第32話 「初めての死」
晴蘭は、完全に過信していた。
魔法や魔法スキルでは、圧倒的な強さを誇るが、物理的な強さはまるで無いに等しい。
そんな驕りが招く、結果とは・・・
文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。
••✼••ポショ・イノ街道••✼••
ポショ・イノ街道。
ここは、ポショ村とイノセント王国国境とを結ぶ街道。
街道をチョイと外れると、まだツノエリケラトプスの討伐御一行は来ていないはずなのに、なぜかツノエリケラトプスと交戦している部隊?が居る。
・・・・・・はて?
いったい誰がツノエリケラトプスと交戦しているのか?と、双眼鏡スキルを見てみたら・・・・・・
セルボ達だった。
ネチコイ四尺のバカ息子・・・もとい!アホボケカスゴミど助平令息のメススキーまで居てるし!
何を、やってんのアイツらぁ━━!!??
死ぬ気か━━━!!
って、それより形勢ヤバくない?
貧民街最強のカルタスはなんとか形になってるけど、他の奴ら? たぶん、ネチコイ子爵の私兵達だろうか?近衛騎士団ってゆーの? 女性騎士達は押され気味だ。
そりゃあ、相手は怪物ツノエリケラトプス!
角で突進もヤバいし、尻尾の攻撃もヤバいし、なによりガードが硬い!
それに彼らは、とても冒険者ギルドからの討伐依頼を受けて来たようには見えない。
討伐パーティーとしては、人数がアホほど多いからだ。
それに私兵の騎士団とはいえ、騎士は騎士。
冒険者ギルドとは、完全に別物。
カルタスのグルーブと思われる冒険者達も、数が多すぎる。
だとしたら、メススキーのアホが、カルタスを雇って、ツノエリケラトプスを倒して名声を手に?!みたいな事を考えてるんだと思った。
それにしても、バカやなあ・・・
既に、倒れてる女性騎士も数人居てるし、セルボもたぶんもう虫の息やと思う。
おびただしい血を吐き出し動かない所を見るともう・・・・・・
それでも相変わらずメススキーは、後方で偉そうに指示してるだけ。
まったく、懲りへん奴じゃ。
いったい、何人もの人の命を無駄に亡くせば気が済むんじゃ?
晴蘭は、ショットガンで、ツノエリケラトプスを狙い撃ちしようとしたが、ツノエリケラトプスに立ち向かう者達が邪魔で撃てない。
仕方ないので、地上に降りて、ツノエリケラトプスの注意を引き付け、そして・・・・・・
と、思っていたのだが!
「セーラちゃん!!「晴蘭ぁ!!」
「え? なに?」
「セーラちゃん後ろ!!」
「え? うし・・・・・・」
突然、横から飛び出して来た、もう1頭のツノエラケラトプスが、くるりと回って尻尾をブン!と振り回し!
ブン! バチーン!!
「げふっ!!」
ドタッ! バタバタバタッ!
晴蘭は、投げ捨てられた人形のように跳ね飛ばされた!
「晴蘭!「「セーラちゃん!!」」
失敗だった。目前の1頭の狙いを定める事に気を取られ過ぎて、索敵が疎かになっていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
『あれ? 俺・・・なにを・・・して・・・』
••✼••ムトンランティア異世界軸••✼••
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気が付くと、初めてムトンランティアにINした時の、真っ暗な空間に居た。
確か、ムトンランティアで活動するための身体、アバターを設定する時に来たところだ。
ってことは、俺は死んだ???
確か、地上に降りてすぐに、俺を呼ぶ声を聞いたと思ったら、左横から強い衝撃を受けて・・・・・・
後は、何も覚えてないな。
やっぱし俺は死んだんかえ?
あらあら、やってもたなぁ~~~
とはいえ、ムトンランティアで死んでも、3分後に強制ログアウトされるだけで、本当に死ぬわけではない。
でも、戦闘不能状態なのは間違いない。
はてさて、どうしたものか・・・・・・
その頃、ムトンランティアでは。。。
••✼••ムトンランティア••✼••
「晴蘭!!「セーラちゃん!!」
吹っ飛んだ晴蘭に駆け寄る海音と千春。
「セーラちゃん!! いやあ━━━!!」
横たわり動かなくった晴蘭を抱き抱えて泣き叫ぶ虹音。
左腕と左足が不自然な方向へ曲がっていて、首の骨も折れているのかグラグラで、糸の切れたマリオネットのように、グッタリする晴蘭。
口、鼻、目、耳、顔にある穴という穴から、脈打つ様に流れ出る血が止まらない。
まだ微かに心臓が動いているからだろう。
半開きの瞼から覗き見せる瞳は、瞳孔が完全に開き、既に生きとし光を失っていた。
晴蘭は、ツノエリケラトプスの尻尾の一撃で、即死していたのだ。
どんなに魔力が魔女並みに高くとも、どんなに巨大なモンスターをも一撃で倒せる魔法を放てても、身体は人間で言えば8歳の女児並である。
怪獣のような巨大モンスターの尻尾でまともに弾けれて、タダで済むはずがなかった。
物言わぬ晴蘭を抱きしめ頬擦りをする虹音の服や顔は、晴蘭の流した血によって、みるみる真っ赤に染まる
この時、2頭のツノエリケラトプスは、急激に膨れ上がった海音の魔力に警戒して、追撃を思いとどまり動かない。
「セーラちゃん! セーラちゃあん!!」
「いやあああ━━━!! なんで!! なんでえ!! セーラちゃあああん!!」
「おおおんまあああええええ━━━!!」
海音は、串刺しスキルで、ツノエリケラトプスを攻撃しようと発動する!
「お前らあ━━━!! 死にたくなかったら、そこをどけぇ━━━!!」
「あおあー!「なに?!「マズイ!「全員退避!」
護衛騎士達とカルタス達が慌てて退避する!
「ミント「ミントちゃん」
「くっそカスがぁ━━━!!」
ギギギギギギギギンッ!
いつもより大きな無数の岩の楔が空中に出現する!
ツノエリケラトプスと対戦する者達が、一斉にツノエリケラトプスから離れるのを合図かのように、海音は腕を振り下ろし、岩の楔を放つ!!
「くぅーたぁーぶあーるるるえ━━━!!」
ズガガガガガガガガッ!!
「ゲホクワアヘアッ!!」
文字通り串刺しになる、2頭のツノエリケラトプス。
「「「「!!・・・・・・」」」」
目の前の光景に言葉を失う騎士達。
ドスドス━━━ン!
串刺しになり、ほぼ原型を留めていない2頭のツノエリケラトプスは、その場に倒れた。
その攻撃魔法は、大型のドラゴンをも一撃で滅ぼすほどの大魔法であった。
そして海音は、魔法使いの杖を取り出し、息絶えた晴蘭に「蘇生」を施しうとした。
だが・・・・・・
「ミント!」
「なんな?! まさか、蘇生をやめろって言うんとちゃうやろな?!」
「ミントちゃん・・・」
「その、まさかやよ!」
「なんでなよお! いくら姉ちゃんでも怒るぞ!!」
「ちょっと、冷静になんなあ!」
「んんっ?!・・・・・・」
「ミントちゃん・・・・・・」
海音は、虹音が言いたい事は解っていた。
晴蘭も自分達も、この世界の者ではなく、異質な存在であり、たとえ死亡したとしても、3分以内に蘇生されなければ、強制ログアウトされて日本に戻されるという事。
でも、死亡判定されたのは、この世界で活動するための仮初めの身体であり、アバターである事。
なので、本当に死んだ訳ではない。
でも、今目の前に横たわる、仮初の身体とはいえ、物言わぬ晴蘭の亡骸を見ると、とてもそうは思えなかった。
海音も千春も、涙が止まらなかった。
海音を制する虹音も、涙が止まらなかった。
ついさっきまで、元気に動いて喋っていたのに。
なのに、今はもう動かない、喋らない。
揺すっても、頭を撫でても、頬を撫でても、晴蘭はもう笑わない、喋らない、息すらしていない。
胸がどうしようもないくらいに、締め付けられるように苦しくなる。
晴蘭は死んだのではない。
ただ、活動停止しただけ。
それは解ってる。
でも、ただ動かなくなっただけで、こんなにも頼りなく小さく軽く感じるなんて・・・
なにせ、この世界に来て、初めての「仲間の死」が、余りにもショッキングな出来事だったのだ。
損失感が半端ない。
「んぐぐぬぬぬ・・・・・・」
「とにかく、セーラちゃんの身体を他の場所へ移そう?」
「・・・・・・わかった」
「・・・・・・」
千春は、誰に言われるでもなく、傷付いた者達に、回復魔法を施してあげた。
これも、冒険者としての義務だと理解していたので、海音も何も言わなかった。
虹音は、晴蘭の亡骸をお姫様抱っこで抱えたまま、箒に跨り空を飛んだ。
続いて、千春と海音も虹音を追いかけるように、空を飛んで行った。
「晴蘭・・・すまん すまん」
「ミントちゃん」
「・・・・・・」
そんな、海音達を見ていた者達は、誰も言葉を発することなく、その光景をまるで神話や御伽噺のワンシーンを見て浸るように、ただただ見ていた。
そして、晴蘭の亡骸は、3分経ったのか、光の塊に変わり、砕け散るかのように光の粒となり、広がり消え去った。
剣と魔法のファンタスティックな異世界での死。
仲間の死を初めて体験する海音達。
本当に死ぬ訳ではなくても、受けるショックは計り知れない。