんっ!!」


 ズボッ!!


「ぎゃああああああああ~~~!!」




 こうして、『魔法使いひとみちゃん』が誕生したのである。


 そしてその後、和美は仁美に弄ばれて、『生娘を卒業』したのであった。

 新谷 和美、22歳独身、男→女。

 女になって1週間にして、『処女損失』。



ひとみちゃん!

とても、元、男性ホルモンの塊・筋肉ムキムキ・短髪五分刈り・8の字強面・アラサー・独身野郎とは思えません(汗)

その後の、仁美と和美の関係は・・・?

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