第70話 「ひとみちゃん①『変身!』」
トリセツは必ず読みましょう。
でも、普段使わないような難しい言葉や専門用語をアホげに長ったらしく並べたトリセツとは、読む意欲を失わせる意図を感じますけどね・・・
文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。
・⋯━☞お盆休み初日の朝☜━⋯・
••✼••とあるアパートの一室••✼••
ここは、教職員住宅に指定されている、超オンボロアパート。
ふと目が覚めると、時刻はもう朝の8時前。
トイレに行って用を足し、顔を洗って歯を磨いたら、プロテイン入の牛乳と目玉焼きを乗せたトーストだけの簡単な朝食をとる。
次に、テレビの前にドスン!と座って、溜まったビデオでも観ようとCSチューナーのリモコンのスイッチを入れる。
そして、専用マットを床に敷き、その上に上向きに寝転んで、両下肢と背中を床から浮かせながらダンベルを両手に持ってビデオ観賞である。
これが俺の休日の過ごし方である。
(様々なバージョンあり)
俺の名は、大川 仁美。
28歳、独身。
名前は女みたいだが、見れば分かるだろうが、俺は男である。
見た目は自他共に認める、身長『六尺二寸四厘(188センチ)』短髪五分刈り見た目8の字顔の、『筋肉バカ』とも、『脳筋バカ』とも呼ばれる、全身ムキムキ黒光りアラサー独身野郎である。
こんな俺でも、中学校の保健体育の先生をしている。
一応公務員であり、安定した収入と昇給があるが、生徒達が夏休み中でも教職員は仕事があり、サービス残業もありありだ。
でも、一応はお盆休みたるものは、あるのはある。
本当なら、田舎に帰って墓参りでもするものなのだろうが、俺の田舎とは両親の故郷である九州は長崎になるのだろうか。
どういう事かと言うと、実は俺の両親はすでに他界。
2人は九州で籍を入れ、俺が生まれてすぐに和歌山へ引越して、和歌山での暮らしが始まったはいいが、俺が大学を卒業した翌日に自動車事故で俺だけ残して2人とも逝ってしまった。
両親の遺骨は、和歌山市の霊園に墓を建て、今はそこで眠っている。
墓参りも、月一でしている。
俺の父親は、実は『工藤』の姓を持っていた。
母親との結婚を実家の両親に認めて貰えなかったらしく、仕方なく駆け落ちしたので、勘当されていたらしい。
そのため両親は、母親の姓だと聞いていた『大川』を名乗っていた。
元々父親は、特に俺の祖父となる人とは折り合いが良くなく、はやく家を出たいと考えていたそうだ。
その後に、父親の『工藤家』両親の一族も次々と絶えてしまう。
俺の父親は勘当された身であったため、葬式に出る事も墓前で手を合わせる事すら許されなかったそうだ。
何時かは墓参りに・・・と考えていた矢先に、父親よりも先に関東へ出て行った父親の兄が、どう上手くやったのかは知らないが、勝手に実家の屋敷を解体して土地も売っぱらい、先祖代々の墓も墓仕舞いをしてしまい、父親の実家の屋敷も無ければ土地も無いし、本家の墓も無い。
遺産なんてもちろん要らなかったし、どうでも良かったが、せめて墓仕舞いをする前に教えて欲しかった。
結局、俺の両親はタダの一度も、先祖代々の墓前で手を合わせる事は叶わなかった。
また、母親も元々孤児だったそうなので、田舎は長崎とは言ったが、こうなってはもう俺には田舎は無いと言うべきか。
父方の親戚とは一度だけ電話で話した事があるだけだし、顔すら見た事がないし付き合いも全くない。
また、そんな親戚だか何だか知らないが、たった一度の電話で、会った事もない奴に取り付く島もないほどにミソカスみたいにボロクソに暴言を吐かれて、遺産の相続権の放棄をゴリ押ししてくる奴だ。
そんな奴らとの交流なんて、こちらから願い下げだ。
それなら、1人がいい。
彼女とも別れてしまった今の俺は、『天涯孤独』と言えるのではないだろうか。
でも、俺の両親はとても優しく仲が良く、俺自身にもとても良く可愛がってくれたし俺も幸せだった。
本当に1人になってしまったが、俺の両親は今も俺の胸の中に生きている。
寂しくなんてないやい!
だから、親戚と俺の父親とに何があったかは知らないが、たとえ親戚と言えど、俺の両親を蔑ろにする奴らや、俺に対して言われのない暴言を吐く奴らなんかは、俺の人生には要らない。
『何処の馬の骨かも分からない女の子供』
そう言われた時は、流石に凹んだ。
俺の事ならまだしも、父親だけでなく母親の事までも悪く言われるのは、胸を切り裂かれる想いだった。
相手様から歩み寄って来るのなら拒まないが、俺から頭を下げてまで、あんな奴らからの施しを受けるつもりなど微塵もないし、相手様も何処の馬の骨かも分からない奴の子供の俺になんかに、施しを与えるなんてそんな気もハナっからさらさら無いだろう。
だが、俺は今は独りを満喫している。
そんな俺の楽しみと言えば、溜まったビデオの観賞や、ラノベ漁りだ。
今日も朝から溜まったビデオでも観ようかとCSチューナーを操作していたら、彼女と別れてからというもの滅多に鳴る事のなくなったスマホが珍しく鳴った。
電話の相手は、中学からの友、昔の仲間の1人からだった。
ピロピロピロ~~~♪・・・ピッ!
《おう! 仁美~! 生きとるか~~~》
「おおっ! ショウか! 久しぶりやな!!」
この電話の相手の『ショウ』とは、中学からの腐れ縁で、後藤 翔という名の、社会人となった今でも唯一付き合いのあるヤツだ。
ショウは俺の家族事情も知っていて、気にかけてくれているので、今でもこうして、時々電話をくれるのだ。
底抜けのバカだが、本当に良いヤツだ。
こんなヤツが、『親友』と呼べるのかも知れない。
・・・この日までは、そう思っていた。
《おう! 久しぶり! 俺、和歌山に帰って来てんじゃよ
どうよ? 昔のツレ(友達)らを誘って、今晩飲みに行かへんか?》
「ええ? 今日かえ・・・まあ、ええけど?」
『せっかくビデオ三昧だぁ~って楽しみにしてたのに・・・
まあ、たまにのコイツの事やから、付き合ってやるか』
《ああん? なんやあ? 気のない返事やなあ~
また、あのうるさい彼女に怒れられるってか?》
「!・・・いやいや、実はな・・・」
《はあん? どないしたん? うまくいってないんか?》
「まあ、なんやその・・・ちょっと前に、別れてもてよ」
《はあっ! 別れたんか?! なんでぇよ?
結婚もするって、ゆーてなかったっけ?》
「うっ! まあ、うん、そーやったんやけどな・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
そうなのだ。
仁美は数ヶ月前に、大学生の頃から8年付き合った彼女と別れてしまったのだ。
彼女の方から、『結婚について真剣に考えたい』と言われ、少し距離を置くようになったのだが、8ヶ月経って久しぶりに彼女からきた電話では、『浮気報告と別れ話し』だった。
最初は、彼女が自分を試しているのでは?と思った仁美だったが、どうやら彼女は本気のようだったので、そのまま逢うこともなく、電話だけで別れ話しとなってしまったのだった。
両親も居ない、田舎もない、実家もない、親戚付き合いもない仁美なんかと、今後の人生を共に歩くのが不安だったのだろう。
今は、そう思っている。
しかし仁美は、『考えたい』と言われた時点で、もう彼女は『仁美とは結婚したくない』と考えているのだと、半分は諦めていた。
会う機会も減っていたし、1年ほど前から泊まりに来る事もなくなってきていたし、当時は特に他に男が居る気配は感じなかったが、仁美自身も彼女に対して不信感を感じていたのも事実。
このままの流れで結婚しても別れても構わない程度の気持ちだった。
だが、『浮気報告』が決定打だったのは言うまでもない。
だからと言って彼女を恨んでもないし、
『俺になにかしら、至らない事があったんやろ』
と、考えていた。
仁美は、彼女のことを愛してはいた。
だが、浮気報告と別れ話しで一気に冷めてしまったのだった。
お互いに、その程度の仲だったのだろう。
その時は損失感と孤独感で寂しくも悲しくもあったが、今ではスッキリ!サッパリ!と、1人の自由を満喫している。
おう! フリーダム~~~♪
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
《まあ、ええわよ 今晩、逢ったときに話し聞かせてもらうわ!》
「お、おお・・・わかった
でも別に俺は、今はアイツの事は何とも思ってないからな?
アイツも俺と別れて正解やったんかも知れへんし・・・
下手に気を使ってくれんでもええんやぞ?」
《ははは そっか!そっか!
お前が気にしてへんのやったら、それはそれでまあええわよ
ほな、夜になったらタクシーで迎えに行くからよ!》
「おうよ! ほなな!」
ピッ!・・・
「はあ・・・飲みに・・・か めんどくせぇ~~~(汗)」
仁美は、あまり乗り気ではなかった。
なにせ、彼女と別れてからと言うこの数ヶ月、本当に1人を満喫していたので、他人のペースに合わす煩わしさもなく、なにより独りだと自分勝手に自由にできるのが最高に良かった。
それに、店で人と酒を飲むという雰囲気もあまり好きじゃないし、余計なお金を使うもの嫌だったし、飲むなら部屋で1人で飲む方が楽だし、酔い潰れても寝るだけだし、正直夜から家を出ること自体が面倒だった。
なので、人と酒を飲むのなら、隣に住む新任の先生とたまに飲むビールで十分だった。
「はぁあぁ・・・ホンマ面倒くさっ!
でも、しゃーないなぁ・・・嫌やけど」
仁美は、夜に迎えに来た仲間達と共に、夜の飲み屋街へと向かった。
••✼••ぶらくらり丁チアロ••✼••
••✼••スナック メイ・ガール••✼••
「「「「「「かんぱ~~~い!!」」」」」」
ワイワイガヤガヤ・・・
テーブルを囲み座る。
全員が仁美と親しかった奴らという訳ではなかったが、仁美に電話を掛けてきた後藤 翔がみんなに声を掛け、仁美を合わせて6人集まった。
後藤とは、中学生からの腐れ縁だが、他の奴らとは何度かつるんだ事もある奴らで、『友達』と呼べる仲だとは思う。
1人だけ既婚者がいたが、他はみんな独身アラサー野郎軍団だ。
この中で一番仁美とのが仲が深いのは、『後藤 翔』で、互いに、『仁美、ショウ』と中学の頃から名前で呼び合う仲。
そのせいか1時間もすれば、仁美はみんなからも名前呼びされるほどに仲良く楽しく過ごせるようになっていた。
ショウは、大学卒業後は大手産業重工業の機械据付工の主に監督として働いていたらしい。
日本全国の巨大ボイラー据付けだったり、自動車組立工場のプレス交換据付けだったりと、様々な大型機械の組み立て据付けが主な仕事だった。
だが、監督という仕事はとても胃が痛くなる仕事だ。
本社の上層部や各工事部と、言うことを聞かない下請け業者との板挟みにされる重圧だったり、コロコロ変わる下請け業者との一年中日本全国を飛び回る出張出張の雨嵐。
盆正月ゴールデンウィークなどの、世間が連休中に工場が停止する間に仕事をするので、決まった休みなんて殆ど無しだし、仕事仕事で女っ気の無い毎日にも飽き飽きしていたし、結局は馬が合わない上司と毎日顔を合わせるのも嫌になって、辞めてしまったんだとか。
そして今は、和歌山市の大手電機メーカーの1作業員として働いているとか。
今では、カッキリ定時に帰れるのと、実家で両親と共に食費家賃要らず生活で、のほほんと暮らしているらしい。
両親は、ショウの実家暮らしには何も言わないが、やはり『いい人は居らんのか?』と聞かれる事だけがちと辛いとか。
他の奴らは、煩悩サラリーマンだったり、実家の家業手伝いだったり、イラストレーターだったりと色々。
大卒とはいえ、一流企業の若手のHOPEの成功者なんて、ここに居る仲間達には1人も居ない。
ここに居るみんな主役ではなく、俗に言うモブであり、そこら辺に何処にでも転がっている小石のような『その他大勢』の普通のオッサンだ。
でも、それの何が悪い!
大手企業に就職、早期昇進、恋愛結婚、逆玉、そんなのが『人生勝ち組』?!
そんなのが全てではない!
幸せなんて、本人がどう感じるかが肝心だ。
その中で1人だけ既婚者が居て、実は『できちゃった婚』なんだとか。
ところが不運なことに早々に流産してしまい、互いの両親もあまり納得した結婚でもなかったこともあり、今ではお互いの事を考えて、『離婚』を前提に話しを進めているらしい。
別に、嫌い合ってる訳じゃない。
お互いに、ちょっと躓いてしまっただけ。
今の時代、遅い結婚もありありだと、お互いに納得しての事だとか。
そんな奴らの現状の話しをしていると、『またお前も俺らの仲間入りや!』なんて話しになって、ワイワイと楽しくは飲んでいた。
そんな時に、ショウがある物を持ち出し、『罰ゲームをしよう!』と言い出した。
カラオケで出た点数の最下位になった奴が、罰として『女装役剤』を飲むというもの。
この『女装役剤』を使った『罰ゲーム』が、このチアロでは流行ってるんだとか。
実はこのスナック『メイ・ガール』とは、大魔女セーラの父親、五月女 虎雄の従姉妹にあたる人が経営しており、『女装役剤』も本来1人に1つしか入手できないはずのところを、数に制限なく入手できるのだそうだ。
その理由は、なんちゃない、このスナック『メイ・ガール』で『女装役剤』を小売する権利を得ていたのだ。
でも、なかなか売れなかったので、客に『罰ゲームとして、『女装役剤1day』を飲むというのはどうか?』と持ち掛けたのが始まりなんだそうだ。
『女装役剤1day』とは、元は大昔の魔女の開発した『浮気をした男性魔女を戒める呪いの薬』であり、どんな怪我も病気も完全に完治するが、『男性魔女が異性に対して性的興奮した時に女性へ変身する』という『女装剤』と呼ばれる呪いの魔法薬が基となっていた。
そして、大魔女セーラが『女装剤』の解毒剤を研究開発していた時に失敗作として偶然出来てしまったのが、『女装役剤』なのである。
また、『女装役剤』には女性化の持続期間を設定しており、1day、1year、10year、100yearとがある。
だが、この店で販売しているものは、大魔女セーラが開発した『女装役剤』とは別物で、大魔女リオリオが改良開発したもので、軽い風邪が治る程度の治療効果しか持たず、女性化持続期間も、『女装役剤1day(2000円)』、『女装役剤1week(5000円)』、『女装役剤1mouth(1万円)』の3種類だけである。
また、『軽い風邪が治る程度の治療効果』までにデチューンしたと言うのは、医療業界や製薬業界に喧嘩を売る事にならないようにするためらしい。
だが『女装役剤1mouth』については、1ヶ月の女性化持続効果ではなく、実質3週間程度に設定されていた。
その訳は、『女装役剤』による男性の女性化が1ヶ月を過ぎると、『初潮を迎える可能性』があり、もし初潮を迎えてしまうと、身体が女性として安定している事を意味し、もう二度と男には戻れなくなるのだと言う。
また、初潮がくる前には排卵がある。
つまり、妊娠しても二度と男にはと戻れなくなるのだ。
なので、本来ならば『女装役剤』とは、1day、1week、1mouthのいずれか1つしか購入する事がてきない決まりとなっていた。
またこのスナック・メイ・ガールでは、『女装役剤1day』しか扱っておらず、これも二度と男に戻れなくなる事故を防ぐ為なんだとか。
だが、今回は訳が違った。
仁美の仲間のうち2人が、『女装役剤』を持参していたのだ。
ショウが『女装役剤1week』を持参しており、もう1人の仲間が『女装役剤1mouth』を持参していたのだ。
つまり、1週間女性化する女装役剤と、3週間女性化する女装役剤である。
・⋯━☞カラオケ終了☜━⋯・
「「「「「でたあ━━━っ!!」」」」」
「78点?! 低っ!! なんでなよお~~~!!
この機械、壊れてんとちゃうかあ~~~?」
「「「「「あははははっ!!」」」」」
カラオケの採点システムとは、少々の音ズレくらいなら、80点台を弾き出す!
ならばなぜ仁美は、78点などと低く出てしまったのか?
実は仁美は、『ど』が付くほどの音痴だった・・・
カラオケの採点システムは、全くもって正常である。
仁美の歌は、聴いている方が恥ずかしくなる程に酷かった。
「相変わらず仁美の歌は、吐き気がするほど音痴やなあ!」
「ひどっ!! 言い方っ!!」
「仁美! お前が1番最下位やから、お前が女装役剤を飲めえ~~~!!」
「うえええ~~~! マジか?!」
「ほら、 女装役剤や! 飲め!」
「ええええ~~~!!」
「「「「「のーめ! のーめ! のーめ! のーめ!」」」」」
「あああ~~~うっさい! 飲んだらええやろが飲んだら!」
「「「「「おおおおおおお~~~」」」」」
ポン! グビッ⋯グビッ⋯グビッ⋯
「「「「「おおおおおおおおお~~~!!!」」」」」
仁美は、みんなにけしかけられて、本当に女装役剤を飲んでしまった!
だが・・・
「ぷはあっ!! なんやこれ、甘いな? 桃味か?」
「・・・あれ? 何も起こらへんな?」
「ホンマやな? 仁美、何か変わった様子は感じへんのんか?」
「いや・・・特には・・・???」
「そうか? ほんなら、俺の持ってるヤツも飲んでみるか?」
「「「「飲め飲め飲め飲めぇ~~~!!」」」」
「うええ?!」
「ええわいてよ! 飲めよ!
そんなガチガチムキムキな身体してるくせに女々しい奴やな!
どうせお前も1人もんなんやし! それには明日は休みやろ!」
「女々しいって、おいおい! お前ら他人事やおもて!!」
「1日や2日、女に変身するくらい、なんちゃないやろ!!
肝っ玉の小っちゃな奴やなあ! 男やろ!!」
「めちゃくちゃやな!! これ飲んだら男じゃなくなるやんけ!」
「「「「だからじゃよ!!」」」」
「ふぁい?! お前ら・・・(汗)」
「そやそや! グイッといけ! グイッと!!」
「「「「のーめ! のーめ! のーめ! のーめ!」」」」
「ぁあああああ~~~!! うっさいわあっ!!
わあった!! 飲んだらええんやろがあ!! かせっ!」
ポン! グビッ⋯グビッ⋯グビッ⋯
「「「「一気!一気!一気!一気!」」」」
仁美は、そいつの手から女装役剤を奪い取ると、栓を抜き『これから一発頑張るぜぇー!』みたいな勢いで『女装役剤』を飲み干した!
実はその『女装役剤』は、『女装役剤1day』ではなく、『女装役剤1mouth』だったとは知らずに・・・
「ぷふぅ~~~! あんまっ!!」
「「「「いえええ~~~い!」」」」
パチパチパチパチパチパチ~~~!
「・・・・・・・・・で? これから、どうなるんや?」
「「「「「・・・?」」」」」
「なんや? なんも、起こらんぞ?」
「「「「「・・・・・・・・・???」」」」」
仁美は、2本も女装役剤を飲んでしまった。
すると、空になった女装役剤の入っていた小瓶は、ポン!と光の粒になって消え去った!
しかし! 仁美が飲んだ女装役剤とは、『女装役剤1week』と、『女装役剤1mouth』である。
計1ヶ月も、女性化してしまう事になる。
それに気付かないこの男達は、本当に底抜けのバカである。
いや、もしかしたら・・・わざと?
今となっては、もう誰にも分からない。
だってみんな、ヘベレケに酔っ払ってますから!
ところが、仁美が女装役剤を2本も飲んでしばらく経つが、仁美の外見が変わる様子も無ければ、仁美自身も身体になにかしらの異変も感じない。
これは・・・いったい???
みんなが、『???』な表情で困惑していると、それは突然やって来た!
続けて『女装役剤1week』と、『女装役剤1mouth』を飲んだことにより、仁美の体内で女装役剤が4週間女性に変身する女装役剤として変化し、効果が現れるのも身体の変化もその分遅れたのだ。
・⋯━☞約1分後☜━⋯・
「おうをっ?!」
「「「「「?!・・・」」」」」
「どーした仁美!?」
「身体の中に風が吹き荒れるような感覚が・・・(汗)」
「おおっ! きたか!!」
「「「「おおおおっ!!」」」」
ワクワクドキドキ・・・
みんな、仁美の変化にワクワクドキドキと興味津々である。
他の客達も、そんな仁美に視線を向ける。
実はこの時、仁美は既に、遺伝子レベルで性染色体までもが『女性のXX』へと変わっていたのだ。
やがて全身へ風が広がる感覚が落ち着くと、今度は身体中の骨や皮膚や筋肉がブチブチボキボキと不気味な音を立て始める!
ブチブチッ!・・・ボキボキッ!・・・
「ぎゃああっ!!」
「「「「「??!!・・・」」」」」
ザワザワザワザワ・・・
「うがあっ!! 痛てぇ!! 身体中が痛てぇっ!!」
バキバキ!ボキボキ!ブチブチ!
仁美は、身体中の激痛に耐えるかのように、自分の身体を抱き締めるように縮こまる。
そんな仁美の様子を、店中の客達も注目する!
「「「おおおおお・・・(汗)」」」
「おいおい! だいじょぶかよ?!」
「やっべっ! なんかボキボキって、すんごい音がするぞ?」
「ほ、ほら! 見てみぃ!」
「いだだだだだだだだっ!!」
「「「「「うおおおああああっ!!」」」」」
ワイワイガヤガヤ・・・
この時の仁美の身体の中と外では、骨、筋、筋肉、そして皮膚と髪などが、女性へと変化していく。
短時間で身体がこれ程の大きな変形をするのだから、その苦痛や不快感は相当なものである。
そしてやがて声も女性の高い声へと変化していく・・・
更に変化は進み、性巣が体内へ移動し、卵巣へと変化する。
そして男性生殖器が無くなり、女性生殖器へと変化。
そして何よりも、胸がどんどん大きくなる。
「あだだだっ! 痛いって! これヤバいんちゃうんかえ?!」
「おいおい! 声がもう女の声になってるぞ?!」
「ってかおい! 髪も伸びてるって!!」
「「「うおおおおおおっ!!」」」
仁美のムキムキな筋肉だらけの身体は、みるみるうちに縮こまり、髪は伸びしなやかな髪質へと代わり、肌もきめ細かな明るく綺麗なプニプニ肌へと変わり、身体全体的に一回り小さくなったようだった。
目に見えた変化が落ち着いたかに見えたかと思うと、今度は下腹の中で誰かに手で内蔵を引っ掻き回すような不快感に襲われる!
この時の仁美の下腹の中には、新しい器官が作られていく。
それはつまり、『子宮』である。
「ぎひゃあ~~~! 気色悪い~~~!!
腹ん中が誰かに掻き回される感じがする~~~!!」
「「「ええええ~~~!!」」」
「「うおおおお~~~!!」」
仁美は、その下腹の不快感に堪らず腹を両手で抱え込み、まるで猫のように丸くなる。
そして、変化が始まってから5分ほど経っただろうか?
やっと、身体の変化も終わり、痛みや不快感も治まった。
「ふぅ~~~なんか、終わったみたいやな?」
「「「「「うおおおおおおおお~~~!!」」」」」
「うおっ?! ビックリした!! なんなんよいったい?
あ、あ、ああ? 声が・・・あ~~あ~~あ~~~」
「ちっ・・・乳でかあっ!!」
「へっ? 乳っ?! あん? あっ!・・・
ホンマや? でか! うわわっ! これ、俺の乳っ?!」
仁美は、自分の胸を見て、そのデカさに驚きながらも、自分で両手でモミモミ・・・
それでも信じられず、上着の下から直接手を入れてまたモミモミ・・・
確かに感覚もあるし、自分の胸だと認識できる。
しかし、なんだか胸を揉む手が止まらなくなってきた・・・
そんな仁美見ていたショウは、堪らず・・・
「こ、これは・・・デカイけど、めちゃ柔らかいな・・・
ほ、本物? ってか、女になったんやから本物か・・・
我ながら、デカイ乳になってもたもんやなぁ・・・
って、結構乳って重いもんなんやなあ?」
モミモミモミモミ・・・
「はれ?・・・はれぇ?・・・
なんか・・・なんな・・・なんかええぞ?
なんか・・・なんか、止まらんなってきた・・・♡」
「「「「~~~~~~!!!!」」」」
「ひっ・・・ひとみちゃあ━━━んっ!!」
ガバッ!!
「うをわああっ! やめろショウ!!
ひとみちゃんって、なんなよお前!!
うわわっ! 抱き付くな! やめろってぇ!」
「んんんんんん~~~♡」
ショウは、仁美の両肩をガシッ!と掴み、仁美に向かってキスをしようと顔を近付ける。
「いやあああああ━━━っ!! 顔近い!近い!近い!
キスしにくんなっ!! きしょ、気色悪いぞお前えっ!」
「仁美が、めっちゃ美人のひとみちゃんに、なってもたあ~~~!!」
「はあ?! なんじゃそりゃ!!」
「すごおっ! マジ美人!!」
「ちょ! 乳揉ませろ!!」
「アホか! 嫌じゃボケぇ!!」
「お前、左の乳な! 俺、右の乳揉むから」
「はあ?!」
「それ、のったあ!!」
「こっ! こらあ! やめろ!!
いだだだだだだだだだだっ!! 痛いってえ!!」
「「「「おおおおおおお~~~!!」」」」
「「「「「おおおおおおおお~~~!!」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ~~~!!
「はっ?! はあっ?! なんやっ?!」
女装役剤を飲んだ仁美が、本当に美人に変身したものだから、店内全ての人達も大騒ぎに!
仁美は上下スウェット姿だったのだが、なぜか身体の曲線美がハッキリ分かるほどにピッタリサイズに。
いやいや、おかしい!
男から女に変身したのに、少しくらいはガバガバになっても不思議ではないはずなのに。
これも魔法に関係する『女装役剤の魔力』の影響なのか?
188センチあった身長も178センチにまで縮み、体格も細くなり、出る所は出て、引っ込む所は引っ込む、というナイスバディに!
しかも、短髪五分刈り頭だったのに、セミロングボブにまで髪は伸びていた。
そんな仁美に、ショウは狂ったように執拗に迫ってくる!
仁美は、ショウから逃げるように長椅子に乗り上げ、正座をするように足を揃えて横に投げ出し、前かがみになって両手をついて、尻を突き出すように背中をS字に反らせながら『女豹のポーズ』で振り返る姿は妙な色っぽさで、他の男性客からも声を掛けられるほどの妖艶な美人になってしまっていた。
その後の仁美は、カラオケでデュエットを無理やり歌わされて、酷い音痴なのになぜか大ウケ!
声が可愛いだの、音痴なのが恥ずかしいせいか顔を赤くして瞳に涙を浮かべて必死に歌うところが愛おしいなどと言われ、他所の飲み客の男性からもデュエットのリクエストがあったり、仁美はマイクを下ろす暇が無かった。
また、今流行りの女性の歌うアニメソングなんかも歌わされて、下手ながらも必死に歌う仁美が健気に見えて、店に来ている野郎共からの仁美の人気ぶりは、店の女の子達が嫉妬するほどに爆上がりだった。
とにかく! 仁美の変貌っぶりに、店中が大騒ぎに!
結局、このままではお店に迷惑がかかるからと、仁美達は会計を済ませて店を出る事にした。
タクシーは2台呼んだのだが、みんな仁美と同席したいと言って、仁美の隣の席の取り合いへし合い奪い合い。
「おいそこどけ! ひとみちゃんの隣りは俺じゃ!」
「なんやそれズルいぞ!! ほんなら俺は反対!」
「こ、こら! なんで俺が真ん中なんや!?
くっ付くなって! お前ら気色悪いぞ!」
「はぁ~~~ひとみゃんの甘い香りがする~~~」
「ひえっ・・・(怖)」
「くんくん⋯すんすん⋯ホンマや! ええ匂いする!」
「や、やめてくれぇ~~~!!」
❴❴ぞわわわわわわわ~~~全身鳥肌(震)❵❵
なぜか野郎達は、仁美を挟むように、仁美の両サイドに座ろうとする。
そして仁美の首筋に鼻を近付けて、クンクンと匂いを嗅ぐ。
仁美からは、女性特有の甘い香りがするものだから、独身野郎達はまるで『肉を前にした空腹の猛獣』のようだった。
こうなるともう歯止めが効かない!!
「いだだだっ! 痛いって! 腕っ! 強く掴むな!」
「ふん⋯ふん⋯ふん⋯アカン!
もう、ひとみちゃんが欲しくて堪らん!!」
「ひやあっ!!・・・(汗)」
「な、なあ? 1回だけ! 1回だけでええから、やらせてくれ!」
「ひぃいぃいぃいぃいぃいぃ~~~!!
いや、いや、いや、いやじゃあ!! お前らおかしいぞ!!
な、なんでもええけど、落ち着けぇ!!
ちょ、お前ら! 黙って見てやんと、コイツらなんとかしてくれ!!」
「「じぃ~~~~~~~~~~~~・・・」」
仁美は、力いっぱい抵抗するが、今の仁美は女性なので、大の大人の野郎達の力には抗う事ができない。
『!!!!・・・こ、コイツら、アカン!!
このままやったら、俺はコイツらに食われてしまう!!』
「そ、そこどけ! 降りる!!」
「うわっ! ちょっ(汗)」
「え!? え? え?・・・」
カチャ・・・パタパタ・・・
「「「あああああ~~~!!」」」
「あああ~~~ちゃうわ! 俺は1番最初に降りるからな!」
「「はあ?」」
もう埒が明かないので、仁美は野郎を押し退けて強引にタクシーから降りると、運転手さんにこう言う。
「運転手さん! 先ずは、〇〇町に向かってください!」
「「「ええっ!!」」」
「はい では、ドア閉めまあ~~~す」
「「「えええええ~~~!!」」」
結局仁美は、1番最後に助手席に乗り込んだ。
そして、先頭を走らせた。
ストン・・・パタン!
「「あああああ・・・(悲)」」
この世の終わりのような顔をする野郎達に構わず、無情にもタクシーは走り出す。
••✼••仁美の自宅付近••✼••
仁美の自宅付近に到着すると、仁美はササッと降りて、後ろについて来たタクシーの傍まで走る。
タッタッタッタッタッタッ・・・
「ありがとう! 店代も車代も出してもらって(汗)」
「いやいや、かまへん!かまへん!」
「また行こらよ!」
「またな! ひとみちゃん!」
「ひとみちゃんって・・・(困)
まあ、みんな、ありがとう! ごちそうさん!」
「おう! なんやったら、ホテル代も出しちゃるぞ?」
「要らんわっ!! はよお帰ってクソして寝ろっ!!」
「「「ばいばぁ~~~い!!」」」
ブウウゥゥゥ~~~ン・・・
「あはは・・・ばいばいて・・・子供かよ(汗)」
後ろを走っていたタクシーを見送ると、今度は仁美が乗っていたタクシーの傍へと向かい・・・
タッタッタッタッタッタッ・・・
「お前ら、気ぃ付けて帰れよ?」
「「「えええええ~~~!!」」」
「ええええ~~~じゃない!!
とっとと帰って、風呂入って、クソして、さっさと寝ろ!
はい! さよならっ!!(怒)」
「「「そんなあ~~~(泣)」」」
「では、発射しま~~~す」
「「「えええええ~~~!!
ひとみちゃあああああ~~~ん!!」」」
「またなあ~~~!!」
「「「しゅん・・・(悲)」」」
ブウウウウウゥゥゥゥゥ~~~ン・・・
仁美に、『さよなら』と言われて、またこの世の終わりみたいな顔をしてシュン太郎になるアラサー独身野郎達。
今生の別れじゃあるまいし・・・
仁美は、タクシーが見えなくなるまで手を振り続けた。
万が一、後を付けられて仁美のアパートを特定されては困るからだ。
タクシーのリアウインドウにへばり付くように、アラサー独身野郎達3人は、本当に涙を流して泣いていた。
もし、タクシーを降りるのを1番最後にされて、野郎達にお持ち帰りされては堪らないので、1番最初に降ろしてもらう事にしたのだった。
たとえ、野郎共が遠回りになったとしても・・・
タクシー代が高くなる? 知ったとこか!
「な、泣くとはなアイツらが・・・
・・・女になった俺の存在ってば、それほどまでかよ(汗)
明後日には、元の身体に戻るのに・・・」
しかし仁美は、1ヶ月も男に戻れないとは、知る由もなかった。
なぜなら仁美は、『女装役剤1day』を2本飲んだだけだと今でも信じて疑わなかったからだ。
実際に仁美が飲んだのは、『女装役剤1week』と、『女装役剤1mouth』だったとは、夢にも思わなかったのだった・・・。
••✼••仁美の自宅••✼••
カチン!・・・カチャ・・・パタン! カチン!
「ふう・・・疲れた(汗)」
仁美は、家に入るとドアに鍵をかける。
そして、部屋の照明のスイッチを探す。
「あれれ? スイッチが・・・」
ガサゴソ・・・
仁美は暗闇の中、何時ものように玄関の照明のスイッチのある位置を手探りで探すが見付からない。
女になって、背丈が少し低くなっている事を忘れていたのだ。
なので、何時もよりも低い位置を探していたのだ。
「あっ! あったあった・・・」
パチン!・・・
「ふむ・・・そうか なるほど
女になって背が低くなった分、何時もよりもスイッチの位置が高くなるんか
ちょっと考えれば、すぐに判ることやのに、変な感じやな」
などと独り言を言っては、トイレに入る。
だが、仁美はトイレに入っても、ドアを閉めない主義だ。
実は仁美はとても怖がりであり、夜のトイレのような狭い個室に独り居るのが心細くて、何時もドアを開けたまんま用を足すのだ。
なぜなら仁美の住むアパートの裏手には、結構広く古い墓地があるのだ。
なので、もしお化けが出たら、何時でも逃げられるようにと、ドアを開けっぱにしていたのだった。
そして、流石にトイレでは、『女は座ってするもの』と認識していたので、ズボンとガラパンを降ろして完全に脱ぐと、そのままの勢いで座ったのだが、次の瞬間ズボッ!とお尻が落ちて足が跳ね上がった!
なんと! お尻が便器にはまり込んでしまったのだ!!
ズボッ!!
「きゃあっ!! な、なんやこれ?!」
それもそのはずである。
仁美は、便器の蓋と一緒に便座まで上げてしまっていたのだ。
そりゃ、お尻が落ちるわな・・・(汗)
仁美は、ひっくり返った亀さん状態に・・・!
思わず、女みたいな変な悲鳴をあげてしまった。女だけど。
しかし! 手足をバタバタさせるが、お尻が便座からどうやっても抜けない!
この時の仁美の恐怖と言ったら、如何許りか。
「はっ?! な、なんや!!
ちょっ! な、な、なん、なんで・・・抜けん!」
仁美は、便器にお尻がはまり込んで、ひっくり返った亀さん状態のまんま、数十分もひたすら暴れまくった。
だが、もがけばもがくほどに、お尻はズリ⋯ズリ⋯と便器に沈んでいく・・・
「だ、誰かぁ~~~! 助けてぇ~~~!!
って、やばっ!! 玄関の鍵閉めてもたぞ!
助けてって、誰が助けに来んねん!!
スマホ!!・・・ズボンのポケットの中かよ!!
ちょちょちょ・・・ヤバいヤバいヤバい!
嘘やろ嘘やろ嘘やろ嘘やろおおおいっ!!
このまま抜けんかったら・・・し、死ぬっ?!
うううううう~~~ん! うううううう~~~ん!!
ひぃえぇえぇえぇえぇえぇ~~~!!
いやああああ~~~! まだ死にたくなぁ~~~い!」
ドン!ドン!ドン!ドン!
バン!バン!バン!バン!
仁美は、この歳までこれほどの大声を出したのは初めてではないだろうか?と思うほどの悲鳴をあげた!
そして、誰かに気付いて欲しくて、壁を思い切り叩き続けたのだった。
もうこうなったら、恥も糞もない!
自分一人の力じゃどうにもならないなら、助けを呼ぶしかない!
だが幸いな事に、仁美の『強姦に襲われているかのような女性の叫び声』は、隣の新任の男性教員の耳に届いた!
隣の部屋の新任の男性教員は、仁美の叫び声に気付くと、慌てて仁美の部屋の前までやって来る!
そして、仁美の部屋のドアを叩いた!
••✼••仁美宅玄関前••✼••
ドン!ドン!ドン!
「仁美さん! 仁美さあーん! 居ますかあ?!
女の人の叫び声が聞こえるんですけどおー!!」
••✼••仁美宅トイレ••✼••
「はっ! 和美か?!
和美ぃ━━━! 助けてえ~~~!!」
《ええっ?! お、女の人の叫び声?!
ちょっと仁美さん!? いったい何をしているんですか!!
ちょっと! 人を呼びますよぉ━━━!!》
この隣の部屋の新任の男性教員は、新谷 和美という名の数学の先生で、なかなか正義感の強い先生でもある。
仁美と隣に住む新任の先生の新谷とは、プライベートでは今では『仁美さん、和美』と呼び合う仲になっていた。
玄関のドアは、トイレのすぐ近くなので、外に居る隣の和美の声が聞こえてくる!
なので、仁美が女性を連れ込んで襲ってると思い込んで、人(警察)を呼ぶと言い出したのだ!
「はあ?! 何をしてって、アイツ! ま、まさか・・・
俺が女を連れ込んで襲ってるとでも思ってんのか?!
じょ、冗談やないぞお!!」
《仁美さあ━━━ん!! 開けてくださあ━━━い!!》
ドン!ドン!ドン!ドン!
「ああああ~~~もぉ~~~嫌やああああ~~~!!
なんでこんな事にぃ~~~! ひいぃいぃいぃ~~~ん(泣)」
万事休す・・・
仁美は、何にもできなかった・・・
本当にこれからどうしようか?と思案していたが、なぜか急に静かになった事に気付いた。
そして・・・
パン!! ガシャガシャガシャン! パシャパシャン・・・
「はん?! なん、なんの音や?! ガラス?」
少しの間何も聞こえなくなったと思ったら、突然部屋の奥の方からガラスの割れる音が聞こえた!
そして、少し間を置いてから・・・
ドタドタドタドタッ!!
「仁美さっ・・・んあんっ?!」
「和美っ! たっ、助けてぇ!!」
「!!!???~~~・・・(汗)」
隣の部屋の和美は、自分の部屋のベランダから、隣の仁美の部屋のベランダへ移り、ベランダの窓ガラスを卵焼き用の四角いフライパンで割って鍵を開け、部屋の中へ入って来たのだ!
緊急事態だ仕方がない、文句など言えるはずがない・・・
和美は、真っ暗な部屋に誰も居ない事を確認すると、玄関とドアが開いているトイレからの明かりで、迷うことなくトイレまで直行!!
そして、トイレで和美が見たものとは・・・
和美は、見知らぬ女性のあられもない姿に完全にフリーズ!
和美は、目の前の便器にお尻を突っ込んでひっくり返った亀さん状態の女性が、まさか隣の大川 仁美だとは知る由もない。
ただ、今のこの理解できない状況を、どう頭の中で処理して良いのか解らない。
必死に助けを乞う女性は、下半身丸出しだし、知らない女性だし、見知った大川 仁美の姿は何処にも無いしで、超パニック!
「はわわわわわわ・・・(焦)」
「ちょっ! 何ボサーっとしてんのな!!
早く、助けてくれっ!!」
「はっ?! ああ、いや、しかし・・・(汗)」
「こらこら! 何を何時までジロジロ見てんのなよ?!
何でもええから、早く助けてくれってえ!!」
「あっ! はいはいっ(汗)
ん”ん”っ! よっこいしょ!」
「んあっ!!」
スポン!・・・ペタン!
「たっ・・・助かったぁ~~~
うわぁ~~~ん! 怖かったあ~~~!」
「~~~・・・(汗)」
和美のお陰で、なんとか便器からお尻が抜けた仁美は、その場に女の子座りでへたり込み、恐怖と安堵のせいか、泣き出してしまった。
そして落ち着いた頃、仁美はなぜ女になってしまったのか、またなぜ便器にお尻がはまってしまったのかを説明した。
「はあ・・・バカとしか言い様がありませんね」
「ちょっ!!・・・相変わらず辛辣やなぁ・・・(汗)」
そうなのだ。
この新任の男性教員の新谷 和美は、強面だった男の頃の仁美に対しても臆さず言いたい事をズケズケ言うタイプの若先生だった。
また、2人とも『女性のような名前』という共通点もありきで意気投合し、結構仲が良かった。
なので、『仁美、和美』と名前で呼び合う仲にまでになった。
仁美が女性になってしまったのは、仁美の悪友のせいだとは理解したが、それでもやっぱり、仁美に呆れた和美は仁美に向かって叱り続ける。
「当然です! 仁美さんは、後先考えないで行動し過ぎです!
和歌山の方言で言う、『アッポケ』と言うべきですか?」
「ちょっ! 言い方っ!!」
「僕がまだ起きていたから、良かったものの・・・」
「面目ない・・・(泣)」
しかし、和美は東京から来た人なので、関西人とは『標準語?』で叱られると、妙にガツンと来るものだ。
この後も仁美は、和美にしこたま怒られ続けたのだった・・・
ひとみちゃん。
意外と怖がりなんです。