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女装剤  作者: 嬉々ゆう
66/91

第65話 「ガンバレ!カイセイ!①」

男カイセイ!

決めます! 決めてみせます!

この想い、必ず伝えます!

愛しの愛しの可愛いあの娘に・・・


文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。



・⋯━☞10月31日☜━⋯・



••✼••ピオンモール••✼••



 ムトランティアでの件からチヒロの心の傷も少し癒えた頃、チヒロはユキナとカイセイに誘われて、とある場所へと出掛けた。


 ここは、和歌山市と大阪の県境付近の山の上に新しくできた、『ふじの台』という名のニュータウン。

 そのニュータウンの中に、和歌山市で最大級のショッピングセンター『PIEON・ピオンモール和歌山』がある。

 今ここで、数日間にわたって『ハロウィン・イベント』があった。

 今日は、その最終日だ。



「よおぅしっ!!

 ユニバーサル・スタジオ・ジャポニカのミミオンを見付けるぞぉ~~~!」


「「おお~~~っ!!」」



 このモール内のハロウィン・イベントに参加しているお店の中に、3つのミミオンが隠れているんだとか?

 チヒロは、ミミオンを見付けるために、お店を沢山ハシゴするつもりだった。


 歩くお客の中には、ハロウィンにちなんだ仮装をした人達も居て、なかなかの賑わいだ。

 そして今日は、久しぶりにカイセイも一緒だった。


 チヒロとユキナとカイセイは、ハロウィンの衣装に仮装してモール内を歩いていた。

 チヒロとユキナは、いつもムトランティアで着ていた魔法使いの服を、日本でも似たものを創造魔法で作って『着替え玉』にセットしたものを着て、手には箒を持っていた。

 なので、もう着慣れた感じなので、ハロウィンってこともあり、恥ずかしさなんてあんまりなかった。

 でも始めはもちろん、チヒロは拒否した。

 ムトランティアでは、世界中の人々がコスプレしているようなものだ。

 なので、ムトランティアで普段日本で着ている服装姿をしたなら、逆に変な奴扱いされてしまいかねない。

 だがこの日本で、コスプレをするにはチョイと勇気がいる。

 日本で普段からこんな魔法使いの格好をしていたら、それこそ変な奴扱いされるだろう。

 魔導グッズ専門店などの、それなりのお店の中で、魔法使いの格好をする人は居るが。

 だが、1歩外へ出る時は、着替えるものだ。

 でも今日は、ハロウィンだ。

 普段は絶対にしない奇抜な格好をしても、『ハロウィンのコスプレ』という認識で難なく受け入れられる。

 法律に抵触するような危ない格好をしなければ、たいがいは許されるのだ。


 そしてカイセイは、金髪ロン毛、赤い瞳、フード付きローブ、先のとんがった黒いブーツ、先に骸骨の付いた長い杖を持ち、まるで怪しい魔術師のような衣装だった。

 これは、チヒロとユキナが作ったものを『着替え玉』にセットしたものだった。

 金髪ロン毛はヅラだけど、赤い瞳は魔法で変色してある。

 似合ってるけど、なんか怖い・・・

 でも背が高いので目立つのか、色んな人から写真を撮られていた。


 チヒロとユキナとは言うと、元々160cmチョイあった身長が、魔法使いに馴染んできたのか、今では145cmほどにまで背が縮んでいた。



 この現象には、ちゃんと理由がある。




 魔法使いになると寿命がグンと伸び、平均800~1000年は生きるという。

 特に女性魔法使いは男性魔法使いよりも長生きをし、また総魔力が多いほど寿命はさらに長くなり、魔力が1万を超えると、寿命は2000年とも3000年とも言われている。

 だが日本に居る魔法使いとは、ほとんどが本物の魔法使いではなく、『魔導師や魔術師』なんだとか。

 なので、『魔女魔法使(まじょまほううか)管理保護法務省(かんりほごほうむしょう)』、通称『魔管保省(まかんぽしょう)』にも、本物の魔法使いは、たった1人だけであり、他の全ての魔法使いとは、魔導師や魔術師ではあるが、一応魔法が使えるので、『総称』として、『魔法使い』と呼ばれているだけなのだそうだ。

 また、『魔管保省』に加盟していない、『野良の魔法使い達』、通称『ノマ』と呼ばれる者達も、ほとんどが『魔導師や魔術師』ばかりだそうで、大魔女リオリオ良子が率いる本物の魔法使い達ばかりのグループは、とても珍しいとも言われた。

 あと、魔導師や魔術師でも、寿命は普通の人よりも若干長い。

 とは言え、長生きしたとしても150~300歳程度なのだと言う。


 チヒロとユキナは、精霊と契約した本物の魔法使いである。


 そのせいか、チヒロとユキナが魔法使いとして慣れていくと、身体も縮むと言うより、『魔法使いとしての本来の肉体年齢化』していると言えるのではないだろうか。

 もしこのまま身体が若年化すると、今のチヒロとユキナの実年齢の15歳ならば魔法使いで言うと、やっと『保育園を卒園する頃』であり、もしかしたら今よりももっと若年化するかも知れない?

 などと心配してをいたが、良子から聞いた話しでは、元々魔法使いとして生まれは者は、7歳~8歳くらいまでは普通の人と同じくらいの成長速度なのらしい。

 そして、400歳くらいまでは10代半ばくらいの『人の見た目年齢』まで成長し、その後はじわじわと身体が大人へと成長し、そして最期は、残りの寿命が20~30年というところで、一気に年老いていくのだと言う。

 長い寿命の魔法使いにとっての最期とは、命が残り少ないと理解できるだけに、なんとも言えない寂しいものだな。

 だが中には、長すぎる寿命に生きる楽しみを見失い、代わり映えのない長い人生にうんざりして、人間に戻って早々に天寿を全うする者も居るらしいが。


 なのでチヒロとユキナも、通常の魔法使いと同じならば、このまま身体は若年化し続け、見た目年齢は10歳くらいまでは若年化、つまり人で言う見た目年齢が『小学4年生』くらいまでは若返るかも知れないとのこと。

 ユキナは、このまま見た目年齢が10歳くらいにまで若返るのは少し不安だと言っていたが、人から魔法使いになったせいか、胸の大きさは不思議とチヒロとユキナも変わらなかった。

 良子によるとあくまでも予想だが、既に月経が始まって身体が女性として安定しているのだから、身体も見た目年齢10歳以下までは若年化はしないだろうとのこと。

 魔法使いとして生まれたのなら、普通なら初潮は30~40歳頃なんだとか。

 また、月経もコントロールできるようになるとも言う。

 良子も月経は年に数回だけだとか。

 すごいな大魔女!?

 それに、魔法使いでも男女の成長の早さが違うらしい。

 なので、もしチヒロがこのまま男の子へ戻ったなら、魔法使いもやはり女の子よりも男の子の方が発育が遅いため、見た目年齢はさらに幼くなる可能性があるとも言われた。


 チヒロは複雑な気持ちだった。

 胸とか月経とかなんて、どうでも良かった。

 だが、来年の夏には男に戻るつもりでいるのだが、小さな男の子になるとはどうしても想像がつかない。

 もし、男に戻ってそのまま高校へと進学したとなると、見た目は小学生の小っちゃな高校男児の出来上がりである。

 そんな小っちゃな身体で高校生活なんて良くない想像がつかないし、『小学生みたいに小っちゃい』と言われ、ハブられイジメられるのはほぼ確定である。

 さらに成人して就職しても見た目年齢が小学生ならば、社会人として生きていけるのだろうか?

 小っちゃな成人女性なら『若くて可愛い』と、まだチヤホヤされるだけかも知れないが、世間や周囲の人々は、そんな見た目年齢小学生の成人男性を受け入れてくれるのだろうか?

 悲観的な先行き暗い未来しか想像できない。


 また、『女装役剤』の効果が切れて身体が男に戻ったとき、もしかしたら『クローン病』もぶり返すのではないか?とソッチの方が不安だった。

 なにしろ『クローン病』とは、発症原因が解明されていないのだ。

 これはチヒロにとっては、とても不安で怖い未来だ。

 良子によると、魔法薬で完治した病が再発する可能性はゼロではないと言うし、なにしろ過去に例の無い『新薬の女装役剤』である。

 チヒロの様に、『クローン病』という発症原因の解明されていないオマケ的な要素がある場合、正直『女装役剤』の効果が切れてみないと、再発するか否か、また、どんな結果が出るか解らないのが本当のところだろう。

 良子によると、何もしなければ1年後にはキッチリと男に戻れるはずだと言う。


 何もしなければ・・・? なんだそれは?

 その意味がまったく解らない。


 だが、やはり過去に例の無い『新薬の女装役剤』である。

 まだまだ、不確定要素があり過ぎる。

 『女装役剤』は、どんな病気も怪我も完治するが、1日だけ女に変身する魔法薬剤である。

 これは、必ず男に戻る事は確認済みである。


 だが、チヒロとユキナが飲んだ『女装役剤1year』は、どんな病気も怪我も完治するが、1年間女に変身する魔法薬剤である。

『女装役剤1year』を初めて使用したのが、チヒロとユキナなのだから、まだ使用した1年後の効果が切れた後に男に戻ったという実例がまだ無いのだから。

 様々な条件のもとで、効果の臨床実験を行ったわけでもないので効果の証明ができないし、実証例がまったく無いので、今後も使い続けて確認してゆくしかないらしい。

 今では、『女装役剤1week』や、『女装役剤1month』なども開発して効果も確認したと言う。


 今のところ、どちらも確実に男に戻るらしいが・・・


 一応、病気や怪我が完全に完治するのは間違いないとのこと。

 でもチヒロの場合、仮に男に戻ったとして、もしクローン病が再発したならば、また『女装役剤』を飲む羽目になるのだろうか?

 ならば、女装剤や女装役剤のように、女に変身してしまう魔法薬なんかよりも、どんな病気も治せる魔法薬を開発した方が良いのではないだろうか?

 だが、発症原因が解らないのであれば、いくら魔法薬でも対策の練りようがないのだそうだ。

 普通のハイポーションや、エクストラポーションでは、クローン病は治せないのは解っている。

『ドラゴンの生き血』を材料とした、『エリクサー』なら、クローン病も治せるかも知れない?

 だがエリクサーは、ここ日本には存在せず、ムトランティアでもかなり希少な代物だ。

 物質も一緒に転移できるなら、ムトランティアから日本へエリクサーを持ち込むことはできるのだが、エリクサー自体がなかなか手に入らない物である。

 たとえ手に入ったとしても、ムトランティアで活動する身体である魔力で生成されたアバターには、使っても意味の無い代物だ。

 なにせ、クローン病を発症している日本で活動する本体に使用できなければ、なんの意味もない。

 また、エリクサーの精製の材料に、ドラゴンの生き血以外に何が必要なのかも判っていない。

 しかも、そのレシピすら今では失われた『女装剤』と同様に古の魔法薬だ。

 エリクサーも、問題解決にはなりそうもない。


 でも、(がん)ならば、魔法薬でも発症の予防ができるものらしい。

 がん細胞とは、人は誰でも持っているものであり、増殖してがんが発狂するか否かが問題なわけで、それなら魔法薬でがん細胞が増えないようにすれば良いだけのことだとか。


 だが、クローン病は未だに発症原因が改名されていない。


 チヒロにとって、クローン病の苦痛に耐え、好きな物も食べられず、また入院しなければならなくなり、お金と時間の無駄と両親にまた心配と面倒をかけてしまう事を考えると、女の子のまんまで月経痛に耐えている方がまだマシだと思う事もあり、はたしてどちらが良いのか?と考え悩み、夜も眠れなくなる事もしばしば。

 この悩みだけは、誰にも相談できないところが、とても辛いチヒロだった。

『クローン病』とは、特に男性に多くみられる病気である。

 男に戻ってもクローン病がまた再発する可能性が大ならば、『男に戻りたくない』などとは、とても言えないチヒロだった。




 おっと・・・かなり脱線してしまった。




 とにかく、今のチヒロとユキナは、本当に小さくなってしまった。

 身長180cmを超えるカイセイと並ぶと、まるで父親とその娘達のように人には見えるのか・・・



「わぁ~! 可愛い娘さん達やね~~~!」


「「「え?・・・」」」


「娘さん達って、俺らのことか?」


「・・・そーみたい(汗)」


「2人ともまだ小学生くらいかな?」


「「うんぬっ?!・・・(怒)」」


「あのねぇ? 俺らはこう見えても、ちゅ・・・」


「お父さんも若くてカッコイイね~」


「「お父さん?!」」


「ぐはうっ・・・(悲)」

 ガクッ!・・・



 カイセイは、『お父さん』と呼ばれた事に、胸を正拳突きをされたほどにショックだった。

 せめて、『お兄さん』と言ってほしかった。


 しかし、なんて事だ!

 チヒロとユキナは、どうやら小学生と思われているようだ。

 確かにチヒロとユキナは、魔法使いとして身体が馴染んできたからなのか、初めて女の子二なった日から思えば、かなり肉体年齢が低くなってきたように思う。

 それでも、145センチあるかどうかの身長だ。

 小学生は言い過ぎだろう?・・・とは思うのだが。

 しかもカイセイは、チヒロとユキナの父親?

 そりゃないだろう? 落ち着いた着物を着ていたから、『お父さん』に見えたのか?

 カイセイも、酷く残念そうに見えた。

 カイセイは『父親』に見られてショックだったのか、膝の力が抜けて膝カックンみたいにズッコケそうになっていた。


 しかし人々は、チヒロ達の気持ちや都合などお構い無しに、容赦なく集まってくる!



「うわあ!ホンマに可愛い!「見て見て!「魔女っ娘やあ!「可愛い!「写真撮らせて?「あ!私も!」


「うわ! なになに?!」


「きゃあ! ちょっと・・・(汗)」


「なんやなんや?」


 パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!!


「「「?!~~~(汗)」」」



 チヒロ達を見て他の客達が、一斉にチヒロ達の傍へ集まって来る!

 何も知らない人達も、大勢が集まる現象に何事かと興味ありげに寄ってくる。

 するといきなり、撮影会が始まった!



「目線コッチお願いっしゃーっす!」


「「「は?!」」」


「あ! コッチもお願いしまーす!」


「「「ええっ?!」」」


「はーい!はーい!はーい!! コッチもー!」


「「「ええええ~~~(汗)」」」



 いつの間にか、チヒロ達を囲むように人混みはリング状になり、コスプレ撮影会が始まった。


 まるで本物のコスプレイベントかのように、スマホやカメラのレンズを向けられるチヒロとユキナとカイセイ。

 それまでアチコチと散らばっていたカメラを持った人達も、ワラワラとチヒロ達の周りへ集まって来る!

 上の階から、この様子を見た人達も、まるで有名人でも来たのかと思ったのか、階段やエスカレーターから、ワラワラと降りて来て、集まる人達はさらに増えてくる!

 チヒロ達は、ただ言われるがままポーズを決めたり、目線を向けたりと、大忙しだった。



『おいおい! コイツら、ここを何処かと間違ってへんか?!』



 などと思ってしまうほどの、大盛況ぶりだ。


 やがて、チヒロだけだったり、ユキナだけだったり、しまいにはカイセイも、バラバラに別々のコロニーに分けられて、またまた撮影会の始まり始まり~~~ってなもんだ!

 チヒロ達は、ただハロウィン気分を味わいたいだけだったのに、とんだ災難だった。


 ただ、カイセイはもっと災難だった。

 カイセイは今日、ユキナの後押しもあって、チヒロに告白するつもりだった。

 チヒロには内緒で、ユキナがコッソリと2人から離れて、チヒロとカイセイを2人きりにする計画だったが、とてもそんな雰囲気なんてまったく作れなくて、散々だった・・・  


 トホホ・・・のカイセイだった。 




••✼••魔導具専門店にて••✼••



 ここは、ピオンモール内の雑貨店が並ぶ一角。

 チヒロ達は、『着替え玉』で普段着に着替えていた。


 ここには、魔導具専門店が何件かあり、その中の1つである。

 ショップ名は、『Magic tool store☆May Girl』。

 店内に入るとガラッと雰囲気が変わり、まるで魔法使いの映画『マネー・ポッター』に出てくるような『魔法の杖の専門店』の雰囲気が抜群だ。

 もちろん魔導雑貨店なので、魔法の杖だけではなく、何に使うのか解らない物まで、所狭しとズラーっと並べられている。

 『魔導具専門店』だけあって、どの品々にも魔法やスキルが付与されているらしい。

 いったい、どんな魔法やスキルが付与されているのだろう?

 チヒロは、興味があった。



「ふぅ~~~ん・・・これはトランプ?

 手品用のトランプかな?」



 まず最初に手にしたのは、『手品用のトランプ』だった。

 様々な種類があるようだ。

 箱の裏に使い方の説明が簡単に書かれていて、その内容によると、術者(使用者)の思い浮かべたカードが、どんなに混ぜても必ず1番上に来るというもの。



「なんや、ショボイなおぃ・・・(汗)」



 まあ、魔法を信じない人には効果はあるだろう。

 だが、魔法使いにとっては、この上なくショボイ!

 他には・・・



「これは、スプレッドと呼ばれる扇状にカードを並べる・・・

 って、これもショボ!」



 そして次に手にした物は・・・



「相手の選んだカードが、術者に分かる・・・はあ?

 これもまた、ショボ!」



 他にも見てみたが、どれも皆同じような物だった。

 他には、様々なアクセサリーなどもある。

 女の子なら、喜びそうな品物だ。

 女の子ならね・・・

 チヒロは、身体は女の子だと自覚はあるが、心までは・・・と言うか、趣味嗜好まで女の子になったつもりはない。

 なので、アクセサリーなんかを見て、実際に綺麗だとか可愛いとかは思うけど、顔や態度として行動的に声に出して『きゃあー!かわいいー!素敵ー!』なんて事にはならない。

 チヒロが興味があるのは、どんな魔法やスキルが付与されているかだ。


 ひとつ気になったのが、『運の指輪』と書かれた、魔導スチールと呼ばれる素材でできた、見た目は鉄のように硬くて頑丈だが、プラスチックの様にとても軽く、魔力が無くなると煙の様に消えてしまうのだそうだ。

 つまり、付与されている魔法やスキルを使用すると、使い捨てのように消えて無くなってしまうのだそうだ。

 まあ、使い捨てなんだろうけど。

 魔導スチールも、使い捨ても、それはそれで、なかなか面白い。

 だが、付与されている魔法は、『一時的に運気を上げる』、『一時的に記憶力を上げる』、『一時的に力を上げる』などの効果が、それぞれアイテムに各1つだ。

 ムトランティアでいう、『ユニーク・アイテム』である。

 ただ、地球での一般人には、『ステータス』の概念が無いので、はたして効果があるのかどうかは、ステータスによる数値的な確認はできないようだ。

 チヒロ達のような魔法使いになら、確認はできるだろうが。

 でも、チヒロ達になら、もっと凄い物を作れる。

 欲しいなどとは思わない代物だ。

 でも、どれも『1500円』と表示されていて、地味に高い。

 チヒロ達なら、もっと良い物を作って売ったなら、荒稼ぎができるのでは?と思うのだが・・・

 そんな事をすれば、『魔管保省』に目を付けられ、没収されそうで怖い。

 魔導具は魔管保省にとって、『取るに足らない物』でなきゃ、制作も販売も所持するのもダメという暗黙のルールがあるとかないとか?


 窮屈やな・・・


 だからなのか、魔導具に付与されている魔法やスキルは、どれもショボイものばかりなのだろう。


 他にも沢山あるが、なかには『女装剤』のような小瓶の魔法薬などもあった。

 ポーションなのだろうか?

 ポーションも、擦り傷や打撲が治る程度のものばかりで、医療界や製薬業界に喧嘩を売ることにならないように、効果のほとんど期待のできない物ばかりである。

 でもよく売れるのか、陳列棚は隙間だらけだった。

 他には、1日だけ髪や肌や瞳の色を変えるポーションなどや、1時間だけケモ耳に変身するポーションなどもあった。

 

 だが、1番奥の片隅に、なんと、『女装役剤1Day』と、『女装役剤1week』、それに、『男装役剤1Day』と、『男装役剤1week』が置かれていた!

 大魔女セーラが開発した女装役剤とは違い、下位互換的に改良したと思われるもので、風邪程度の軽い病気しか治せないようだ。

 


「こんなもんがあるんか?

 でもまあ、元気にはなれるみたい。

 もしかして、カフェインみたいに興奮して、元気になったつもりだけ~とかって言わへんよね?

 ほおほお? 擦り傷、軽度の火傷も治せるんやな?

 一応は、回復薬に分類されるんか・・・

 『※注意 万が一初潮があった場合は、二度と元の身体には戻れません。

 飲んだ時点で免責同意事項に同意したとみなし、いかなるトラブルについても生産者及び販売者は一切の責任を負いません。』

 んんん?・・・はあっ?! やっばいやんコレ!!

 ってか、たった1日で初潮があるとは思えんけどな

 でも、これって・・・(汗)」




『でも、価格は・・・『女装役剤1Day』2000円?!

『女装役剤1week』5000円!?

『女装役剤1mouth』が1万円?! 安っ!!

 しかも、大人気好評発売中~~~??? マジか?!

 でも買えるのは、月に1人に1本までか・・・

 これは・・・良子さんの仕業か?』


『女装役剤1mouth』の実際の効果は、3週間だそうだ。

 なぜなら『女装役剤』で女性となり、万が一初潮がきてしまうと、身体が女性として安定し、二度と男には戻れないのだそうだ。

 だから買えるのは、月に1人に1本までなのだ。

 なので、もし『女装役剤1week』と、『女装役剤1mouth』の2本買って2本とも飲んでしまうと、約1ヶ月間男に戻れなくなる訳だから、下手をすると初潮がきてしまうからだ。


 ・・・あれ?

 チヒロとユキナは、もう既に初潮を迎えている。

 では、チヒロとユキナはもう・・・?

 いやいやいや! そんなはずはない!

 良子は、『何もしなければ元に戻れる』と言っていた。

 きっと、ここで売られている『女装役剤』は、良子が改良した物だろう。

 そう思って、よく確認してみた。


 間違いはなかった。

 『製作者』には、『リオリオ』と、シッカリと表示されていたのだ。



「良子さん・・・あんた何やってんの?(汗)」



 チヒロは、思わずそう呟いた。

 どこからともなく、良子の高笑いする声が聞こえた気がした。

 ゾッとした・・・(汗)


 その頃、ユキナとカイセイは・・・



「カイセイ! これ買いなあよ!」


「うん? それ何?」


「魅了のポーションやって!」


「魅了のポーション?!」


「そうそう! これをチヒロに飲ませたら、チヒロもカイセイにゾッコンやで!!」


「ええっ?! で、でも、そんなズルは・・・(汗)」



 どこまでも真面目なカイセイである。

 チヒロに振り向いて欲しいとは言え、魔法を使ってまでは考えていないようだ。

 それに、ズルは自分でも許せないようだ。



「何を()ってんの! チヒロはカイセイの事が好きなんやで?」


「ええっ?! う、うそ!! ホンマに?!」


「うんうんうん! ただ、チヒロは自分の気持ちに気付いてないだけ!

 あの()、ホンマに鈍感なんやから。

 あとは、キッカケさえあれば、完璧よ!

 キッカケさえあれば、チヒロもカイセイが好きな気持ちに絶対に気付くはずなんやから!!」


「そ・・・そうかなぁ?」


「うんうん! 絶対よ! だから、これカイセイに私が買ってあげるから!」


「え、ええ~~~でも・・・(汗)」


「いいから!いいから!」


「う、うん・・・(汗)」


「ほな、後で2人になった時に、チヒロに飲ませなぁよ!

 でも、これ飲んで一番最初に見た異性に恋するって書いてたから、絶対にチヒロが1人の時に飲ませたらアカンで!

 チヒロと2人の時に飲ませやなな!

 効果はたったの10分! 失敗は許されへんで!」


「う、うん! 分かった!」


「ほいじゃあ、私はちょっと他の店見てくるから!」


「う、うう・・・うん」


「上手くやりなぁよ! ほななっ! また後で!」


「お、おう!」



 こうして、またまたユキナの、『チヒロとカイセイをくっ付けちゃう作戦』が開始された!


 カイセイは、チヒロに声を掛ける。



「ち、チヒロちゃん?」


「お、カイセイ? どうな? なんかオモロいものあったか?」


「うんや、特には・・・」


「そっか! ほんなら、そろそろ出るか?」


「うん・・・」




••✼••屋外駐車場••✼••



 チヒロとカイセイは、店を出た。

 そして、2人でトボトボと歩く。

 向かった先は、屋外駐車場だった。

 ピオンモールの駐車場は途轍もなく広い!

 でも、広い割には人が少ない場所が多々ある。

 カイセイは、人の少ない場所へと向かう。



「なあ、カイセイ! 何処に行くんや?」


「え? あ、ああ、うん!

 えっと・・・それより喉乾かへん?」


「ふん? そーやな・・・ちょっと何か飲みたいかも?」


「ほな、これ飲んでみる?」


「ふん? それは?」



 カイセイがマジック・バッグから取り出したのは、ユキナに買ってもらった『魅了ポーション』だった。

 もちろん、それが魅了ポーションだとは、チヒロには内緒である。

 銘柄のシールも、ご丁寧にも剥がされてある。


 

「お! 栄養ドリンクか?」


「うん 栄養ってゆーか・・・まあ・・・」


「サンキューな!」


 キチチッ! ポン!


「うん⋯うん⋯うん⋯⋯ぷはぁ!! うんまっ!!」


「そ、そう?」


「うん! マジ美味かった! ありがとな!」


「い、いやぁ・・・」


「・・・」


「・・・・・・」


「うん? なんな? カイセイ」


「・・・はれれ?」



 チヒロは、カイセイから渡された『魅了ポーション』を飲み干した!

 効果は10分だったはず。

 まだ飲んで、そんなに経ってない・・・

 飲んで直ぐに、チヒロはカイセイの顔を見ていたのに。

 なのにチヒロには、なんの効果も現れない。


 するとそこへ、ユキナがやって来る!

 どうやら、チヒロとカイセイの様子を陰から見ていたようだ。



 タッタッタッタッ!


「おーい! チヒロー! カイセイー!」


「ユキナ!「ユキナちゃん!」


「・・・!」

 カイセイに向かってウインクするユキナ。


「・・・へ?」



 ユキナは、ウインクしてカイセイに合図を送る。

 だがカイセイは、首を振って困った顔をする。

 するとユキナは、あれ?と言う顔をして首を傾げる。

 そんなユキナとカイセイの様子を見て、チヒロは不審に思う。



「なんなぁ? 2人して変な雰囲気やなあ?」


「あはっ! いやいや、なんもないよ!」


「うん、そう! なんもないんやけどね?

 ただ・・・チヒロ、なんか感じへん?」


「は? 何が?」


「え? あ、いや、カイセイを見て、なんも思わへん?」


「カイセイを見て? ふぅん? なんのこっちゃ?」


「「??!!・・・・・・」」

 ピシャーン!!



 チヒロの返事を聞いて、ユキナとカイセイの頭にイナズマが走った!!

 


『え? え? なに? なんで?

 魅了効果が現れへんって、どゆこと?!

 もしかして、チヒロには魅了が効かんとか?!

 いやいや! チヒロに、ちょっとでもカイセイへの好意があるんなら、絶対効果はあるはず!!

 うんうん! こんなショッボイ薬でも、ちょっとくらい効果はあるはず!! うん! 絶対にっ!!

 いくらアッポケで鈍感なチヒロでも、ちょっと魅了されて好きかも?ってなったら、それとなく顔に出てもおかしない!

 それやのに、まったく効果が無いって事は、チヒロには、これっぽっちも、カイセイへの好意が無いってこと?!

 それとも、チヒロはホンマにホンマにアッポケで鈍感やらから、ちょっとくらい魅了されても、反応せーへんってこと?!

 いやいやいや! そんな事ない! そんな事ない!

 今まで私は2人を傍で見てきたんや!

 絶対チヒロは、カイセイにちょお~~~っとくらいは好意があるはずぅ!!

 全然無いやなんて、ないないないない!!

 有り得へん!! 有り得へ━━━ん!!』



 珍しく、ユキナはパニクった!

 カイセイは、訳が分からない。

 でも、考えられる可能性は・・・


『チヒロには、魅了耐性がある』

『チヒロには、カイセイへの恋心などは最初から無かった』

『所詮は魔術師の作った薬、効果などあるはずが無い』

 の、どれかである。


 だが、ユキナとカイセイは知らなかった。

 もちろん、チヒロにはカイセイへの恋心はあるにはある。

 ただ、チヒロ自身がその気持ちに気付いていないだけである。

 だがチヒロが、良子からもらった、『魅了耐性のチョーカー(魅了耐性Lv5)』を身に着けていた事を、ユキナとカイセイは知らなかった。

 そう。 ムトランティアでインキュバスのヴィルジールに襲われてからのあの一件以来、チヒロは異性から魅了されないように、何時でも良子から渡された魅了耐性チョーカーを着けていたのだった。

 そして今更ながら、ユキナはチヒロの首にチョーカーが着けられていることに気付いたのだった。



「あれ? そーいえば、チヒロの首に着けてるそれって、なんなん?」


「?!・・・」


「あ、これ? これはねえ、良子さんから貰った、『魅了耐性チョーカー』やよ!」


「「魅了耐性チョーカあ~~~?!」」


「うん! 良子さんが言うには、俺は特にムトランティアでは、異性に対しての危機感が無いらしいから、万が一にも他の魔法使いとかに魅了されやんようにってね!

 だから、日本でも同じもんを着けてるんよ!」


「「~~~~~~!!!!????」」

 ピシャン! ガラガラガラドドォ━━━ン!!



 今度は、ユキナとカイセイの頭に、雷が落ちた!

 ・・・ほどのショックだった。

 ここで初めて、ユキナとカイセイは、魅了ポーションがチヒロに効かなかった訳を知った。

 そんなユキナとカイセイの意図にまったく気付かないチヒロは・・・




「あぁ~~~あ! 今日はハロウィン最終日やったのに!

 ユニバーサル・スタジオ・ジャポニカのミミオン見付けたかったのにぃ~~~

 ぜんぜん、それどころじゃなかったしぃ~~~(怒)」


「はうわっ!!」


「えっと、チヒロ? それより、カイセイが・・・」


「ん? カイセイが、どないしたん?」


「なんでやああああああ━━━っ!!」


 バンバンバンバン!!


「うわっ!「きゃあ!」


「あああああ~~~~~~!!」


「どっ・・・どないした! カイセイ?!」


「カイセイ・・・(汗)」



 カイセイは、その場に崩れ落ちる様に(ひざまず)き身をかがめて、コンクリートを悔しそうにバンバン叩いていた。

 結局、今日もカイセイの想いは、チヒロには伝わらなかったのだった。

 ただ、カイセイに何があったのか理解できなかったが、酷く悔しがっているのは理解したチヒロだった。



「な、なんなんよカイセイ?

 そんなにミミオンが見付けられやんかったんが悔しかったんか?」


「ちっがあああああ~~~~~~うっ!!」


 バンバンバン!


「ひぇっ!」


「んもぉ・・・チヒロのアッポケ」


「へ? なんで?」


「ああああああ~~~~~~(泣)」



 悲しいかな・・・カイセイ・・・

 次また、ガンバレ・・・



ぉぉお・・・カイセイお気の毒ぅ・・・(泣)

カイセイの気持ちは、チヒロに伝わる日は来るのだろうか?


思いのほか、長くなってしまったので、3つに分けました。

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