第52話 「チヒロとユキナ」
女装役剤で、女の子になってしまったヒロノブとコウキ。
今日もまた、ナンパ野郎達が2人を遊びに誘う。
海の家での手伝いをしていると、必ずナンパな目に遭う2人だった。
文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。
••✼••川北中学校体育館裏••✼••
「お前ら、ホンマに五月女と姫野か?」
「お、おうよ! 見てわからんか?」
「ホンマじゃ! こんな嘘ついてもしゃーないやろ?」
「ホンマは、元から女やったんと違うか?」
「「違うわ!」」
「ほんなら、証拠見せてみいーよ?」
「「証拠?!・・・・・・」」
証拠を見せろと言われても、どうしようもない。
女装役剤を飲んで女の子に変身する瞬間に立ち会う事にでもならなきゃ、証明などできるはずがない。
コイツらの企みは解ってる。
ただ、俺達を虐めて、爽快な気分になりたいだけだ。
理由や手段はどうであれ、他人を見下して、優越感に浸りたいだけだ。
だが、この窮地を脱するのは、魔法使いでもない限り至難の業だ。
さて! どうしたものか・・・
「ほら! 見せてみろよ! 裸をよ!」
「アホかお前! 変態か!」
「そーじゃ! 変態ー!」
「ふん! ほらやっぱり、元々女やったんやろ!」
「んな訳あるか!「男やったわ!」
「だから、その証拠を見せろってよ!」
「はい!そーですか!って見せるバカは居らんわ!」
「そうじゃ! 自分の裸でも見とけ!」
「おい・・・脱がせ!」
「おーし!「おらあ!「こっち来い!」
「逃げろ!!「お、おう!」
バタバタバタバタバタッ!
コウキを突き飛ばし、コウキだけでも逃がそうとするヒロノブ。
だが・・・
「逃がすな!」
「「「おお!」」」
バタバタバタバタバタッ!
ヒロノブとコウキは、秒で捕まってしまった!
体格の良い男子に、女子の足では逃げれれるはずもなく・・・
「なんなよ! 放せっ!「やめろー!」
「うっさいわ! ゴラァ!」
ボス! ドゴ!
「きゃふ!「ぐふっ!」
「ちょっと裸を見るだけやろ!」
「うぐぐ・・・くそ!「痛い・・・」
ヒロノブとコウキは、鳩尾に拳をねじ込まれ、糸の切れたマリオネットのように倒れ込む。
腹の痛みで動けないところを、奴らにあっという間に丸裸にされてしまう。
だがその時同時に、虹音がヒロノブとコウキに設置設定した【危機発信機】が作動!
「うーわ! きっしょ!」
「コイツ! ホンマに女になってる!」
「ふん! 女のくせに生意気な!」
「この制服は、ちゃんと捨てといてやるからな!」
「そうじゃ! 女のお前らには、学ランなんか要らんやろ!」
「まて・・・」
「やめろ・・・返せ・・・」
カッターシャツは引き裂かれ、ボタンはちぎられ、ズボンは踏みにじられてボロボロに・・・
もう、酷い一言で済まされるレベルではない。
だが、この事態はシッカリと虹音と良子に伝わっていた。
••✼••虹音の高校の教室••✼••
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「あっ!!」
虹音が友達とお弁当を食べている最中に、突然警告音が鳴り響き、虹音の目の前にマップパネルが表示され、ヒロノブとコウキの名で赤い点滅が!
だがそれは、虹音にしか見えず聞こえなかった。
「ん? どーしたん?」
「え? あ、うん! ちょっと、知り合いに電話せんとアカンの忘れてたわ!」
「え? そーなん?」
「うん! ちょっと電話させてな!」
「はいはーい!」
虹音は、【アニマル・ストラップ】で、良子に連絡。
すると良子にも、【危機発信機】の反応があったとのとこ。
そして今回は、良子が出るとのことで、虹音は事後の連絡を待つことになった。
••✼••川北中学校体育館裏••✼••
シュパァン!!
「「「「うわあっ!!」」」」
突然! 4人組の前に良子が現れたものだから、4人組は飛び上がるほどに驚いた!
「なんや、オバン!」
「魔法使いか!!」
「魔法使い?!」
「・・・ふん! なるほど、そう言う事か
まあ、それを返してもらおうか?」
シュン!
「あっ! 返せ!」
「返せ? それはまた可笑しな事を言う
どう見ても、お前達の物ではないじゃろがえ!」
「「「「!・・・」」」」
良子は、ヒロノブとコウキの有様を見て、事の次第を察し把握した。
物体転移魔法で、ヒロノブとコウキの制服を奴らから取り返すと、ヒロノブとコウキを介抱し、ボロボロになった制服や下着などを魔法で復元し、服を着せてあげた。
「おい! オバン!!
何を部外者が勝手に学校に入って来てんのや!」
「大丈夫か?」
問いかけを無視する良子。
「あ・・・貴女は・・・「あ・・・あの時の・・・」
「うむ もう大丈夫やからな」
「おいおい! 聞いてんのか! ババア!」
「なに勝手な事してんのじゃ!」
「どこか、痛いところは?」
まるで奴らの声など聞こえていないかのように無視する良子。
「大丈夫です・・・「すんません・・・」
「おいゴラァ!」
「ちと黙っとけ糞餓鬼共っ!!」
良子は、4人に向けて手を振りかざす!
パシィ━━━ッ!!
「ぎゃう!「ごあ!「ぎえ!「ぎゃあ!」
バタバタバタバタッ!
4人組は、良子の縛りの魔法で、ぐるぐる巻きの簀巻きにされてしまった!
4人組は、その場にバタバタと倒れる。
そして、4人組には目もくれずに、ヒロノブとコウキに回復魔法をかけて介抱を続けた。
「もう平気か?」
「はい!大丈夫です!「ありがとうございます!」
「あとは、私に任せて教室に戻りな!」
「「はい・・・」」
「おいおい!「待てゴラァ!「こらー!「外せ!」
「ふん! 元気だけは良い餓鬼共やな?」
「くぉらババァ! こんなことしてタダで済むと思うなよ!」
「そうじゃ! お前なんか後で、酷い目に遭わせちゃるるからな!」
「放せよ! これー!」
「ゴラァー! はーなーせー!」
「あっはっはっ! まるで地に落ちたミノムシじゃな!
言いたい事は、それだけか? 糞餓鬼共よ」
「「「「くぁwせdrftgyふじこlp!!」」」」
4人組は、何を言ってるのか解らないくらいに、ギャアギャアと喚き散らす!
流石の良子も、耳を塞いだ。
「ホンマに! うるさい糞餓鬼共やなあ?
そうじゃ! 口にガムテープ貼ってやろう!
あ! その前に・・・」
良子は、マジック・バッグから小瓶を4本取り出し、魔法で無理やり4人組に何かを飲ませた。
すると4人組は、全員女の子に変身してしまった!
良子が4人組に飲ませたのは、晴蘭が作った【女装役剤】を良子が改良した、【女装役剤1week(改)】だった。
1週間だけ、女の子に変身する魔法薬だ。
そして・・・
「んで、仕上げに!」
パチン!
「「「「んんんん~~~!!!」」」」
良子が、指をパチン!と鳴らすと、4人組の口には、ガムテープが一瞬で貼られた!
そして良子は、4人組に向かって【威圧】を発動させてこう言った。
「おい・・・」
「「「「!!~~~(怖)」」」」
「今、お前達に飲ませたのは、女に対して非道な行為を行った男を女に変身させる戒めの薬じゃ!
何も下手な事をしなければ、1週間で元の姿に戻るじゃろうが・・・
もし! 何か一つでも事を起こせば、二度と元の姿には戻れんからな!
せいぜい、覚悟を決めて行動するようにな!」
「「「「~~~!!」」」」
良子の飲ませた【女装役剤1week(改)】には、良子が施した追加の呪い【他人を傷付ける行為をすれば、二度と元の姿には戻れない呪い】を施してあった。
4人組は、涙を流しながら必死に何度も頷いていた。
威圧を放つ良子が余程恐ろしかったのだろう。
そして良子は、4人組をそのまま放置して、川北中学校の校長室へと向かった。
••✼••川北中学校校長室••✼••
校長室のドアが、突然荒々しく開かれた!
ガタガタッ!・・・
「うん?」
ガラララ・・・バア━━━ン!
「うをわ! びっくりした! 何ですか?!」
「よう! 久しぶりじゃな小僧」
「あぅわっ!! こっ、こここっ・・・
これは、リオリオ様!」
ガラガラガラッ・・・ガタン!
校長は、転びそうになりながら、慌てて椅子から立ち上がり、良子の前に立つと深々と頭を下げる。
「ほ、ほん、本日は、どのようなご要件で?」
「ふむ ちとな!
この学校の3年生に、しょーもない4人組が居ってな」
「4人組・・・ですか? あっ! もしかして・・・」
「ふん! もう、誰らの事か察しがついたようじゃな?」
「いやはや・・・面目ありません・・・
あの子達、また何かやらかしましたか?」
「まあな! 今は体育館裏で懲らしめておる
体育館裏には誰も行けんように、放課後まで解けん結界を張っとるから、放課後に結界が解けたなら解放してやれ」
「はっ! で、では・・・そのように・・・」
校長は、良子の言いなりだった。
実は、この川北中学校の校長も、600歳を超える「男性魔法使い」であり、かつては良子が行政関係に就いていた時代の部下でもあったのだ。
また良子は、今でも行政関係には顔が効く。
「さあて! 後始末をしてこようかの!」
「はっ! あ、あの、後始末・・・とは?」
恐る恐る顔を上げて聞く校長。
「みなまで言わんでも、分かろうがよ?」
「!・・・やはり、そう言う事ですか?」
「そう言う事じゃな!」
「はあぁあぁあぁあぁ~~~(汗)
承知したしましたぁ~~~・・・」
肩を落として、少しフラつく校長。
「うむ では、早速行ってくるわな!」
「あ、はい! 行ってらっしゃいませ」
「うむ・・・」
シュパァン!
良子は転移魔法で、どこかへ行ってしまった。
「はぁ~~~・・・
これは、各界の有力者界が荒れるぞぉ・・・」
この日から数日間、川北中学校校長の懸念するとおり、各メディアは地方有力者界が大荒れとなったニュースで支配された。
それら全てが、良子が荒らしたのだった。
後の良子の話しでは、
『奴らの社会的地位を格下げしただけじゃ』
と言うが、それって人生最大級の出来事だと思うのだが。
だが、このまま放置していても、由々しき事態に陥るのは時間の問題だったとのこと。
良子が言うには、
『大火になる前の燻った状態の今の内に、私が手を施してやったんじゃから、感謝されたいわ!』
との事だった。
翌日、件の4人組は休んでいた。
心中、お察しします。
翌々日から登校してきた4人組が全員女の子に変身しており、妙に大人しかったのは言うまでもない。
大魔女リオリオ良子。
恐るべし・・・
・⋯━☞翌々日☜━⋯・
••✼••川北中学校3年教室••✼••
「あれ? チヒロちゃん今日は、女の子の制服を着てきたんやあ?」
「あ、うん・・・まあね」
「似合ってるやん!」
「うん! 可愛い可愛い!」
「そ・・・そうかな?」
「ユキナちゃんも!」
「そう・・・やね」
「2人とも、超可愛い~~~!!」
「「「「可愛い~~~!!」」」」
「「~~~(照)」」
「「「「ザワザワザワザワ・・・」」」」
ヒロノブとコウキは、今では改名した名前に少し慣れた頃であり、特にコウキは少しずつ女の子としての自覚も芽生えてきていた。
五月女 博信は、五月女 千聖に。
姫野 光輝は、姫野 優樹菜へと改名していた。
服装も、普通に女子のセーラー服になっていた。
2人とも、とても似合っていて可愛らしかった。
またユキナは旨が大きく、弄られていた。
チヒロとユキナは、上手くクラスに溶け込んだようだ。
そして、件の4人組とは言うと、まるで借りてきた猫のように大人しくなっていた。
以前のチヒロとユキナのように、男子用の制服のスクール・カッターシャツを着て、黒いズボンを穿いていたが、女子である4人のそんな姿は妙に違和感があり、好奇な目に晒されていた。
実は4人の事は担任から生徒達に、全て語られていたのだ。
流石に良子の手回しの良さには呆れるほどだ。
そして奴らも後ろ盾が無くなったのだから、もう下手な事はできない事くらい理解していた。
他の生徒達みんなも思う所はあるが、必要以上に奴らに近付かないし接しない。
触るバカに祟なしってなもんだ。
良子の飲ませた【女装役剤1week(改)】の呪いによって、あと数日は効果が切れないので、それまでは女の子として暮らすしかない。
執行猶予は4日というところか。
男に戻る事には、夏休みが始まっているだろう。
もし、何か1つでも悪い事をすれば、もう二度と男には戻れないのだから、大人しくするしかない。
あれだけ傍若無人な奴らだったのに、『事無き事勿れ』を願う、もうすぐ刑期を終える出所前の囚人のようだった。
こうなるともう、逆に哀れに思うくらいだ。
更に数日後。
例の4人組は、なんとか【女装役剤】の効果も切れて、今では元の姿、男に戻っていた。
だが、以前のように騒ぎを起こす事はなかった。
まるでもう、別人のようだった。
その頃には、夏休みが始まっていた。
・⋯━☞夏休み初日 正午頃☜━⋯・
••✼••加汰海水浴場海の家••✼••
夏休みの初日の日曜日。
加汰海水浴場の海の家には、タンクトップとミニスカート姿の、チヒロとユキナの姿があった。
「チヒロー! 4番テーブル
焼きそば3つ できたぞー!」
「はあーい!」
「ユキナちゃん! それ持って行ったら・・・」
「3番片付けとオーダーやね!」
「おう! よおー分かっちゃーるなぁ!
んじゃ、よろしく~~~」
「あ、はーい!」
また、チヒロとユキナの忙しい夏休みが始まった。
夏休みになると、2人は小学4年の頃から、土日は海の店を手伝うのが当たり前だった。
だが今年の2人は、違った。
2人はとても目立ち、可愛いと評判になった。
今のチヒロとユキナには、かつての乱暴な男の子だった頃の陰すら無かった。
また、『魔法使い』に近い身体なので、日焼けをまったくせず、2人は真っ白な肌をしていた。
それがまた、2人を目立たせる要因でもあった。
「ねえ、チヒロちゃんやったっけ?
この後、一緒に泳がへん?」
「・・・お仕事中なので」
「そうよなぁ~~~」
「・・・」
「どうよ? あの娘! めっちゃ可愛いやん?」
「めちゃ美味しそうやん?」
「おう プリップリのええケツしてんなあ~」
「・・・・・・(汗)」
父親がチヒロとユキナの名前を呼ぶので、なかには名前を覚える人も居る。
だから、名前で呼ばれる事も・・・
だが、なぜかチヒロには、スケベ野郎ばかり寄って来る。
そんな客達に誘われても、チヒロは適当にあしらう。
チヒロは女子は苦手だが、野郎はもっと嫌いだ。
そんなチヒロだから嫌な気持ちが顔に出るからか、ろくな客が寄って来ない。
チヒロは、嫌らしい目で見る野郎共からよく声を掛けられる。
聞こえてくる会話も卑猥で、チヒロを不快にさせるのだった。
そして、その対照的にユキナは・・・
「ユキナちゃん! 俺とデートせーへんか?」
「何ゆーてんのよ、お兄ちゃん!」
「クスッ また今度ねえ~~~」
「ああー! お兄ちゃん振られた~~~」
「あああ~~~アカンかあ~~~」
「クスクスクスッ・・・♪」
兄妹だろうか。
高校生くらいの男子に、妹らしき中学生くらいの女の子が卑しめる。
ユキナに声を掛けるのは、それほど嫌らしい奴らじゃなかった。
なんなんだ、この差は?!
どういう訳か、ユキナは野郎に声をかけられるのが平気なのか、慣れてるかのように、サラっとあしらう。
なんだ? 対応の仕方が悪いのか・・・???
やはりユキナの方が、女の子らしく見える。
確かにユキナは、チヒロから見ても可愛い。
チヒロと違って、仕草も女の子らしいし。
なんだか複雑な気持ちになるチヒロだった。
・⋯━☞夕方5時前☜━⋯・
「おーい! そろそろ片付けに入ってくれよー!」
「「はあーい!」」
「ちょっと喉乾いた! かまへんか?」
「おう! 行ってこい!」
「ほななっ!」
パタパタパタッ パサッパサッパサッ!・・・
浜の砂に足を取られて、両手でバランスを取りながら身体を左右にフラフラさせて走るチヒロは、女の子走りっぽく見えて、とても可愛らしかった。
このように、チヒロも自覚こそ無いが、時々女の子らしさを見せる時がある。
チヒロは、店のジュース入れのクーラボックスからルカピス1本を取り出し、海の家の裏に回ると胡座で座り込み、ルカピスを一気飲み!
すると、見るからに怪しい野郎に声をかけれれる。
「グビッ⋯グビッ⋯グビッ⋯ぷはぁー!
あああ~~~美味しい~~~生き返る~~~」
「ねえ、ねえ! お姉ちゃん!」
「はん?」
チヒロが飲み終わるのを待ってたかのように、声をかけてくるナンパ野郎共2人。
見た感じ、大学生くらいか?
「なに?」
「お姉ちゃん ここでアルバイトしてんの?」
「アルバイト・・・?」
「なあなあ! アルバイト終わったら、俺らと一緒に遊びに行かへん?」
「へえ?」
どうやらチヒロを、海の店のアルバイトだと思っている様子。
中学生が海の家でアルバイトなんかする訳が無い。
『家や身内の仕事の手伝いだとは思わないのか?』
とも考えたが、もしかしたら、チヒロを高校生と思っているのかも知れない。
チヒロは、女装役剤を飲んだので、身体は魔法使いに近い身体だが、精霊と契約していないので、寿命は普通の人と変わらない。
なので、実年齢よりも、大人びて見えたのかも知れない。
それより、
『なんで俺が見ず知らずの野郎共と遊びに行かなアカンのな』
などと思っていたら、奴らは強引に迫って来た!
「なっ! なあっ! 行こらよ!」
「うんうん! 行こらよ!」
「カラオケ行くか? それか、もっとオモロいとこに行くか?」
「そうそう! もう1人の娘も一緒によ!」
「!・・・・・・(汗)」
ユキナの事を言っているようだ。
チヒロとユキナを遊びに誘っているらしい。
『やっぱりユキナにも目を付けたか・・・
遊びに? こんな時間から? もうすぐ夜やで?』
やはり、チヒロとユキナを、この海の家のアルバイトの高校生くらいに思ってるようだった。
『オモロいとこって、何処なんよ?』
と、思いながらも、だいたい察しはつく。
行くわけがないやろアホ。
誰が野郎共と遊ぶかよ。
奴ら野郎共2人は、チヒロとユキナを、何処かピンクな部屋にでも連れ込もうと企んでるのでは?と・・・
と、そう思いながら野郎共を睨み付ける。
それが、いけなかったのかも知れない。
「あー 行かへん 行かへん!
片付けもあるから! 忙しいし、時間ないし」
「大丈夫やって! 俺らが連れてってやるから!」
「そうそう! ちゃんと送っちゃるから!」
「だから行かへんって・・・ん?」
よく見ると、奴らの後ろにも、20歳過ぎくらいの丘サーファー野郎共がニヤニヤと嫌らしい顔してタムロっている。
アイツらも絶対に仲間のはず。
こんなのメチャクチャ怪しい。
海の家の裏なので、人目につかないからと、メチャクチャ強引な奴らだ。
野郎共の集団が女の子2人を拉致して、何をしようと企んでんや?
そんなもん、決まってるやろ。
絶対に悪い事考えてるぞコイツら。
「あーえーごめん! ホンマに忙しいから無理!」
「そんなん言わんとよおー!」
「絶対楽しいから! な? な?」
「だから、行けへんって! シツコイでアンタら!
せやけど、お兄さん達! 鏡見た事あるぅ?
その程度のビジュアルで、よくもまあ自信ありげにナンパできるなぁ?」
「なんてよこのアマァ!!」
ついつい、口調にも角が立つ。
奴らを怒らせてしまったようだ。
しまった!とは思いながらも、チヒロは足早に店の中へ入ろうとしたときだった!
「ええから来いって!」
パシッ!
チヒロの手首を掴む野郎!
「痛っ! なんなよ!」
「ちょっと可愛いからって、いい気になんなよ?」
「はあ?! いい気になってんのはアンタらやろ?」
「チッ! ええから、ちょっと来いや」
「こら! やめろ! 放せっ!」
奴らの態度が急変!
思い通りにならないからと、腹を立てたか?
それともチヒロの発言にムカついたか?
するとそこへ、ユキナがやって来た。
チヒロが戻らないので、様子を見に来たのだ。
くっそ! タイミングの悪い・・・(焦)
やばい! ユキナ、逃げてくれ!
「チヒロー! どこー?」
「ユキナ逃げろっ!!」
「ええっ?! きゃあ! なにアンタら!!」
「おっ! ちょうどええわあ!
はら! お姉ちゃんも一緒においでよ!」
「ひやあ! だ、だれ?!」
「ほらほら! 行くぞゴラァ!」
「きゃあ! 痛い!痛い! 放して!」
「ユキナぁー! ゴラァ! お前ら放せよ!!」
ユキナは、チヒロよりも女装役剤の影響を受けてしまったのか、チヒロよりも言動や仕草に女の子らしさが目立つ。
「ええからええから! な!」
「ええから、来いってえ!! ゴラァ!」
「俺らの事を好きで堪らんようにしちゃるから!」
「「ひいぃいぃいぃいぃ~~~(焦)」」
絶体絶命!!
くっそマジやばい!!
このまま連れて行かれたら、何処で何をされるか解らない!
「放せっ! 放せってよお! ゴラァ!!」
「いややあ! 放してよおー!」
奴らは、強引にチヒロとユキナを店から離そうとする。
夕方頃とは言え、まだ人が多いと言うのに、よくもまあこんな事ができるもんやな。
この海水浴場には、他府県からも沢山の人が来る。
揉め事には関わりたくないのか、みんな見て見ぬふりをしている。
ヤバいぞ・・・逃げなきゃ!
チヒロは、この付近でよく聞く噂話しを思い出す。
加汰から更に大阪に向かって山道を進むと、『森林パーク』という名の公園があるのだが、そこには巨大な恐竜のオブジェがあり、夜になると恐竜のオブジェが不気味で、また心霊スポットとしても有名な場所だったりする。
そこへ女の子を拉致して、こう言うそうだ。
『素直に一緒に遊びに行くか、ここで1人残されるか』
そうなると、たいがいの女の子は、1人でこんな怖い場所に残されるくらいならと、諦めて一緒に遊びに行くのだとか。
なんて卑劣な!
冗談じゃない!!
コレ絶対これヤバい状況!!
チヒロとユキナは、大声で叫ぶ!
「いや━━━! 放してえ!!」
「きゃあ━━━!! 助けて━━━!!」
「こら! 叫ぶな!」
「コイツ!」
するとそこへ、チヒロの父親がやって来た!
チヒロとユキナの姿が見えなくなり、心配になって探しに来たのだ。
「ゴラァ! 俺の娘らに何さらしとんじゃえ!!」
「うをわ! 逃げろ!」
「くそっ!」
バタバタバタバタバタッ!
お化けでも見たかのように、慌てて転びそうになりながら逃げ出す野郎共。
マジでヤバかった!
本当に連れ去られると思った!
人生これで終わりかとさえ思った。
チヒロとユキナは、その場にウサギ座りでへたり込んだ。
「大丈夫かチヒロ? ユキナちゃん?」
「ふう・・・おとーちゃん、助かったわ」
「おっちゃん・・・ひっく・・・ひっく・・・」
ドッ⋯ドッ⋯ドッ⋯ドッ⋯⋯
心臓が耳の周りにあるかのように、煩いくらいに激しく打つ。
チヒロは、内心ドキドキバクバクだった。
ユキナは、もう泣き出していた。
めっちゃ怖かった。
ニヒルな父親の顔を見て、ホッとするチヒロとユキナだが、ガクガクブルブルと身体の震えが止まらなかった。
「あんの糞餓鬼共が!
俺の顔知らんっちゅーたら、アイツら潜りか?」
「・・・さあ?」
『潜り』とは、他府県へわざわざやって来て、悪さをする奴らの事を言う。
「ユキナも知らんわな?」
「知らへん・・・グスン!」
「・・・・・・」
チヒロの父親は、ここいらでは結構有名な人物だったりする。
見た目のビジュアルも然る事ながら、シャツの袖口からチラ見するタトゥーが、どう見ても八の字の人。
勿論、八の字の人ではないのだが、的屋業界でもチヒロの父親は、『的屋の狂犬病』として有名だったりする。
昔は的屋と言えば、八の字の人が多かったが・・・
「気付くの遅れて、すまんな!
なんもされてないか? 怪我ないか? 平気か?
どこも、痛くないか? どうなんや?」
珍しく、オロオロする父親。
本気でチヒロとユキナを心配だったようだ。
この時チヒロは、自分の父親がこの人で良かったと思った。
「う、うん・・・だ、大丈夫」
ブルブルガクガク・・・
「うう・・・ううう・・・」
ブルブルガクガク・・・
「・・・・・・そうか」
父親は、チヒロとユキナをギュッ!と強く抱き締めてくれた。
チヒロとユキナは、心から安心できた。
チヒロとユキナも、父親に抱き付いていた。
それでもまだ震えていたが。
もう安心なはずなのに、あの時の恐怖が治まらない。
あの野郎共の人形の様な黒いビー玉みたいな冷めた目。
チヒロとユキナの事を、欲求の捌け口の道具としてしか見てないかのような冷酷な表情。
思い出すだけで、ゾッとした。
「なあ、おとーちゃん」
「なんや?」
「アイツら、また来ると思う?」
「えっ?! 嫌やっ」
「・・・いや、もう来んやろ」
「ホンマ? でったい?」
「おお! 俺の顔見た奴らは、もうよう来んて!」
「そうか・・・」
「・・・・・・」
チヒロの父親は、そう言ってニヤリと笑った。
『来るなら来い! 生きて帰れると思うな!』
みたいな気迫を感じた。
また違う意味で、ゾッとした。
「ほら! サッサと片付けて帰るぞ!」
「「はい」」
チヒロ達は、店の片付けを始める。
「おーい! ソッチはもうええかー?」
「うん もう終わるー! ユキナは、もう終わるか?」
「あ、うん おーけー!」
「よっしゃ! ほな、行こか!」
「うん・・・」
「なんかお前、エラい大人しくなったな?」
「そうかな?」
「・・・なんか前と違うわな」
「・・・そうかな」
チヒロは、思った。
『俺とユキナとの、この違いはなんやろ?』
チヒロから見ても、ユキナは日に日に女の子らしくなっている気がする。
最初っから、女の子なんじゃ?と思うほどに。
男だった頃のユキナ(コウキ)と、今の女の子のユキナとは、もしかして別人なのでは?と思うほどに。
ユキナが、こんな調子でどんどん女の子らしくなっていったら、いざ1年後の男に戻るときに、ユキナはどんな反応をするのだろう?
もしかしたら、ユキナだけ男に戻りたくないと言い出すかも知れない。
チヒロが強引に、ユキナを巻き込んだのだ。
もしそんな事にでもなったら、チヒロは自分のせいだと自分を責めるだろう。
いや、まだまだ時間はある。
ユキナが一線を超えないように、自分が軌道修正しなければ!
でも、本気で拒否されたら、チヒロも無理に引き返せとは言えないだろう。
ユキナが選んだ自分の人生だ。
チヒロの都合で、勝手なことは出来ない。
チヒロは、漠然とした不安に苛まれるのだった・・・
1年間。
1年間我慢すれば、また男に戻れる。
それまでは、なんとしても耐え抜くぞと意気込むチヒロだったが、ユキナの変化に戸惑うのだった。




