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女装剤  作者: 嬉々ゆう
54/91

第53話 「アッポケは魅了する人たらし」

メチャクチャ可愛くなったチヒロ。

だがチヒロは、可愛くなった自覚が無い。

そんなチヒロを心配して叱咤するユキナだが・・・


文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。




••✼••ゴールデン・パークにて••✼••



 チヒロとユキナは、スーパーオーコワのあるゴールデン・パークの、映画館から出て来た。

 今日は久しぶりに、2人だけで出かけたのだ。



「なあ? なんで俺を誘った?」


「え? チヒロも観たかったやろ?」


「そら観たかったけど、映画っちゅーもんは半年待ったらテレビで放送するやん?」


「そらそーやけどっ!

 やっぱりテレビとスクリーンとでは、迫力が違うやん!」


「そやけど・・・そーやけど・・・」


「なんなんよ?」



 チヒロとユキナが観たのは、国民的アニメの『ポッケ・モンスター』だった。

 確かに迫力のあるアニメだった。

 ゲットボーイとサンダーマウスとの友情には、いつも泣かされる。

 だが、周りはみな小学生以下。



「って、お前よく恥ずかしないな?」


「恥ずかしい? なんで? 何が恥ずかしいん?」


「だってほら! ほとんど小学生くらいの子供ばっかしやで?」


「何をゆーてんの! 私らはまだ中3やで?

 中3ってゆーたら、まだまだ子供やん?」


「オバチャンみたいな事言うな?(汗)

 そーゆー意味での子供とちゃう!

 あーもー! 何て言うたらええんかなぁ?」



 チヒロは、頭をワシャワシャ掻いて悶々とする。

 こういう所は、まったく女子らしくないチヒロ。

 まるでネタに苦しむ小説家のようだ。

 チヒロもポッケモンは好きだ。

 だが、流石に映画館に観に行くのは恥ずかしかった。

 チヒロにしたら、来年は高校生だと言うのに、ポッケモン?ってな感覚だ。

 チヒロは、そろそろ大人を意識する年頃か。

 早く大人になりたいと思っていた。

 なのに、アニメのポッケモン観るぅ?

 ってな感覚で、他の人達にも笑われてるのではないかと不安だった。

 まあ、決してそんな事はないのだが。

 大人だって、アニメは観る。

 チヒロは小学生の頃は、大人はアニメなど観ないものだと思っていた。

 アニメなんて、子供の観るものだと。

 だが! そんなアニメやファンタジーな世界を作っているのは大人だ。

 チヒロが悩むのもではないのだが・・・

 でもチヒロは、

『中3にもなって、ポッケモンなんて観てるわー』

『高校進学前の女の子がポッケモン?ひくわー』

 ってみんなに思われてるのでは?と勘ぐってしまう。

 なにかと、変な風に自意識過剰になってしまうチヒロだった。



「チヒロ! 気張りすぎ!」


「へっ?! 別に俺は・・・」


「そんなん背伸びしても、しんどいだけやん?

 好きな物は好きって、堂々とアピールしなーよ?

 それに、大人でも観てる人いっぱい居ったやん!」


「あの人らは、子供連れやんか!」


「大人が子供をダシにして、ポッケモン観に来てるんかも知れへんで?」


「それはそーかも知れへんけど・・・」



 確かにユキナの言う通りだとは思う。

 しかし、コイツってば、こんな奴だったっけ?

 達観してるって言うか、開き直ってるって言うか。

 見た目を気にしてウジウジと考え込むチヒロよりも、ユキナはサバサバしていて、ずっと女子っぽい。

 なんだかチヒロはユキナよりも一歩遅れてしまっている気がして、劣等感を感じるチヒロだった。

 でもそれは、『大人として』なのか・・・

 それとも、『女の子として』なのか・・・

 チヒロはどちらも、ユキナに負けている気がして不安になるのだった。


 そんな2人が、また見知らぬ男性達から声を掛けられる。



「オネーサン!」


「「はあ?」」


「俺らこれから、車で遊びに行くんやけど、一緒にどう?」


「へへへ」


「「・・・・・・」」



『なんでこうも、次から次へとうじゃうじゃと、野郎共が話しかけてくるんや?』


 チヒロはもう、ウンザリだった。

 なにせ特にチヒロは、自分がとても可愛くなっているなんて自覚が無い。

 チヒロの服装は、母親の好みによるものである。

 チヒロがスカートを嫌がるので、母親がチョイスしたものだ。

 カジュアルな半袖Tシャツ、デニムの短パン、深々と被ったベースボールキャップ。

 身長162cm、ブラ無しの膨らみかけの胸、ツンと丸く引き上がったヒップ、肩まで伸びた髪は前下りにカットされ、少し太めのピンクの唇に、パッチリした大きめの瞳は、世の男性を虜にするのは言うまでもない。

 ユキナは対照的に、身長160cm、少し垂れ気味な眉に大きな二重な瞳、チヒロよりも長めの髪はキューティクルがキラキラと煌めき、胸はチヒロよりもだいぶ大きめでしっかりブラを着け、紐吊りシャツに浮かび上がる形の良い胸は男女関係なく視線を集め、淡いピンクのプリーツは、女の子らしさを強調させる。

 ユキナの普通に女の子らしい服装がまた凄く似合ってて、チヒロから見てもとても可愛らしく見えた。

 チヒロですら、時々ユキナを見てドキッ!とする事もある。

 そんなチヒロとユキナが2人だけで街を歩けば、そりゃあ声も一度や二度はかけられるのは必然。

 見る者が見れば、逆ナン釣りナンを誘ってると思われても仕方ないかも。


 そうこうしている内に、奴らの車がやって来る。

 最近今よく見かける、ハチクロという名のスポーツカーだった。

 その後ろには、NISSHANのTG-Rだった。


『コイツら、車の暴走族か?』


 車に詳しくないチヒロにとっては、スポーツカー=暴走族という認識で、あまり良いイメージが無かった。


 

「ほら、クルマ来たで~~~」

 ブルルルルル・・・ブォン!


「「・・・・・・(汗)」」


「さ! ほらほら乗って乗って!」


「乗らへんよ「遠慮します」


「そんなん言わんと! ほら!」

 チヒロの肩を抱く野郎。


 パシン!

「おっ?!」

 野郎の手を振り払うチヒロ。


「俺に触るな!」


「「おおっ! 俺っ娘♡」」


「?!・・・きしょ」

 クシャミを我慢するようか表情のチヒロ。


「ひどっ! きしょって、そりゃないわあ~

 ええからまあ、乗れや!」


「やめてって、ゆーてるやろ!!」


「「?!・・・」」

「「「「ザワザワザワザワ・・・」」」」



 チヒロが、大声で拒絶すると、一瞬周囲がざわめく。

 周囲の目を気にする男達。

 声に驚いて、停車してチヒロ達を見る、通りすがりの車の運転手。

 周囲の人々の目には・・・

 男達=人攫いの悪いヤツ。

 チヒロとユキナ=被害者。

 と、見えただろう。

 これで、引いてくれたら良いのだが・・・



「あ、違いますよ~~~

 僕らは、この娘らを迎えに来たんです~~~」


「そうそう! ねぇ~~~」


「「はあっ?!」」


「「「「ザワザワザワザワ・・・」」」」



 何を言い出すんやこの野郎!?

 まるで、保護者みたいな振る舞い。

『僕達は、この娘達を車で迎えに来たんですよ~』

 と言いたげに。

 そう言って、チヒロ達を強引に車に乗せようとする野郎共。

 そんな事で、周囲の人達を騙せると思うなよ?



「きゃあああああああ━━━!!」

 めいいっぱい、悲鳴をあげるチヒロ!


「わっ! コイツ!!」


「私らを拉致して、何するつもりよおー!」

 負けじと声を張り上げるユキナ。


「なっ! 何を言って・・・はっ?!」


「ええ?「人攫い?!「おい!警察呼べ!「女の子を攫うつもりやって!「通報!通報!!「誘拐?!」


「チッ! このブスがっ!!」

「覚えとけよ!!」

 バタン!バタン!

 ブォオオオオォキキキキィ~~~!!


「「・・・・・・(焦)」」


「なんやアレ!「あっ逃げた!「こらあ!「あー!」



 野郎共は、テンプレな捨て台詞を吐いて車に飛び乗ると、ロケットスタートでタイヤを鳴かせながら去って行った!



「お嬢さん達、大丈夫かえ?」

 一部始終を見ていたオジサンが声を掛けてくる。


「あ、はい! だ、大丈夫です(汗)」


「怖かったです・・・(焦)」


「なぁ? 良かったよお~~~

 よう勇気出して声出したんやわ!

 アンタら可愛いんやから、これからも気を付けなアカンよぉ?」

 同じく見ていたオバサンも心配して声を掛けてくれる。


「「はい・・・(汗)」」


「ホンマ無事で良かったなあ?」



 周囲に集まって来た人達が、チヒロ達を気遣ってくれる。

 白昼堂々と拉致ナンしようとするなんて、どんだけ飢えてるんなよ。



「こ、怖かったなぁ?

 チヒロは、どこも怪我してない?」


「怖かったぁ~~~・・・(汗)

 うん 怪我はしてへんけど・・・

 手首にあのアホの手形が付いてしもたわ・・・

 おお~~~いてっ! ああ~~~気持ち悪っ!!

 吐き気する奴らや! 早く手ぇ洗いたいわ!

 今日は、ヤバいと思ったあ! 気ぃ付けてたのに!

 ただ映画を観に来ただけやのに、まさか拉致ナンされそうになるやなんて・・・

 なんで俺らは、こんなに野郎共に絡まれるんやろ?」


「・・・」



 ユキナは、思った。


『チヒロは、自分が可愛い事、自覚無いんやろか?』


 と・・・。

 チヒロは、可愛いからナンパされているなどとは思いもしない。

 それ以前に、自分が「可愛い 」なんて思ってないし、可愛いからナンパされるなんて、まったく全然思ってもいないし、思い付きもしなかった。

 ただ目付きが悪くて、絡まれていると思っていた。

 これも、物心ついた時から、父親が喧嘩ばかりしているのを、ずっと見てきたせいか?

 父親は、目付きが悪いから・・・

 だからチヒロは、そんな父親の子供だから、自分も目付きが悪く絡まれると思っていた。



「俺って、だいぶ目付き悪いみたいやなぁ?」


「はあ?」


「俺の目付き悪いから、野郎共が絡んで来るんやろなぁ~

 別にメンチ切ってるつもりは無いんやけどなぁ~」


「・・・」



『メンチを切る』とは、『がんを付ける』、『睨み付ける』という意味である。

 確かにチヒロは、少し吊り上がり風な目だし、一見『勝気な女の子』の様に見える。

 でも普段は、ぽやぁ~ん、としている。



「え? ソレ、本気で言うてんの?」


「いや、せやから、俺の目付きが悪いからと・・・」


「ええ~~~? 違うと思う・・・」


「ええ~? だって、可笑しいやろ?!

 ちょっと目が合ったたけで、絡んで来るんやで!

 俺って自分では分からへんけど、相当目付き悪いんやろなぁ?」


「う、う~ん・・・やっぱり違うと思う

 ってゆーか、でったい違う!」


「違う? じゃあ、何でなん?

 ユキナは? ユキナは、どう思うん?」


「・・・ホンマに解らんの?」


「解らんってゆーか、俺の目付きが悪いんやから・・・

 あ、そっかぁ! 対処法わかったあ!!

 ほんなら、誰に対してもニコニコしてた方がええんやぁ!」



 ユキナは、そんなチヒロの言葉を聞いて、目が点になり、思考が暫く止まった・・・!

 そして、

『チヒロは、救い様の無いアッポケかも?』

 と、思った。



「うん? どーしたユキナ?」


「ソレ! でったい、やめときなぁよ!!」


「ええ? なんでぇ~え?

 普通に見ただけも絡まれるんやで?

 目ぇ合っただけで絡まれるんやから、俺の顔ってメンチ切ってるみたいに憎たらしく見えるって事やろ?

 ほいだら、ニコニコ笑顔で見た方が、絡まれへんと思わへん?」


「・・・・・・・・・(汗)

 チヒロって、アッポケやろ?!」


「な、なんなよ急に(汗)」


「ソレ、でったい逆効果やから!!」


「はあっ?!

 逆効果ってなんでやねん!

 人間笑ってる方が、ええ事あるに決まってるやろ!!」


「うーんにゃ!!

 でったいに、やったらアカンで!!

 でったいに、やめてよぉ!!

 ホンマにホンマに、でったいやでえっ!」


「お、おい・・・どした?(汗)」


「そんな事したら、ゲームでタゲ取りして、沢山のモンスターを釣ってるみたいなもんやからあ!!」


「ゲーム? タゲ取り?」


「飢えた猛獣の前に、丸腰で肉持って飛び出すみたいなもんやからー!!」


「はっ?! 植えたモジュール?

 マルコシで見積もって飛び出す?

 意味、解らへんわ!」


「アッポケぇ━━━!!」


「んなんっ?!

 そんな、『なぞなぞ』みたいなん言われても解らんわよ!

 もっと解りやすくゆってよぉ~~~

 あ、ほなヒント! ヒントお願い!」


「・・・(怒)」


「「「「ププーッ! クスクスクスクス♪」」」」



 チヒロとユキナのやり取りが可笑しくて笑い出す周囲の人々。

 ユキナは、周囲の目になどには構わず、今ココでチヒロに理解させないと、絶対に痛い目に遭うと心配しての叱咤だった。

 だが、チヒロにはユキナの言葉が、『なぞなぞ』にしか聞こえなかった。



「ああ━━━んもぉ━━━っ!!

 だぁ━━━かぁ━━━らぁ━━━っ!!

 チヒロみたいな可愛い女の子にぃー!

 ニコニコ笑顔で見られたらぁー!

 勘違いした野郎共がいっぱい寄って来るからあー!!」


「お・・・おう・・・カウワイの女の子?

 ハワイの女の子のニコニコがどうしたん?」


「?!・・・チヒロ、わざと言うてない?」


「ん?」

 首を傾げるチヒロ。


「んもぉ・・・まったくぅ!

 こんな時まで無駄に可愛いんやから・・・」


「ふぅん???」


「「「「クスクスクスクス♪」」」」



 この時ユキナは、チヒロの尻をひっ(ぱた)いてやろうかと思った。

 これだけ言っても、チヒロはユキナの言う意味がサッパリ理解できなかった。

 ユキナは、チヒロの事ががメチャクチャ可愛いと思っているが、チヒロ本人は全く自覚がない。



「あ~~~の~~~ねえ~~~(怒)」


「えっと・・・

 笑う門には福来る・・・って言わへん?」


「それは、(ことわざ)! んもぉ!

 ホンマに、まだ解らへんの?!」


「あれ? 間違ってた?」


「ちゃうわよお! アッポケ━━━ッ!」


「うん?」


「諺でも、なぞなぞでも、ないんよ!

 そーゆー事をゆってんのとちゃうんよ!

 今の可愛くなったチヒロがニコニコ笑顔で野郎共に目を合わせたら、飢えた野郎共の前に裸で飛び出して、エッチぃポーズ決めて誘ってんのと同じやってゆーてんのよ!!」



 珍しく、ユキナにしては卑猥な表現だった。

 だが、それほど極端な例え話しにしなければ、チヒロには理解して貰えないと思ったのだった。



「はあん? そんな事する訳ないやんか~~~

 知ってるよ! ソレ、ストリップって言うんやろ?」


「はあっ?! んんんんん~~~!!(怒)」


「おとーちゃんの『7時だよ全員集中!』ってDVDで『コトちゃん』のギャグで観たことあるもん!」


「?!・・・アカンわ、この娘(困)」


「「「「クスクスクスクス・・・♪」」」」



 やっぱりチヒロは、アッポケだった。


 そんなチヒロとユキナのやり取りを聞いていた周囲の人々は、チヒロが可笑しくて可愛くてクスクス笑っていた。


 この時既にチヒロには、

【魅了】と、【人たらし】が、

 知らず知らずの内に称号に追加されていたのだった。

 スキルではなく、称号である。

 なので、チヒロが意図せずとも人々を魅了してしまい、その気がなくても、人をたらしこんでしまうのだった。

 つまり! 【天然の人たらし】である。

 魔法使いではないチヒロには、ステータスを見る術がないので知る由もないが。



「もう、ええわ!

 次、パールシティーのゲームコーナーに行くんやろ?」


「おう! 行こ行こ!」



 チヒロとユキナは、自転車に乗って、パールシティーへと向かった。

 15分ほどで、到着。

 駐輪場で自転車をドラム式チェーンキーで固定して店内へ。


 もう、この時点で注目を浴びるチヒロとユキナ。



「おっ!「可愛い!「へえ~「中学生?「綺麗な娘」


「クレーンゲームやろ!」


「2階やったっけ?」


「おう!」

 パタパタパタパタパタッ・・・



 チヒロとユキナは、階段を駆け昇る。

 そんな2人をコッソリ追いかける野郎に、2人は気付かなかった。


 チヒロとユキナは、他の物には目もくれずに、クレーンゲーム・コーナーへと向かった。

 2人のお小遣いは、1000円。

 今時のクレーンゲームは、100円の物は少ない。

 それに、100円の物は、景品がショボイ。

 なので、1回200円の物で、3回なら500円という物がある。

 


「チヒロ! コレしよ! コレ!」


「ええ~~~コレ、縫いぐるみやん!

 まあ、別にかまへんけど?」


「うんうん! やろやろ!」



 ユキナの選んだクレーンゲームは、ドデカい何かのキャラクター物の縫いぐるみだった。

 ユキナのヤツ、こんなの好きやったっけ?

 女の子に変身してから、趣味が変わったか?

 などとチヒロは思ってた。


 そう思うチヒロも、実は、縫いぐるみが欲しいと思っていた。

 女の子になってからの新しい嗜好だろう。

 どうせなら、大きいのが欲しい!!

 大きい縫いぐるみを探していると、ウサギなのか架空の動物なのか分からないが、おそらくゲームかアニメのキャラクターであろう物があった。


 ずう~~~っと、クレーンゲーム機のガラスケースを、前から見たり横から見たりとマジマジと見てみる。

 取れそうな物、落ちそうな物、掴めそうな物を探し、ゲーム機の周りをクルクル回る。


 そこで、思い切り悩む。


 200円で1回だけチャレるか?

 それとも、500円で3回チャレるか?

 それともそれとも、100円のクレーンゲームで、ボチボチと時間をかけて楽しむか?


 でも、見れば見るほどに、その縫いぐるみが欲しくなってくる。

 今まで、縫いぐるみが欲しいなんて思った事など無かったのに・・・

 興味すら無かった。


 もう、あれこれ10分くらいは悩んでた。

 すると、ユキナのはしゃぐ声が聞こえてきた!



「きゃあ━━━! ありがとう!」


「うん?」



 チヒロは、ユキナの声のする方へ視線を向けると、見知らぬ背の高い野郎が、クレーンゲーム機から縫いぐるみを取り出して、ユキナに渡していた。



『!・・・ほぉ?

 代わりに取って貰ったんかな?

 ふっ・・・やるな? アイツ・・・

 へっへっ! ヒューヒュー!やな♪』

 


 などど思いながらも、何も気にも止めなかった。


 ユキナは、ユキナで楽しんでる。

 なら、俺は俺でこの縫いぐるみに全集中!

 と、思いながら、500円玉を投入!



 カチャコン!・・・ピロリン!

 テッテッテレレッテレレッ♪


 クレーンゲーム機が、色鮮やかに光る!

 それと同時に、機械的な電子音の音楽が流れる♪

 クレーンゲーム機のガラスに額をくっ付けて、横ボタンを押す!

 次に、縦ボタンを押して、狙いを定めてボタンを放す!


 クーレンの腕が大きく広がり、これでもか!ってくらいに揺れながら降りていく。

『大丈夫かコレ?! 取る気無いやろ!!』

 と、突っ込みたくなるほどに。

 狙った縫いぐるみの真上でグラリと傾くと、力無くジワジワと腕が閉じる・・・

 いや! 閉じない! 力弱っ!!

 それでもなんとか、取れそうな雰囲気。



「よしっ!」



 取った!と思いきや、結局アームが閉じない!!

 


「何これ?! 力、弱っ!! マジ、弱っ!!」



 クーレンのアームは、狙った縫いぐるみを撫で滑るように閉じ、ブランブラン揺れながら登ってゆき、景品の投入口の上で大きく開き、1回目終了。



「ああ~んも~~!

 何じゃこりゃ?! 力弱すぎっ!!」



 そして、2回目も失敗!

 次、失敗したら別のヤツやろうと考えていたら、ユキナが先程の野郎を連れてやって来た。




「チヒロー! 取れたー?」


「アカーン! 取れへーん!」


「ソレ、3回目?」


「うん・・・あの、1番上のん!

 あれ、取れそうなんやけどなぁ~」



 と、話してたら、ユキナについて来た野郎が・・・



「ふうん・・・ちょっと待って?」 


「えっ?・・・」



 野郎は、チヒロが狙っているという縫いぐるみを見て言う。



「ソレ、取れやんと思う」


「え? なんで?」


「下の2つの縫いぐるみに絡まるように積まれてるから、たぶん取れやんよ?」


「うっそ! そんなん詐欺やん!!」


「そう・・・これはスタッフがねぇ・・・」



 野郎が言うには、中にはスタッフがわざわざ取れ難いように考えて縫いぐるみを積むこともあるんだとか?

 腕とか足とかを絡めて・・・

 何それ、マジ詐欺やん!


 続けて野郎が言う。



「それより、1番下の穴に近いヤツの方が取れるかも?」


「え? どれ? コレ?」

 指を差すチヒロ。


「そうそう! ソレ!」


「・・・ふぅ~~~ん」



 チヒロが見ると、どう考えても取れそうに無いように思う。

 だが野郎は、こう説明する。



「その縫いぐるみの上に、2つ乗ってるやろ?」


「うん?・・・あーうんうん!」


「ソレの足場となる縫いぐるみをズラすようにしたら、勝手に落ちるかも知れへん!」


「ホンマに?! でも、俺に出来るかな?」


「おれ? 俺っ娘?」


「うん?」



 この時、初めて野郎と向き合った。

 野郎は、チヒロの顔を見て、なぜかフリーズしている。

 ・・・なんなんや?



「・・・・・・・・・可愛い」


「は? あーうん! 可愛いかも?

 うん 可愛い縫いぐるみやんなあ~

 ウサギさんか、何か知らんけど・・・」


「へっ?!」


「え? ぷっ! クスクスクスクス・・・」


「え?」


「チヒロ・・・」


「なんよ?」



 突然、野郎が笑いだした。

 野郎は、チヒロの事を可愛いと言ったのだが、チヒロは自分の事を可愛いだなんて思ってないので、やっぱり気付かない。

 野郎は、縫いぐるみの事を可愛いと言ったのだと思ってるチヒロ。

 相変わらず鈍いチヒロに、ユキナも苦笑い。

 そして、野郎はこう言い放った!



「ホンマに、ユキナちゃんのゆった通りの娘やなあ?」


「はあん? ユキナが? なんの事?」


「いやいや、なんでもないよ?」


「・・・・・・(疑)」



 チヒロは、ユキナなの事だから、悪口ではないだろうけど、また何か変な事を野郎に吹き込んだのでは?と思った。

 例えば、『アッポケ』だとか、他には、『アッポケ』と、それと、『アッポケ』に、あとは、『アッポケ』とか?

 ユキナの言いそうな事である。



「ユキナ! また俺の事をアッポケって言うとったんやろ?」


「そんな事、()えへんよお!(笑)」


「いんや! だって、笑ってるし!

 でったい、()ってるに決まってるし!!」

 ユキナに指差して言うチヒロ。


()ってへんわなあ! カイセイ?」


「え、うん・・・(照)」


「はぁん?・・・かいせい?」


「あ、ユキナは初めてかな?

 コイツ、A組の、瀬田(せた) 快星(かいせい)

 私とは、1年の時からの付き合いなんよ!」


「付き合い?! お前ら付き合ってんの?!」


「「違う!違う!」」


「アッポケ! その付き合うって意味とちゃうから!」


「そうそう! 付き合ってないから!

 なっ! なっ! ユキナちゃん!

 俺、今誰とも付き合ってないから!!」


「はぁん?・・・」



 なぜか、ユキナよりもカイセイの方が、必死に否定していた。

 なんやっちゅーねん???


 実は、この『カイセイ』と呼ばれている野郎は、チヒロ達の同じ中学3年の、A組のヤツだった。

 勿論、ユキナが以前は男で、『姫野(ひめの) 光輝(こうき)』だった事も知っている。

 チヒロとは、ほとんど面識は無かったが、ユキナとは中学1年からの仲で、結構仲が良いらしい。

 チヒロはカイセイの事は、見た事あるような無いような?程度。

 知らなかった・・・

 ユキナに、こんな仲の良いヤツが居たなんて。

 ちょっと、ユキナに嫉妬するチヒロだった。

 だからと言って、チヒロはカイセイに興味がある訳では無い。

 むしろ無関心なくらいで、『へえーあっそう?』ってな程度だ。

 

 だが、それにしては様子が可笑しい。

 なぜかカイセイは、モジモジしている風に見える。 

 どうしたんだろうか?



「んで、この娘は五月女(そうおめ) 千聖(チヒロ)! 私の従姉妹なんよ!」


「チヒロ・・・ちゃんか よろしく」


「おう! よろしくな!」



 チヒロは、カイセイに向けて手の平を向ける。

 カイセイもチヒロの手に自分の手をパチン!と当てた。

 すると、いきなり「キリッ!」とした表情になって、カイセイがチヒロにこう話しかける。



「お、俺が取っちゃろか?」


「へえ? ん? コレを?」


「う・・・うん!」


「ホンマに? 取れんの?」


「た、多分・・・」


「ほな、やってみてん!」


「お、おう!

 も、もし、失敗したらごめんな?」


「ええよ 別に・・・???」



 首を傾げるチヒロ。

 チヒロは、

『コイツは何をこんなに必死になってんのや?』

 と、思っていた。

 それになぜだかカイセイは、チヒロをチラ見ばかりして、顔を少し赤くしているのだ。

 実はこの時、ユキナはカイセイの気持ちに気付いていた。 

 なのでユキナは、常にニヤニヤしていた。

 

 カイセイは、チヒロと代わって、クレーンを操作する。

 すると、カイセイが言った通りに、チヒロの狙った縫いぐるみの真横の下の別の縫いぐるみを弄ると、あら不思議!

 まるで転げ落ちるように、2つの縫いぐるみが落ちてきたではないか!!



「「きゃあ━━━!! やったあ━━━!!」」


「や、やった! 良かったあ!」



 ホッと胸を撫で下ろすカイセイ。

 抱き合って喜ぶチヒロとユキナ。

 カイセイは、取り出し口から縫いぐるみを2個取り出すと、先ずはチヒロに1つを渡し、2個目をユキナに渡した。



「「ありがとう━━━!!」」


「い、いやあ・・・(照)」



 照れくさそうに頭を搔くカイセイ。

 なぜだかチヒロの方にばかり向く。

 カイセイは、やはりチヒロをチラチラとチラ見する。

 なのに、チヒロは全く気付く様子は無い。

 チヒロは、縫いぐるみをギュッ!と両手で抱きしめてニコニコしている。

 そんな無邪気なチヒロは、めちゃくちゃ可愛かった。

 ユキナは、呆れたように苦笑するが、ふうっとため息をつくと、ヤレヤレという表情で2人を見て笑っていた。

 すると! カイセイが意を決したかのように、チヒロに迫るように言う。



「な、なあ! チヒロちゃん!」


「ふぅん?」


「レイン! レイン交換せーへんか?」


「レイン? ああ、ええよう?」


「そ、そうか! やった・・・(嬉)」

 小さくガッツポーズするカイセイ。


「ふふふ・・・」



 レインとは、イラストなども貼り付けられる、リアルタイムで文字で話しができるSNSの1つだ。

 チヒロとカイセイが、レインのやり取りをしている横で、ずっと2人をニヤニヤとジト目で見ていたユキナ。

 ユキナにしてみれば、『カップル誕生!』ってなものだが、チヒロにとっては、『知り合いができた』ただそれだけの事。

 でもカイセイはチヒロに一目惚れしてしまい、今ずくにでも抱きしめて唇を奪いたいくらいに、好きで好きで、もお~~~好きでたまらない!

 カイセイは、コメカミにも脈打つほどに心臓がバックバクなのに対して、チヒロは、まったくもってケロッとしている。

 ユキナとカイセイの2人と、チヒロとのこの温度差は、絶望的なほどに差があった。


 カイセイの気持ちがチヒロに伝わるのは、果たして何時になるのやら・・・

 いや、そもそも伝わるのだろうか?


 この後、チヒロ達は別れ、それぞれが、それぞれの家と帰って行った。




アッポケなチヒロ。

ユキナの心配を他所に、日に日に可愛くなるチヒロ。

カイセイの気持ちにチヒロは気付くのだろうか・・・

無自覚な人たらしのチヒロは、ある意味めちゃくちゃタチが悪い。

また、チヒロはカイセイの気持ちに気付くのだろうか・・・

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