第67話 「ガンバレ!カイセイ!③」
男カイセイ!
決めます! 決めてみせます!
この想い、必ず伝えます!
愛しの愛しの可愛いあの娘に・・・
文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。
・⋯━☞12月31日夜☜━⋯・
••✼••チヒロ宅叶の化粧部屋••✼••
「うおん~~~んぎぃいぃいぃいぃ~~~!!
キツイ!キツイ!キツイ! 死ぬぅ~~~!!」
「我慢しなさい! 大袈裟やなあ!」
「オッパイ、潰れるぅうぅうぅうぅ~~~!!」
パカッ!
「あだっ!!」
母親叶は、半分笑いながら、チヒロの頭にゲンコツ!
「クスクスクス・・・潰れるほどあんの?!」
「しっ⋯失礼やな母親のくせに!!
帯で縛ってるから目立てへんけど、ちゃんと膨らんでるわえ!
巨乳のユキナには負けるけど、そ・れ・な・り・にっ!!」
「ちょっ・・・チヒロ! それ、セクハラっ(恥)」
「「あはははははははっ!!」」
「お~~~確かに、それなりに膨らんでたわな?」
横に寝そべり頭を腕で支えながら言う父親虎雄。
「ちょお、おいっ!! おとーちゃんもセクハラ!」
「なぁ~にがセクハラじゃえ!
娘の乳になんか興味ないわえ!!
悔しかったら、ユキナちゃんくらいのボインになってみろ!」
「んなっ?!」
「ちょっと! おっちゃん!! やめてよぉ(恥)」
「そーじゃっ! このデリカシーなしの人でなし~~~!!」
「お前は、玉なしやけどなぁ~~~」
「なにうぉっ?! 玉は無くても豆はあるわぇ!!」
パカーン!
「きゃん!!」
お約束の母親叶のグーパンがチヒロの脳天に炸裂!
また父親虎雄の挑発に乗って、いけない事を口走ってしまうチヒロ。
「またこの娘わ!! そんな変なことばっかり言うてぇ━━━っ!!」
「だって、おとーちゃんがぁ~~~!!」
「わっはっはっはっは!! 怒られてやんのぉ~~~」
「アンタもやでぇ!!」
「?!・・・すまん(汗)」
父親虎雄は、母親叶に諌められて項垂れる。
まるで子供の様な父親である。
チヒロは、『この親にしてこの子あり』ってなもんだ。
「ま、頑張って! 私もちょっと苦しいんやから」
「ユキナぁ~~~! へるぷみぃ~~~」
「んもぉ! じっとしてなぁ!!」
ポカン!
「ぎゃふん! 痛いの痛いの痛いのぉ~~~(泣)
あ・・・アカン! それ以上締めたら、プー出そう!」
「「「あはははははっ!」」」
「ぷっ⋯プーって、こ、この娘わもぉ・・・ぷぷぷ」
「「ぷわぁははははははっ!!」」
「てへ♪」
チヒロは、母親叶とユキナの母親萌に、着物の着付けをしてもらっていた。
腰帯の締め付ける力が半端なく強く、母親叶は親の仇みたいに締めるので、めっさ苦しかった。
貴族令嬢が着るようなドレスのコルセットじゃあるまいし、そんなに締め付けなくても・・・
でも、着付けが完成すると、少しだけ腰帯が緩み、ちょいと楽になったが。
なるほど・・・最終的には、腰帯って少し緩むものなのか。
だから必要以上に締めるんだな。
今日はみんなと初詣に行くために、着物を着たのだった。
その後、カイセイと合流して、転移魔法で、『紀州東照神社』へと転移した。
・⋯━☞深夜0時数十分前☜━⋯・
••✼••紀州東照神社••✼••
ゴオオオオオォォォォ~~~ン・・・
除夜の鐘が鳴り響く。
白い息の出るヒンヤリした境内。
もう何回目の鐘だろうか。
ワイワイガヤガヤ・・・
「ひいぇえぇえぇえぇ~~~! 人多すぎっ!」
「ホンマに人多いねぇ~~~(汗)」
「チヒロちゃん!」
「はん? なんなカイセイ?」
「てっ・・・手ぇ繋いどこ!」
「手? なんで?」
「・・・ぷぷぷ♪」
「なんでって、ほら! チヒロちゃんって、すぐ居らへんよーになるから」
「しっ、失礼やなお前!!
俺、そんな子供とちゃうぞー!!」
「まあまあチヒロ! ここは素直にカイセイに甘えときな」
「はえ?! 甘える?! なんでぇ???
っつかユキナお前も、俺を子供扱いすなっ!!」
「あはははは!「ふふふふふ」
「ちょっ! おとーちゃん! おかーちゃん!
なんで、そこで笑うんなよ?」
「「「「あはははははははっ!!」」」」
「ちょお━━━っと! みんなあ~~~(汗)」
チヒロ達は、和歌山市の和歌裏にある『紀州東照神社』の境内に移動した。
先を歩くカイセイに手を引かれ、チヒロはカイセイからはぐれないように必死について歩く。
確かに、背が低くなってしまったチヒロは、人混みにスッポリ隠れてしまい、手を離せばはぐれて見失ってしまうかも?
カイセイの言うのも一理あるか。
チヒロは、渋々カイセイと手をギュッ!と繋ぐのだった。
カイセイの手を繋ぎながらカイセイの後ろ姿を見るチヒロには、カイセイがとても大きく頼りがいあり、とても頼もしく見えた。
そんなカイセイに手をギュッ!と握り返されると、ちょっとホッとして、なんだか少し嬉しくも照れ臭くも思うチヒロだった。
『なんやろ・・・この気持ち・・・???』
この時のチヒロには、自分の気持ちが何なのかは理解できなかった。
時刻は、もうあと数十分で深夜0時になる頃で、他の参拝客達は、カウントダウンは、まだかまだかとその時を待っている。
カイセイに手を引かれながら、カイセイの背中ばかりを見ていた。
と言うか、チヒロは背が低いので、カイセイの背中以外は人の壁ばかりである。
段々と、人混みも密集してくると、チヒロにぶつかって来る人も多くなり、とうとうカイセイの手を離してしまった!
「あっ!・・・かっ、カイセイ!!」
ワイワイガヤガヤ・・・
「はれ?!・・・はれぇ? カイセイ?」
カイセイの手から離れた瞬間、人混みでゲートを閉めるように、カイセイが居たはずの隙間は消え、カイセイの姿を一瞬で見えなくしてしまう。
周りは人の壁⋯壁⋯壁⋯
夜空以外は、遠くに木やお社の屋根が見えるだけで、今自分が何処に居るのか分からないし、カイセイが居た方向さえ分からない。
必死にカイセイの名を呼ぶが、カイセイには届かないようだ。
「カイセイ!! カイセ━━━イ!! すんすん(泣)」
ワイワイガヤガヤ・・・
チヒロのカイセイを呼ぶ声も、大勢の参拝客のざわめきにかき消されてしまう。
おそらくカイセイもチヒロの名を呼んでいるはずだが、カイセイの声もチヒロには届かない。
もう何分くらい、1人になっていただろうか?
ものすごく長い時間を1人で居る気がする。
自分から手を離した訳じゃないのに。
『手を離してごめん!』と、今は傍に居ないカイセイに向かって謝るチヒロ。
こんなにも大勢の人達に囲まれているのも関わらず、寂しくて心細くて堪らない。
そして、段々と泣けてきた。
「カイセイ⋯カイセイ⋯何処よ⋯カイセイ⋯すんすん⋯
なんで? なんで何時も俺はこんなんなんや⋯すんすん」
ワイワイガヤガヤ・・・
無我夢中で人混みの中を歩いていたら、明かりのついた大きな灯篭の側まで来れたので、人混みから抜け出す事ができた!
そしてその灯篭の裏へと向かうと、お社の屋根の下辺りに少し入り込んだスペースがあったので、チヒロはそこへ逃げ込むように入った。
そこには植木があって、人が入り込んでも目立たなくなった場所だった。
でも、境内の様子はよく見える。
チヒロは、その場所に身を潜めるように、1人ポツンと立ってカイセイの姿を探すことにした。
カイセイなら背が高いから、人混みから頭がポッコリ飛び出して目立つはず。
しばらくすると、1人誰かがチヒロを見付けた様子で、チヒロに向かって歩いてきた。
最初は、ソイツは背が高かったのでカイセイかと思った。
一瞬、チヒロの表情は、パァ!と明るくなったが、すぐにその人はカイセイではないと気付き、チヒロの表情は暗くなる。
着ている着物の色は似ていたが、柄が違う着物だったので、カイセイではないと明らかに違うと判ったので、ソイツを無視して、またカイセイの姿を人混みの中から探す事にした。
だがソイツは、チヒロに向かって話しかけてきた。
始めは、迷子と勘違いされたか?
とも思ったが、話しかけてくる内容が、それとは違った。
「ねえ、お嬢ちゃん! もしかして迷子?」
「え? ま、迷子ちゃうし! こう見えても俺は、中3やし!」
「俺っ娘!? ええわあ! ゾクゾクするわあ!」
「なに・・・コイツ・・・(焦)」
「ふぅ~~~ん そっか! お前も中3かぁ!
俺も、中3! お前、小っちゃくて可愛いなぁ?
俺、小っちゃくて可愛い女の子が好きなんじゃよお!
なんかこの出会いって、運命かもな?」
「?!・・・は、はあ? なんじゃそりゃ?
お前、何を言って・・・」
「俺って、なかなかイケメンやろ? だからガッコじゃごっつモテるけど、俺の好みの娘になかなか巡り会えやんくてね
でも、この大晦日に俺好みの娘に出会えるやなんて、最高の新年を迎えられそうやなあ!」
「!!!????・・・」
チヒロは、その男にナンパされている自覚はあった。
でも、今まで感じた事の無いほどに不快だった。
嫌でもチヒロの身体目当てだと判る。
ソイツはナルシストで、自分が学校ではイケメンでモテるのが自慢かのように言うが、チヒロから見ればそれ程でもない。
カイセイと比べたら、ソイツなんか踏み潰されたカエルだ。
・・・などと、なぜかカイセイと比べてしまった。
しかしソイツは、しつこく迫って来る。
1人でベラベラ喋っているが、チヒロはまったくソイツの話になど興味などない。
なにせ今は、カイセイを見付ける事で頭がいっぱいだ。
訳の分からないナンパ野郎などに構ってる場合ではない。
はやくカイセイを見付けないと、1人で年を越してしまう!
下手をすると、こんなナンパなアホ野郎と年を越す事になってしまう?!
ソイツはチヒロが自分の話しを聞いていないのを気付いているのか否かも構うことなく、1人ベラベラ喋り続ける。
いい加減嫌になってきたチヒロは、ソイツから離れようと人混みの中へ向かって歩こうとするが、いきなりソイツに手を掴まれてしまう。
なんだか解らないうちに、いつの間にかチヒロがソイツと付き合う事が決まったかのような話しになっていた。
「ねえ、どうする?
年が明けたら、そのまま一緒にラブホに行けへん?」
『はああ~~~?! ラブホっつったあ?!
厨房でラブホって、どないやねんそれ?!』
マジヤバいと思った。
確かにソイツは背が高いし、18歳と言っても通るかも知れない?
ってか、ソイツの口臭からは、タバコの臭いかした。
不快だ・・・めちゃくちゃ不快だ。
気持ち悪くて仕方がない。
『でも、ラブホて・・・
コイツ、絶対に中3って嘘やろ!!』
そう思った。
中3と言えば、相手が受け入れやすいとでも思ったのか、きっとそれはソイツのナンパをする時の上等文句に違いない。
チヒロは、絶対に奴は18歳以上か成人しているだろうと思った。
未成年を相手にラブホに誘うって・・・
それ、犯罪でしょ!!
「ラブホ?! はあ? 何を言ってんの?
なんで俺がお前なんかとラブホ行かなあかんのな?」
「ええ~~~だって俺ら付き合い始めた訳やし?
新年の元旦に付き合い始めた記念に! な!」
「なんじゃお前? 何を言ってんのや?
訳分からへんわっ!!
俺は男なんか大っ嫌いなんじゃよお!
それに、お前みたいなナルシストは特にな!」
気持ち悪かった。
ソイツは、チヒロの顔に合わせて腰を曲げて、自分の顔をチヒロの顔に近づけてくる。
ソイツの臭い吐く息で嘔吐きそうになる。
思わず、『うっ!』となり、チヒロは顔を背ける。
そんな時、ソイツはチヒロの手を握り、顔を近づけてくるものだから、チヒロの吐き気をもよおす気持ち悪さはついにカンスト!
「何を言うてんの離せよ! 気持ち悪いんじゃ!
ナンパやったら、他所でやれ!!」
「何を言うてんの~~~は、コッチのセリフじゃ!
どうせお前も、男引っ掛けるために、ここで1人居ったんやろ?」
「んな事するか! 気色悪い! その手ぇ離せっ!!」
バチィン!
「なっ!!・・・お前(怒)」
「ひっ!!・・・」
チヒロは、ソイツの手を払っただけのつもりだったのだが、運悪くソイツの鼻先に手が当たってしまった!
するとその瞬間、ソイツは激高!!
「いったいなあーお前!! ゴラァ!!」
ドス!
「ぐはっ!・・・ぐうう・・・」
ソイツは、右手でチヒロの髪を掴み、左手でチヒロの右肩をガシッ!と掴み、右膝をチヒロの腹に押し当て、お社の壁にチヒロを押し当てたのだ。
どう足掻いても、男の力には抗うことができないチヒロ。
痛みと恐怖とで、助けを呼ぶ声すら出ない。
運が悪い事に、今チヒロ達が居る場所は、植木に隠れて人混みからは見えない位置になっていた。
それに、ソイツの激高する声も人混みのざわめきにかき消されて、誰1人としてチヒロに気付く者は居なかった。
「ゴラァ! このクソチビメスめ!
この俺が付き合ってやるって言うてんのに!!」
「ぎっ・・・痛い・・・やめ・・・」
「なんてよああん!! よお聞こえんなあ━━━!!」
「いやっ・・・やめてくれ・・・か・・・カイセイ・・・」
チヒロは、恐怖で大きな声が出せないものだから、心の中でカイセイに向けて助けを呼んだ!
『カイセイ! 助けて!』
と、その時だった!
バシャバシャバシャバシャ!
「んお?」
「?!・・・」
境内の玉砂利を踏み鳴らすような足音が聞こえたかと思ったら、突然奴の身体が風船の様にフワリと浮いた!
気が付いたら、奴はすっ転んでいて、その前にはカイセイの姿があった!
カイセイは、チヒロが男に襲われている事に気付くと、人混みを押しのけて駆けてきて、男の後ろ襟首を右手で掴むと、右足で男の足を払いながら、その男を右腕1本でぶん投げたのだ!
「うおおおるるぁああああ━━━っ!!」
「おわあっ!!」
ブォン!・・・ズシャン!!
「ぎゃあはっ!!」
ぶん投げられた奴は、まるで暴れながら空中を舞うカエルの様だった。
そして地面に背中から落ちた奴は、ひっくり返って足をばたつかせる殺虫剤で苦しむゴキブリの様だった。
そしてカイセイは、倒れている男の傍まで歩く。
ちょうど逆光となる高い位置から見下ろし唸り声を上げるカイセイは、地面に寝転がっていた奴から見れば、それはそれは恐ろしい大巨人に見えただろう。
「はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯ゔゔゔゔゔ~~~(怒)」
「いってえ~~~おい! 何さらすんじゃゴルァア!!」
「やかましわ! おんしゃあ━━━っ!!
お前、俺の大切なこの娘に何をしたあ━━━っ!!
いてもたろかワレゴラァァァァ━━━っっっ!!」
ザワザワザワザワ・・・!
カイセイの怒っ気勇ましい声が境内に響く!
流石に参拝客にも気付かれ、辺りは何事かとざわめく。
「んなっ!・・・くっ・・・いててっ
な、なんなコイツ? 彼氏持ちかよ?
くっそデカイ奴が出てきたもんやな・・・
まだ、何にもしてへんわ!! ボケエッ!!」
ザッ⋯ザッ⋯ザッ⋯
ザワザワザワザワザワザワ・・・
奴は、ひっくり返ったゴキブリのようにモタモタした後、バタバタと起き上がる。
そして、自分を投げた奴が、自分より背が高くガタイの良いカイセイだったものだから、恐れをなして捨て台詞を吐きながら逃げてった。
他の参拝客達は、何事かと一時騒然となっていたが、すぐに元のざわめきに変わっていた。
しかし、カイセイは凄かった!
右腕1本で、身長170センチ以上はあるかと思う男を、まるで米俵のようにぶん投げたのだから。
『火事場の馬鹿力』ってヤツだろうか?
でも、チヒロはなぜか、よくこんな目に遭う。
称号の【魅了】のせいなのだろうか?
今回も、反撃の雷魔法は発動できなかった。
あまりの恐怖な出来事に遭遇すると、魔法でも対処できない自分が情けない。
そしてカイセイが、チヒロにそっと近寄り、優しく言葉をかけてくれる。
「ち、チヒロちゃん・・・や、やっと、やっと見付けた!」
「か、かい、カイ~~~セイ~~~すんすん(泣)」
「良かった・・・もう、だいじょう・・・ん?」
ガバッ!
「カイセイ!」
「?!・・・ち、チヒロちゃん?」
チヒロは、カイセイに飛び付く様に抱きついた!
カイセイは、そんなチヒロに驚いて、思わず両手をワタワタさせていたが、そっとチヒロを抱きしめるのだった。
「ごめん・・・チヒロちゃん・・・」
「え”ゔゔゔ~~~ふん! 怖かったぁ~~~!!
もう、殺されるぅ~~~思たあ~~~(泣)」
「ごめん!ごめん! 手ぇ、離してもて・・・」
「うぅん・・・俺も悪かった・・・ごめん・・・すんすん」
「うんうん! でも、ホンマに無事で良かった・・・」
こうしてチヒロは、なんとか事なきを得た。
未だに手足が震えていたし、心臓の鼓動は早かったが、カイセイの手をギュッ!と握って、心を落ち着かせた。
カイセイも、そんなチヒロに応える様に、チヒロの手をギュッ!と握り返してくれた。
そして、ユキナ達の居る場所へ戻ると、ユキナや母親叶達にも、これでもか!と言うくらい怒られた。
大勢の参拝客の居る前でしこたま怒られたので、めちゃ恥ずかしかった。
こんな年に一度の大イベント前に、いきなり迷子になったのだから、怒られるのも仕方がない。
反省・・・
チヒロはこの時、やっとホッとするのだった。
でもチヒロとカイセイは、チヒロの身に何が起きたのかは話さなかった。
こんな時まで、みんなに心配などかけたくなかったから。
その後、乱れた着物や髪を直してもらい、チヒロもようやく落ち着いた。
すると・・・
「あれ?! お前・・・五月女か?」
「ん?」
不意に、後ろから声を掛けられた。
苗字を呼ばれたので、誰かと思い振り向いて見ると・・・
「はん? なっ!! お前は、セーラ?!」
「ふふん! 久しぶりやな?」
「ふ~~~ん・・・なかなか可愛い着物やん?」
「そ、そんなん・・・ま、まあ、ふん!
そーゆーお前も、なかなか似合ってて可愛いやん?」
「そうかぁ? えへへ ありがとな!」
「ふん・・・」
なんと声をかけて来たのは、チヒロが『女装役剤』を飲むキッカケとなった、大魔女セーラだった。
チヒロがセーラと逢うのは夏の加汰の海以来だ。
セーラは、なかなか可愛く綺麗な着物を着ている。
悔しいが、めちゃくちゃ可愛かった。
セーラは、チヒロなんかよりもまだ小さく、まるで小学生の女の子のように見えた。
全体的に紺色と青の生地に、夜空の星のようにキラキラな星粒が散りばめられ、天の川が全体に継ぎ目無しのように続いている。
その上に、色とりどりの扇子や猫や手毬のシルエットが描かれていて、本当にとても可愛らしい着物だった。
なにせセーラは、とにかく背が低い!
中学2年生と聞いていたが、本当に小学生の女の子にしか見えない。
そしてセーラの隣りには、セーラとほぼ同じ背丈の女の子。
金髪碧眼で目がパッチリと大きく、セーラの着る着物とよく似た柄で、猫が犬で手毬が骨付き肉になった柄の全体的にピンク色の着物を着ている。
その娘もまた、めちゃくちゃ可愛かった。
その後ろには、セーラよりも背の高い金髪碧眼のJKっぽい女の子で、セーラの隣に居る金髪碧眼の女の子に顔がとてもよく似ているところから、きっと金髪碧眼の女の子の姉なのだと分かる。
なっかなかの美少女だ!
こんな人も居たのか・・・
そしてさらに後ろには、彼女らの両家の両親らしき人達と、何人かの女の子達と、あの良子の姿もあった。
「あれれ? 良子さん?」
「久しぶりじゃな、小娘!」
「ぶほっ! 相変わらず俺を小娘呼ばわりかぇ・・・(汗)」
「お久しぶりです! 良子さん!
今年は、本当にお世話になりました!」
「おおう! ユキナよ、お前さんは相変わらず可愛いの!
ちゃんと挨拶もできて、誰かとちごてシッカリしとるわえ」
「えへへ・・・(照)」
「それに比べて小娘は・・・」
ジト目でチヒロを睨む良子。
「んなん?! なんで俺だけ・・・(汗)」
「チヒロちゃんは、可愛いで?」
「そ、そうか?・・・(照)」
まるでフォローするかのように、カイセイに『可愛い』と言われて赤くなるチヒロ。
思わず恥ずかしくなり、耳まで赤くして、そっぽを向くチヒロだった。
この頃は、不思議と『可愛い』と言われると、気恥ずかしくもあるものの、なんだか嬉しくもあって照れるチヒロ。
チヒロの着物は、全体的に朱色とピンクの生地に、無難に花柄模様。
ユキナもチヒロに合わせて、黄緑と水色の生地に、無難に花柄模様。
でもチヒロは、カイセイが自分の着物が可愛いと言ったのか、それとも?・・・と考え込む。
ちょっと気になるチヒロだった。
なにせ、自分の着物よりも、セーラの着る着物の方が綺麗で可愛く見えたので、なんだかちょっとしょんぼりシュン太郎に。
しかし、全体的に深い紺色と深い青の生地に、水色の数本の並んだ線で川をイメージする、シンプルな落ち着いた模様の着物を着るカイセイは、なかなかカッコ良かった。
先の男に襲われる1件もあり、チヒロのカイセイを見る目が変わったのは間違いない。
カイセイは、今回は絶対にいける!!
そう思って、1人で何やら決意したかのように、拳を握りしめるのだった。
そんなカイセイは、段々とソワソワし始める。
段々と人混みが騒がしくなり、人の壁にドン!と押され思わず「きゃ!」と小さく悲鳴をあげるチヒロ。
すると、チヒロの手を握るカイセイの手にキュッ!と力が入る。
チヒロは思わず、またはぐれまいとカイセイの腕に両腕を巻き付けしがみ付き、カイセイに自分の身体を密着させる。
カイセイは、そんなチヒロが、より一層可愛くて愛おしくて仕方がない。
そんなチヒロの仕草に、カイセイは脈アリ?!と少し期待を持つのだが・・・
なにせ、カイセイには秘策があった。
人から聞いた噂ではあるが、年が明ける瞬間に告白すると、その恋は必ず成就すると聞き、それを信じ実行する事にした。
しばらく、セーラのグループとも仲良さげに話しをしていると、徐々に周囲がざわめき始め、ついにカウントダウンが始まった!
「「「「「じゅ━━━っ!!」」」」」
「「「「おおっ?!」」」」
「「「「「きゅう━━━っ!」」」」」
「チヒロ! カウントダウンやで!」
「「「「「はぁ━━━ちっ!」」」」」
「お、おう!」
「「「「「なぁ━━━なっ!」」」」」
「小娘! お参りするときは・・・」
「「「「「ろぉ━━━くっ!」」」」」
「はあい?!」
「「「「「ごぉ━━━っ!」」」」」
「住所と名前も言うんやぞ!!」
「「「「「よぉ━━━んっ!」」」」」
「え? あ、はい!」
「「「「「さぁ━━━んっ!」」」」」
「ち、チヒロちゃん!!」
「「「「「にぃ━━━いっ!」」」」」
「ん? なんやカイセイ?」
「「「「「いぃ━━━ちっ!」」」」」
「好きだあ━━━━━━っ!!」
「?!・・・・・・え?」
と、そのとき、時が止まった・・・!
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
『え!? カイセイ、今なんつった? まぁいっか!』
カイセイは、まるで息を止めたかのように口を真一文字にギュッ!と締め、湯気が出そうなくらいに顔を真っ赤にして、鼻で息をフンフン!としながらマジマジとチヒロの目を見詰める。
そンなカイセイに向かって、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔して、ただただキョトンとして、首をコテン!と傾げるチヒロ。
そんなチヒロがまた可愛くて可愛くて愛おしくて愛おしくて、思わず抱き締めたくなる衝動を必死に抑えながら、チヒロの返事を待つカイセイ。
そんな時間が、息が詰まるほどに長く長く感じたカイセイだった。
カイセイは、チヒロを抱き締める用意をする。
両腕をゆっくりと左右に広げて、チヒロが自分の胸の中へ飛び込んで来るのを待つ。
だが・・・
チヒロはまったく、状況を理解していないようだった。
そして、一拍置いて、また時は流れ始め・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ゴオオオオオオオォォォォォォ~~~ン・・・
「「「「「ハッピーニューイヤ━━━っ!!」」」」」
「「「「ワァ━━━っ! ワァアア━━━っ!」」」」
「「「「きゃあ━━━っ! きゃああ━━━っ!!」」」」
「「「「あけましておめでとうございま~~~す!」」」」
ワイワイガヤガヤ~~~・・・
新年が明けて、お祭り騒ぎの参拝客達のざわめきの中、カイセイはチヒロに向かって両腕を広げてチヒロが自分の胸の中へ飛び込んで来るのを待つ。
だが、チヒロは・・・
「・・・・・・・・・なに、カイセイ?」
チヒロは、カイセイのそんな体制のまま棒立ちする意味が解らず、首をコテン!傾げてカイセイに聞く。
その瞬間!
カイセイは、チヒロには何も届かなかった事を悟る。
「!!!!・・・・・・・・・
ぅわあああああああああああ~~~!!
・・・・・・・・・くっ⋯殺せぇ~~~!!」
ビクッ!!
「なっ?! どしたカイセイ!!??」
「なんやなんや?!「どした?!「ビックリしたぁ!「なになに?!」
突然のカイセイの発狂に、周囲がざわめく。
チヒロは、カイセイの突然の異変にまったく理解できない。
だが、そんなチヒロとカイセイの一部始終を見ていたユキナは・・・
「あぁ~あぁ~~~もぉ~~~チヒロのアッポケぇ!!」
「はぁん? なんなよユキナ?
カイセイが、どないしたんじゃよお?
ユキナ、お前なんか知ってんのか?」
「はぁ・・・可哀想なカイセイ・・・
盛大な告白やったのに・・・」
しゃがみ込んで、カイセイの顔を覗き込むユキナ。
「こはく? なにそれ? なあ、こはくって何ユキナ?」
「んんん?・・・(怒)」
「・・・へっ?!(汗)」
ユキナは、そんなすっとぼけた様なチヒロ向かって、睨み付ける。
だがチヒロには、何が何だか理解できない。
そんな鈍感なチヒロに腹が立って仕方がないユキナだった。
それはともかく!
今落ち込んでいるカイセイが気になるチヒロは、訳が解らないながらも、カイセイに声を掛ける。
「ちょっ、な、なあ? カイセイ?
なあって! いったい、どないしたんじゃよぉ?」
しゃがみ込んで、カイセイの顔を覗き込むチヒロ。
「ほん~~~まにチヒロって、アッポケで鈍感やな!」
「はっ?! なんで? ねぇ、なんでぇ~えぇ~~~?」
「「・・・・・・・・・・・・(汗)」」
カイセイの、『グレコの看板』のように広げられた両腕は、肩透かしの様に行き場を失ってしまう。
そして、そのまんま頭を抱えると、カイセイは積み木が崩れるように、その場に膝から崩れ落ちてしまうのだった・・・
15歳カイセイの一世一代の告白は、チヒロの右耳から左耳へ流されるのだった・・・。
カイセイの渾身の『好きだ━━━━━━っ!!』は、チヒロの心に響くどころか、かすりもせずに特急電車のように高速通過!
カイセイのチヒロへの愛の言葉の、『好きだ』の『す』の字すらチヒロの耳には届くことなく、新年の歓喜の歓声の波と除夜の鐘によって、かき消されてしまったのだった・・・。
紀州東照神社にも鐘があるんだねぇ?
「なぁ・・・カイセイ?
なんか知らんけど、元気だせよ?・・・な? な?」
「チヒロがそれ言う?」
「だから、さっきから、なんなんじゃよぉ?」
「うおおおおおおお~~~ん! うおおおお~~~ん!(泣)」
「いやっ?! ちょっ、カイセイ?!
んな、泣くな! 正月早々泣くなよぉ~! 男やろ!!」
「・・・・・・・・・アッポケ」
「・・・はぁん?」
カイセイにとって、正月早々、泣き始めの泣き正月になってしまいましたとさ。
頑張れ! 男カイセイ!
君の目指す道は果てしなく遠く長いぞぉ~~~(汗)
・・・チャンチャン♪
ぉぉお・・・カイセイお気の毒ぅ・・・(泣)
カイセイの気持ちは、チヒロに伝わる日は来るのだろうか?
思いのほか、長くなってしまったので、3つに分けました。