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女装剤  作者: 嬉々ゆう
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第4話 「覚醒」

晴蘭もいよいよ魔法に深く関わることに。

晴蘭は魔法が使えるようになるのか?

ますます、ファンタスティックに!



文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。


 夏休みも中盤。


 俺の名は、白鳥しらとり 晴蘭せいら。ここんとこ毎日のように、俺と、俺の母親のかえでと、親友の相良(さがら) 海音(みおと)との3人で、忙しく走り回っている。


 実は俺と海音は、2週間前までは超イケメン紀州男子きしゅうだんしだったのだ。俺の名前も大晴(たいせい)、海音の名前は義斗(よしと)だった。そんな俺達が、今はなぜこんなまこい女の子なのか?


 その理由は、俺達元超イケメン紀州男子きしゅうだんしコンビの大晴と義斗は、我が白鳥家の蔵で見付けた呪いの魔法薬まほうやくの「女装剤じょそうざい」を飲んでしまい、女の子に変身してしまったのだ。

 実は女装剤を飲むと、身体が「魔法使い」と同じ身体となり、寿命も魔法使いのように長くなるため、身体も少し若返ったのだそうだ。

 そのため、あれこれと女の子用に変えなきゃいけなくなり、戸籍の変更やら、その他諸々手続きやら何やらでもう大忙しで、とても、大変、非常に、きわめて、すこぶる、大いに、すごく、スーパー難儀!

 身体も()まこくなったので、女の子用の服やら道具やら何やらを揃えるために走り回っていたから、夏休み前半の「夏休み本番!まだまだ休みが続くぜー!ヒャッホー!」みたいな嬉しさが半減。どてこい(凄く)損をした気分だ。


 それと、夏休みが明けて学校が始まれば、俺と海音は、「転校生」って設定にするとか。んで、大晴と義斗は、めちゃ、ごっつう、どえらい、どてこい、あらくたい、遠くのどこかの御国へ行っちゃったって事にするらしい。


 なんとも強引やな・・・


 とは思うものの、正直有難い。このまま同じ苗字で登校すれば、感の鋭い奴にはバレバレのはず! いやいや、簡単にバレるやいしょ! 大騒ぎになるのは想像に難くない。

 そりゃまあ、もう二度と男には戻れないんだから、「二度と帰らない」みたいな場所じゃなきゃダメだもんね。「どこ?」って決めちゃマズイでしょ?


 俺の苗字は全く違うものに変わる。というか、「好湾(すわん)」にするらしい。


 すわん?! 白鳥(しらとり)白鳥(はくちょう)=スワン? すわんですわん?! これ、ヤバくね? すぐにバレるっしょ? 中国の可愛い苗字っぽくない? もーちょっと工夫しようよう? でも、仕方ない。白鳥家と相良家との皆で相談した結果、当の本人の俺を蚊帳の外の除け者にしての満場一致で、俺の異議あり!は却下された。


 んで、海音の苗字は、相良(さがら)相良(あいら)=愛羅(あいら)だそう。


 うぅ━━わっ!  なにそれ?! 海音の苗字が、愛羅?! かわカッコイイ! 名前みたい! いいなぁ~~~


 悔しいけど、俺も良いと思った。


 もちろん、海音は大喜び! なんなよムカつく! 別にええけどね! どーせ学校に通うときだけの仮の苗字だから。


 あ、そうそう。海音は両親が共働きなので、俺の母親が面倒を見るとのことで、俺達と一緒に行動しているってわけ。


 今日俺達は服を買いに、ショッピングセンターに来ている。途中、魔法関連グッズの店などを見かけ、今まで見た事が無い商品を見た。いわゆる「魔導具」だ。

 立ち寄れなかったので、チラ見しかできなかったが、どれもオモチャに毛が生えた程度のものばかりだ。叩くと、自分で登録した効果音が鳴るだけのピコピコハンマーとか・・・

 でも、不可解だった。この13年間、魔導具が普通に売っている所なんて、見た事など無かった。どうなっているんだろう? でも母親に急かされたので、そのまま先を急いだ。


 んで今は、センター内の、ファッションストアーへ来ている。なぜか海音とは趣味嗜好(しゅみしこう)が似てるらしく、俺と海音は同じ商品を取り合うようになり、母親には毎度叱られっぱなしだ。

 終いには、別段欲しい訳でもないのに対抗心から同じ商品を取ったり、単品しか無い品物を先に取り合ったりしていた。

 ついさっきも母親に叱られたばかりなのに、今度は身長の話になって、また喧嘩になってしまった。


 だって海音の奴、自分の方が背が高いと、しつこいくらいに食い付いてくるもんだからホントに頭にくる。

 俺は別に、海音よりも背が低いことなんて、これっぽっちも気にしていない! ああ、これっぽっちもね。



「ぃよぉーっし! そこまでゆーんやったら、ちゃんと測ってみよらよ! あ゛あ゛ん? お前の言う2センチの差っちゅーもんを見せちゃってくれ!」


「おおーええぞー! んで? どーやって測るんや?」


「ほら、キッズコーナーの近くに、身長測定用のメモリみたいなのんが壁に貼ってあったやろ!」


「ああ~なんか貼ってたなあ?」


「また何か言い出したわこのら」



 ジト目で睨み付けてくる母親を横目に晴蘭と海音は、2人して身長を測るメモリのある場所へと向かった。引き止めることをしなかった母親を見て、ホッとする2人。そんな2人の様子を呆れて見守る母親だったが、どこか嬉しそうでもあった。



 キッズコーナーの壁に貼られてあるアニメチックなポスターのような張り紙には、可愛らしい子供達と高い木のイラストの横に、10センチずつ縦に並んだ葉っぱのイラストと身長を表す数字が表記されていた。


 先ずは、海音が壁のイラストを背にして立ち、晴蘭に向かって得意気な表情で言う。



「で、どーかな はよ見て!」


「こらこら、背伸びすんなよ義斗!」


「おい、俺の今の名前は海音やぞ? み・お・と! もし同じクラスの奴らがエンカウントしたら、どないすんじゃ!」


「そんときわ、葉っぱと棒で何とかしたらええやいてよ!」


「ハッパトボー? 何やそれ? 意味分からへんわ!」



 晴蘭は、某有名RPGゴンドラクエストの勇者が、旅立ちの際に王様から貰える「(ひのき)の棒と薬草」の事を言っているのだろうか?

 それとは気付かず、晴蘭が何を言っているのか理解できない海音。

 晴蘭は、母親が持っている昭和時代のカセット式ビデオゲーム、ファミリア・コンピューターのレトロなドット絵ゲームがマイブームだったのだが、海音はプレイした事がないので、分からないのは仕方がない。



「はいはい、ごみんちゃ! でも心配すんな! んなもん今のお前を知ってる奴になんかに絶対に会わへんから 会ったとしても、誰も俺らに気付けへんよ!」


「それやったら、ええけどよ・・・」



 確かに、今の2人を知っている奴らなどいない。たとえ同じ学校、同じクラスの奴らに出逢ったとしても、知らない女の子が2人で騒いでいるくらいにしか見えないはずだから、たぶん誰にも気付かれはしないだろう。


 だとしても! やっぱり不安だ。



「そんな顔すんなよ 心配ないって!」


「あーわかったから! なんでもええから、はよ見てくれよ!」


「はいよ! えーと? うう~ん・・・132センチくらいかな?」

 海音の頭の天辺と壁の目盛りの位置を見比べる晴蘭。


「はぁー?! 132センチぃ?! もっとあるやろ?!」

 慌てて壁から離れて振り返り、晴蘭の言う132センチの位置にくる目盛りを確認する海音。



 132センチ?! ()まこ!!


 確かに以前よりも背が低くなった自覚はあるが、そんなに低かったのか? 晴蘭は慌てて自分の身長も見るように海音を急かす。



「ふははははっ! 無様だな! これが貴様の身長とやらだ!」

 左手を腰に当て、右手人差し指を海音に向けて、勝ち誇ったように言う晴蘭。


「それって、誰の真似してんのな?」


「はいはいっ! 何でもええから、今度は俺の番じゃ!」

 くるりと身体の向きを変え、壁に背中を当てる晴蘭。


「ほいほい! ほらちゃんと頭を壁に付けろよ!」

 と、晴蘭の額を壁に押し付けるように押す海音。


ゴン!


「あだ!!」


「クスクスクス・・・w」



 海音は、晴蘭のおでこを強く押したので、晴蘭は後頭部を壁に打ち付けてしまう。


 そんな2人の様子を見ていた他の大人の客達がクスクスと笑う。そりゃあ女の子2人が、ワイワイと男の子みたいに元気に騒いでいたら、可笑しく見えるもんだ。そんな事などにまったく気付かない2人は、ワイワイと騒いでいた。


 海音は目盛りを見ようとするが、自分よりも晴蘭の背が高く見える事にきづき。晴蘭の足元を確認する。



「こら! 背伸びすんなよ!」


パチン!


「あてっ! チッ! バレだか もうええから早よ見てくれ!」



 海音よりも少しでも背が高くなるようにと踵を上げて立ったら速攻でバレて、頭を平手でしばかれた晴蘭。早く見ろと言いながらも、ふざける晴蘭に段々とイライラしてきて、言葉遣いも段々と悪くなる海音。晴蘭もそんな海音に返すように、言葉遣いが悪くなるのだった。



「ゴラァお前っ! はよ見ろゆーくせに、いらん事すんなよ!」


「なーんなよワレッ! お前もやったくせに!」


「だから、ちゃんとやったやないか?」


「わあーった! わぁーったってえ! はよ、見たらんかいゴラァ!」

 と言って、今度はもっと強く晴蘭の額を壁に押し付ける海音。


ゴン!


「いったいなぁ~お前っ! 泣かすぞワレゴラァ!」

 後頭部を両手で抑えて、海音に向かって怒鳴る晴蘭。


「ぷぷぷっ! クスクスクス・・・w」

 そんな2人を見て、可笑しくて笑っている他の客達。


「お前、わざとやってるやろ?!」


「わざとちゃうよぉ!」


「ホンマかぇ?」


「知っててもちゃうで!」


「おお」


「分かっててもちゃうで!」


「おお!」


「意図的もちゃうで!」


「おおっ!!」


「故意やからな!」


「一緒やないかぇ!! アホンダラ!!」


「ぶぶぶう~っ!」

「クスクスクス・・・」

「あはははははは!」

 まるで漫才でもしているかの様な晴蘭と海音の可笑しな会話に、ついに爆笑する他の客達だった


 周囲の目にも気付かないほどに、晴蘭と海音はヒートアップしてくる! いったい何処で覚えたのか、出る言葉も段々と汚くなってくる。


 中学生と言えば多感な年頃というか、厨二病精神が色濃くでて威勢(いせい)を張る時期というか、言葉遣いも悪くなるものだ。

 でもそんな2人の見た目は小学生低学年くらいの小っちゃな女の子で、片方は、黒目黒髪純日本人ボーイッシュ幼女で、もう片方は、金髪碧眼ロシア系クォーター美幼女。

 周囲の大人達にとって、汚い言葉遣いで言い争う2人が、さぞ滑稽に見えただろう。そんな2人の様子を見ていた大人の客達は、舌を転がして悪態を付く2人の小っちゃな女の子のやり取りが、可愛くて可笑しくて必死に笑いを堪えていたが、とうとう堪え切れずに爆笑してしまう。



ゴン!

 また、晴蘭の頭を壁に強く押し付ける海音。


「いだっ! 痛いってぇ~~~! あのなあ、人の脳みそって、豆腐みたいに柔らかいんやぞ! 脳みそ壊れて頭アホになったら、どないしてくれるんじゃゴラァ!」


「そーかよ! 悪かったなぁ! んじゃ、今のお前の脳みそは、麻婆豆腐みたいになってるんやな? ってゆーか、最初からグチャグチャな脳みその、アホやろがぇ? あ゛あ゛ーん?!」



 もう、無茶苦茶である。

 でも、晴蘭と海音の表情は、本気で怒ってるのではなく、笑っていた。

 誰が見ても、2人の小っちゃな女の子達は、本気で喧嘩をしているのではないと理解できたのだった。



「ぬぅわぁにぃ~! お前なんか()()で縛りあげて、市中引き回しの刑じゃゴルルラァ!!」


「おんどりゃクソがぁ! お前なんか、(はりつけ)にして、コチョコチョの刑じゃワリャア!」


「なんてよ、おんしゃあ!! お前のドタマかち割って、ストローで脳みそチューチュー吸うたろかーワレゴルルラァ!」


「おおーなんじゃい! やんのかぇ! 今ここでパイルドライバー決めて、お前のケツ張り回したろかワルルレェー!!」


「おおおー! やれるもんやったら、やってみろよー! クソブス!」


「っほおおぉー! お前こそ、やれるもんやったら、やってみろやー! クソチビ!」


「クスクスクス・・・w」

「きゃははははははは!!」

「あっはっはっはw」


「「・・・・・・」」

 ここで初めて、周囲の大人達に自分達が笑われている事に気付く2人だった。


 でも、特に不快じゃなかったので気付かない振りをした。というかヤケクソだな。

 流石に、少しやり過ぎた感はあるが。


 しかし、こうやって海音とワイワイやってると、男だった頃と何も変わらないなと思ったし、本気で楽しかった。やっばり海音は女になっても俺の親友だ。なんとなくその時ふと思ったのだが、俺は女の子になってしまったけど、海音と一緒なら上手くやっていけそうだと思った。ムカつくけど。


 でも海音の奴、絶対に楽しんで悪態ついてるやろ? 俺もやけどな。



「はよ見ぃーって!!」

 また、壁に背中を当てて、海音を急かす晴蘭。


「うっさい黙れ! 今、見てるから!・・・ん~~~130?」

 晴蘭の頭を壁に押し付けながら、壁の目盛りを見る海音。


「っはぁ━━━?! 有り得へぇーん!!」

 海音よりも数字的に身長が負けている事がショックで、頭を抱え、足をパンタグラフのようにがに股にして、空に向かって発狂するかのように叫ぶ晴蘭。


「あはははははははwww」



 そんな調子でワイワイと騒いでいると、とうとう他の客の大人達は、爆笑してしまうのだった。



 しかし・・・


 ちょっと待って下さいよぉー!!


 マジか?! マジですか?! 本当に俺の今の身長は130センチ?! いくらなんでも、ちまこ過ぎへんか?



 頭の中で、ピアノのガーン!という音の後に、バッハのトッカータとフーガのパイプオルガンの演奏が聴こえた気がした。


 なにより、海音に負けた事が悔しかった。

 コレで勝ったと思うなよ貴様ぁー!


 その後2人に向けて、拍手喝采ではなく、他の客達の爆笑する笑い声が響いた。



 今は、夏休みシーズンだから、俺達と同じくらいの身長の子供達なら他にもチラチラと見かけるが、こう見えても俺達は中学1年生なんだ。なのに身長130センチだなんて悲しすぎる。このままでは俺達は、小学生低学年の女の子として認識されるかも知れない? とはいえ、自分達の事を何も知らない人達に、どう思われようが関係ないのに、気にすると益々気になってしまうものだ。変な風に自意識過剰になってしまう。


 あ、でも! 電車やバスは、子供料金でもバレずに乗れるかも?って、問題はそこじゃなあ━━い!!


 しかし、大人達は今の俺達にとっては巨人だ。すれ違いに様に見た大人の男性の手なんて、めっちゃデカく見えた!


 やっと母親と背丈が並んで、大人に近づけたかと思っていたのに、また子供に逆戻りした気分だ。ってか、男だった頃も、元々小さかった方だけどな。


 それより何だ! 俺達の今のこの格好! まるで、ちっこいたま子ちゃんとか、便所の咲子さんじゃないか?



 2人が着ていた服をとは?

 晴蘭は白い襟付きシャツに、水色のサスペンダースカート。海音は白い襟付きシャツに、ピンク色のサスペンダースカート。なんという古風なペアルックだ! 母親も、よくもこんな古風なデザインの服を選んだものだな。それは、母親が昭和時代の子供だったのだから、母親のファッションセンスを疑っても仕方がないのだが。元々男だったというし。


 本当にまるで、あの国民的人気アニメキャラクターの「ちっこいたま子ちゃん」と、廃校の怪談に登場する「便所の咲子さん」のようだった。



「クスクスクスw」


「はっはっはっw」


「「・・・・・・」」



 はっと気付くと、いつの間にか自分達の周囲を大人達が囲んでいた。めっさ怖かった。自惚れかも知れないが、俺も海音も可愛い方だと思っている。「このまま拉致されるのでは?」と、ビビっていた。



 ガクガクブルブル・・・


「「・・・・・・」」

 互いに抱き合うように震える晴蘭と海音、


「晴蘭! 海音ちゃん!」

 人をかき分け、やっと晴蘭と海音を見付けて2人の名を呼ぶ母親。


 ザワザワ・・・


「「あ!」」

 母親の顔を見て、瞬時にパァッ!と笑顔がこぼれる晴蘭と海音。


「何してんの? こんなとこで! 大声出してみっともない!! 皆さん、お騒がせして、すみません!」


「はっはっは!」

「クスクスクスクス」


「「・・・」」



 まさか叱られるとは思いもしなかった2人は、思わずしょんぼりとなるのだった。でも見ると母親の表情は怒ってなどいなかった。

 助かった! 母親の顔を見てホッとした。

 何を思ったのか、母親は俺の頭を優しく撫でた。が、悪くなかった。


 ってか、俺はそんな子供じゃないぞ!



 だが、何人もの大人達に囲まれて見下ろされると、こんなにも恐怖感で押し潰されそうになるとは思わなかった。

 まるで、無言で「かごめかごめ」をされているようで怖かった。

 身体の震えが止まらなかった。何も悪い事などしていないのに、なぜか責められているような心境? 身体だけではなく、心まで幼くなってしまったのか?



 母親によると、女装剤を飲むと「魔法使い」と同じ身体に変化するんだとか?

 魔法使いの専門用語では、この現象を「聖別」と言うらしい。

 魔法使いは、普通の人よりも寿命と若々しい期間が長く、晴蘭と海音の身体が少し若返ったのはそのせいだとか。だから母親も過去に女装剤を飲んで女に変身したので、当然魔法使いと同じ身体なわけで、実年齢は54歳なのに、見た目年齢は18~9歳なのは頷ける。



 でも、見知らぬ大人達が、こんなにも怖いと感じたのは、小学低学年の頃の夏祭りで迷子になったときに、大人の女性に連れ回された時以来だ。人の壁で周りが何も見えず、ただ手を引かれて拒むことすらできずに、されるままに付いて行くしかなくて、ただただ凄く怖かったのを覚えている。


 結局、迷子センターに連れてってもらえただけだったのだが。


 あの時の心境が、さっき似た感覚だったのを思い出した。母親の顔を見たときの安堵感はこの上ないものだった。気が付くと、涙が溢れていた。



「ふっ・・・ふぅ・・・ひっく! ふぇえぇえぇ~~~ん!」


「なっ?! ちょ、何で泣いてんのな?」


「あらら? まったくまだまだ子供なんやから!」



 自分でも不思議だった。母親に優しく頭を撫でられたからか、それとも昔迷子になったときの事を思い出したからか、自分でも理由は解らないが、どうしても泣き止むことができなかった。


 実はこのとき、晴蘭の中で何かが起きていた。晴蘭の中で眠っていた力が、眠りから覚め始めていたのだ。



 その力とは、「魔力」である。



 今まで眠っていた力が解放されつつあるため、新しい力の感覚により、晴蘭の精神も不安定になっていたのだ。ムカつく事があれば喧嘩になるほどイライラしてしまい、不安になれば泣き出すそど心細くなる。このように、とても不安定なので、イラつきや悲しみと言った感情の起伏が0か100と極端に片寄ってしまうのだった。


 そしてふと気が付くと場所は移り、ケンタイキーフライドキッチンで、フライドチキンを注文していたようだ。ここまで、どうやって来たのか覚えていない。まるでテレビのようにチャンネルがパッ!と変わったような感覚だった。晴蘭は買って貰ったフライドチキンの袋を両手で大事な物のように抱えていた。



「やっと落ち着いたみたいやね?」


「・・・うん」


「ほんまに、急に泣き出すからビックリしたぞ?」


「・・・すまん」


「ほな、帰ろっか!」


「・・・うん」



 何だろう? 俺はいったい、どうしてしまったのだろうか? 記憶がこんなにぶっ飛ぶなんて、もしかして女装剤の影響なのだろうか?


 元々女装剤とは、浮気男を戒める呪いの薬だったと聞く。もしかして記憶が飛ぶのも隠れた副作用の一つなのか? でも海音には、そんな様子など見られない。俺と海音とは何が違うのだろうか? 海音には起きずに、俺には起きている何か? 俺は、漠然とした不安に苛まれた。



 そして、3日後のことだった。



 自宅の庭にて。



 シュバァ━━━ドォ━━━ン!!


「うぃやぁ━━━!!」

 家の外から聞こえる晴蘭の悲鳴。


「きゃあ!」

 炊事場で洗い物をしていて驚く母親。


 ズズズズズズ・・・


「え? なになに?! 地震?!」


 ガチャン! バタバタバタバタッ!



 突然、爆発音のような大きな音と地響きがしたかと思えば、晴蘭の悲鳴にも似た叫び声が聞こえた! 炊事場(キッチン)で洗い物をしていた母親は、洗いかけの食器を投げ捨てるように手放して、晴蘭の声のした庭へ向かったのだった。


 そして、そこで見た光景とは・・・



「?!・・・何これラベンダー?」


「え? これ、やっぱりラベンダーなん?」


「うん、そうなんやけど・・・」



 驚いた事に、放ったらかしで草ボウボウだった元畑が、見事なラベンダー畑に変わってしまっていた。


 晴蘭は、家の敷地内にある畑で、ラベンダーとか、イヌハッカ(キャットニップ)とか、ローズマリーなどを育てようと思った。「回復魔法薬の材料」らしいのだ。本当は、魔女の3大ハーブの1つ「マンドラゴラ」を育てたかったが、入手先が分からないのと、現存するかさえ分からない。サクラ婆ちゃんが亡くなってから誰も手を付けなくなっていた畑が、夏になると草でボウボウになっていたので、草刈りをしていたんだとか。


 そりゃあまあ、夏だから草も伸びるのが早いわな。サクラ婆ちゃんが倒れて手を付けなくなったときから、あっいう間に、「草でも育ててるのか?」 と聞きたくなるほどの有様だった。


 でも、女の子の身体では、草刈りが思いの外重労働で面倒だったので、簡単に草刈りができる魔法なんて使えたらいいな~と考えながら、蔵で見付けた魔導書らしき本の中に書かれていた、「魔法の呪文」らしき文章を声に出して読んだら、本当に魔法が発動してしまったのだ。


 それよりなぜ、晴蘭は魔導書なんて読むことができたのか?


 実は魔導書に書かれてある文章は、基本的には日本語なのだが、文字は、「ローマ字」によく似た、一種の「合わせ文字」で書かれていたからだ。


 母音字の、「あいうえお」は、英数字の、1、2、3、4、5として表し、行子音字として、「あかさたなはまやらわ」は、アルファベットの「AKSTNHMYRW」になるようだ。つまり文字そのものは、行子音に母音とする1~5をくっ付けたような文字だった。だから、晴蘭にも簡単に読むことができたのだ。


 従って、「おはよう」なら、あ行5、は行1、や行5、あ行3

 となるので、表記は、

「O5 H1 Y5 A3」となる。ただ、

「や行」は3つしかないのだが、「や」→「Y1」,「ゆ」→「Y3」、「よ」→「Y5」となるみたいだ。


 例として、「東から日が昇る」とすると、

「H2 G1 S2 K1 R1 H2 G1 N5 B5 R3」

 と、なるわけだ。


 晴蘭は、魔法の呪文だと思った文章を、ノートに書き出して、「ひらがな」に変換して解読していたのだ。

 でも、誰がこんな書き方をしたのだろう?



「晴蘭、コレ何したん?!」


「え? あ、いや、その~この本に書いてる魔法の呪文みたいなつを読んでたら、こうなった・・・」


「魔法の呪文?!」




 晴蘭の言う魔法の呪文とは・・・


 。:+* ゜ ゜゜ *+:。:+* ゜ ゜゜ *+:。


【エコ・エコ・アザラク、エコ・エコ・ザメラク、エコ・エコ・ケルヌンノス、エコ・エコ・アラディア×3回


(テンションを抑えて言う)


 夜空に美しく光り輝く神秘的な月


 東と、南と、西と、北の精霊達よ


 我の声を聞き、我の言葉に耳傾け、


 円の中の我を守りたまえ、


 我は、汝らを呼び出さん


 大地と、海と、風と、火の精霊達よ


 我の僅かな魔力と引き換えに、


 我が今行うこの術に力を貸し、


 我の願いを、速やかに、確実に、絶対に、叶えたまえ


(ここで願い事を具体的に言う)


(テンションを上げる)


 さあ、魔法はかけられたり!


 大地と海との全ての力をと、


 月と太陽の全ての威力で、


 我のこの願い、速やかに、確実に、絶対に、叶えたまえ!


 呪文を唱えよう! 効き目は絶大!


 エコ・エコ・アザラク、エコ・エコ・ザメラク、エコ・エコ・ケルヌンノス、エコ・エコ・アラディア×3回以上】


 *゜+。。.。・.。*゜+。。.。・.。*゜



 ・・・と、こう書かれていた。



 晴蘭が今回行った「魔法の呪文」の唱え方は、本来は「魔法薬の精製や、魔導具の作成や、新しい魔法開発」などの、「儀式魔法」と呼ばれる術式である。


 でも、晴蘭は呪文の途中で、「願い事を言う」ところで何も言わなかったために、魔女や魔法使いが持つ「魔力量」を測るための「砂漠を花畑に変える魔法」に強制変換されたらしいとのこと。


 これは、砂漠から花畑に変えたときの「花畑の広さ」が、総魔力量として認識できるのだという。


 ただ、魔法使いの魔力のフルパワー(魔力量)を測る魔法になるので、術者が手を抜いていたら、正しい魔力量は測ることはできない。当術者の誠意に関わるわけだ。



 しかし晴蘭は、そんな事をするつもりではなかった。そんな事とは知らなかったし。魔導書らしき本に書かれていた「回復魔法薬(通称ポーション)」を作るために、魔法薬の材料となる「魔女の3大ハーブ」と呼ばれているハーブを育てたかったから、草刈りをして畑を耕したかっただけなのだ。魔女の3大ハーブなんて集められはしないが。そこで、魔法の呪文らしき文章を何も考えずに声に出して読んでしまったので、この様な事になってしまったのだった。


 また、幸なことに、晴蘭の家は峠道の登り口の近くであり、付近には海音の家しかなく、ご近所さんは少し離れていたので、「何か大きな音がしたねー」程度で済んだ。

 海音も今、またまた姉と出掛けていたので、大騒ぎにならずに済んだ。


 このとき晴蘭は、魔法の呪文が何の用途に使われるのかを、ちゃんと調べ確かめずに唱えてしまったために、頭の中で思い浮かべてイメージしていた「ラベンダー」が作用して具現化し、魔力操作や魔力制御の概念も知らずに全力で魔力を放った結果がこれだった。



「そ、そうなんや? 呪文ってやつかと思って読んだのが、魔法の詠唱ってやつやったんか!」


「そ! だから、このラベンダー畑の広さが、晴蘭の持つ総魔力量ってことになるんよ!」


「へ、へぇ・・・」


「とにかくまあ折角やし、ラベンダーの生えてる広さを測ってみよか」


「あ、うん」



 母親は、家の中から巻尺を取ってきて、ラベンダー畑の広さを測った。その広さは、縦約12メートル、横約10メートルの長方形、およそ120㎡ということになる。



「ふんふん なるほど・・・120㎡やね! それにしても、凄いなコレ 信じられへん!」


「うん・・・え?」


「と、ゆーことは、晴蘭の総魔力量は、魔力120とゆーことやね!」


「へえ・・・で? それってどうなん?」



 魔力120と言われても、ピンとこない。


 120という数字は、凄いのか、それともなんて事はない普通なのか。でも母親は、少し興奮しているように見えた。



「うん えっと~魔力の数値化はね、1㎡の砂漠を花畑に変えられる力を、魔力1として定義されてんのよ」


「あ、そっか! 俺が魔法で作ったラベンダー畑が120㎡あるから? だから、俺の魔力が120魔力って事になるわけ?」


「そ! そーゆーこと!」


「へえ~~~そっかぁ~~~」


「でもね、問題はそこじゃないんよ!」


「へ?」


「とにかく、ビックリ! 晴蘭の魔力量は桁外れやわ!」


「・・・え?」


「あのね・・・」



 なんと、母親が言うには、本来魔法使いの魔力量というものは、並で10~20程度。どんなに凄い魔法使いでも、50~60が精一杯なのだそうだ。


 つまり魔力が120もある晴蘭は、魔法使いとしては規格外なんだとか。それどころか、「大魔法使い」の素質があるかも知れないとのこと。


「低級回復魔法薬(通称ローポーション)普通約80~100CC」一つ作るにしても、最低でも50魔力が必要である。なので凄い魔法使いでも魔法薬一つ作るだけでも、魔力が枯渇する可能性があるわけで、並の魔法使いだと、魔力をただ無駄に消費して、魔法薬の精製に失敗し、魔法は発動すらしない可能性がある。だから、魔法使いは魔力1と引き換えに精霊から魔力を借りて魔法を発動させるのだそうだ。



「魔法使いが魔法を発動するためには」


 精霊から魔力を借りるためには、「魔法陣」が必要だ。魔法陣は道具などで用意するか、もしくわ微量な魔力「魔力1程度」を使用して任意の場所(紙、地、壁、宙など)に魔法陣(光のエフェクト)で一時的に描き、精霊に、「魔力を貸して下さい」という意志を込めて任意の言葉を放つ事で、精霊に魔法陣を魔力を注ぐ場所として認識してもらう事によって、魔法の発動に必要な魔力を得られるのだと。

 従って、精霊が「魔力を注ぐ場所が魔法陣だ」として認識できれば良いので、「円の中に五芒星」のような簡単な図形で良いのだ。なので、ゲームやアニメの様な複雑な魔法陣は必要ない。また、魔法陣に直接文字や文章を書くのは、精霊と魔法使いが、魔法を何に使うのか、どのように発動させるのかを、互いに明確に認識しイメージできるようにするための、あくまでも「補助」である。

 なのでもし、魔法使いが発動したい魔法の意思表示に、その魔法に関係の無い補助的文章を書いた魔法陣を精霊に示したところで、精霊は、魔法使いの意志と言葉と、魔法陣に書かれている文章が違えば、精霊が混乱し魔法が失敗に終わる可能性が大きいので要注意。魔法陣に直接魔法の発動条件や用途を書き込むのなら、発動させたい魔法用の魔法陣を個別に用意するべきだろうとのこと。


 魔法使いが初めて使う魔法の場合、どんな魔法をどのように使うのかを精霊に明確に認識してもらう事が必要で、何度も何度も繰り返し、互いに熟練度を上げて成功率を上げなければならず、初めての魔法を、「ぶっつけ本番!」で成功するのは極めて稀だと言う。

 なので、どんなに魔力が多くても、どんなに知識があろうとも、魔法使いが初めて使う魔法がたとえ初歩的な簡単な魔法であっても、精霊と魔法使いが互いに、「魔法で何をするのか?」を、「言葉とイメージ」で明確に具体化し、そして魔法使いは精霊に自分の魔力を「どれくらい譲渡するか」を交渉し、精霊とできる限り具体的に意思疎通ができなければ、精霊はただの、「魔力のATM」にすぎない。


 なので、「どんな合言葉(じゅもん)で、何をして欲しいのか」を、 何度も何度も繰り返す事によって、精霊は、「この魔法使いは、この合言葉で、何をして欲しいのか」を、学習してくれるので、互いに繰り返し練習する事で熟練し、精霊は、「合言葉」一つで、「魔法使いが発動したい魔法」を認識できるようになり、「個別魔法起動呪文(こべつまほうきどうじゅもん)」が完成するのだと言う。


 また、精霊は、「個にして全、全にして個」であるため、長年他の魔法使い達が使い続け熟練した比較的簡単な魔法は、その魔法を初めて使う魔法使い見習いであっても、比較的習得し易いようである。


「精霊の倫理」

 精霊は、魔女や魔法使い達が、魔法で「精霊の倫理」に反する行為を行おうとすると、その魔法が発動する前に中和させて、魔法を失敗に終わらせる。この時、精霊の倫理に反する行為を行った魔女や魔法使い達は、ペナルティーとしてカウントされる。これを、魔法に携わる者達の間では、「しばり」と呼ばれている。

 また、そのペナルティーのカウントが3つになると、その魔女や魔法使いは、精霊に、「魔女や魔法使いとして相応しくない」と判断されて、「魔女や魔法使いとしての記憶と魔力を消される」という罰を与えられ、その者はただの「人間」になってしまうのだ。


 また、精霊には、そもそも「所有概念」が無い。つまり、「魔法で他人の所有物を奪える」という事になる。なので、魔法で他人の所有物を奪う行為は、精霊の倫理に反する行為とはならないため「縛り」は発生しないので、奪取するされるに限らず「所有物の奪取」には注意が必要。ただ、この「人界」の精霊は、魔女や魔法使い達が所有物の奪取でトラブルになる事を学習し、近年では精霊にも、「所有概念」が確立する可能性があるらしい。さながら、精霊の倫理の「バージョンアップ」である。


「魔女」

 魔女はなぜ、精霊から魔力を借りずに魔法を発動できるのか? それは、魔女には精霊から魔力を借りなくても、魔法を発動するのに十分に足る魔力を持っているからであり、自分で明確にイメージして、魔力を操作し、制御し、魔法を発動する事ができるからである。もちろん、魔女でも精霊から魔力を借りる事もあるが、魔法を発動するのに必要な魔力が十分に足りるので、「詠唱や呪文」を必要とせず、魔法の発動が魔法使いよりも早いのだ。



「ほぉー! じゃあ俺は凄いんや?」


「まなね! お義母さんですら、魔力は40程度しかなかったのに」


「え? サクラ婆ちゃん?」


「そう! 私かて魔法使いのエリートって言われてたのに、魔力は70やで・・・」



 なんと、魔力70でもエリートと言われるとは。

 でも、考えてみれば、魔力1あれば精霊が魔法の発動に足りる魔力を肩代わりしてくれるのだから、単純に考えると、魔力70あれば魔法が70回発動できるってわけ?


 というか、ちょっと待てよ? サクラ婆ちゃんも魔法使いなら、おかんも魔法使いだった? 今まで何の気なしに、へぇ~ふぅ~んって聞いていたけど、ちょっと驚きなんですけどぉ!


 しかも、俺も魔法使いだって? そっちの方が、超・ウルトラ・スーバー・アトミック・スペシャル・どえらい驚きなんですけどお!!



「え?! いやいやいや、ちょっと待って!待って!」


「うん?」


「サクラ婆ちゃんは魔法使い? おかんも魔法使い? んで、俺も魔法使い? ってことは、俺ら魔法使い家族なん?」


「そうよ!」


「んなぁ?! ほ、ほいじゃあ、爺ちゃんわ?」


「うん! お義父さんも、魔法使いやったけど、魔力がたったの10しかなかったから、魔法にもよるけど、連続的には10回しか魔法は使えやんかった。移動魔法に長けてたかな? でも、2年ほどしか一緒には暮らせやんかったから」


「へえ・・・」



 晴蘭の祖父は、楓が結婚して2年後にはもう他界していた。だから、晴蘭には祖父との思い出は無いのだ。


 爺ちゃんも、やっぱり魔法使いだったようだが、爺ちゃんから魔法を教わる機会が少なかったようだ。それより、「移動魔法」ってゆった? それ、知りたい!!



「移動魔法って、どんなん?」


「うん 移動魔法ってゆーのはねえ、いろいろあるらしいけど、教えてもらったんは、精霊に、術者の下半身に、「馬の足」をイメージした運動力と脚力を一時的に付与してらう魔法でね、ずっと昔から使われてた魔法やから、たぶん晴蘭にも比較的簡単に使えるようになれると思うよ!」


「ほぉ~~~やってみたい!」


「でも、人の足は2本しかないから、スキップするみたいな走り方になってしまうけどね? 滑稽やでぇ~人がスキップで馬並みに速く走る光景は・・・」


「へっ?・・・す、スキップ? なんか怖っ」


「もちろん、一時的に馬並みの時速50キロくらいで走れるけど、やっぱり馬と一緒で、あまり長い時間走り続けると、立ち上げれやんくらい疲労するし、急には止まれやんから、慣れやんと危ないかもね? まして人は馬と違って2本足やからね 下手したら盛大に転ぶかも?」


「うわ! へ・・・へぇ~」


「それにね、健康的な人の身体って重くてもせいぜい100キロ程度やろ? そんな軽い身体で50キロもスピード出したら、横風とか向かい風とかの強風の圧で、簡単にフワッて舞い上がってしまうんよね こわいよぉ~?」


「?!・・・何それヤダ怖い」


「うん だから私は、あんまりお勧めできんかな?」


「ですよねぇ~・・・」



 なるほど! それなら自分にもできそうだ。とは思うものの、「スキップするみたいな走り方」って、どうよ? 想像したら、めっさ奇妙に思えた。もし俺だったら? 滑稽といえば?

「スキップしながら笑顔で豪快に走るおバカさん?」

 ・・・を、想像してしまった。それは、ちょっと嫌だなと思ってしまった。

 なら、四つん這いなら? でも、それなら「馬」に限定しなくても良いかも? チーターをイメージしたら? それなら、手にも靴みたいな防具を履かないと怪我しそう。などと、考えていた。



「あ、でも、直登(なおと)さんも、エリート魔法使いやけどね!」


「あ、親父忘れてたわ へー親父も魔法使い?」

 自分の父親を忘れるとは・・・可哀想な父親である。


「うん! 魔力は私よりちょっと少ない、45やったけどね」


「へえ・・・」



直登(なおと)」とは、晴蘭の父親である。今は単身赴任でイギリスへ出張中だ。魔法使いの本場イギリスで、魔法と魔道具の研究開発をしているんだとか。さながら、魔法使いのエンジニアってところか。なかなかカッコイイなと思った。でも、親父がそんな仕事をしていたなんて、初めて知ったな。



「んで、爺ちゃんはどんな人やったん?」

 もうこの時、興味は祖父に向く晴蘭だった。父親へよ関心は希薄は晴蘭だった・・・


「うん すんごく優しい人やったよ! 魔法は、お義母さんほどじゃなかったけどね ってゆーても、2年程しか一緒に暮らせんかったけど・・・」


「そ・・・そうか」



 母親が言うには、爺ちゃんとは、2年程しか一緒に暮らせなかったらしい。母親と親父が結婚してから2年後には亡くなったんだそうだ。俺は遺影でしか爺ちゃんの顔を見たことがない。当たり前か・・・。俺が生まれたのは、母親が結婚して20年以上経ってからだもんな。そっかあ。爺ちゃんは普通の魔法使いだったらしいけど、親父も一応は魔法使いなんや? そう言えば親父ってば、確か母親と同い年のはずやのに、二十歳くらいにしか見えない。ってか、母親も見た目年齢は、18~19歳だけどな。54歳にしては若見えだ。



 それと、母親は、サクラ婆ちゃんとはあまり仲が良くはなかったと思っていた。いや、少なくとも俺にはそう見えた。でも本当は、凄く仲良しだった事を後に知ったのだが、母親には何か秘密がありそうで、悲しい何かを背負っている気がして、あまり聞かれたくなさげな様子だった。母親に、サクラ婆ちゃんについては、あまり触れないでおこう。絶対にやぶ蛇だ。


 などと考えていて、ふと母親の顔を見ると、なにやら母親は嬉しそうではあるのだが、少し悲しそうにも見えた。何だろう? 俺が魔法使いになった事が不本意だったのだろうか?



「へえ・・・って、あれ? おかん、落ち込んでる?」


「うん? なんで?」


「あ、あや、あやや、なんか悲しそうってゆーか、辛そうってゆーか、そんな風に見えたから」


「え? ああ、うぅん! ちゃうちゃう! 嬉しいよ! 自分の娘がまだ若いのに、規格外の大魔法使いやなんてね!」


「はっはっはっ! 俺、大魔法使いか! 冒険の旅に出るか! それか将来、世界を救ったりするんかな?」


「そんな悠長な事を言ってられへんで?」


「は?・・・どーゆーこと?」


「この畑、見て解るやろ?」


「・・・え? 何が?」



 母親は、急に真剣な表情で、畑を指差して言う。だが晴蘭には、母親の言いたい事が分からない。畑をラベンダー畑に変えてしまったのが、いけなかったのか? もしかして、母親が別の用途に使いたかったとか?

 すると母親は、何か「虫めがね」みたいな道具をエプロンのポケットから取り出し、晴蘭をじぃーっと見ている。



「・・・うん? 何それ?」


「これは、『他人のステータスを見れる魔導具』なんよ!」


「ふぉ?! まどーぐぅ?!」


「そ! 晴蘭は意図せず魔法を発動させてしもたんやろうけど、晴蘭のステータスを見ると、「MP」つまり、「魔力」が「0」になってる! その意味とは、全力で魔法を使ってしまったってこと!」


「えー?! ステータス?」



 母親の持つ魔導具とは、他人のステータスの内の「魔力」と「体力」だけを見るための魔導具らしい。

 それより、母親の口から、ゲームやアニメなどで聞きなれた単語が飛び出した! そのせいか、晴蘭はゲーム感覚にとらわれ、ワクワクして仕方がない。しかし母親は真剣な表情を崩さなかった。



「ステータスって、どー見えんの? 目の前にコンソールパネルとかが現れるんか?」


「待ちなぁ! とにかく、晴蘭が初めて発動させた魔法がコレや! これ、畑を見たら解る! これは、魔力制御も魔力操作もせんと魔法を使ったって事なんよ! これは本当に、もんの凄く危険なことなんやで!」


「魔力制御? 魔力操作?・・・それって?」



 母親が言うには、どうやら俺が発動した魔法は、思いがけず全力で発動させてしまったらしい。


 ただ、何が危険なのか分からない。母親は続けて話す。



「あんな? もし、自分の魔力量も知らんと、魔力を精霊から借りずに一気に限界以上使ってまうと、魔法の発動に足りへん魔力分は、「HP」つまり「体力」を代わりに消耗するんやで! お母さんの言いたいこと解る?」


「!・・・MP足らんから代わりにHP使ってもた? ヤバい?」


「そう! ヤバいんよ! もし、HPが0になってもたら、晴蘭アンタ死んでたで!」


「ええええええええ~~~!!」



 いかんいかんいか━━ん!! それは一大事だ! 今の下手すりゃ、死んでいても不思議じゃなかったんじゃないか?!


 晴蘭は、ゲームみたいだと考えていたので、まったく危機感を感じていなかった。ゲームなら死んでも「死に戻り」と言って、最新のセーブポイントに強制的に戻されて「復活」ができるはずなのだが、これは現実だ。HPが無くなっていたら、マジ死んでた!?



「うおおおーやっべぇー!! おれ死ぬとこやったぁ?!」


「そうよぉ!! ええか? そうならんためにも、先ずは、自分のステータスを見るスキルを覚えなさい!」


「スキル?! うおっほ! ほんまゲームみたいやw」


「真面目に聞いて!!」


「あ、うん、はいすんません」



 HPだの、MPだの、スキルだのって聞いて、思わず楽しくなってしまった。でも母親は、真剣なご様子・・・


 晴蘭は、母親に叱られて思わず直立してお辞儀をした。どこかゲームっぽく、現実っぽい気がしなくて、危機感を感じなかったから、安直に考えていた。


 ても、真面目にしないと命にかかわる。母親が真剣な表情で叱るので、晴蘭は真面目に聞くことにした。



「晴蘭は先ず、ステータススキルで魔力と体力を確認しできるようになってから、魔力操作と魔力制御を覚えなさい!」


「魔力操作と魔力制御・・・」


「そ! 要は魔力を上手に、安全に、無駄の無いように使う方法やね!」


「ふうん・・・」



 うん! ピン!ときた。異世界ものアニメなんかでよく聞くが、魔力を上手に使う方法を俺は知らないから、初めて使った魔法で魔力が全力全開で使っちゃったってわけか。なるほどなるほど納得納得。


 でも、どうすれば良いのか、まったく分からない。



「・・・まったく分からへんって顔やね」


「あ、うん、分からへん 教えてください」


「はいはい じゃあ、ちょっと待ってて いろいろ用意するもんがあるから」


「・・・うん」



 母親はそう言って家の中へ入って行った。しばらくして戻って来たら、見た事もない古臭い革製のバッグを持っていた。それは色染めをしていない無加工のなめし革で作られたかのようなバッグで、長年使われた感があるものだ。晴蘭は初めて見る物だ。


 母親はそのバッグを地面に下ろすと、中から1本の細長い棒を取り出した。



「これ、何か判る?」


「・・・魔法の杖?」


「そ! ワンドってゆーんやけどね? 晴蘭には先ずワンドを使って魔法を発動する方法から練習しょっか!」


「ははーん! なんか、メガネの魔法使いの映画の、マネーボッターみたいやな?」


「ふふふ そうやね!」



 母親は、ワンドを持って宙でクルクルと回しながら、呪文らしき言葉を唱えた。だが、その言葉が、ふざけてるのか?と思うほどにあまりにも滑稽で、思わず吹き出して笑ってしまった!



「ラベンダーよ! ひまわりに変われ! 家族の平和を守るため~秘密のしもべに命令だ~~~!」


「ぶほぉっ! きゃははははwww」



 だがその次の瞬間!!


 母親の身体が淡く青白く光ると、その光は母親が持つワンドの先へと集まり、ゴルフボール程の大きさの光の玉となって、青白い線香花火のように迸る。そしてワンドをクルリと振り回すと、宙に図形が現れた! それは、円の中に五芒星の入った図形だと判った。いわゆる魔法陣だ! 母親が命令句の後に呪文を唱えると、母親を淡く青白い半透明の眉のような光が取り囲む!

 次に母親は、晴蘭が魔法で作ったラベンダー畑に向けてワンドを上から下へ勢い良く振り下げると、ワンドの先の光の玉が打ち上げ花火が弾けるようにパン!と破裂すると、魔法陣かピカリと一瞬眩しく光り、ラベンダー畑の一角が、まるで三流特撮映画の魔法のシーンのように、瞬時にパッ!と、ひまわりに変わった! このとき魔法陣も消えていた!(この間約7.22秒)


 本物の魔法の発動シーンって、ただ身体と杖が光り、光の玉が破裂するだけで、音も、振動も、光の効果も、特別何の特殊効果も演出もない、質素なものだった。

 その時晴蘭は、母親の放った魔法が、余りにも地味な効果に拍子抜けしてしまい、慌てて気を使って感動したかのように振舞った。



「へっ?! うお━━━!! 一瞬で変わったー! なんじゃこりゃー?! 手品みたい! すんごぉおおおおー!!」


「ああ━━もおーうるさい!! 手品ちゃうわ! 魔法よ! ま・ほ・う!!」


「はえ? ほ、ホンマに魔法? でも、光のキラキラ星くずとか、ピロピロリィ~ン! とか鳴らへんのやね?」



 そうなのだ。正直、物足りないと思った。もっと、バーン! とか、ビューン! とか、キラキラキラ~ とかなると思ってたのに、案外地味なんやな・・・



「うん? ああ、映画みたいに光とか効果音とか付けた方が良かったぁ?」


「自分で付けやなあかんかぇっ?!」


「だって、魔法ってこんなもんやで? そりゃあ、風とか火とか使うと音はするけどね」


「へぇ・・・・・・」



 なんと、母親が言うには、本来魔法とは、こんな感じで地味なものなんだとか。ちょっと残念・・・



「何その無感動な反応は?」


「だって魔法って、もっと華やかってゆーか、賑やかなもんやと思ってたから」


「あそう? んじゃ、もう魔力1を使って、光のエフェクトとか、効果音とか追加したらええんとちゃう?」


「ええっ! そんなんできんの?!」


「晴蘭やったら、魔力たっぷりあるから、少しくらい無駄にしても、ええんとちゃう?」


「無駄て、ぁあーた・・・・」



 あはは・・・まあ、なんとなく本物の魔法とは、こんな質素で地味なもんなんだなと理解した。魔法に慣れたら母親の言うように、光のエフェクトとか、効果音とかを追加して、ネズミーとか、ブジリみたいな、派手で景気よくドッパーン!とやってみようかな。



「とにかく、ある物を他の何かに変える~みたいな魔法なんやね?」


「そう とも言えるし、違う とも言えるし・・・」


「えっ? どゆこと?」


「これはねえ・・・」



 母親が今しがた放ったのは、「魔法で対象物を任意の物に変えた」とのこと。


 「ある物を特定の物へ変える」というような、そういう個別の魔法があるわけではなく、心の中でイメージした通りに変化させ具現化させたのだとか。つまり、心の中で、「ラベンダー畑の一部分を、ひまわりに変える」と念じながら魔法を発動させたんだそうだ。

 実は、かなり高度な魔法らしい。また、魔法で行いたい事を言葉にすると、しっかりとイメージしやすいし、精霊にもイメージが伝わり成功しやすいんだとか。


 そして、ワンドを使ったのは、ワンドの先に魔力を集中させて、使用する分の魔力量をワンドの先から放つとイメージすることで、晴蘭のときのように、全身から魔力が全開に暴発しないように抑えたのだと言うのだ。



「・・・と、ゆーわけ!」


「ほえ~~~なるほどお! ほぃじゃあ俺は、魔力の量を決めずに、全身から魔力を思い切り出してもたってことなんやな?」


「そう!! さすがは私の娘! 理解が早くて誇らしいわ!」


「でっへっへっへ」



 晴蘭は、両手で後頭部をモシャモシャとかきむしって照れていた。やっぱり褒められると嬉しいものだ。


 でも、さっきの母親が唱えた呪文? 何だったんだろう? めちゃくちゃ気になる!



「ねえ、おかんがさっき言うた、家族の平和を守るため~なんちゃらかんちゃら~って、(なん)なん?」


「え? 固有魔法起動呪文(こゆうまほうきどうじゅもん)のこと?」


「こゆーまほーきどーじゅもん?」


「そう 殆どの魔法使いが持ってるもんでね、自分だけの魔法の呪文ってところかな?」


「へぇ~そーなんや? 俺もソレ覚えた方がいいん?」


「ん~~~ ま、好きにしたらええんちゃう?」


「・・・・・・は?」



 母親は、そんな風に言う。「好きにしたら」って言うけど、覚えなくてもいいのかな? それか、俺なら必要無いとか? もっと聞いてみようと思った。



「おかん、その、固有魔法起動呪文? って、どういう原理なん?」


「ん~~~そーやねぇ~~~」



 母親が話してくれた内容は、ちょっと難しそうだった。



 個別魔法起動呪文(こべつまほうきどうじゅもん)とは。


 ①呪文を唱える(魔力1使用)→②精霊が呪文から魔法の発動内容を理解する→③魔法の発動。


 ・・・となるのだが、固有魔法起動呪文(こゆうまほうきどうじゅもん)は、個別魔法起動呪文(こべつまほうきどうじゅもん)とは違って、かなり面倒くさいらしい。


 固有魔法起動呪文(こゆうまほうきどうじゅもん)とは。


 ①魔法陣を描く(魔力1使用)→②精霊が魔力を注ぐ魔法陣を認識し魔力を注ぐ→③精霊に魔法の発動内容を伝える→④精霊が魔法の発動内容を理解する→⑤呪文を唱える→⑥精霊の倫理に反するか否かの判断→⑦倫理に反するなら強制終了+ペナルティ1/問題なし→⑧魔法の発動。


 ・・・となるので、時間がかかるのだとか。


固有魔法起動呪文(こゆうまほうきどうじゅもん)」とは、魔法使いが持つ「自分だけの魔法起動呪文(まほうきどうじゅもん)」であり、「個別魔法起動呪文(こべつまほうきどうじゅもん)」のように精霊が認識している魔法ではなく、臨機応変に様々な魔法を発動する時に良く使うのだとか。でも、言葉とイメージがしっかりしていないと、思い通りの魔法を発動するのは難しいとのこと。なので、比較的簡単な魔法を発動するのに適しているらしい。だが、固有魔法機動呪文(こゆうまほうきどうじゅもん)を唱えている最中に邪魔が入ったり、途中で唱えるのを止めたりすると、失敗する恐れがあるため、「自分の好きな言葉で、覚えやすく、間違わず、忘れないもの」にした方が良いとのことだった。


 そして、晴蘭も固有魔法機動呪文(こゆうまほうきどうじゅもん)を決めようと言い出した。もちろん、晴蘭が好きな言葉で、覚えやすく、間違わず、忘れないもの、だ。でも、どれもネタとしか思えないものばかりだった・・・



「決めた!」


「うん どんな風にしたん?」


白馬(はくば)王子様(おうじさま)を待っていたら、墓場(はかば)御爺様(おじいさま)がやって来たー!」


「!!・・・・・・・・・・・・は?」


「・・・え? ダメ?」


「ダメに決まってるやろー!!」


「きゃあ~!」



 母親は、『我が娘は本物のバカかも知れない・・・』と思った。



「ちぇー! 面白いと思ったのになぁ~」


「バカぁ!! 趣旨忘れてるやろー!?」


「ひぇ~」


「本気でそんな呪文を唱えるんやったら、他人の振りするからねっ!!」


「ごみんちゃ~」



『たぶん、この娘は何かを勘違いしているに違いない。決してふざけている訳ではなく、勘違いをしているのだ。うん! そうに決まっている!』と、思うことにした。



「よし! 決めた!」


「うん どんなん?」


「言うで! ドーはドーナツのド~、レーはレモンパイのレ~、ミーはミルフィーユ~、ファーはファッジのファ~、ソーはソフトクリーム~、ラーはラスクのラ~、シーはシフォンケーキ~、ドレにーしよーうかな~~~♪」


「長いわっ!!」


「きゃあ~~!」


 ・・・・・・・・・・・・


「散歩しましょう~1歩~2歩~3~歩! はい、散歩おわり~♪」


「ぷっ!・・・だめ!」


「やぁ~~~ん!」


・・・・・・・・・・・・


「アーメン、ソーメン、ヒヤソ・・・」


「却下!!」


「ええ━━?!」


 ・・・・・・・・・・・・


「上から読んでも新聞紙! 下から読んでもしんぶ・・・」


「ダメー!」


「が━━ん!」


 ・・・・・・・・・・・・


「赤上げて! 白上げて! 赤下げないで 白・・・」


「ぶっぶー!」


「いやぁ~ん!」


 ・・・・・・・・・・・・


「じゅげむ じゅげむ ごこ・・・」


「怒られるよ!」


「んなぁ~~~ん!」


 ・・・・・・・・・・・・


「あーぶくだったー煮えたったー煮え・・・」


「それ、持ってる人居るから!」


「えっ!! マジでっ?!」


 ・・・・・・・・・・・・


「誰だ! 誰だ! 誰だ~! 俺のラーメン取った奴~! 白と黒のパンダちゃ~ん♪」


「晴蘭・・・・・・やる気ある?」


「!・・・・・・ごめんなさい」



 結局、「イカ焼き かば焼き しょうが焼き」に決まった。これでも母親は、かなり妥協したのである。



「さっ! 私の使い慣れたこのワンドを晴蘭にあげるから、今日から魔力操作と魔力操作を練習をしましょう!」


「お、おう」



 魔力操作と、魔力制御。似たような気もするが、ぜんぜん違うらしい。


「魔力操作」とは、無意識のとき、魔法を使わないときは、身体の主に脳と、四臓器(心臓、肝臓、腎臓、肺)に多く溜まりやすい魔力を、皮膚、血管、骨、筋肉、時には体外などに通すイメージで、身体の任意の場所へ集結させたり、身体全体へ満遍なく満たすなどして、魔力を自分の思い通りに動かす術である。


「魔力制御」とは、魔法を発動するとき、「1㎡の砂漠を花畑に変える魔力を1として認識」して、必要に応じて感覚的にどれくらいの魔力量を使うのかを調整する術である。例えば「ステータスを表示」する魔法なら、魔力1で十分に行えるので、ちょうど良い練習になる。



「ステータスを見る魔法は、魔力1で十分やから!」


「なるほど・・・」


「ステータスを見るためだけに、無駄に多くの魔力を消費しても仕方ないやろ?」


「ごもっともです・・・」



 母親の説明によると、魔法を発動させるプロセスとは、先ずは水の入った幾つかの容器と、その容器をまとめて入れる水槽をイメージするんだとか。


「水」を、「魔力」とする。

「身体と内蔵」を、「魔力を溜める容器」とする。

 容器は、四臓器の「心臓」、「肝臓」、「腎臓」、「肺」の4つと、「脳」を足した5つの容器とする。そしてそれらをまとめる「身体」という「水槽」があり、各々の容器の体積が大きいほど、溜められる水=魔力の容積も大きくなるイメージだとか。


 四臓器の各々の容器+脳との5つの容器内の水を、別の容器へ移したり、また戻したり、全ての容器の水を水槽となる身体へ移したり、また戻したりする。

 そして魔法を発動させるときは、コップなどの持ち運べる容器を用いて、脳と四臓器の5つの容器からコップに水を汲み、身体のどの場所からコップの水を外に放つのかを、しっかりとイメージするのが大切だと言う。

 これが、「魔力操作」だという。


 魔力の使用量は、どれくらいの大きさのコップなどの容器を選び使用するかで決めるそうだ。

 母親の場合では、ちょっとだけ魔力1を使う場合は【小さなコップ】をイメージし、段々と使用する魔力の量を増やすイメージで、次に魔力2なら【ジョッキ】、次に魔力3なら【丼】、次に魔力4なら【鍋】、次に魔力5なら【寸胴】、そしてフルパワーでは、水槽に全ての魔力を集めて、水槽ごとぶっかける! とイメージして魔力量を調整しているんだそうだ。

 これが、「魔力制御」だという。



「なーるほどぉ! コップとか選ぶのって、汲み取る水の量をイメージしてたんやな! そかそか解りやすい!」


「やろう? お母さん偉い?」


「うん! 偉い偉い!」


「ふっふっふっん♪」


「・・・」



 母親は、そう言って腰に手を当て仰け反り、ドヤ顔をするのだった。


『おかんも、煽てると子供っぽく可愛いところもあるんやな』と、思った。思わずニヤニヤしてしまった。



「・・・なに、その顔?」


「いや、なんもないよ」


「まあええわ! 必ずしも、お母さんの言う通りにしなさいとは言わへんから、晴蘭のイメージしやすい方法を見付けて練習しなさい! お母さんの教えた方法は参考にしてな」


「うん、わかった」


「あ、でも、今日はもうやめた方がええかも?」


「え? なんで?! せっかくイメージ固まってきたのに!」


「だって晴蘭、さっきの魔力の暴発で、全魔力を使い切ってしもたやん!」


「あ・・・そうか」



 早く上手に魔法を使えるようになりたくて気が急くものの、母親の言う通りだ。このまま、魔力の枯渇状態で魔法を使ったりでもしたら、今度こそヤバいかも?


 母親によると、魔力は何もしなければ徐々に増えてくるものだが、2~3時間寝ると完全に回復するのだそうだ。寝て魔力を回復する場合の回復速度は、総魔力量の多少に関わらず皆同じだそうだ。また、リラックスした姿勢で安静にしていれば、魔力は比較的早く増えてくるらしい。

 あと、月光に当たりながらリラックスすると、結構な速さで魔力が回復するらしい。もっと早く魔力を回復させたい時は、魔石や魔晶石から魔力を吸い出すイメージで取り込むと、ほんの数分で全回復するんだとか。あと、「魔力回復魔法薬(通称エナジーポーション)」でも、十数秒ほどで魔力は回復するみたいだ。

 人に限らず生き物は皆、この世界に滞留する魔力を無意識に吸収しているのだそうで、何もしなければ、自然と魔力は回復薬するものなんだとか。ただこ場合、魔法使いによって回復時間が違うのは、魔力の固有蓄積量が違うだけなのだとか。


 それと、魔力を99%以上使い切った状態になると、「自己防衛反応」として、魔力の代わりに体力を消費する羽目にならないようにと、更にもっと魔力を増やそうと身体が反応し、少し総魔力量が増えるのだそうだ。



「とにかく、魔法使いになる子は、13歳から魔法使いとしての己を知り、本格的に魔法を習うんよ!」


「へぇーそうなん? でもなんで13歳からなん?」


「それはやっぱり、人としての最低限の常識や既成概念や倫理観が無いと、幼稚な考えで魔法なんか発動させたら、どんな事が起きるか分からへんやろ? だから、その子が13歳になるまでは、普通家族は魔法使いやと教えへん事が多いんよ 家族の目の届かんところで魔法使われても困るからね!」


「なるほど・・・無邪気さゆえの残酷さってやつ?」


「そーゆーこと!」


「ふむ・・・なるほど」



 なるほど理解した!

 魔法使いになるために魔法を学ぶのは、

「13歳から」というのは、それなりに理由があったんだな。


 と、それらを理解して、魔力枯渇の自覚症状が出たせいなのか・・・



 ペタン・・・


「はれ???・・・」


「うん?」



 晴蘭は、急に身体中の力が抜ける感覚に襲われ、その場に足元から崩れ落ちるように女の子座りでへたり込んだ。まったくと言っていい程に身体に力が入らない。思うように呂律が回らない。



「ほらほらほらぁ~!」


「ら・・・・らり・・・ろれ・・・???」


「魔力を使い切ると、強制的に安静状態に入ろうと身体が反応するからよ! だから強烈に脱力するんよ!」


「ほぇ・・・らからかぁ~~~」



 もんの凄い脱力感だ。脳内の血管が脈打つように、ズンズンと鈍痛が襲う。それと同時に、なんだか息苦くなってきた。そして、女の子座りのまんまで後ろに倒れてしまった。



「はれぇ? はれぇえぇえぇ~~~?」


 パタン!


「あ!・・・んもぉ~~なんて格好してんの~~! あ・・・」


「へっ?・・・うわぁ! らんれ?」


「チビってもたあ? 仕方ない娘やなぁ~~~」


「ほ、ほめん」



 晴蘭は失禁していた。ここまで脱力するとは・・・


 母親が言うには、魔力制御の方法を知らない者が初めて魔法を使ったときに、よく起きる症状なのだそうだ。


 晴蘭は、母親にお姫様抱っこされて、家の中へ運ばれた。そしてそのまま風呂場へ連れられて、シャワーで身体を洗ってもらった。



シャ━━━━!


「屈辱や・・・くっ殺せ!」


「しゃーないやん! 1人で歩けやんかったやろ? ぐでんぐでんのベロベロの酔っ払いみたいになってたんやから!」


「あううう~~~」


「でも、久しぶりやな?」


「なにが?」


「晴蘭がオシッコをチビったんわ」


「いやっ! 言うなああああああああ━━!!!」


 パリィ━━ン!! ガチャーン!!


「きゃああー!」



 晴蘭は、母親の慈悲なき言葉に羞恥心からか、また魔力が暴発して家中のガラスというガラスが割れたのだった・・・



「ふえぇえぇえぇ~~~ん!! もう嫌やぁあぁ~~~!! 殺してくれぇー!!」


「落ち着けぇ━━い!!」


エコ・エコ・アザラク・・・とは、本物の魔法使いの呪文です。

「エコ・エコ」とは、「聞いて聞いて」と言う意味だそうです。

「アザラク、ザメラク」とは、何の神様か忘れましたが、神の名前だそうです。

ただ、ザメラクは発音か難しく、「ザメラク」の「ザ」は、「ザ」と「ゾ」とを足したような、ちと難しい発音です。

「ケルヌンノス」とは、「森の神」とか?

そして、「アラディア」とは、「魔女の女神」とか、「魔法の女神」と言われています。

「月の女神ディアナ」と、「大天使ルシファー」との娘です。

神や他の大天使達の忠告を聞かずに、人々の願いをポンポン叶えていたルシファーが、神の怒りをかって翼を奪われて地上に落とされ、やがて「魔王サタン」と呼ばれるようになり、アラディアも、「魔王サタンに魂を売った女」とされて、「魔女」と呼ばれるようになったのですね。

「魔王サタン」だなんて、本当はとても人に優しい天使なのに・・・可哀想です。

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