第58話 「召喚された魔法使い」
今年は、色んな事が起きたと言うチヒロとユキナ。
でも、もっと不思議で難儀な事が起きる。
文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。
・⋯━☞翌朝 土曜日☜━⋯・
••✼••チヒロ宅リビング••✼••
「チヒロ! 今日も、店手伝ってくれるか!」
「ああ、ええよお ユキナも呼ぶかー?」
「もし、ユキナちゃんが、ええんやったらな~」
「んー! ほな、聞いてみるわぁ!」
「おーうっ!」
••✼••加汰海水浴場海の家••✼••
夏休みも終盤。
8月第4土曜日の今日、お盆も過ぎて海水浴客の数もだいぶ減っていただろうか。
昼の混雑する時間帯も、まったく混むこともなかった。
そして、午後2時を過ぎた頃になると、朝から来ていた海水浴客は帰り始め、あっという間に人が少なくなっていった。
今年は暑すぎる・・・
こんなに暑い炎天下の中、身体を焼こうなんて人はあまり居ないような気がする。
なんにしても、人が少なくなると、もの寂しさが忍び寄ってくる。
「なんか・・・毎年この時期になると、ちょっと寂しくなってくるなぁ~~~」
「何を黄昏てんのよ?
でも今年は、色々あり過ぎたわなぁ?」
「・・・・・・ホンマにな」
本当に今年は色々とあり過ぎた。
今年はなぜかクローン病の症状が酷く、イライラした日が多かった。
また、何時もお世話になってる労働災害病院に入院する事になりそうだった。
そんな時、魔女や魔法使いと出会う事になり、ヒロノブはその魔女から貰った、どんな病気でもどんな怪我でも瞬時に治る回復魔法薬『女装役剤』を飲んでクローン病は治ったが女の子のチヒロになり、従兄弟のコウキも俺に付き合って『女装役剤』を飲んで女の子のユキナになり、それからと言うもの俺達は野郎共に追いかけ回されたり、ストーカーされたり、痴漢に遭ったり、異世界へ行ったり、そして魔法使いになったり・・・
特に摩訶不思議だったのは、『アバター・ゴーグル』でこの世界でアバターを作り、そのアバターの身体で活動したりした事。
『アバター・ゴーグル 』を着けて、アバターの身体から眠っている自分の本体を見ると、なんとも不思議な気持ちになる。
そうやって客観的に自分の姿を見ると、自分なのに、他人のような・・・でも、我ながら凄く可愛いと思った。
自分なのに・・・変な気分だ。
まだこの世界の、魔獣討伐やダンジョン探索はしていないけど、いずれはする事になるだろう。
客もほとんど居なくなり、ボーッとしていたら、チヒロとユキナは先に仕事を終えて帰ることになった。
「チヒロー! ユキナちゃーん!」
「「はあーい!」」
「今日はもう、先にあがってええぞー!」
「「はあ~~~い!」」
チヒロとユキナはシャワーを浴びて汗を流し着替えると、迎えに来てくれた母親カナエの運転する車に乗って家に帰った。
・⋯━☞午後3時半頃☜━⋯・
••✼••チヒロ宅リビング••✼••
「着替えは服は洗濯機に入れといて!
ユキナちゃんのも、一緒に洗ってあげるからね」
「「はあーい!」」
「チヒロのおばちゃん、若返って綺麗になったね?」
「え? そうかな・・・
それゆーたら、ユキナのおばちゃんも若返って綺麗になったやん?」
「うん! そーやね!」
「えー? なんてー? 何かゆーたー?」
チヒロの母親カナエがキッチンからやって来る。
「「なんもな━━━い!」」
「ふうん???」
チヒロの母親カナエは、エプロンで手を拭きながら???
確かに、魔法使いになったチヒロとユキナの母親は、2人とも若返って綺麗になった。
チヒロにしてみると、チヒロがまだ小さい頃の母親を思い出してみても、以前の若い頃の母親よりも、ずっと綺麗になったように思う。
この世この世界に存在するものは、物でも生き物でも、不完全な物ばかりである。
不完全な故に、歪だっり、病気になったり、時間とともに年老いて、やがて朽ち果てる。
だが、イデアには、この世この世界に存在する全ての物が、最も完壁な形で、最も完壁な状態で存在する。
なので、イデアに干渉できる精霊は、イデアに存在する物を、この世この世界に限りなく近い状態で再現する事ができる。
それは人でも同じ事だ。
例えとして、人Aが魔法使いになるという事は、精霊と契約する時に精霊の力でイデアに干渉して、イデアに存在する完全な五体満足で、完全にバランスの良い、完全な健康体で、完全に最も美しい人Aに限りなく近い姿に再現されるので、この世この世界でもとても美しく生まれ変わる事になる。
これを、「魔法使いへの聖別」と言う。
なので、チヒロとユキナの両親も、とても美しく生まれ変わったという事だ。
まるで、乙女ゲーや少女漫画の登場人物のように、絵に描いたように美しくなる。
なので、チヒロの母親カナエの手の火傷の跡や、父親トラオのタトゥーも完全に消えていた。
「良子さんが言ってたけど、魔法使いになるとイデアがどうとかで、1番綺麗な姿に変身するんやって!」
「イデアって、全然解らへんのやけど?」
「うん イデアって昔のプラトンって人が言ってたらしいんやけど、この世この世界の存在する物は、イデアという別世界に完璧な状態で存在する物が映し出されたとか何とかって良子さんが言ってたけど、私も全然解らへんかったわ」
「ま、何にしても、あんなイカツてニヒルなオッサンやった俺のおとーちゃんが、あんなサッパリ系のイケメンになるとはな・・・」
「そう言えば、タトゥーが消えてたね!」
「そーやな! 不思議やな?」
「・・・それだけ?」
「それだけって?」
「うぅん なんか、あんまり感動が無いってゆーか」
「そりゃあお前! ある日突然、自分の父親が、まるった別人みたいに変身してしもたんやで?
見た目も声も違うし、思わず『誰?』ってなるやろ!」
「確かにねぇ~~~
でもそれは私らが女の子に変身した時も、おっちゃんも思ってた事とちゃうん?」
「ん?!・・・まあ、そーなんやろうけどな?
でも、おとーちゃんは変わりすぎっ!!」
「ふぅん・・・かもねぇ?」
そうなのだ。
チヒロ達の中で、魔法使いになって1番変わったのは、チヒロの父親の虎雄だった。
名前からして、イカツいオッサンってイメージなのに、見た目も声も全くの別人に変身してしまった。
母親の叶は、旦那がイケメンに変わってしまったのに喜んでる様子だったし、もう訳ワカメだ。
それと、アバターの話しに戻るが、身体のスタイルをある程度変更可能にしてくれたので、もっと『誰?』ってなる。
そう言う俺も、アバターでは性別は変えられないので、自分好みの女の子をイメージした。
身長165cmの金髪碧眼のロン毛のボディコンナイスバディービューティーにしたった♪
最初はユキナに白い目で見られたけど、大きなため息をついたあと、諦めて許してくれたみたいだ。
ユキナは、リアルのまんまユキナだった。
どうやら今の自分が気に入っているらしい。
まあ、ユキナはええわな?
胸も大きいし、可愛いし。
・⋯━☞午後5時過ぎ☜━⋯・
••✼••チヒロ宅自室••✼••
ユキナは母親カナエが車で家まで送ってるので、チヒロは今は家で1人になっていた。
遊びに出かけるチャンス!
「さぁて! アバターになって、また1人で遊びに行こうっかな?」
この頃チヒロは、アバターの身体で1人で遊びに出かけるのがマイブームになっていた。
なぜかレベルはバンバン上がるし、使える魔法は増えるし、もう楽しくて仕方がない!
『アバター・ゴーグル』は、ログイン時にボディのカスタマイズができるシステムなので、もしも嫌な奴に顔姿を覚えられて避けたい時は、ボディを変えちゃえばOK。
しかも、『もし完成したボディを記憶できたらいいな?』と良子さんに話したら、ササッ!とアップデートしてくれて、今では、オリジナルと、金髪碧眼と、銀髪赤目の3体のボディを記録している。
勿論、悪い事には使わない。
ログインする度に変装できるみたいなもんやから、有効に使わんとな!
とにかく、アバターの身体だと、身体強化した後の筋肉痛などが無いから超便利!
原付きスクーターのフルスロットルで疾走するくらいで速く走れるし、いざと言う時は簡単に逃げ切れる!
しかも! 身体強化した状態で『1馬力』スキルを使うと、もっと速く走れる!
また、良子さんから【転移魔法】を教わったので、何時でも家に転移できる!
今では、自宅以外にも、強くイメージできる場所なら何処へでも転移できるようになっていた。
それでもヤバい時は、ログアウト!
うむ! 完璧っっっ!!
「さあ、今日は何処に行こうっかな?」
アバターでの活動は、まるでゲーム感覚で、何時もの街並みも別世界に見える。
お金が無いから買い物はできへんけど、閉店前のお店を見て回るのは、すんごい新鮮味があって楽しい♪
でも、1人で行動すると、やっぱり目立つのか、ナンパされるのもしばしば。
そりゃあ、金髪碧眼やとめっちゃ目立つわなあ。
そんな時は、店の外へ出て路地裏に入ると、そこでサッ!と転移!!
その後、ウロウロキョロキョロしている奴らを見るのがまた可笑しくて堪らない!
この遊びが面白くて楽しくて、もう病みつきやな。
そんなアホな遊びをしていた、ある日のことだった。
・⋯━☞数日後の夜☜━⋯・
••✼••チヒロ宅自室••✼••
チヒロが何時ものように、金髪碧眼のアバターになって、さあ出掛けよう!って思った瞬間だった!
「よおし! ほな、今日も行って来よっか!」
シュパァン!
「うをあっ?! なにぃ?!」
「よお! 小娘」
「オバッ・・・良子さん?」
「こりゃ! 今また、オバンって言いかけたじゃろ小娘めっ!」
「へはっ! あははっ・・・
えっと、な、何・・・何の用ですか?」
「ふん! 何でもいいが、お前も金髪が好きじゃなあ?
そんな、男を誘惑するような身体にしおってからに・・・
そんなに男が好きなのか小娘よ?」
「そんな訳ないやろ!!
俺は男なんか大っ嫌いじゃよ! 変な事言うな!」
「ふん! まあ、そういう事にいておいてやるわえ」
「そういう事って・・・あのなあ!」
「そんな事より、ちと小娘に頼みがあるんじゃ!」
「えっ?! 俺に頼み?」
珍しく、良子がチヒロに頼み事?
いったい何なのか不安になるが、絶対に面倒な事に違いないと思ったチヒロだった。
「なん、なんなんすか? 俺に頼みって・・・」
「あのな、1人・・・
小娘に面倒を見て欲しい子が居るんじゃよ」
「俺に面倒を見て欲しい子?」
「ふむ 実はな・・・」
面倒を見る? なんのこっちゃ?
良子の言う話しは、こうだった・・・。
とある小学4年生の男の子が友達3人とで、ある怪しい儀式を行ってしまったとの事。
その儀式とは、男の子達4人で向かい合い、互いに正面になる男の子のスマホに、4人同時に電話をかけるというもの。
例えば、男の子Aと男の子Bが向かい合い、互いに相手のスマホに電話をかける。
そして、男の子AとBに十字の形になるように、男の子Cと男の子Dが向かい合い、互いのスマホに電話をかける形になるそうな。
すると、誰かのスマホにだけ、異世界の住民に繋がるという都市伝説があるのだそうだ。
まあ、都市伝説なので、そんな事など起こり得ないとは思うのだが、ある男の子のスマホにだけに異世界の者かどうかは解らないが、誰かに繋がり聞き覚えの無い男の声が聞こえたらしい。
仮に、その男の子を『男の子A』としよう。
男の子Bのスマホは話し中に。
そして男の子Cのスマホと、向かい合う男の子Dのスマホも話し中に。
当たり前である。
互いに電話をかけているのだから。
だがその時、男の子Aのスマホも、向かい合う男の子Bのスマホも、互いに話し中になるずなのに、男の子Bのスマホだけが話し中に・・・
だが、当の男の子Aのスマホにだけ、知らない誰かに繋がったと言うのだ。
また、その電話をかけて異世界の者と話しができる都市伝説では、あるルールがあるらしい。
そのルールとは、
●絶対に先に切ってはいけない。
●命令には、逆の行動をしなければならない。
●質問には、必ず逆に答えなければならない。
と、この3つは絶対に守らなければいけないと言う。
もし、このルールを破った者は、質問に関係した呪いがかけられると言われているのだそう。
だがもし、全ての答えをクリアできたなら、一つだけ願いを叶えてくれると言う。
ところが、男の子Aのスマホが本当に知らない誰かに繋がったものだから、他の3人はビビって逃げ帰ってしまったらしい。
1人取り残された男の子Aは、ルールを守らなければどんな呪いをかけられるか解らないと、必死に男の質問に答えたと言う。
質問は、こうだったと言う。
①お前は男か女か?
②お前は今幸せか?
③お前の手の中にある薬は飲んではいけない。
だったそうだ。
①の質問には、『女』だと答えた。
男の子Aは男なのだから、逆に答えるなら当然である。
②の質問者には、『幸せだ』と答えた。
友達だと思っていた奴らに逃げられたのだから、不幸だと思ったからだ。
③の命令を聞いたとき、本当に男の子の手の中には液体の薬らしいものが入った小瓶がいつの間にか握られていたらしい。
男の子Aは、呪われたくないので、飲むしかなかったと言う。
すると、電話は突然切れてしまい、気が付いたら男の子Aは女の子に変身していたのだそうだ。
良子が思うには、男の子Aが飲んだのは、おそらく『女装剤』だろうとのこと。
なので、この都市伝説の犯人は、魔女か魔法使いが疑われるとの事だった。
過去に、世界中に点在する『女装剤』は、晴蘭の祖母『サクラ』が全て回収したと思われていた。
だが、この日本にもまだ残っていたという事になる。
そこで良子は、元男の子Aだった女の子のスマホに残された魔力から辿り、都市伝説と称してイタズラに女装剤をばらまいた魔女か魔法使いを探すと言う。
そしてチヒロには、女装剤を飲んで女の子に変身した子の面倒を見て欲しいと言うのだった。
勿論、身分を隠したいのなら、アバターでも良いとのこと。
なんで俺なのか? と尋ねたら・・・
「小娘、お前は女の子になりたくてなった訳じゃないじゃろ?」
「当たり前やんか!
俺はクローン病を治したくて、どんな病気も治るけど女の子に変身する薬を飲んだんやからな!」
「そうじゃな? だからじゃ!」
「は? なんのこっちゃ?」
「彼の、いや彼女の気持ちが解るお前に頼みたいんじゃ
呪われなくないために『女の子に変身する薬』を飲む羽目になったその娘に寄り添ってあげて欲しいんじゃ」
「!!・・・うぅむ・・・なんで俺が・・・」
「しかもじゃ! その娘の飲んだのは、小娘、お前が飲んだ、1年で元の姿に戻る『女装役剤』とは違い、一生女のまんまになる『女装剤』なんじゃ!
この意味、解るな?」
「女装剤?!・・・・・・ううう~~~ん・・・」
良子の言っている事は解る。
その男の子・・・今は女の子だけど、チヒロが飲んだ『女装役剤』などではなく、『女装剤』と呼ばれる本来は『悪い男を懲らしめる呪いの薬』だったのだが、その薬は飲むと二度と男には戻れないと言う。
それが、どんなに重要な事か・・・
チヒロは、悩んだ。
確かに、無理やり飲まなければならない状況に陥れられ、女の子に変身する薬を飲んでしまった彼、いや彼女の気持ちは、チヒロには少し気持ちが解る気がする。
しかも、その娘が飲んだのは、二度と男には戻れず一生女のまんまになるという『女装剤』だ。
これは、『可哀想』一言では済まされない。
都市伝説とはいえ、無闇に危ない遊びをしたのだから、自業自得だと言われたらそれまでだが。
その都市伝説に乗っかってイタズラした魔女か魔法使いにも問題ありで。
でもチヒロは、一生女のまんまになると言う『女装剤』なんて魔法薬があったなんて知らなかった。
チヒロが飲んだのは、1年で元の姿に戻ると言う『女装役剤1year』だったのには、心底ホッとした。
今から約11ヶ月後には元の姿に戻れるのだから。
「で? 俺はこれから何をしたらええのん?」
「うむ 先ずは、その本人の素性じゃな」
「う、うん」
「その娘の名は、椿 新
和歌山市野咲小学校4年生の男子生徒・・・じゃった」
「ふんふん」
「私はこれから、その娘の戸籍やその他諸々の変更処置をして回るから、小娘お前は、その娘のお助け魔法使いになってやってくれんか?」
「お助け魔法使い?
何? その、クソダサなネーミング・・・」
「いいから聞けっ!!」
ビリビリ・・・!
「ひあっ?!・・・はあいっ!!」
良子の声と同時に、バカみたいに強力な魔力を感じた!
やっぱり良子は凄い魔女だと思ったチヒロだった。
「お助け魔法使いとは、その名の通り誰かを助けるための魔法使いじゃ!
その娘が助けを呼んだときに、小娘を召喚するように設定してあるからな!
もし召喚されたら、その娘の願いを叶えてやってくれ!
心配はせんでもいいぞ?
小娘にできる範囲での願いだけで良い!
これは小娘、お前にとっても魔法使いとして成長するために必要じゃと思って新しく私が設定した『魔法使い見習い育成プログラム』じゃわえ!」
「へえ・・・願い事を叶えると言う・・・
まるで、アラビンと魔法のランタンの魔人みたいな設定やな?」
「ふん 面白い事を言うな?
まあ、そんな感じゃ!
何時、召喚されても良いように準備しておけ!
じゃが、その金髪ばダメじゃぞ?」
「ええええ~~~?!
ちょっと待って待って待ってえっ!!
俺まだ、やるってゆってない!」
「服装は、そうじゃなあ・・・」
良子は、チヒロに構うことなく話しを続ける。
「ああ、ちょうど良いモノがあるぞい!
『大魔女セーラ』が遊び半分で作った『魔法使いセット』じゃ!」
「大魔女セーラ・・・」
「先の折れたエナン帽に、トグルボタンの褐色のワンピースに革ベルトを巻いて、つま先の曲がった魔女の黄褐色のブーツに、大きなフードの付いたダークレッドのマントを羽織り、魔法の杖と空飛ぶ箒を持ってな!」
良子が『魔法使いセット』というものは『大魔女セーラ』が遊び半分で作った魔法使いのコスプレに変身する着替え玉だった。
だが、タダのコスプレではない。
シッカリと、魔法やスキルが付与されているのだ。
●先の折れたエナン帽
(MP+50%)、(INT+50%)、(MP自動回復(1/1秒))、(鷹の目(望遠)Lv5)、(猫の目(暗視)Lv5)
●トグルボタンの褐色のワンピース
(物理耐性+50%)、(魔法耐性+50%)
●革ベルト
(DEF+50%)、(呪い耐性Lv5)
●魔女の黄褐色のブーツ
(移動速度+50%)、(短距離テレポーテーション)
●魔法使いのダークレッドのマント
(熱耐性Lv5)、(冷耐性Lv5)、(不意打ち時自動バリア展開)
●魔法の杖
(HP回復Lv5)、(病気治癒Lv5)、(復元Lv5)
●空飛ぶ箒
(2人まで乗機可能)、(落下防止)、(衝突自動回避)、(最高速度90km)、(限界高度900m)
・・・という、まさにチートな装備だった。
「ああ・・・え? なんて?
グルグルボタンのワンピースに、マントに・・・?
って、ちがあ━━━うっ!!
俺、お助け魔法使いなんか・・・」
「ほら! これが魔女の服の『着替え玉』じゃ!」
良子は、チヒロに着替え玉1つを持たせた。
「あ、はいはい・・・って、だからぁ~~~(汗)
俺の話し、聞いてますぅ?」
「あの娘が『合言葉』を言うたら、小娘の持つその着替え玉が反応して自動的に着替えさせられ、強制的に小娘お前を、あの娘の下へ召喚されるように設定してあるからな!
着替え玉は、常に持ち歩け!
たとえ家に置き忘れて出掛けたとしても、自動的に手元に転移する様に設定してあるからな!
それと、『所有者設定』を小娘に設定しているぞ!
誰にも貸したり譲渡したりできんからな!
わざと置き忘れたとしても無駄じゃぞ!
これは、お前が立派な魔法使いになるためのステップじゃと思え!
もし呼び出された時は、上手くやるんじゃぞえ?」
「ええっ?! ちょっと!
あの娘? 召喚?! 上手くやれってなに?!
いやいやいや、待って待って待ってえ!!
ぜんっぜん、訳分からへんってえ!!
何をどうやるんか教えてよぉ!!」
「それは、小娘お前次第じゃ!
期間は、1ヶ月じゃ!
なぁに、1ヶ月なんて、あっという間じゃわえ!」
「そんな、無責任なっ!!
そんな暇は! もうすぐ学校始まるってえ!!」
「どうしても無理やとか、小娘に手に負えないときは、私を呼んでくれて構わへんから!
じゃあ、頼んだぞっ! 小娘っ!」
「ってか、ちゃんと名前で呼べっちゅーのお!
ああああ━━━っ! 待ってえ━━━っ!!」
シュパァン!
「んなっ?!・・・・・・・・・・・・・・・」
良子は、チヒロに椿 新のサポートを押し付けて、転移魔法で去ってった。
何が何だか解らない内に、勝手に椿 新って奴のお助け魔法使いにされたうえに、ちゃんと何をすれば良いのかさえ教えてくれずに行ってしまった事にショックでフリーズ・・・
しばらくフリーズしていたチヒロだったが、無理やりこう考える事にした。
『どうせ、そんなに呼び出される事なんてないやろ?』
だが、その予想を遥かに超える事態になるのだった。
・⋯━☞その日の午後10時前☜━⋯・
••✼••チヒロ宅自室••✼••
「あれ?! 今日、ムトランティアへ行くの忘れてたわ!
あぁ~あぁ~~まあえっか!」
などと独り言を呟いて寝ようと布団に寝転んだ瞬間だった!
《我今、ツバキ・シンの名において願いたまわる!》
「うをっ?! なんや!!」
突然、頭の中に響き渡るように声が聞こえた!
《精霊に認められし者よ!
我の声を聞き、我の言葉に耳傾けよ!
いでよ! 魔法使いチヒロよ!
そして我の願いを叶えたまえ!》
「はぁん! なんな今の声わっ?!」
シュウゥウゥウゥウゥ~~~!!
「うをわああああああああ~~~!!!
なん~~~じゃこりゃあああああ~~~!?」
突然! チヒロの頭の中に声が響いたかと思えば、チヒロを青白い光が包み込む!
すると、良子から受け取った着替え玉が発動し、チヒロの服装が魔法使いの服装に早変わり!
勝手に服がパジャマから魔法使いの服に着せ替えられると、身体がフワリと軽くなり、布団から身体が少し浮いたと思ったら、いきなりグンッ!と強い何かの力で引っ張られた!
「うをわああああああああ~~~・・・!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
••✼••見知らぬ部屋••✼••
シュパァン! ドスン!
「あぃだあっ!!」
「うわ!! なんか出たあ!!
魔女?! 魔女が出たあ━━━!!」
「んんんん~~~いだだっ(汗)」
強い力に引っ張られたと思った次の瞬間には、見知らぬ部屋の中に転移し、床にドスン!と尻から落ちた!
「あぃだだだだだ・・・なんなんじゃよもぉ~(汗)
あれ? なんで俺、こんな所に???」
「~~~だっ、誰っ?!」
「はぁん?」
尻餅を付いて痛むお尻を擦りながら見上げると、そこには、見知らぬ小さな可愛らしい女の子が立っていて、チヒロを怪訝な表情で見下ろしていた。
「誰って、お前こそ誰じゃ?」
「ぼ、僕は・・・椿 新・・・です
ほいて、ここは僕の部屋です!」
「はあ? お前の部屋?」
キョロキョロと見渡すチヒロ。
確かに、自分の部屋ではない。
チヒロはどうやら、目の前に立つ女の子に呼び出されたと理解した。
『なるほど! こう言うことか
これがオバ・・・良子さんの言うとった事か!』
「そうか・・・お前が俺を呼び出した訳か・・・」
「お姉ちゃん誰?
もしかして、お姉ちゃんが僕のお助け魔法使いなん?」
「ぼくぅ? お前、女の子やのに自分の事を『ぼく』って呼ぶんかえ?」
「え? そん、そそそそんなこと!!
お、お姉ちゃんかて、『おれ』って呼んでるやん!」
「はあ?・・・ああ、まあ、確かにな・・・
ええ~~~と・・・これはいったい、どういう事なんや?
俺に何か用か? よっこらしょっと!」
そう言って、チヒロはのそのそと立ち上がる。
そして落ちたエナン帽を拾って被り、見た目の良い位置に微調整する。
立ち上がってみると、シンという名の女の子は、とても小さく思わず頭を撫でたくなるほど可愛かった。
なので・・・
「ふふっ 可愛い♡」
頭をナデナデ・・・
「なんな! やめろよ!」
パシッ!
チヒロの手を弾くシン。
「なっ?!・・・ふん なかなか気の強い娘やな?」
「お前は誰じゃ! 何しに来た?!」
「何しに来た?って、お前が俺を呼び出したんやろ?」
「えっ?!・・・僕が呼び出した???
あああああ━━━━━━━━━っ!!!!」
「うわっ! うっさっ!!」
突然、何かを思い出したかのように叫ぶシン。
思わず耳を塞ぐチヒロ。
「なんなんじゃよ、お前わぁ?
そんなキンキン声だすなよ~
で? 俺に何の用なんや?」
「え? 何の用? って?」
「チッ! もぉ!
お前、今さっき、俺を呼び出す呪文唱えたやろ?!」
「呪文? あれ、やっぱり魔法の呪文やったんやあ!」
「ああーもお! だから、うるさいってぇ!!
用も無いのに呼び出したんかえ?
イミフな変な娘やなホンマに!
・・・・・・ん? あれは!」
部屋の中を見渡すと、表紙に五芒星の描かれた魔導書のような本が落ちていた。
魔導書とは表現したが、小学校の工作で作ったような手作り感バリバリの『ショボイ本』だった。
その時、こう思った。
『これ・・・良子さんが作ったのでは?』
実は、その通りで、良子がシンのために作った魔導書だったのだ。
それに出来栄えは正直な感想で言うと、『センスなあっ!』ってなもんだ。
適当に作った様な手抜きバリバリものだった。
あはは・・・良子さんにも苦手なモノがあったか。
チヒロは、その本を拾って開いたページが、ちょうど『お助け魔法使いの召喚呪文』が書かれていたページだった。
「なるほど・・・これを読んで俺を呼び出したんか?」
「え? ほな、お姉ちゃんは魔法使い?!」
「へっ?! いやいや、なんで疑問形?
この格好見て魔法使いってすぐ解るやろ?!」
「ホンマにホンマに魔法使いなん?」
「そう! 俺は魔法使いチヒロじゃ!」
お麺ライダーの変身ポーズを決めるチヒロ。
「ださっ! コスプレかと思った」
「ガクッ・・・コスプレて・・・(汗)」
まあね!
このご時世、こんな格好していたら、そりゃあ誰でもコスプレですか?って思うよね?
いえ! コスプレではありません!
私はモノホンの魔法使いです!!
「ええか? よく聞け!
俺は本物の魔法使いチヒロじゃ!!」
「!!!!・・・・・・やっぱり?」
「え? あ、うん・・・ですよ?」
「ほな、僕の言う事何でも聞く魔法使いやな!?」
「はっ?! 何でもって・・・そんな事は・・・」
「だって! その本に書いてるし!!」
「ええっ?!」
ペラペラ・・・
チヒロは、シンにそう言われて慌てて魔導書のページを捲って見てみた。
すると、本当に書かれていた!
『お助け魔法使いは、召喚者(主人)のどんな願いでも1つだけ叶えてくれる。』
「んなんっ?!・・・
どんな願いでも1つだけ叶えてくれるぅ?
おいおい! 一言足りへんやろ!
『できる範囲で』ってちゃんと書いとけよ!!」
「なあ? なあ? 書いてるやろ?」
「え? ああ、うん・・・まあ、確かに・・・」
「ほんなら、僕の願いを叶えてよ!!」
「ちょっと待てよ!!
確かに、『どんな願いでも』って書かれてるけど、それは俺にできる範囲での『どんな願いでも』やからね?」
「え? 魔法使いのお姉ちゃんのできる範囲?」
「そう!! だから、俺にできる範囲を超える願いは叶えてやれやんからね!
例えば、『魔法使いにして!』とか、『不老不死にして!』とか、『総理大臣にして!』とか・・・」
「ほな! 僕と結婚式してよ!!」
「!!・・・・・・・・・・・・はあっ?!」
貴様!! 何を言う?!
貴様の勝手な判断で、俺にとって『結婚』をできる範囲にするんじゃない!!
「お姉ちゃん、すっごく可愛いから好きになった!
だから、僕と結婚して!!」
「可愛いて・・・んもお・・・(照)
でも、それは無理やよ~~~(汗)」
「なんでえ!! 結婚くらい簡単やんか!!」
「簡単な訳あるか!!
結婚というものはな、好きだけじゃなくて!
互いに結婚したいと思い合える人じゃないとダメなの!!」
「僕は、お姉ちゃんと結婚したいよ?」
「俺はお前となんか結婚したくないわい!!」
「?!・・・・・・・・・そんなぁ~~~!」
「ひっ?! おい、ちょっと待て! 泣くな? な?」
「ひぃやぁわあぁあぁあぁあぁ~~~ん!!」
「!!!!・・・えええ~~~(汗)」
泣かしてしもた・・・
出会って数分・・・いきなり求婚される。
これ、どうすればええのん?
『お助け魔法使い』
良子から、ある女の子のお助け魔法使いになれと言われたチヒロ。
お助け魔法使いって、何をすればええのん?




