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女装剤  作者: 嬉々ゆう
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第3話 「大晴と義斗から晴蘭と海音へ」

いよいよ大晴は、女性として生きるために1歩進むことになりました。

本人達は、その気あまり無しです。

母親に強引に悟られます。

でもそれには先ず、戸籍が問題です。

たとえ名前の変更でも難しいです。

大晴と義斗は、名前と性別の変更です。

そのためには、ある人物の力を借りることになるのですが・・・



文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。




 ふと窓の外を見ると、もう日が傾いてオレンジ色の夕焼け雲が見えていた。景色がユラユラと揺らめいている。


 涙で目が霞む・・・なんでこんな事に。

 大晴達は諦めて、女の子用の服を着ることにした。裸のまんまんじゃ、ここから出られないしな。



「・・・大晴、お前どっちを着るん?」


「え? ああ、俺わぁ~~~苺かな?」


「ええ~~~なんで~~~! 俺、苺がええんやけどなぁ?」


「わかったよ! ほな、パジャマは?」


「・・・ピンク!」


「やっぱし? もうええわ・・・ほら!」


「うふっ ありがとう!」


「・・・」


「・・・・・・」


「「ちがぁ━━━━━う!!!」」



 大晴と義斗は、頭を抱えて絶叫した。




何なんだこれはぁ~~~?! 完全に女の子しているじゃないかぁーおおーい!

 それより義斗ぉ!! 「うふっ」ってなんだそりぁ貴様ぁ━━!!


 何か、段々頭に来た!!


 今まで、ヤケクソに暴れて、みんな無茶苦茶にしてやりたいという気持ちを押し込めてきたが、一気に爆発して、タガが外れてぶっ飛んだ!




「何が、『うふっ』じゃ? お前、思いの外、女の子してるやないか、ええ?」


「うっさいわ! しゃーないしゃーないって俺に言うとったんは、お前やろがぇ!! それって女の子せーっちゅー事ちゃうんかぇー女々しいんじゃゴラァ!」


「じゃかぁーしわいっ!! んなわけあるかい!! 誰が女の子せーゆーた!! お前こそ、1日も経たん間に、女の子気取りかよ あ゛あ゛ーん?!」


「んがぁ━━!! それ以上言うなぁ━━!! コブラツイスト決めて、お前のケツしばき回すぞワルルレェゴルルラァ━━!!」


「おおー! おもろいやないかえ、やってみー!! お前のケツから手ぇ突っ込んで、脳みそ引きずり出して、ワニのエサにしたろかワルルレェー!!」


「むぎゃあー! どこにワニなんか居るんじゃ?!(そこ?) できるもんやったら、やってみークソワレゴルルゥアッ! お前こそ、頭噛んで死ね━━━!!」


「ふぎゃあー! お前こそ、目ぇ噛んで死ね━━━!!」


 ズダァン!! ドターン! バターン!

 ガランガラン! バンバンバン!


「「くぁw背drftgyふじこlp;@:「」━━━!!!!」」




 知能回路が、ぶっ壊れそうだった・・・



 その頃母親は、夕ご飯に麻婆豆腐を作っていた。大晴の大好物だ。



 グツグツグツ・・・


「ん!? あの()らまた喧嘩してるわ でも、以前の大晴やったら、考えられへん弾けっぷりやけどねぇ~」



 などと、自分の事は棚に上げて、そんな事を呟く。母親の楓は、自分も元は男だったのはもちろん自覚している。男として生きた20年間は、間違いなく自分の体験だと確信している。しかも、なかなかのDQNだったなんて、誰も今の母親の楓からは想像もつかないだろう。でも生まれてから男として生きた20年よりも、女として生きてきた年数の方が長いためか、今の大晴達への同情心は希薄なようだ。


 でも、ますます大晴達の騒ぎ声が激しくなってきたので、仕方なく2人を静めるために風呂場へ向かう。正直なところ、以前の大晴だったなら、引っ込み思案を直してやりたいと思っていただけに、今の大晴を見ると少しは嬉しい気持ちもあるのはあるのだが。



「お前、ええ加減にせぇーよ! はぁーはぁー」


「お前こそ、ふざけんな! ふぅーふぅー」


「「ふー! ふー! はー! はー!』」


 バタバタバタ!


「何をほたえて(騒いで)んのアンタら!!」


「「!?」」



 母親の張り上げ声に、ピタッ!と喧嘩が収まる。

 大晴は義斗の頬をつまみ、義斗は大晴の髪を掴んだまんまで、母親を見つめる。そして、しばらく放心していたが、互いに手を離すと力なくグッタリと項垂れて活動停止。



「・・・ああもぉ、俺何してんのやろ?」


「・・・」



 大晴は、自分のパジャマの胸元を両手で掴んでそう呟く。本当に、そんな気分だった

 自分の置かれた境遇にイライラして、ついつい義斗に八つ当たりしていたが、義斗は大晴の巻き添いで女の子に変身してしまう羽目になったのだから、義斗はハッキリ言えば「とばっちり」だ。顔を見る度に、一々突っかかってたんじゃあ、義斗も堪ったもんじゃない。

 大晴が一々義斗に突っかかるのは、女の子に変身した義斗があんまり可愛いものだから、義斗に対して、そんな風に思ってしまっている事を隠すためのパフォーマンスであり、気を紛らわすための建前みたいなものだ。

 もう、相手は義斗だし、義斗への気持ちを隠すのも面倒だし、そろそろ本音をぶつけてやろうかとも思った。でもそれだと、何か変な風に誤解されても困るし・・・


 それより、せっかく母親が用意した2人の新しいパジャマは、掴んだり引っ張り合ったりしたせいか、あちこちとビロンビロンに伸びていて、肩は出るわ、襟元は大きく開くわ、ズボンとパンツはズレて半ケツをくだすわ、乾ききっていない髪はバッサバサに乱れているわで、散々な格好だった。



「あぁ~あぁ~もぉ~~~! 何をしてんのよアンタら? ほらほら、買ってきたばっかりのパジャマをこんなんしてもてもぉ!」


「「・・・」」



 気まずくて、下唇を突き出して拗ねる2人。すると次第に恥ずかしくなって、モジモジする。


 大晴は、不覚にも義斗が可愛く見えて、そんな自分の気持ちを隠すかのように、つい憎まれ口を叩く。



「なんなその顔? お子ちゃまかよ?」


「うっさいわ!! 泣かすぞ!」


「んじゃ、泣かしてみぃ!!」


「なんてよ、われゴラァ!」


「あっ! こらっ! いい加減にしなぁ!!」


「「・・・・・・」」



 そこへ、母親に指を差され、2人に強制指令!



「あ、そうそう! 明日からスカートを穿くんやで?」


「んなっ!? スカートぉ!?」


「くっ・・・ぷぁわははははは! スカートてかぇ? こら傑作やわ!」



 大晴の母親からの指令なので、自分は関係ないと思っている義斗だが、母親からすかさず痛恨の一撃を食らう!



「何 (わろ)てんの? 義斗君もやで!」


「ぐはぁ!!」


「ぷぷぅっ!」


「義斗君のお母さんからも、ちゃんと()()()()()()してもらうように頼まれてるんでね!」


「ギャフン!」


「ふっ・・・」



 拳銃で心臓を撃ち抜かれたかのように、胸を抑えて仰け反る義斗。もう義斗は、大晴からのとばっちりの連鎖だな。

 そんな義斗を見て勝ち誇ったかのように、高笑いをして義斗に苦言をぶつける大晴。



「ぎゃははははは! あぁ~ら義斗君! 自分は関係ないなんて思っていたのかしら? それはそれは、お生憎様でしたわねぇ? これも貴女のためなんだから、諦めなっさぁ~い!」


「んなっ!? やめてぇ━━━!! いやぁ━━━! んぎゃあああああ━━!!」


「きゃはははははは!!」



 もうヤケクソの大晴。恥ずかしさを紛らわすためにわざと女言葉を使うが、後で余計に恥ずかしくなる。そしてまた義斗も恥ずかしさを紛らわすかのように、ヤケクソに叫ぶ! とにかく叫ぶ! 羞恥心を吹き飛ばすかのように叫ぶ!


 2人の気持ちを解ってか、そんな2人の様子が余りにも滑稽で、母親も2人に乗っかるように指を差して爆笑。


 その後、蔵のホコリで汚れた脱衣場を雑巾と掃除機とで掃除をさせられた。そして、汚した服を自分達で洗濯した。(洗剤を入れて洗濯機を操作しただけ)まあ、仕方ないわな。


 でも、ちょっと母親が目を離すと・・・



「いでででででででっ!!」


「いららられれれれっ!!」


「こら! やめなさい!」



 また掴み合いの喧嘩になり、大晴は義斗の頬っぺをつまみ、義斗は大晴の髪を掴み引っ張る。


 大晴と義斗は、今までも何度も言い争いの喧嘩はした事はあるが、掴み合いになるほどの喧嘩などはした事はなかった。でも今はなぜか、互いに無性に頭にきて掴み合いになってしまう。それもその筈である。今の大晴は、昔の引っ込み思案な大晴ではない。別の世界、「パラレルワールド」から来た、()()()()()なのだ。

 そんな大晴の変化に気付いてはいるものの、まさか大晴が元から居た大晴とは違い、別の世界から来た大晴と入れ替わっているなどとは、1ミリも知る由もない義斗。


 だが、喧嘩をする2人は、側から見ると本当に女の子同士の喧嘩だった。母親は、そんな2人の間に腕を差し込んで引き剥がし仲裁に入る。それでもまた掴みかかろうとするので、母親は2人の腕を掴んで上へ引き上げる。



「ふぅー! ふぅー! ふぅー!」


「はぁー! はぁー! はぁー!」


「まったく、アンタらわ・・・」



 まだ中1とはいえ、男子2人を同時に引き離すなんて?! 2人とも一瞬片足が浮いたし、どんな怪力?って、大晴達はそんな母親を見てギョッとなった。

 でも今の大晴達は、誰がどう見ても小学生低学年くらいの女の子にしか見えないだろう。

 力も、女の子の力だ。ちょっと騒いだだけで息が切れる。まるで持久力が無い。母親に掴まれた腕が振り解けない。今まで掃除機なんて片手で持ち上げられていたのに、さっきは片手で持ち上がらなかった。体力も腕力もかなり弱くなっているのが判る。母親に、上から見下ろされ怒鳴られると、思わずビクッとなってしまう。


 でも、負けてられないと、威勢を張る2人は、今度はパジャマの柄で争うのだった。



「何が、「苺」じゃ! 果物なんか選んで、お子ちゃまかよ!」


「っふーん! お前もパイナップルで果物やないか!」


「アホォ! パイナップルは果物の王様なんじゃよ!」


「何が王様じゃ! 苺は果物の王道なんじゃよ!」


「ぶっぶぅー!!」


「「なに!???」」


「苺もパイナップルも、野菜でーす!」


「「えええええ━━━?!」」


「ぷぷっ クスクスクスクス」



 そうである。苺もパイナップルも野菜である。

 だが、果物として紹介される事もあり、「果実的野菜(かじつてきやさい)」と呼ばれる事もある。

 ちなみに、メロン、スイカ、アボカドなども野菜である。

 バナナは、厳密には、「草の実」である。

 つまり、「バナナのなる木」ではなく、「バナナのなる草」なのだ。(ええ~?!)



 母親も、2人の喧嘩を止めながらも、2人が本気で喧嘩をしているのではないと理解して、少しホッとするのだった。

 ただ、突然女の子に変身してしまった事で、不安と混乱を紛らわすために、威勢を張っているのだろうとは思っていた。


 とにかく大晴は、気を沈めるため、炊事場(キッチン)へ向かい麦茶を飲もうと、冷蔵庫から麦茶の入った2リットルの容器を取り出したのだが、そのとき「あれ?」という表情で首を傾げた。いつも片手で持てたはずの麦茶の容器が妙に重い。片手で持ち上げようとしたが、持ち上がらない!?


 義斗も落ち着こうと、大晴が出した麦茶をもらうため、水屋(食器棚)からコップを取り出そうとするが、コップに手を伸ばしたときに、「あれ?」という表情で首を傾げた。いつもなら楽々コップに手が届いていたはずなのに、今は背伸びをしないと手が届かない。


 あれれ? 何か変だ。 いつもと違う。


 母親に対しても、いつもと違うように見えた。何が違うのだろう?


 そう言えば、母親が怖いと思ったのは久しぶりだ。小学生低学年の頃以来か? なにせ、今までよりも母親が大きく見えるのだ。

 それもそのはず、2人は女の子になって、身体は小さくなり、背もかなり縮んでいたのだから。今までよりも、見るものが大きく高く見えて、持つ物が大きく重く感じるのは当然の結果だ。


 大きく見えるのは、それだけじゃない。

 室内の見るもの全てが大きく高く見える。部屋がなんだか広い! 天井がやたら高い。冷蔵庫がやけにデカい。麦茶の2リットルの容器に入った麦茶が両手じゃないと持てなかったし、容器の蓋が硬くて開けるのに難儀した。


 2人して麦茶を飲んだあと茶の間へ移り、何となく見渡してみる。やっぱり何か違う? とにかく広く大きく見えるのだ。

 そればかりか、食台に置いてあった使い慣れたはずの自分のスマホが大きく重い。蛍光灯のスイッチの紐が食台の上に乗らなきゃ届かない。黒猫のナルが重く大きくなった気がする。炊事場と茶の間を抜ける引き戸なんて、思わず見上げるほど、そびえ立つようにデカく見えたし、引き戸がやたら重く感じた。

 テレビのリモコンも、片手で持ちながら親指だけでボタン操作ができたのに、今は両手を使わなきゃできなくなっている。そもそも以前より手のひらが小さくなった気がする。大袈裟かも知れないが、モミジの葉のように小さく見えた。きっとスマホを持っていたので、比較対象になったからだろう。

 義斗も同じ心境なのか、茶の間の隣の仏間で、自分の手をマジマジと見ながら、何度もひっくり返したり、グーパーグーパーしていた。


 そんな時、母親から不意に後ろから声を掛けられて、ハッ!とした。



「何してんの?」


「!!・・・いや、何か手が()まこくなった気がして」


「ああ、俺も!  なんか、指ほっそ!」


「そりゃそーよー! 今のアンタらの見た目は、小学2、3年生くらいの女の子なんやから!」


「「はあっ!?」」


「女装剤を飲んで女の子になると、身体が魔法使いと同じ身体になるんよ!  魔法使いは寿命が長いから、身体も少し若返ったんよ!」


「「なぁ━━━っ?!」」



 何でえ!? 俺が小学2、3年生!? そんなに小さくなっているのか?

 それより、魔法使いの身体?! 寿命が長くなる?! なんじゃそりゃ━━?!


 自分の感覚では、確かに幾分か小さくなった自覚はあるが、小学生の高学年くらいだと思っていたのに。

 あ、そう言えば、母親も実年齢にしては若く見えるのは、そういう事か!!

 でも、寿命が長くなるってヤバくね? いったい何年、生きるんだ?


 そう言えば、身長150センチ程の母親と同じくらいの身長だった俺だが、今は頭の天辺が母親の胸あたりしかない。


 これじゃあ、小学2、3年生と言われても仕方ないか。 などと考えいたら、電源の切れたテレビの真っ黒な画面に自分の姿が映ったのを見て、愕然とした。



「誰よこれ・・・」



 俺は慌てて、生前サクラ婆ちゃんが使っついた部屋へ行き、サクラ婆ちゃんの鏡台を開いてみた。そこに映っていたのは、パイナップル柄のパジャマを着た、小っちゃな女の子だった。

 洗面所の鏡には、肩から顔しか映らなかったので気付かなかったが、膝から頭まで鏡台の3面鏡に映る自分の姿は、見た目といい、着ている服といい、まんま小っちゃなお子ちゃまだ。顔なんて、まんま幼女だ。某世界的人気アニメ龍の玉の、人気少年キャラクター「トラクスン」に似た黒髪ヘアスタイルの可愛い女の子。口をパクパクしたら、鏡の中に映る幼女も口をパクパクしている。間違いなく自分だった。


 我ながら、「うわ~()まこっ!」って思った。

 と言うのも、以前より鏡台が大きく感じるので比較対象として、自分が小さく見えたのだ。


 そしてふと横を見ると、義斗がニヤニヤしながら俺を見ているのに気付いた。



「!・・・何なよ?」


「小学2、3年生か・・・ぷぷぷっ」


「お前ねぇ! 言うとっけど、お前も同じやからな!」


「何でや! 俺は大晴よりもちょっと背ぇ高いぞ!」


「ええっ! うそぉ!?・・・あれ? あれぇ? 言われてみれば」


「ふふふ・・・」



 確かに、義斗の方が2、3センチほど背が高かった。男のときも、義斗の方が少し高かったが、そんなに気にした事などなかった。なのになぜか今は、すんごい悔しくてムカつく!


 正直言うと、女の子になった義斗はめちゃ可愛い。ロシア人ハーフと日本人との子供のクォーターの、黒髪と茶髪のまだら髪だったのに、義斗が女の子になると、今は金髪になってるし、プツプツニキビもすっかり消えてツルスベ赤ちゃん肌になってるし、極めつけが青い瞳だ。男の頃は少し青みがかった黒のはずだった瞳が、今は透き通るようなブルー! 金髪碧眼なんて日本人の憧れじゃないか!(大晴目線基準) お世辞抜きでめちゃ可愛いと思うのだが・・・なんでだろう? 男の頃だったなら、今の金髪碧眼美少女の義斗を見れば、思わず抱きしめたくなるのだろうが、今はそんな気持ちなど、コレっぽっちも湧かないときめかない。コレって、自分も女の子だからか? なんと言うか、可愛い女の子が得意げで上から見下ろした表情ってホントにムカつくんだなこれが。可愛いからこそ余計に・・・


 なんだか、悪役令嬢に無下に見下された平民のヒロイン的な心情だ。(大晴目線基準Ⅱ)


 なにせ大晴は、小学低学年の頃は、背の順は一番前だった。特に小学4年生までは、同じクラスの女子達より背が低かったからか、女子からも小さい身体をからかわれた事もあった。もちろん、自分より背の低い女子は何人か居たが。

 5年生に進級したときには、4年生の時に大晴を特にからかってた女子が一緒のクラスになったのには絶望したものだ。だが、6年生に進級する前には、彼女とは同じ位の背丈にまで伸びて、その後は背丈の事でからかわれる事もなくたったが。


 だからなのか、大晴は正直なところ、女子が苦手だ。


 そんなだから、女の子になった義斗にさえ苦手意識が出て、ムカムカするのだろうか?とにかく、女の子になった義斗のニヤニヤした顔が、憎ったらしくて仕方がない。


 義斗は、そんな大晴の気持ちを知ってか知らずか、手のひらを自分の頭に乗せてから、大晴の頭の上に横チョップみたいにヒラヒラ動かす。



 ヒラヒラ・・・


「?・・・んなよ!」


「ほぉーら! 俺の方が背ぇ高いわ! こんだけ差がある!」


「んぬぬぬ・・・」



 義斗は、手のひらを自分の頭の高さに合わせたら、大晴の頭の少し上に手を寄せる。大晴の背の方が自分より少し低いと言いたいようだ。



「むっかっつっくぅ~コイツぅ! うっさいわ! 泣かすぞ!」


「っへーん! 泣かしてみぃ!」


「なんてよゴラァ!」


「やめさないってぇ!!」



 義斗の奴、俺よりちょーっと背が高いからと言って、俺に勝ったつもりか? これで勝ったと思うなよ貴様ぁ! 今まで義斗にライバル心なんて抱いた事などなかったが、今はなぜか背の高さに負けた事がメチャクチャ悔しい! 一歩やられた感がどうにも拭えない。



「チッ! この、ブスめ!」


「ブスぅ!? んきぃ━━!!」


「あぃだだだだだ! やめぃ!」


「えででででででっ!」


「こぉら! んもぉ!!」



 あんまり腹が立ったので、小学生の頃に気になるクラスの女子にわざと悪口を言ったときみたいに、思わず義斗に向かって、「ブス」と言ってしまった。


 すると義斗は、「ブス」と言われた瞬間に顔が一気に真っ赤になって、また大晴の髪をひっ掴んで引っ張り始めた!


 大晴も仕返しに、また義斗の頬っぺを掴んで、思い切り引っ張ってやった!


 するとまた母親が、大晴と義斗の後ろ襟を掴んで引き剥がす。


 もう、完全に女同士の喧嘩だなと思った。学校で別のクラスの女子達が、こんな喧嘩をしていたのを見たことがあった。


 ところが母親には、大晴と義斗の喧嘩が、まるで猫の喧嘩のように見えた。



「ふぎゃあー!」


「んぎゃあー!」


「ぷっ! いい加減にしなあってぇ!!」


「ふぅー! ふぅー! ふぅー!」


「はぁー! はぁー! はぁー!」


「ぷぷぅっ! ほんまに、どーしたん? アンタらそんな仲悪かったん?」


「「・・・」」



 喧嘩する2人が、本当に喧嘩する猫みたいで、ちょっと可愛く見えて思わず吹き出してしまう母親だった。


 正直なところ、贔屓目に見てるかも知れないが、義斗は凄く可愛いとは思うのだが、なんだろう? この仲良くしたいのに顔を見ると憎たらしくなる変な気持ちは。


 俺は嫉妬しているのか? だからなのか、ついつい頭にきて、キー!となってしまう。そしてつい勢いで、口が滑ってしまって本音が漏れてしまう。


 義斗も自分の気持ちに困惑していた。

 「ブス」なんて言われたって、別に気にするところでは無いはず。なのに気になると言うか、傷付いてしまうのは、自分は女の子だと自覚しているからなのか。それとも認めているせいなのか。

 自分に悪口を言う目の前の幼女が、大晴だとは頭では理解していても、以前の大晴とはまるで性格が違うと感じるせいなのか、大晴とは別の他人の女の子に見えて「なにコイツ可愛いじゃん!」みたいになる。

 こんな気持ちを知られちゃいけない、知られたくない。だからなのか、ついつい悪口を言って誤魔化してしまう。



「何んなよ! ちょっと可愛いからって!」


「はぁ!? 何をゆーてんじゃ! お前の方が可愛いやろ!」


「嘘つけぇ! 今俺のことブスゆーたやないか! 今更お世辞ゆーても、アカンからな!」


「もお・・・何なんやろね、この()ら? 男の子のときは、あんなに仲良かったのに」


「うっさいブス!」


「うっさいチビ!」


「ブス!」


「チビ!」


「ブス!」


「チビ!」


「はぁ・・・」



 頭を抱える母親を横に、2人は、ブスだのチビだのと罵り合っていた。


 大晴は、義斗の事を本当はブスだなんて思っていないし、言いたくもなかった。なのに、なぜか素直になれずに、つい憎まれ口が出てしまう。

 と言うか、止められると、なぜか逆に興奮してしまう。


 義斗も大晴と同じ心境なのか、大晴に張り合うように悪く口を言ってしまう。こんな事を言うつもりはなかったし、喧嘩なんてするつもりもなかった。だが、以前とは雰囲気も態度も違う大晴に、戸惑う気持ちがあった。



《何じゃコイツ? 女になる前は、いつもは俺を立てて最後には折れてたくせに、何で今はこんなに突っかかっくるんじゃ? 女になったら、気も強くなるんか?》


 などと、考えていた。


 大晴は、自分の感情がコントロールできずに、悶々としていた。


 《なんやなんやなんやコレぇ?! あーもーイライラする! 男に戻れやんイラつきか? それか、悔しいけど自分よりも義斗が可愛いと認めているからのライバル心か? いったい俺の頭は、どーなってしもたんやろか? 女の子に変身したことで新しく生まれた感情か?》


 大晴と義斗には、互いに理解できない感があった。互いに女の子に変身した親友を「可愛い」と思ってはいる。でも気持ちを込めて言ってしまうと、必ず奴も気持ちを込めて「可愛い」と言ってはくれるだろう。

 だがそれでは、互いに自分は「このままで良い、可愛いと言われて嬉しい」と、何でそう思うのかと理解できない気持ちが本物のだと認めてしまうような気がして、それが怖くて気持ちを込めて言えない。だから、反発するように言ってしまうのかも知れない。決してこのままで良いなんて思わない。絶対に男に戻れないなら、男の振りをして生きていけないものだろうか?

 「どうにもならない」と解っているからこそ、苛立ちが隠せない。「女の子」に慣れてしまうのが怖い。互いに奴が「女の子のままで良い」なんて思って欲しくない。それを確認するかのように、探るかのようにしているのかも知れない。


 夕食の時間。

 いつまで経っても2人の喧嘩が治まらないもんだから、母親は大晴と義斗を食台を挟むように離して座らせて夕食となった。お腹がいっぱいになれば、気持ちも落ち着くだろうと考えたのだ。でもこれでは、互いに向かい合わせになるから、顔が嫌でも目に入るのだが・・・。


 夕食は、麻婆豆腐だった。大晴の大好物だ。なぜか義斗も麻婆豆腐が好きらしい。


 シ━━━ンと静まり返ったのは良いが、何だか重苦しい。カツンカツン!と器にスプーンの先があたる音だけが耳障りなほどに部屋に響く。母親も無言で麻婆豆腐を食べていた。こんなに食事が苦痛に感じたのは初めてだった。


 大晴は、麻婆豆腐を半分食べたら、ご飯をぶっかけてグチャグチャに混ぜて、いわゆる「ニャンコまんま」にして食べるのが好きだった。


 ちなみに、ご飯に味噌汁などの「汁系」のスープなどをかけてビチャビチャにしたのを「ワンコまんま」と呼んでいる。

 なので、大晴と義斗にとっては、「鍋料理の締めにご飯を投入」は、「ワンコまんま」であり、「ご飯に生卵と鰹節と醤油かけ」は、「ニャンコまんま」だと信じて疑わない2人だった。

 でもなぜか、「ご飯に生卵と醤油かけ」は、「卵かけご飯」らしい。

 一見、「鰹節」が有るか無いかの違いだけなのだが、大晴と義斗にとっては、何者にも変え難いポリシーなのである。


 また、「ニャンコまんま」と、「ワンコまんま」の何が違うのか? と聞かれても、違うものは違うのだ。とやかく聞くことなかれ。


 義斗も同じようにして食べている。「また俺の真似してる」などど思いながらも黙々と食べ続ける。麻婆豆腐を「ニャンコまんま」にして食べたのは、義斗が先だったからだ。

 義斗はそれを口に出して言ったりはしないが、「麻婆豆腐のニャンコまんま食いは俺が初!」は、絶対に譲らないと誓うのだった。

 でも、大晴のそんな所は、いつもの大晴だと安心するのだった。


 それより、互いに何か話し掛けてくれないかと待っていたが、結局食べ終わってしまった。


 そして皆が食べ終わると・・・



「ごちそうさまです」


「どういたしまして んで義斗君、今日はどうすんの?」


「え?」


「・・・」



 母親が義斗に聞いたのは、今日はこの家に泊まるのか?と言うことだ。いつもなら特別用事の無い土日には、義斗は大晴の家に泊まって、夜中までゲームをしたりしていた。たまになら、大晴が義斗の家に泊まったりもしていた。今は夏休みだから、きっと今夜も義斗は泊まるものだと思っていた。「仲直りできるかも?」なんて思っだが、今までなら、母親にこう聞かれたときは、二つ返事で泊まると言っていたのに、今日の義斗は・・・



「・・・帰ります」


「!・・・」


「・・・そう? じゃあ、また明日来なあよ? 今後のことを話し合わなあかんから」


「・・・はい」



 義斗は返事をして立ち上がり、背を向け歩き始めたが、母親に声をかけられると立ち止まり、首だけで振り向く。



「あ、それと!」


「はい?」


「・・・?」


「近い内に、2人の改名と性別の変更の手続きをするから覚えといてな!」


「!?」


「かいめい?」


「2人とも女の子の名前に変えるんよ! 女の子になったんやから、男の子の名前のまんまじゃ変やろ?」


「!・・・」


「変って・・・」



 確かにそうだ。確かにそうだとは思うのだが、自分の名前が変わるなんて想像できない。いや、どこか他人事のように感じていたからかも知れない。なぜかこう、自分の事ではないというか、異世界転生漫画の世界の「お客様的感覚」というか、実感が湧かないというか。


 この時の大晴の中では、この世界の大晴の心と、別の世界から来た今の大晴の心とが入れ替わってから、まだ身体に完全に馴染んでいないのかも知れない。


 もし、車で例えるなら。

 車というものは、ドライバーの運転の癖で、ブレーキの効き始めるペダルの深さや、シートの位置や、背もたれの角度や、ルームミラーの角度などが違うものだ。

 たとえ同じ車だとしても、他人の車を運転すると、どこか違和感を感じたり、慣れるまで運転しにくいと感じるのに似ている。


 なにせ、感情とは身体に大きく影響を与えるものだ。

 たとえ、パラレルワールドの「個人」と言えど、それが同一人物だとしてもだ、他人が長年使ってきた身体は、自分が長年使ってきた身体とは、多少の何かしらの誤差があるのは当然である。


 今の大晴にとって、オートマチック車と、マニュアルシフト車程の違いの差があるのかも知れない。

 とはいえ今の状況は、「オートマチックの普通車のファミリーカー」から、「マニュアルシフトのスポーツタイプの軽自動車」に乗り換えた程の差があるのだが。


 この世界にもまだ慣れていないせいか、現実っぽく感じられないのかも知れない。

 もちろん大晴は自分が、この世界の自分と入れ替わっただなんて知る由もない。



「はぁい」


「・・・」



 俺は、とりあえずは返事をする。 義斗は顔の向きを変え、天井を見上げてしばらくの間黙り込む。そして・・・



「またな」


「・・・お? おお」



 義斗は、そう言って帰って行った。とは言っても、家はすぐ隣りなのだが。


 義斗の家族も、大晴と義斗の変化については既に知っている。母親が話していたからだ。以前からこうなることは、サクラ婆ちゃんから聞いていたとのことだし、義斗の両親も、まさか本当に義斗まで女の子になってしまうとは思いもしなかっただろうけど、事実は事実。義斗ひとりの問題じゃない。義斗が男から女に変身したとは言うことは、義斗ひとりの人生だけでなく、義斗の家族の人生にも影響を及ぼすのだから。


 もし、義斗が大人で既に結婚していて子供が居たとしたら、義斗の家族にどんな影響を与えるか。考えただけでゾッとする。


 確か母親は、大人になってから女装剤を飲んで女に変身したと言う。もし、俺が大人だったら? 彼女が居たら? 結婚していたら? 子供が居たら? 女に変身した俺を認め受け入れてくれるだろうか?


 まだ子供だし、結婚の経験も無いし、女の子と付き合った経験も無いから、どうなるかなんて解らないけど、絶対にうまくいかないって解る。家庭崩壊するに決まってる。


 もし、逆だったら? 俺だったら、受け入れる自信がない。いや、誰だってそうだろう。受け入れられるはずがない。もし俺が元々女で、彼氏や旦那が女に変身したら、きっと・・・


 義斗の肩を落として歩く後ろ姿が、目に焼き付いて離れない。大晴は、義斗に申し訳なくて堪らなかった。俺が義斗に蔵の片付けの手伝いなどを頼むことなどしなかったら、「この世から男性が居なくなる」事を度外視しても、少なくとも義斗だけは、女の子に変身することなど絶対に起きなかったはずだ。


 大晴は義斗に対して自責の念に苛まれるのだった。


 義斗も同じ気持ちだった。もし自分が蔵の片付けのとき、喉の渇きに我慢していれば、女装剤を飲まなかったら、大晴も飲む事にはならなかったはずだ。 自分の軽率な行動に自責の念に苛まれたいた。もしあの時に戻れる事ができたなら、女装剤を飲もうとする自分から女装剤を取り上げて、どこかへ投げ捨ててやったのに。


 でも、起きてしまった事にいつまでもくよくよしてはいられない。今後について考えなきゃ。先程母親が言った、「改名と性別の変更手続き」の問題もある。その他学校でも、色々な変更を余儀なくされるだろう。やっぱり女子の学生服を着なきゃいけないのだろうか? 先生は、今まで通りに接してくれるだろうか? 他の生徒達は? ご近所さん達は? 世間は? この世界は、女になった俺を受け入れてくれるのだろうか? もう自分は、この世界では存在してはいけないものだと思ってしまう。年老いてから女に変身したのなら、女として余生を生きるのにそれほど苦にはならなかったかも知れない。


 大晴は、夏休みが終わって学校が始まった後の事を心配していた。先ず、そこだろう。そこが先ず考えなきゃいけない現実だ。なんか嫌だ。このまま学校になんて行けない。行きたくない。クラスの皆に、どんな顔して会えはいい? 気持ち悪いって言われるかな? 仲間はずれにされるかな? 絶対ボッチ確定だ! そうならないために何をどう話す? いろいろ聞かれたらどう説明する? どんな言い訳を考えたらいい? 何も考えられない。答えなんて出ない。


 なんで俺なんだ・・・


 小さい頃から、他所の男の子よりも小さかったせいで、「女の子みたい」と言われ育ったからか? 当時は意味は分からなかったが、よく「名前負けしている」なんて言われたものだ。今ならよく分かる。確かに、以前の俺も名前に相応しくない。男らしくない容姿だ。「可愛い」とよく言われたが、本当は「カッコいい」と言われたかった。柄にもないな。



「改名か・・・確かに似合ってへんかったわな 大晴たいせいじゃなくてまこいはれと書いて、小晴ちいせい ってか? ははは・・・」



 わざと自分を虐げるように呟いてみる。余計に虚しく情けなくなってくるだけだった。


 敵から人を助けるヒーローに憧れた。女子アナにモテるプロ野球選手に憧れた。女性アイドルにモテるプロサッカー選手に憧れた。カッコいい~って女の子にチヤホヤされたかった。


 もちろん、自分が男のまんまだとしても、憧れのソレに成れるとは限らないし、成れる可能性は低いだろう。でも、その可能性が完全に0になってしまった。どうしようもなく、落ち込んだ。もう一度鏡で自分の姿を見て、改めて女である事に思い知らされて、その場に崩れ落ちた。崖っぷちから突き落とされた気分だ。



「なんで、「俺」なん? なんで、「今」なん? なんで、大人の男になれやんの? そんなん無理やん! 女の子やん!! どれにも、なれやんやん!!」



 そう言うものの、今は女の子として生きるために、今後の事を考え心配している。


 操り手を失ったマリオネットみたいに力無く座り込んで、ただ1点を見つめて、しばらく何も考えられずにボォーっとしていた。

 ふと思い出したかのように、改名や性別の変更について、「改名? 性別の変更? やっぱり役所に行くんだっけ? 面倒くさいな 夏休みなのに勿体無いな」程度にしか思えなかった。


 いや違う。自分の身に起きた事が、あまりにも大き過ぎて、他人事のようにしか考えられなかったのだ。心のどこかでゲーム感覚で、「ログアウト」すれば元のいつもの日常に戻れる。そんな気がしていた。


 何の気なしに、スマホを手にしたときに、黒い画面に女の子になった自分の顔が映った。はっ!と思い、スマホのカメラの向きを自撮り用に反転する。こうやってマジマジと自分の顔をアップで見ると、男だった頃の面影は少し残るものの、スマホ画面に映る、女の子に変身した自分が、我ながら不覚にも可愛いと思ってしまった。嫌でも今の自分が女の子なのだと自覚する。


 でも、そんな自分に怒りが湧いて、思わずスマホを投げそうになった。


「もしあのとき、木箱なんて開けなかったら?」


 そんな事ばかりを考え、後悔していた。


 でも、母親は、どんなに事を回避しようとしても、俺は必ず女の子になる宿命だと言っていたが、それは本当なのだろうか? そんな事など、確かめようがない。


 夜、布団に入らずに、掛け布団の上に座り込んで、不安と後悔ばかりでまったく眠れなかった。


 そして翌朝。



 母親が、誰かを呼んでいる。でも、知らない名前だった。近所でもクラスメイトにも居ない名前。誰を呼んでいるのだろう?



「晴蘭ー!」


「うう・・・」


「せーいーらー! 起きなさい!」


「ううん? せいら?・・・って、だれ?」


「アンタは今日から、せーいーらーやからねー!」


「・・・・・・はぁい?」



 母親は、朝から何をボケた事を言ってるん? 何でそんなにテンション高いん? それより、いつの間にか布団の中に入って寝ていたみたいだ。そのせいか、ちゃんと布団の中に入って寝た記憶がないもんだから、時差ボケみたいに、「そうか今日は蔵の中を片付けるんだっけ?」などと考えていたら、何もかも夢だったような気がした。でも、母親が知らない名前で誰かを呼んでいる。俺じゃない。俺の名は、大晴(たいせい)だ。晴蘭(せいら)なんて名前なんかじゃない。セーラって確か、希望戦士ダンガムの金髪碧眼美女キャラがそんな名前だったような?


 すると、ガタガタと音をたてて俺の部屋の襖を開けて、黒猫のナルが部屋に入って来たのが分かった。そして俺の掛け布団をくぐって来て、冷たい鼻を俺の鼻につんつんと当てる。俺はまだ眠い目をうっすら開けて、ナルの名を呼びながらナルの頭を撫でる。


「おお~~ナル~・・・えっ!? なんかお前デカくなった? って、あれれ?」


「みゃあ!」


 パタパタパタッ!



 ナルが、慌てて逃げるように俺の部屋から出て行った。ナル、急にデカくなってない? そんな事より、何だ今の俺の声・・・俺の声じゃない? 


 なんて思いながら目を開けたら、何か手ぇ()まこ! 手首細っ! 指細っ! これ、俺の手!? 何このパイナップル柄の袖!? ってゆーか、何この臭い!?


 今、大晴が嗅いだ臭いとは、「男子の臭い」である。もちろん、大晴にはその臭いの正体が何なのか判らない。自分の体臭なんてなかなか気付かないものだ。男子だった頃の男子特有の体臭が布団に付いていたのだが、そんな事など判るはずがなかった。今の大晴が女の子だから、ただその臭いに気付いたというだけだ。だが・・・


 めちゃくちゃ嫌な予感がした。


 何だか妙に天井が高い! でも見慣れた景色であり、自分の部屋のはずだ。えっ!? これ夢? 夢であってくれ!



「お?・・・うん?・・・はあ?」



 大晴は、掛け布団を投げ払って起き上がると、キョロキョロと周りを見渡した。なんだか違和感がある。どこだろう?


 見慣れた天井板の木目模様、スライムをぶつけた跡の天井と壁のシミ、天井からぶら下がる四角い蛍光灯、玉から飛び出す雷黄色ネズミのポスター。人気アニメキャラのフィギュア達、クレーンゲームで取った不細工なぬいぐるみ、散らかった携帯ゲーム機、落書きだらけの勉強机、一度しか使わなかったフラフープ、蚊取り線香の螺旋状に焼け焦げた畳、黒猫のナルが破いた窓の穴だらけの障子、おとん(父親)がイギリスで買ってきたお土産の兵隊さんの木彫りの人形。


 アレもコレもソレもドレも、みんな見覚えのあるもの。間違いなく自分の部屋だった。


 自分の部屋で寝ていた事を認識できたのに、なぜか他所の部屋に見えてしまう。それは、見えるもの全てが大きく高く見えるからだった。

 ただそれだけで、いつもの日常とは違うと悟ってしまう。

 そして、ハッ!と思い出して、パジャマのズボンとパンツを脱いで見てみた。

 そう。あるはずのモノが無くなったのが現実なのかの確認のために。


 ・・・無かった。


 昨日の事が現実だったのだと、嫌でも思い知らされた瞬間だった。象さんは居なかった。

『いつもなら、元気に鼻を真っ直ぐに伸ばしている頃なのに・・・』

 大晴は女の子に変身してしまった事を改めて自覚。


 しばらくボーとしていると、突然 母親が勢いよく襖を開ける!



 スッバァ━━ン!!


「うをわぁっっっ! ビックリしたぁ!」


「・・・・・・」


「・・・何なよ?」



 母親は、襖をぶっ壊れるんじゃないかと思うほどの勢いで開けるもんだから、大晴はチビりそうなくらい驚いた! 慌てて布団を被ってパンツとズボンを穿く。


 でも母親は、大晴の慌てぶりで察したのか、無表情で大晴を見下ろす。口を半開きにし、ジト目で見ている。怖っ! まるで土偶だ。



「怖っ!! 何かゆーてよ!」


「今日からアンタの名前は、『晴蘭(せいら)やからね!」


「・・・はあい?」


「返事は?」


「へ? へ、変身?」


「変身ちゃう! へ・ん・じ・よ!」


「え・・・ああ・・・はい?」



 寝起き様の思考回路では、母親が何を言っているのか理解できない。途中、聞き慣れない名前が聞こえた気がするが、これ以上叱られたくないので、とりあえず返事をする大晴。



「わかった?」


「えっと・・・あーは、はい」


「そ? ほな、もう起きて! これからは毎日、晴蘭も朝の支度とかするんやで!」


「ん? 朝の支度って?」


「朝ごはんの準備とかよ!」


「ええー!? なんでー?・・・って、ちょっと待って! 今、なんつった?」


「だーかーらー! 晴蘭も女の子になったんやから、お母さんと一緒に朝の支度をしてってゆーてんの!」


「せい・・・セイラモ? え?」


「何を寝ぼけてんのよ晴蘭?」



 はい! まだ寝ぼけてます! 私は貴女の言っている事が理解できませーん! と、言いたかった。

 いつもより、ぬめ~っと大きく見える母親を、下から見上げる。

 『俺の、おかんって、こんなにデカく若かかっけ?』

 と、ふと思った。

 それもそのはずである。大晴が来たパラレルワールドの母親は、魔法使いではなかったし、年齢は54歳と同じだが、年相応の容姿だった。もちろん、そんな記憶は消えてしまっているが、まだ完全にこの世界に馴染んでいないせいなのかも知れない。もちろん、そんな事など知る由もない大晴だが。



「な、なあ? 今、俺に何て呼んだ? 俺を変な名前で呼ばんかった? せ、せい?」


「そうよ! 今日からアンタの名前は、晴蘭に決まったから! 大晴のせいに、らん! 蘭の花言葉にもあるように、晴蘭には、”美しい淑女”になって欲しいかね!」


「せいら・・・せいら?・・・美しい?・・・せいら・・・熟女?・・・はあ!? せいら━━━!?」


「あ━━も━━うるさい!!」



 この日から、大晴は「晴蘭(せいら)」になった。


 晴蘭・・・ぜんっぜん実感が湧かない。自分が呼ばれている気がしない。だって、大晴と晴蘭。「晴」しか共通点が無いやん! 俺ってば、「セイラ」って柄ちゃうってぇ!! 


 父親とも、昨日のうちに電話で話し合っていたそうだ。あれ? 連絡取れたの? まあ今はそんな事などどうでもいい。その時の父親は、俺の名前を「萌萌(もも)」にしたかったらしいが、母親が、「晴蘭が嫌なら離婚する」とまで言って力いっぱい拒否したんだとか。


 尻に敷かれている父親だった。とはいえ、流石に「もも」は嫌だな。



「晴蘭!」


「・・・あ! はい え? あ、はい?」


「ふむ まだ自分の名前が晴蘭やと理解してへんみたいやね?」


「そりゃあ・・・まあ・・・」



 そりゃそうだ。者心ついてからの十数年間呼ばれ続けてきた名前だ。理解も何も、そう簡単に受け入れられるはずがないだろう。



「とにかく、着替えなさい 今日からしばらくは忙しくなるからね! 朝ごはん食べたら、サッサと着替えるんやで!」


「え? どっか行くん?」


「アンタの戸籍の性別の変更と改名手続きに決まってるやろ?」


「あ!・・・そうか そうなるんか」


「そーゆーこと!」


「名前変える前に、男に戻れたりして?」


「だから、もう戻れやんってゆーたやろ」


「・・・・・・」



 なるほど。確かに忙しくなりそうだ。何とか今のうちに男に戻れないものかと期待するが、「もう男には戻れない」と言われたら余計にショックだから、もう言われないためにも、なるべく藪蛇はやめよう。


 改名手続きって何をしなきゃいけないのかは知らないが、きっと面倒なんだろうなとは理解している。


 とにかく、母親は昔改名した経験があるのだから、母親に任せておけば良いはず。それより母親は、一番面倒なのは性別の変更だろうと理解していた。自分のときも苦労したからだ。


 でも今回は、自分のときの経験があるし、そのルートもコネもしっかりある!



「先ずは、○○医科大学病院の偉い先生・・・ハカセに会いに行くから!」


「へ!? ハカセぇ!? ハカセってなに!? 誰っ?! なんでそんなとこに?」



「ハカセ」と聞いて思わず身構えた! まるで小説やアニメにしか今どき登場しないような呼び名? 晴蘭は、何かとんでもない事になってしまった感に苛まれた。晴蘭は、追いたくられた鶏のように取り乱した!



「はか、ハカセって、なん、何なんよ!? な、なん、なんで、ちょっと、まっ、え? おっ、俺っ、俺、かい、かい、解剖されんの!? 人体実験!? 死刑!? いやいやいや、死刑よりもバジャマ姿の写真をネットでばら撒かれたらどーしよー!! そんなんもー生きていけやん!」


「落ち着いて!」


「ひゃぶっ!!・・・」



 母親は、慌てふためく晴蘭を抱きしめた! 晴蘭は、一瞬戸惑ったが、落ち着きを取り戻した。



「・・・」


「だいじょぶ?」


「ふぅん・・・」


「役所で晴蘭の性別の変更の手続きをするためには、先ずは家庭裁判所で、改名するのにあたって正当な理由を示さんとあかんのよ!」


「な、は、はい?」


「晴蘭が男から女になった事を認めてもらう必要があるやろ?」


「え? ああ、そうかな?」


「でもね、晴蘭の場合はちょっと複雑なんよね~」


「あ、うん、ですよねぇ~」



 確かにそうだ。性別の変更なんて、手術で男→女、女→男へ性転換したときくらいしかしないんじゃないか? でも、俺の場合は魔法薬で男から女に変身したわけだし、簡単にできるのでは?



「ほら、テレビでやってたやん? 性同一性障害の人が性転換手術で異性へ変身して・・・変身ってゆーのも変やけど」


「ちょっ!! 俺、性同一性障害とちゃうわ!」


「わかってる! とにかく、すんごく面倒なんよ! 例えば大人の場合は、結婚してて未成年の子供が居ったらあかんとか他にもいろいろ。まあ、晴蘭の場合はまだ子供やし・・・」


「あ! でも、ある意味俺もそうかも・・・」


「え? 何が?」


「心と身体の性別が・・・あれやから、ほら、俺も性同一性障害になるんかも!」


「はっ!? なんで?」


「ほいだら俺、男になる手術受けられるんか! 男に戻れるかも! やったぁ!!」



 晴蘭は、手術で男に戻れると思って、両手をあげて喜んだ、だが・・・



「アホォ!」


「うん?」


「なんで、そーなるんよ!? そんな事しても、生殖能力失うのに、将来子供は産めやんなるんやで!」


「あ! ああ・・・そっか そーなんのか」



 一瞬、性転換手術で男に戻れると期待したが、どうやらダメみたいだ。たとえ性転換手術を受けて男性になったとしても、女性と結婚は出来るかも知れないけど、子供は作れない。パパになれないのなら意味が無い。



「そーじょなぁ~手術で男になっても、もし奥さんが子供欲しいってゆーたら、俺には子供作れやんもんな・・・可哀そうじょなぁ? 俺には結婚無理かも?」


「ちゃうよぉ!!」


「はい?」


「晴蘭が奥さんになるのぉー!」


「ぬぉわあ?!」


「晴蘭が、子供産めやんようになるってことよぉ!!」


「晴蘭って? ああ、俺のことか! 奥さんって、えええええ━━━━!? 俺が子供産むぅ!?」


「ああ、ごめんごめん! まあ・・・今はまだそんな事は考えやんでもええよ」


「ん? まだって?」


「んっ・・・んん、ごほん! と、とにかく聞いて!」


「あ、はい」



 ぬわぁあ~~にぃ~~~!? 俺が奥さん?! 俺が子供を産むぅ!? 考えられない!! 無理無理無理無理っ! 子供を産むってことは、先ずそれ以前に、そーゆー事をするってことだよね? 俺だって、そこんとこわベンキョーして知ってます! でも、それって男に抱かれるって事ですよねぇ? 無理無理無理無理無理っ!! あ、いや、どうしてもって事になったら、睡眠薬を飲んで眠ってる間にチョチョイと・・・って、嫌じゃぁ~!! 男に抱かれるなんて死んでも嫌じゃぁ~!!


『パラレルワールドから来た大晴は、いや晴蘭は、子供の作り方を知っていた』


 我ながらおぞましい事を考えてしまった・・・思わず身震いした。



「ぶるぶるぶるぶるっ!」


「うん? どないしたん?」


「あ、いえ、別に、何も・・・」



 母親の言うように、性同一性障害の男性の性別の変更とか何とかって、確かテレビで観た事があるが、いろいろ決まりがあって、かなり面倒だったはずだ。だが、晴蘭は性同一性障害ではない。晴蘭の精神の性別的な問題ではなく、身体が完全に男性から本物の女性に変わってしまっているのだから、先ずは然るべき機関で、本人である事をDNA鑑定で証明しなければならないらしい。ただ、晴蘭の場合は特殊だ。



「・・・良く解らへんけど それ必要?」


「必要なんよ! せやけど、ただ病院で男から女になりましたーなんてゆっても、DNA鑑定なんか絶対に通らへんから たぶん」


「そうなん?」


「そうなんよ! 血縁関係判定のDNA鑑定とかやったら比較的簡単なもんやろうけど、完全に完璧な女性に性別の変わった人のDNA鑑定で本人確認やなんて、ハッキリ言って不可能なんよ!」


「ええっ!? ・・・なんで?」


「ほれ、ここに晴蘭の男の子だった頃の髪の毛あるから、これを使って以前のDNAを鑑定して・・・」


「髪の毛・・・」



 母親は、髪の毛の入った小さなチャック付きナイロンポリ袋を取り出した。晴蘭の男だった頃の毛髪だ。おそらく今まで使用していたクシから採取したものだろう。それと、今の女の子になった晴蘭のDNAとを照らし合わせることによって、間違いなく本人である事が証明できるのかが問題だ。おそらく不可能だろう。



「なるほど! それで男やった俺の髪の毛のDNAと、今の女になった俺のDNAを見比べるんか! それで俺が男から女に変身したっちゅーのが証明できるのやな!」


「無理よそんなん!」


「えええ!? なんでぇ? そのためのDNA鑑定なんやろ?」


「無理よ 無理無理! 証明にならへんのよ! これはあくまで建前!」


「!!・・・・・・」



 はあ!? どういう事だ? 俺が男から女になった事をDNA鑑定で証明するんじゃないのか? 素人考えだが、今の科学力ならできそうな気がするが・・・



「だって、性別が完全に変わってるんやで? 晴蘭の場合、DNAがどう変わってるか分からへんのやで!」


「どう変わってるって? 分からんの?」


「分からへんよ! あ~も~どう説明したらええんかなあ?」


「・・・???」



 母親にも、説明が難しいらしい。晴蘭の性別が男から女に変わった事を、DNAでは証明にはならないらしい。手術ならDNAは変わらないので、本人確認はできるのだが、晴蘭は「女装剤」で女に変身したのだから。でも晴蘭には、まったく解らない。



「DNAでも、分からへんの?」


「そーよ! 分からへんのよ! 例えば、性転換手術受けた人が、相続権や何かしらの事情で本人確認のためにDNA鑑定せなあかんよーになった場合」


「う、うん」


「こんな場合は、ちゃんと本人確認はできるよ! 性別や姿は変わってもね」


「おー? お、おう」


「手術で性転換した人は、たとえ外見的な性別が変わっても、DNAは全然変わらへんやろ? 外見変わっても、DNAがまったく一緒やったら、そりゃ本人やわな?」


「・・・まあ、そーやろね」


「でも晴蘭の場合は、女装剤、つまり魔法で性別が変わったんやから、もう完全に別人になるんよ!」


「別人? うん・・・それで?」

 理解できない晴蘭は、生返事である。


「だから、魔法で性別が変わりましたと。んで、DNA鑑定したら、性別の性染色体が男性のXYから女性のXXに変わった以外は、全てが合致しましたと。果たしてこれで、ホンマに本人って証明できると思う?」


「お、おう・・・本人には違いないんやから、できるんちゃうん?」


「できへんよ!」


「ええーっ!! なんでー?!」


「だってもう、性染色体が変わってるその時点で、完全に別人なんよ!」


「別人?・・・さっきから、別人別人ってゆーけど、本人やのに? サッパリ解らへん!」


「本人? そう! 確かに本人なんやけど、男から女に変わる瞬間でも確認せん限り、人から見れば『他人』としてしか認識されへんのよ!」


「はぁ━━━?! わっかれへん!」



 マジ、何言ってるか解らん!!


 人が男か女かの性分化の基準は、女性の卵子の持つ性染色体Xと、男性の、性染色体Xを持つ精子と、性染色体Yを持つ精子との、XとYのどちらの精子と受精するかで、赤ちゃんの性別が分かれる。

 組み合わせは、XXが女性で、XYが男性だ。


 もう、この時点で「別人」である。


 なので、性染色体が女性であるか、男性であるかの違いを決定付けている遺伝子情報の既成概念により、生まれた時は男で性染色体はXYなはずであり、今は遺伝子レベルで性染色体がXXの女になってると言うのなら、性染色体がXYからXXに変わる決定的瞬間でも目撃しない限り、もう誰も別人としてしか見てくれないって事なのだ。



 科学的に証明ができないなら、ぶっちゃけ、いつもお世話になってるクリニックの主治医に身体を見てもらって、「あら~大晴君~本当に女の子に変身してますね~ では、性別を女の子に変えましょう!」な~んて事にできないのか?


 などど考えていたが、どうやらそうもいかないらしい。

 ではなぜ、わざわざDNA鑑定なんて受ける必要があるのだろうか?



「私にも難しい事は解らへんよ! とにかく、性同一性障害で性転換手術をして、外見的に性別が変わったのではなく、女装剤を飲んで晴蘭の性別が完全に男から本物の女の子に変わった事を証明するのは、科学的にはもんの凄く難しいってこと! だから、私の性別変更の時にお世話になったハカセに頼んで、DNA鑑定をしてもらった上で、戸籍の名前と性別の変更ができるように、一筆書いてもらうしか方法がないんよ!」


「ううむ・・・そ、そうか?」



 晴蘭は、母親が頑張って説明してくれていたが、まったく理解できなかった。そもそも性染色体とか、XだとかYだとか、解らない事だらけだった。


 母親が言うには、晴蘭のように性別が男から本物の女へ変化したのは事実だとしても、間違いなく本人だという事実をDNAだけでは証明にならないらしい。何も知らない者が、その結果だけを見せられても、誰も納得しないだろうな。


 そりゃそうだ。晴蘭が男から本物の女へ変身したのは、女装剤の力、つまり「魔法」であって、常識や既成概念や科学的根拠や物理的法則を完全に無視した、人には到底理解できない不可思議な力であるため、科学的には証明などできるはずがない。


 性転換手術では、外見は女性に変えられても、性染色体まで女性には変えられない、DNAは男性のまんまである。なので、DNAは全く変わらないので本人だと証明できるのだ。従って、性同一性障害は、手術によって心と身体が合わさったことで、家庭裁判所(国)は戸籍の性別の変更を認めてくれるのだ。

 晴蘭のように、魔法で性別の変更をしただなんて信じてもらえる訳が無い。


 そこで、ある陰の組織の権力者の力によって、家庭裁判所を強引に納得させるしか方法はないのだ。

 とはいえ、彼らは信用に足る人物のお墨付きがあるのなら、行政を遂行するだけだ。


 しかし、DNA鑑定だの、ハカセだのって、なんだかまるで何かの実験台にされる気がして怖くなってきた。



「ううううう・・・怖い」


「そんなに怯えんでもええよ! お母さんが、ちゃんと解決しちゃるから!」


「・・・うん」



 こうして晴蘭は、母親に連れられて、某○○医科大学病院の、母親が「ハカセ」と呼ぶ人に会った。


 ハカセとは、母親のように魔法薬で男から女へ変身した者達が、世間にハブられる事なく、普通に暮らせるように手を差し伸べてくれる人である。ま、手回ししてくれる人だな。

 つまり、ハカセも魔法や魔法使いに関係する人なのである。


 また、ハカセは陰の組織、いわゆる「秘密結社」の一員なのだとか。母親は、ハカセこそが、この日本に存在する魔女なのではないかと考えている。


 この日、母親と晴蘭と義斗は、ハカセの計らいによって、性別変更の許可に足る施しを与えてもらった。


 その後、晴蘭と義斗は、本来なら数週間から数ヶ月かかるこの手続きを、たったの1週間で性別変更と改名手続きを無事に終える事ができた。


 そして義斗は、「海音(みおと)」へと改名した。


 こうして、晴蘭と海音の新しい生活が始まる。



晴蘭はついに、戸籍の性別と名前の変更をしました。

これからは、身体も戸籍上でも完全に女性です。

でも心はまだ、「男性」です。

晴蘭は、それを受け入れられるのか。


戸籍の変更について調べていたら、結構難しいのね。

でも、あっ!そっかー!これはフィクションなんだから、ご都合主義でいいんだ!って気付いて、適当に設定しました。ははw

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