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女装剤  作者: 嬉々ゆう
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第1話 「祖母の遺品とパラレルワールド」


 重く硬く古びた扉を開けて、一歩中へ踏み込むと、そこは、とてもとても不可思議な空間、「パラレルワールドへの世界軸」。


 既成概念や時間や距離の概念がなく、常識の通用しない場所(四次元)。


 そこは、パラレルワールドへの入口であり、出口であり、入れ替わりの場所であり、通り道であり、交差点でもあり。


 あなたの行動次第で、扉がどんなパラレルワールドへ繋がるのかは、あなたにも誰にも分からない。



「あなたなら、どうする?」



 本を読む? うたを歌う? 箱を開ける? 窓を開ける? 何か動かしてみる? 何か食べたり飲んだりする? スイッチを操作する? それとも何もしないで出口へ?



 でも、一度そこへ入ったなら、元の世界へ戻れるのかは、分からない。


 たとえ、あなたが入って来た扉から出たとしても、そこは、あなたが元居た世界とは限らない。何かが少し違うだけの世界かも知れない。

 常識、文化、文明、歴史、既成概念、物理的法則が違う世界へ繋がることも。


 ここは別の世界へ繋がる世界軸。

 そう・・・



「扉を出たなら、パラレルワールド」



 少年が手に持つものは、今は亡き祖母から貰った、見た目は何の変哲もないただの蔵の鍵ではあったが、実は、パラレルワールドの世界軸への扉の鍵だった!?


 1人の少年がひょんなことから、親友の少年を巻き込んで、「魔法」という概念がごく普通にあり、魔法関連のグッズが普通にお店で売っていたり、そして生活も魔法に深く関わる、ファンタスティックな世界に飛び込んでしまった!


 そこは、元の世界と同じ世界地図で、同じ国で、同じ町で、同じ言葉で、同じ文字で、同じ通貨で、何もかも同じ世界に見えて、同じ家族の住む世界ではあるものの、でも何かが違った!


 文化が違う! 歴史が違う! 常識が違う! 既成概念が違う!


 なんと、家族皆が魔法使いだった!




 パラレルワールドとは、あなたの住む世界とは、少し何かが違う世界。


 家族が増えていたり、減っていたり、結婚していたり、独身だったり、勝気だったり、弱気だったり、成功していたり、挫折していたり、文化・常識・歴史・既成概念が違ったり、性別が逆だったり。


 そして何かしら干渉し合い、互いに影響を与えている。


 もし、あなたがパラレルワールドに入ったなら、そのパラレルワールドには、その「()()()()()()()()()()()()()()()」が必ず存在する。

 そしてあなたは、そのパラレルワールドのあなたとして「()()()()()()」される。


 つまり、ゲームの世界で言う、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)から、PC(プレイヤーキャラクター)へ。

 そう、パラレルワールドでは、()()()()()()()」なのだ。



 あなたなら、元居た世界とは違う世界に、打ち解ける事はできるだろうか・・・



文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。



シャワシャワシャワシャワ・・・


「あっつぅ~~~」


「セミ、うっさいわホンマに!」


「セミの声聞くと、余計に暑く感じるわな?」


「ホンマにじょ!」



 季節は夏。蝉の鳴く声の響き渡る高い日差しの中で、とある古い屋敷の敷地内にある、屋敷よりも更に古い蔵へと向かう、2人の少年達がいた。



ガチャガチャ・・


「それ、回すんとちゃうん?」


「んん・・・回してんのやけど、回らんのじゃよ」


「鍵が、()うてないんとちゃう?」


「いや、サクラ婆ちゃんが、この蔵の鍵やゆーてたで?」


「ふぅん・・・」



 2人の少年が、古い蔵の入り口の前で何かゴソゴソしている。知らない人が見たら、何やら悪さをしているようにも見える。


 でもひとりの少年の手には、蔵の鍵らしき物が。そして蔵の入り口に施錠せじょうをかけているのは、一般的に見る南京錠なんきんじょうではなく、「錠前じょうまえ」と呼ばれる時代劇に出てくるような黒鉄のようなバカでかい器具だ。使い方が解らず、開けるのに時間がかかってしまう。



「サクラ婆ちゃんって、魔法使いの話をよくしてくれた? あのお婆ちゃんのことやから、またイタズラとか騙されてんとちゃうか?」


「そんなん言うなよ これ錆びてんとちゃうか? もう何十年も開けてないって聞いてたからな」


「ホンマかぇ? そっら凄いな・・・もしかして、魔法のランプとか、見付かったりして?」


「にゃはははは! サクラ婆ちゃんのことやから、ありそで楽しみやな! 賢者ストーンとかあるかも?」


「デスのノートとかわ?」


「ぷはっ! それもありそで怖いわ!」



 サクラ婆ちゃんとは、鍵を持つ少年の今は亡き祖母のことである。少年は、生前の祖母から蔵の管理を託されていた。



ガチャガチャ・・・カチン!


「おっ! ん・・・?」


「どした?」



 やっと、鍵が開いた! だがその瞬間、何か身震いがし、心の中の何かが火花を散らして弾けたようなイメージが浮かんだ。それと同時に頭がフラッとした感覚に襲われた。何だろう?



「やっと開いたぞ なんなよ! ただ、強く押し込んで開ける仕組みやったんかよ!」


「エライ時間かかったな お前、ちょっと鈍くさいちゃうん?」


「うっさいなあ~ まさか開けんのに、ただ強く差し込むだけやなんて思わんかったんじゃよ」


「なるほど・・・普通、鍵ゆーたら、差し込んで回すもんやからな?」


「やろ?」



 そう。普通、鍵というものは、差し込んで回すと解錠されるものだが、これは強く差し込む事で解錠されるタイプだったのだ。

 だが、鍵を開けた瞬間から、何だか説明できないが、「もう後戻りできない感」がした。この蔵はいったい・・・

 



 ボクの名は、白鳥(しらとり) 大晴(たいせい)。中学1年生の紀州男子きしゅうだんしだ。そして、ボクの横で懐中電灯を持ってワイワイ言ってる奴は、相良(さがら) 義斗(よしと)。ボクと同い年の中学1年生で、ボクの家のすぐ隣に住む、保育園からの家族ぐるみの幼馴染だ。


 

「でも、なんか怖ない?」


「お化けでも出ると思てんの?」


「ちゃうわ! そんなん思ってへんわ」


「大晴お前、ホンマは怖いんやろ?」


「んなことない! お化けとか非現実的なモノが存在するわけないやん!」


「まぁ、とにかく中入ろらよ! 外、日ぃ当たって暑いわ」


「おお、わかった 暑さで溶けてまいそうやわ! ほな、開けるぞ?」


「うん! ええか?」


「おぅよっ!」


「「せーのーせっ! んっ!!」」


 キィイィィ~~~パタン!


 

 夏の暑い日差しの中、早く日陰に入りたくて蔵の観音扉を2人で押す。長い年月開けていなかったせいか一瞬重く感じたが、動き出すとキィ~となかなか良い雰囲気をかもしだした音を発しながら扉は動き出した。一瞬ふわっと涼しい蔵の中の空気が身体に触れる。某人気RPGのゴンドラクエストのダンジョンBGMが聴こえてきそうだ。互いに顔を見合わせて頷くと、意を決して扉の向こうへ踏み込んだ。

 すると、さっきまで煩いほどの蝉の声が、まるで嘘のように聞こえなくなった。


 と、その次の瞬間だった!


 目の前の暗闇から、白い煙の様なものが飛び出して来たかと思うと、その煙が瞬時に人の形に変わった! するとそれは大晴に向かって突進して来たのだ! 一瞬、驚きと恐怖で身体が固まり、目を瞑ってしまったが、特に何も起きなかった。

 何の音も衝撃も感じなかった。


 何だったんだ? 今のは・・・

 

 大晴には、その姿を変えた白い煙の塊が、なんだが少し小さくは見えたが自分に見えた。そう、自分自身が自分に向かって突進して来たのだ。


 大晴は、その瞬間から何か途轍も無い違和感を感じていた。何だか記憶が飛んでしまった感がしていたのだ。そして漠然とした何かに恐怖した。それと同時に、「あれ? 俺、何しにココへ来たんやっけ?」と思った。

 急に何か忘れていた感がして、「蔵の中へ入ろうとしていたんだ!」という事を思い出した。いや、思い出したような気がした。それはまるで、「他人の記憶」のような感覚だった。何だか、ほんの一瞬の事だったはずなのに、何分も経ったような変な気持ちだった。


 だが、義斗に声をかけられハッ!と我に返った。その声は、遠くから徐々に近付いてくるかのように、段々とハッキリ聞こえてくるようだった。大晴は、慌てて平常心を装った。



「い・・・せい?・・・いせい? 大晴!? おおいっ!!」


「はっ! な、なに?」


「どした? 急に固まって」


「え? ああ、んや・・・なんもないよ?」


「・・・はぁん?」


「うぉわっ! カビ臭っ! 何か色んな臭いが混ざった感じするな」


「・・・・・・?」



 義斗は、大晴の様子を不審に思ったが、正直義斗は暗い蔵の中に入るのをビビっていたので、義斗も平常心を装った。



「臭ってお前、もう慣れてんとちゃうんかぇ?」


「せやから、初めて入るっちゅーてるやろ?」



 蔵の中は、カビや古い木の匂いや雑巾のような臭いもした。何十年も誰も入らず、開けてもいないと言うのは本当らしい。

 しかし、日差しの眩しい場所から急に暗い場所へ入ったものだから、何にも見えない。



「ふぅ~ん・・・ま、ええわ! とにかく電気電気!」


「はいはい!・・・って、スイッチどこにあんのよ?」


「俺が知るかよ! 大晴の家の蔵やぃてよ?」


「あ、そーか」


「何言うてんのよ? ボケんの早いぞ?」


「うっさい! ええ~と・・・あった! コレやわ!」


 パチン!・・・



 先に入った大晴が入り口付近の壁に目をやる。急に暗がりに入ったので、まだ目が慣れていないせいか、ほとんど何も見えない。なんとか手探りで小さなスイッチのレバーらしきものを見つけ、パチン!と上へ倒す。すると、パァッ!と明かりは点くものの、まるでお化け屋敷のように薄暗かった。



「あれ!? 暗っ! 何これ? これで電気ついてんの? なんか怖っ!」


「ほぉ・・・裸電球ってヤツやな!」


「はだかでんきゅう?」


「ほら、大晴たいせいの家の便所トイレの電気がそうやん!」


「ああ~あれね!」



 大晴の家はとても古く、改築されたのも数十年前で、便所も汲み取り式の、いわゆるボットン便所だ。その便所の照明が、鉄の小さな傘の付いた、豆電球を大きくしたよな電球だった。

 段々と目が暗がりに慣れてくると、一層暗く感じてきた。


 蔵の照明の明かりはオレンジ色っぽく、すべての物が暗い柿色っぽく染まって見えた。まるで暗い部屋の中に点く蛍光灯の常夜灯のようだった。全然役に立っていない。もしこんな中で探し物なんてしようものなら絶対に見付けられないだろう。明かりというには程遠い。懐中電灯を持っていなかったら、文字も読めないほどだ。

 また、明かり窓というのか、高い位置にある格子の付いた小さな開口から、日の光が天使の梯子のように差し込み、宙に舞うホコリがその光に照らされ、まるでキラキラと輝くダイヤモンドダストのようで、とても幻想的に見えた。その光景を目にして、「ここは何か違う」と感じた。



「うぅ~っわ! なんか、キラキラ光ってて、きれー!」


「えっらい数の物やな? よう集めたなこんなに・・・」



 本当にすごい数の物だった。奥には山のように瓦が積み上げられていて、真ん中に通路のように人が1人歩けるだけの隙間を空けて、でかい木箱がぎっしりと並べられている。それらは皆、子供が踏んでも潰れないくらいに頑丈に作られている。大きさからして、2人で持てるサイズでも重さでもない。


 それより、棚の上に置いてある物の方が気になった。大晴は棚に足をかけて、よじ登ろうとする。



「この上に何があんのな? よっこらしょ!」


「おいおい、危ないぞ落ちんなよ」


「だいじょぶじゃよ! せやけど、どっから手を付けたらえーんか分からへんな」


「気ぃつけーよ?」


「うん なんかいっぱい箱あるぞ!」


「ホンマ?! 見して! 見して!」


「ちょっと待てよ! 今、一個取っちゃるから!」



 棚は二段になっていて、中段の少し空いたスペースに足を乗せて、勢いをつけて飛び乗ると、片足をブラブラさせて棚の天板に掴まった。そして天辺の天板の上に置かれている物を見る。下からも確認できていた箱だ。どれも同じように何か黒い布らしきもので大切に包むように巻かれている。



「・・・何なこれ?」


「まだかぇ? 何してんのよ 何かええもん、あった?」


「おお、うん! ちょっと待てよって、おお?! 抜ける! 抜ける! おわー!」


「ヤバっ!!」


 ガラガラガシャーン! バターン!


「いっだぁ~!」



 持ち手を変えようと手を離したら、バランスを崩してしまった! 慌てて突き出ていたものを掴んだが、それはスルスルと棚から抜けてしまう。他の掴みどころを失った大晴は、後ろへ倒れるように落ちて床に転がった。義斗は落ちてくる大晴から飛び退いた。まあ、当然の反応である。



「ううう~いででっ! 義斗受け止めろよ!」


「アホ言うなよお前! んなもん無理じょわ!」


「いっつっつっ! 薄情やなお前? せやけど、なんじゃこれわぁ〜! ん? 風呂敷ぃ!?」


「おいおい、床だいじょぶか?」


「床の心配かぇっ!? 俺の心配してくれへんのか?」


「うわっはっは!w」



 義斗はそう言うが、本当は大晴を心配している。いつものように、ちょいとふざけただけだ。


 大晴が掴んでいたのは、古い真っ黒な風呂敷だった。大晴と一緒に落ちてきた箱らしきものを包んでいたものだと思われる。広げてみると風呂敷には、黄色の星の記号「円の中に五芒星ごぼうせい」が描かれていた。まるで「魔法陣まほうじん」のようだった。

 ただ、何だか不思議な風呂敷だった。外側はボロボロでホコリで汚れているのに、内側はなぜか新品のように綺麗だった。



「これは・・・」


「なんじゃそのボロボロの布わ? 風呂敷か? うん? 何か変な・・・」


「うん これ、なんやろ? もしかして魔法陣?」


「うっそ!? マジで? ほな、お前のお婆ちゃんが言うてたのって、ホンマやったんか?」


「・・・わからへん」



 この蔵は、父方の祖母の「サクラ婆ちゃん」の管理するものだ。本当は我が白鳥家では、女性が蔵の管理を引き継ぐはずだったらしいのだが、なぜかサクラ婆ちゃんは、蔵の中の物で欲しい物は何でもやると言って「蔵の鍵」を俺にくれた。なので俺が蔵の管理を引き継いだのだ。本当は、女性である母親が引き継ぐのが筋だろうとは思うのだが、その理由は何も聞いていなかった。


 そもそも、代々蔵の管理を引き継ぐのが女性である理由も聞いてはいない。何かとても重要な事なような気はするが、そう言えば聞いたこともなかった。


 ただ、サクラ婆ちゃんは、こうも言っていた。「自分が死ぬまでは、絶対に蔵の中には入るな」と。なぜだろう? 魔法に関係があるのだろうか?


 サクラ婆ちゃんは、魔法とか魔女とかって話が好きで、よく俺に魔法について話してくれた。サクラ婆ちゃんから聞いていた話では、実はサクラ婆ちゃんは魔法使いだったんだけど、掟を破ってしまったので、「精霊(せいれい)(しば)り」で、魔法使いとしての記憶と魔力を失ってしまったのだそうだ。でも、「愛の力」で何もかもすべてを思い出したのだと話していた。

 掟とは何か? 愛の力って? 俺には何のことなのか解らなかったけど、どうやら俺の母親と深く関係のある事だとは思うのだが、母親からは何も聞いていない。


 俺は瞳をキラキラさせて魔法について話してくれたサクラ婆ちゃんも魔法の話も大好きだったけど、サクラ婆ちゃんが魔法使いだったとか、魔法だの魔導具だのって半信半疑だった。確かに、サクラ婆ちゃんの持つ物は皆、なんとも不思議な物ばかりだった。でもそれは、手品(マジック)だと思っていたから。サクラ婆ちゃんはきっと、俺に創作の物語を聞かせてくれていたのでは? なんてことも考えていた。でも俺は、正直魔法については興味があった。なにせ我が家では、時々不思議なことが起きていたから、俺もいつか叶うなら、魔法が使えたらいいなと思っていた。


 その内、サクラ婆ちゃんと魔法と母親の関係について、聞かせてもらえるだろうと思っていた。でも、いつまで経っても、サクラ婆ちゃんも、母親も、何も話いてくれないまま月日は流れた。



 そして、サクラ婆ちゃんが亡くなった。



 俺は、母親とサクラ婆ちゃんとは仲が悪いと思っていたけど、本当はそうではなかったみたいだ。サクラ婆ちゃんが倒れてから息を引き取るまで、母親は子供のように泣きじゃくっていた。そしてなぜか、自分を異様なほど責めていた。母親がサクラ婆ちゃんを喪った悲しみから完全に立ち直ったのは、俺に人生最大の大異変が起きたときだった。それについては、後に話すとする。



 そして今日、サクラ婆ちゃんから渡されていた蔵の鍵の事を思い出して、母親に蔵の中を見たいと言ったら、今こうして蔵の中を片付ける羽目になったのだ。


 蔵の中には、骨董品と言えるのかどうか分からないが、何に使う物なのか分からない物から、無駄にデカい皿や、古い掛け軸や、壁掛けカラクリ時計などもあった。


 他には、古いラジオや蓄音機など、爺ちゃんが残したであろう遺品もあった。だが、レコード盤はなぜか1枚も見付からなかった。


 蔵の両サイドの壁に沿って立てられた棚には、大小様々な大きさの木箱やら紙箱やらが、所狭しと一応きれいには並べられている。


 それら全ての物にはホコリがたまり、手形も付いていないところを見ると、長い年月を誰にも触れられる事もなく安置されていたのが解る。


 サクラ婆ちゃんが若い頃に使っていた物なのか、誰の物なのかは分からないが、かなり古い感じのものばかりだ。黒い風呂敷を捲ると、俺の見た事のない雛人形やフランス人形だったりが、まるで宝物のようにガラスケースに入れられたまま木箱に入れられ、大切にされている感じだ。今では誰にも使われる事なく持ち出す事もなく、蔵に残されているんだなと思った。でも、この雛人形やフランス人形達は、いつかココから出られる日は来るのだろうか? そんな人形達の事を考えると、なんとも寂しい気持ちになった。でも、どれもこれも、あの黄色い五芒星の描かれた黒い風呂敷が巻かれている。きっと何か意味はあるに違いないが、今の俺には知る由もない。


 しかし、雛人形やフランス人形などは、正直あまり興味が無かったし、下手に触ると汚してしまいそうで可哀想なので、そっとしておいた。男子の俺にとっては、ラジオや蓄音機の方が興味があったが、まだ生きているのかさえ怪しい物ばかりだ。


 もし売れる物なら、ネットオークションなどで売って小遣いとして稼いでやろうと思っていたが、どうやら金になりそうな物は無さげだ。まあ、母親に止められそうだが。


 本来、サクラ婆ちゃんから蔵の管理を引き継ぐはずだったのは、女性の母親のはずなのに、なぜサクラ婆ちゃんは男の俺に管理を任せるような事を言ったのだろうか? 俺が一人っ子だからなのか?


 母親は、いろいろ思い出すからサクラ婆ちゃんの遺品は見たくないと言う。母親だって、蔵の中なんか見た事が無いと言っていたのに、何でだろう? 何があるのか気にならないのかな? 蔵の中に入るのが怖いから? だから俺に押し付けたのか? 怖いのなら俺にも入るなとか言いそうだし・・・ブツブツと文句を言いながら蔵の中を片付けていた。と言うか、売れそうな物はないかと物色していた。


 ではなぜ2人が、蔵の中の片付けを引き受けたのか? それは、大晴にとっての秘密基地的な場所にしたかったのもあるし、蔵の中の片付けをしたら大晴と義斗に小遣いとして五千円ずつくれると、母親と約束したからだった。


 中学生の2人にとって、五千円はなかなかの魅力だ。


 もしかしたら母親は、2人で一万円を出しても惜しくないと思うほどに、蔵に入るのが嫌だったのだろうな。


 思い起こせば、母親は今まで一度も蔵に入るどころか、近付いた事さえなかった。いったい蔵の中に、何があるというのか?


 それより、今は夏休みの真っ只中。蔵の中は外よりは涼しいとはいえ、風の入らない夏の日の蔵の中は、汗をダラダラかくほど蒸し暑い。首に巻いたタオルは既に汗でベタベタだ。


 オマケに、ホコリだらけの床に転がったものだから、シャツは汗とホコリでドロドロだ。



「まったく、なんで夏のこのクソ暑い日に、蔵ん中に入らなあかんのじゃ?」


「お前が言い出したんとちゃうんかえ?」


「そーやけどよぉ! 義斗にも小遣い五千円くれるんやから文句ゆーなよ!」


「そーよなあ? あっはっはー! 毎度ありぃ! それより大晴、お前がさっき棚から落とした箱、何か宝箱っぽかったで!」


「お! ちと見せてみな」



 義斗は、大晴が棚から落とした木箱を拾い上げ、両手で持ちながらクルクル回して見ている。大晴は義斗から箱を受け取り、マジマジと見てみた。


 それは、角が丸い弁当箱ほどの大きさで、まるで浦島太郎の玉手箱を思わせるような形の箱だった。


 ホコリをタオルで拭き取ると、なかなか綺麗な金色の装飾が施されていて、黒い風呂敷の上から縄のような細い紐で十文字に括られたものだった。


 その木箱を締め付けている紐を掴むと、落としたせいで紐は緩んだのか、ボロボロと簡単に千切れてしまい、数十年もの長い年月を放置されていた事を物語っていた。

 だが、紐はただ千切れるだけでなく、まるで役目を終えたかのように、一気に崩れ落ちたように見えた。それになぜだか、この木箱が妙に気になっていたのだ。この木箱を取ろうと掴んだのが、木箱を包み込んでいた黒い風呂敷だった。思えば不思議と吸い寄せられるかのように、この木箱を目にしていた。



「なんやろなソレ? お前の家の宝もんかな?」


「宝もんって、俺の家そんなカネモ(お金持ち)ちゃうぞ?」


「うん? うん・・・」


「・・・とした?」


「いや・・・」



 義斗は、少し前から、大晴に対して違和感を感じていた。何だか雰囲気が違うのだ。目付きも違うし、何やら少し筋肉質になっている気がする。

 決定的に違う違和感は、一人称が、「ボク」から、「俺」に変わっていることだ。

 それに、以前の大晴よりも、ハキハキとモノを言うようになった気がする。何だろう?

 でも義斗は、あまり気にしないようにした。



 大晴の家は貧乏ではないが、お世辞にも金持ちとは言えない。


 でもずっと昔は、店などは持たなかったが、そこそこの行商だったとかで、世界中を回りながら骨董品などを集めては、家に持ち帰っていたらしい。コレも、その中の一つなのだろうか。とはいえ、「世界中」とは言い過ぎでは? と、この時は思っていた。



「ほら、開けてみぃよ? なあ、ほら!」


「うっさいなぁ! 急かすなよ 今から開けるよ!」


 パカッ・・・


「「何じゃコレ?」」



 瞳を輝かせてワクワクしている義斗に急かされて、大晴は木箱の蓋を開けた。

 するとフワッと桃のような甘い香りと、木屑(きくず)の良い香りがした。

 その物と香りが奇妙に感じた2人は、思わず「何じゃコレ?」とハモってしまった。


 箱の中身は、緩衝材(かんしょうざい)のように布を幾重にも巻き付けるように包んだ状態の小瓶だった。それは栄養ドリンクほどの大きさで、コルク栓で蓋をされた透明なガラスの小瓶だ。でもその小瓶を包んだ布は経年劣化(けいねんれっか)もせず、つい最近包んだかのように柔らかかった。そしてその周りには木屑がビッシリと敷き詰められていた。またその木屑からは、木屑独特の強い良い香りさえした。


 有り得ない・・・


 テレビで観た、「何十年も放置した開かずの金庫」を開けたら、中から経年劣化し乾いた紙粘土のようにカチカチのボロボロになった布が・・・とか言っていたのを思い出した。だとしたら、コレはいったい・・・

 サクラ婆ちゃんや母親からは、もう何十年も開けていない蔵だと聞いた。なのに、この木箱の中身はどれも新品に見えたし、木屑なんて木を切ったすぐ後の物を使っている感さえするし、強い木屑の良い香りさえした。

 何十年もの昔の物ばかりと聞いていてワクワクしていたのに、まるで最近仕舞ったばかりの物を開けている感で、違和感が半端なかった。


 何だろうコレ?


 でもまあ、考えても何も分からない。大晴は気にしない事にした。


 その他にはメモみないなのがあったが、それは羊皮紙(ようひし)だった。羊皮紙なんて初めて見た。それには、アルファベットに似てるけど、数字がくっ付いたような字だがよく解らないし、まったく読めなかったので、あまり関心は無かった。

 なにしろ奇妙なのは、木箱を包んでいた風呂敷の外側はホコリにまみれてボロボロなのに、風呂敷の内側と、その風呂敷に包まれていた木箱と中身は、まるで新品のように真新しく見えた。


 それを懐中電灯の明かりで照らすと、小瓶には水色の半透明の粘り気のないシャブシャブした液体が入っているのが見えた。とても何十年も放置されていた代物には見えない。瓶の内側には、蒸発した形跡すらなかった。


 なにせ、綺麗でまだ新しく新鮮には見えるが、サクラ婆ちゃんと母親の話が本当なら、何十年もの前の昔の液体のはず。一見すると飲み物だとは思うが、今はとても飲めるものではないと思った。しかし、甘い桃に似た香りを嗅ぐと、乾いた喉を潤したいと思わず唾を呑む。


 大晴は箱の中の小瓶を取り出しだ。その瞬間、何かビリリ!と強く感じた! 電気ではなく、なんとも説明し辛いが、小瓶を掴んだ指から全身に広がるように、一瞬力が抜けるような妙な感じだ。思わず小瓶を落としそうになった。

 すると義斗は、大晴からその小瓶を取り上げ、巻かれている布をはがし、鼻にくっ付くくらいに小瓶を近付けてマジマジと見て言う。



美味うまそうやな? 飲めんのかな?」


「にゃははははは!! 何ゆーてんの!? アホちゃう?」


「ぎゃははははは! ホンマやな! コレ絶対に飲んたらヤバいでな? 飲んでみるか?」



 コイツはバカか?と思った。同時に、自分もバカみたいだと思った。なぜだか、バカみたいに笑ってしまうのだ。

 もう何年前のものか分からないんだぞ?

 匂いは確かに美味そうな甘い良い香りだが、元はどんな香りだったのか、どんな色だったのかも判らないし、もう既に腐っているかも知れない。

 なのに、まったく危機感を感じなかった。


 でも大晴は、そんな義斗のバカっぽいところは好きだ。なぜか無邪気な可愛らしささえ感じる。



「ぷぁはは! 正気か? やめとけぇ! 何年前のもんか分からんのやぞ? 飲んだら絶対に腹壊すぞ! 毒やったら、どーすんの?」


「んでも、めっさ美味そうな甘い匂いするぞ? それに、一般家庭の蔵なんかに、毒なんか保管するか?」


「・・・まあ、よーやけどよ」



 確かに、一般家庭の蔵や倉庫に、毒など有り得ない。でも、シロアリ駆除などの仕事をしている人の倉庫になら、毒薬物なんかが有るかも知れない。そんな事など、知らない大晴と義斗だった。


 とはいえ、大晴も正直飲んでみたかった。もし、魔法の関係するクスリなら、飲むと何か不思議な事が起きるかも知れない。ちょっと期待した。

 しかし、桃に似た甘い香りが、何か飲み物が欲しいと鼻腔と喉を刺激する。まるで桃のジュースのような良い香り。イメージとしては、゛ハダカにピース゛の、ピーチ味のハルピスだ。


 でも、ずっと昔の物だと認識しているので、飲むとヤバイとは思うものの、捨てるには気が引けるので、そのまま棚の上にポンと置いた。


 今は、そんな物に構ってる暇はない。はやく片付けないと、折角の夏休みを蔵の片付けなんかで消費するのが勿体ない。



「とりま、要るもんと要らんもんとを分けてしまおらよ! 時間が勿体ないわ」


「うぅむ、せやけど色々分けて置くスペースなんか無いぞ?」



 確かに、そうだ。12畳ほどある広い蔵とはいえ、棚にも床にも大量に物が置かれている。他に物を分別して置くスペースなどは無い。まるでブロック積みゲームのツミ状態だ。


 どうしたものかと考えながら見渡していたら、他にも先程の木箱に似た箱がある事に気付いた。先程の小瓶程ではないけど、どれも気になる木箱だった。なぜだか「開けなきゃ」という気持ちが湧いてくる。



「あれ? ソレもさっきの箱に似てるな! 大晴ソレ取ってみ!」


「ん? おお、コレか?」



 確かに、先程の木箱にそっくりだ。と言うか、同じ物に見えた。きっと中身も同じだろうと思って蓋を開けてみたが、中身は折り畳まれた黒い布だった。それを広げてみると・・・



「何じゃこりゃ?」


「・・・魔法陣?」 


「ははっ! まさか・・・」



 それは、本当に魔法陣のような金色の図形が描かれた黒い布だった。木箱を包んでいた風呂敷に似ていて、魔法陣のような図形が、ど真ん中にドーンとでかく描かれている。


 魔法陣とは言ったが、丸い円の中に五芒星が描かれただけの簡単なものだった。


 なんだこれは? 魔法に使う魔法陣か? それとも、精霊召喚に使う召喚陣か? とか思った。でも、それを手にした瞬間、また何かビリリ!と感じるものがあった。なんだろう? 別に痛いわけじゃない。奇妙だった。


 しかし新品のように綺麗だ。箱は何十年も昔の物に見えるのに、なんで中身がこんなに綺麗なのだろう? そしてその他にも、似た木箱が次々と出てきた。


 大晴は、それらの箱を開けて中身を取り出して義斗に見せた。



「ほら! コレもそうやな?」


「うん、そうみたいや。 もしかしてコレらは、何かの儀式にでも使うための物なんかな?」


「ううむ・・・」



 次の木箱の中身は、五百円玉の2倍ほどの大きさの分厚い銀のコインのような物。やはり、何かビリリ!と少し弱めではあるが感じた。


 それにも円の中に五芒星が描かれている。確か、こういう物はゲームやアニメなんかで見たような? 「ペンタグラム」とかなんとかって名称だったような? 実際に何に使うものなのかは分からない。


 でも、魔法陣の布みたいなのが入っていた木箱の隣に置いてあったし、もしかしたらサクラ婆ちゃんの言っていた、魔法に関係のあるものなのかも知れないと思った。それに、みんな同じ布で巻かれていた。それらの布にも、黄色い円に五芒星が描かれていて、ホコリを落とすと、真っサラ(新品)みたいだった。もしかしたらその布には、包んだものを経年劣化や汚れから保護する機能があるのかも知れない。「魔法と魔導具」、その存在が本物だとしたら? サクラ婆ちゃんの残したものなら、有り得ると思った。


 その他の、先程の木箱に似たデザインの細長い木箱からは、魔法使いの映画の主人公「マネーボッター」などが使うようなワンドに似たものや、無地の羊皮紙や数本の羽根ペンに、青、緑、黄、黒、赤いインクなども出てきた。

 他には、小さな豆粒程のものからゴルフボール程の大きさの石があった。幾つか拳大のものもあった。どれも色様々で綺麗だった。何だろう? パワーストーンだろうか?

 他は、よくコンビニなどで見かけるアイスクリームの冷蔵庫大の木箱の中に、仕切り板で5つの小部屋に仕切られ、大きさ別に分けて入れられた、まだら模様のビー玉みたいなガラス玉が、数えるのも嫌になる程にドッサリと入っていた。確か、サクラ婆ちゃんが、似た物を持っていたのを見かけた事があった。でも、何なのか、何に使うものなのか分からない。


 本当に魔女や魔法使いが使うような道具にも見える。なんだかワクワクしてきた! だからと言って、使う用途がまったく分からないが。やはり、どれもこれも真っサラに見えた。


 他にも似た木箱が幾つもあって、蓋を開けてみると、最初の開けた箱に入っていた物と同じ形の空の小瓶が入っていた。最初に触った中身の入った小瓶のように、ちょっとだけビリリと感じた。


 そんな同じような空の箱が幾つかあった。きっと、同じような水色の半透明の液体が入っていたに違いない。微かに甘い桃の香りがしたようなしないような・・・


 いったい何なんだろうか? イメージとしては、「ポーション」などの回復魔法薬だ。不思議と、初めて触ったものからはビリリと感じたが、2回目に触ると何も感じなくなった。いったい何だったんだろう? 義斗は何も感じた様子は無いが。


 大晴は、ふと小瓶の中身に興味が湧いて、さっき棚の上に置いた中身の入った小瓶を手に取った。そしてコルク栓を引き抜いた。感じの良いポン!と音がした。中から甘い桃に似た良い香りがして、その香りを堪能していた。

 だが、香りが鼻腔から肺へ通る感覚を感じたとき、フワッと頭が気持ち良くなり、無性にこの液体を飲みたい!という衝動に駆られた! 思わず反射的に、グイッ!と顔から小瓶を離したら、義斗に差し出す姿勢になっていた。



「うわっ! 甘い匂いが・・・」


「うん?」



 すると、義斗は大晴が持つ小瓶を奪い取るように掴むと、何を思ったのかいきなり飲んでしまった! もしかしたら、大晴は小瓶を自分の顔から突き放しただけなのに、義斗は飲めという意思表示だとも思ったのだろうか?



「あっ! ちょっ」


 グビッ!


「おいおい! だいじょぶか? マジで飲んでしもたよおぃ~」


「うん・・・なかなか美味いぞ?」


「マジで?! どれどれ、俺にも飲ましてみぃ?」


 グビッ! ゴクン!



 義斗が飲む様子を見て、大晴もまた飲みたいという衝動が抑えられなくて、残りを一気に飲み干した!



「ほぉ! 水色やのに、桃の味がするんやな?」


「そやろぉ?」



 なんと後先考えずに、小瓶の中の水色の液体を2人で飲んでしまった! だがマジで美味かった。まるで本当に、桃のジュースのような甘い味だった。


 ちょうど喉が乾いていたので、勢いで全部飲んでしまったが、本当に大丈夫なのだろうか? 大晴は、今更ながら少し不安になった。



 この時の大晴と義斗は、きっと正気ではなかった。この蔵に入った時から、妙にテンションが高かったし、意味も解らす湧いてくる高揚感と、夢でも見ているかの様なフワフワした気分に酔っていた。そんな2人の様子は、まるでヘベレケに酔った酔っ払いのようだった。ちょっとした事でも、バカ笑いしていた。だからなのか、なんの躊躇もなく飲んでしまったのかも。

 それに、あの甘い匂いを嗅いだときに感じだ、物凄く強烈な「飲みたい」という衝動はいったい何だったのだろう?

 もしここが蔵の中ではなかったなら、こんな得体の知れないものなど、絶対に飲まなかったはずだ。そう、絶対にここは何かがおかしい。心のどこかで、『まずい!まずい!ヤバい!ヤバい!』と思っているのに、なぜかその思いとは裏腹に、その場の空気や雰囲気に抗えずに流されていた。



「ホンマに飲んでしもたな・・・」


「ま、だいじょぶやろ? 最悪、腹壊す程度とちゃうかえ?」


「もし、朝起きたら、頭に角生えてて、背中にコウモリみたいな羽生えてたらどーするぅ?」


「きゃははは! 何ソレやだ怖いっ!!」



 などとバカな事を言っているが、妙にテンションが高くて、不思議と湧き出る高揚感が心地よかった。


 でも、もう暑くて堪らない! もうそろそろ限界だ! さっき飲んだものだげじゃ足りない! 家に戻って冷たい麦茶でも飲もうと思った。



「それより、今日はこれくらいにしとかんかえ? もう暑ぅて堪らんわ」 


「そーやな!」



 そう言って、2人が蔵から出ようとした時! 突然ドキン!と肩が動くほど大きく心臓が脈打った!

 同時に動悸が激しくなってきて、身体の中に熱風が吹き荒れるような感覚に襲われた!

 そして次第に、お湯が身体の中を物凄い速さで流れ巡るような感覚に変わったた!



「うおおおおおっ?! なんや? なんやコレ?!」


「どした大晴? んをぉ?! んががっ!! なんや?!


「うわっ! なんか身体ん中が熱ぅ!!」


「うわぅううううっ! も、もしかして、さっきのは毒?!」


「はあっ?! やめろよ! 怖なるやんか!」



 すると、義斗もほぼ同時に、大晴と同じ感覚に襲われたようだ。まるで水の中に潜っているようなフワフワした感覚。目に見えない何かに身体が包まれているような感覚だった。

 蔵の中から出口を見ると、ドアの向こうの明るい景色が蜃気楼のようにユラユラと揺れている。

 自分の手を見てみるが、なぜか遠くに見えたり近くに見えたりする。天井が恐ろしいほど高く見えたり低く見えたりと、見るもの感じるものすべてが異常だった。


 身体中にお湯が流れるような感覚がようやく治まると、今度は身体中の筋肉と骨がブチブチゴキゴキと音を立てて、うごめくような変形しているような、痛いような気持ち悪いような変な感覚に襲われた!


 大晴は堪らず、膝の力が抜けて崩れ落ちそうだったので、義斗の肩に掴まるように、その感覚に耐えていた。 だが、ほんの数十秒ほどで、その感覚は止まった!



「あいだだだだだだっ!」


「うごぉわああああ~~~!」


「・・・あれ? 止まった?」


「ああ、うん・・・でも腹ん中が・・・」



 すると今度は、下っ腹の中が誰かに手で掻き回されるような不快感に襲われた!


 思わず腹の中にうごめく手を抑えて制止させようと試みるが、それでもグルグルゴロゴロと腹の中で動き回る。

 それが気持ち悪いのってなんのって、はらわたを掻き回されるような、言葉では説明できない不快さ! 他にも更に不快な感覚があった。


 そこは、まさに股間である。


 下っ腹の更に下から股間にまで、身体の内側から手で「象さん」を掴んで体内へ引き込まれるような不快な感覚!

 気持ち悪くて堪らなくて、2人して床に寝転んでのたうち回った。


 そしてやっと身体中の不快な感覚が治まったとき・・・・・



「・・・はぁ、終わったか?」


「うん・・・みたいやな?」


「はあ? 義斗お前・・・こ、声!」


「あれ? 声が・・・はあ?! おまっ・・・・ええ?! あれえ?! ない! ないぞ!」


「え? ないって? うおお?!」



 義斗の声は、まるで小学生低学年のような高い声に変わり、顔は人相的にそれほど変わりは無いが、睫毛が長くなって、髪質が細くしなやかになり、唇が少し厚くなり、首が細くなったように見える。


 その姿は、見違えることなく、女の子だった!


 ロシア系ハーフと日本人とのあいだに生まれたクォーターの義斗は、茶と黒のまだら髪に、少し青みがかった黒い瞳だったが、女の子に変身した義斗は、完全金髪碧眼のマジ美少女! いや、美幼女か? 義斗の美人な姉ちゃんにソックリ!! そして身体が全体的に一回り小さくなった気がする2人。


 2人とも元々背は低い方だったが、さっきよりも棚がそびえ立つように高く見える。


 少しニキビ顔だった義斗の顔なんて、ツルスベに綺麗になっちゃってるし! 極めつけが股間だ。アレが無いのだ! 先程の身体に感じたあの異変で1番強烈だったのが、象さんを掴み内側に引き込まれるような不快感だったので、真っ先に確認したくらいだ。象さんが、完全に居なくなっているのが解る。パンツに手を突っ込んでまさぐったが、どこにも居なかった。象さん、どこに行った?!


 ちょっと待て! 義斗は金髪碧眼美幼女。なら、俺はどうなってるんだ? いやいや、見たくない! 鏡が無いから自分で顔は確認できないけど、薄暗い蔵の中でも自分の身体が女の子に変身しているのは解る。象さんが居ないしね。どうしても自分の顔を確認する勇気が無かった。



「おげぇ~~~!! マジで無いぞぉ?!」


「おわぁ~~~! 俺も無くなってるわ!」


「えええー! 義斗? お前女?!」


「大晴? お前も女?!」


「何じゃこれぇ~~~!!」


「何じゃこりゃぁ~~~!!」



 2人して全裸になって、身体が完全に女の子に変身している事を確認する。もう何が何だか理解できなかった。

 確かに2人して互いに男だった面影は確認できるものの、完全に女の子そのものだった。

 するとちょうどそこへ、タイミングが良いのか悪いのか、母親が2人を呼びに来る。



「こらー! 何キャーキャー騒いでんの!・・・って、誰?!」


「おかん?!・・・ああ、えっと・・・」


「あ・・・どうも」


「ちょっとちょっとお!! 女の子2人で、なんで裸になってんの?! ってゆーか、アンタら誰よっ?! 大晴と義斗君はどこに行ったんよ?!」


「お、俺、た、たい、大晴じゃよお!!」


「よ、義斗です・・・」


「・・・・・・・・・はぁい?」



 母親は、長い沈黙の後、まるでクシャミを我慢しているような表情で、「はぁい?」と言った。


 さっきの母親の言葉からすると、どうやら母親にも、2人が女の子に見えるようだ。

 と、言うことは、2人は本当に女の子に変身してしまったようだ。2人の目の錯覚や幻覚などではない。


 さて、何をどう説明してよいやら? すると母親は、信じられない事を言い出した!



「ふうん・・・なるほどねぇ?」


「な、なんなよ?」


「な、な、な、なん、なんすか?」


「アンタら、女装剤 飲んだんやろ?」


「「じょそーざい?!」」



 じょそーざい? って、除草剤? 何だそれ? 草を枯らす薬品のことか? もしかして、除草剤で象さんが枯れてしまったのか?! んなバカな!! 俺達は毒を飲んだのか?! じゃあ俺達は死ぬの? などと思っていたら、母親は続けて話し始める。



「女装剤ってゆーのわねぇ、どんな怪我でも、どんな病気でも、あっという間に治せる魔法の薬なんやけどね?」


「「まほーのくすりぃ?!」」


「そう! でも、その薬はねぇ、副作用で男を女にしてしまう薬なんよ!」


「「はぁ━━━━?!」」


「それを、アンタらが飲んでしもおたんよ。 だから、アンタらは女の子に変身してしもおたんよ!」


「「ええええ━━━っ?!」」


「ぎぃえええええ━━!!」


「うぞぉおおお━━━!!」


「「くぁw背drftgyふじこlp;@:━━━!!」」


「うるさっ!」



 女の子の絶叫する声が蔵の中に響く!


 なんということだ! これは夢のはずだ! 食あたりで腹に当たらなければ、どうと言うことはないと思っていたのに、まさか女の子に変身してしまうなんて!!


 しかし、なぜ母親がそんな事を知っているのか?



「ちょーっと! 落ち着いて!!」


「なん、なんで おかん(お母さん)がそれを知ってんのよ?」


「こ、これ、元に戻りますよね?」


「それは、まあ~~~・・・」



 元に戻るのか? そう母親にきいたが、母親は黙り込んでしまった。


 なんだか嫌な予感がする。 そして・・・



「・・・・・・無理!!」


「「はぁ━━━━?!」」


「だって、元に戻れるんやったら、私も元に戻ってるはずやから」


「・・・うん?」


「え? なに? どーゆーこと?」


「まあ、ね! もう話してもええかもね! 私も、昔は男やったからね!」


「「え゛え゛え゛え゛え゛~~~!!」」



 これは驚いた! いや、信じられなかった。まさか母親も昔は男だったなんて! それより、母親は女装剤についてよく知っているようだ。


 この後、もっと驚く話しを母親から聞くことになるのだった・・・



魔法の世界へ飛び込んだ!?と思ったら、家族も自分も魔法に携わる一族だった? みたいな感じに。


紀州弁は、語尾に「わ」、「よ」をよく付くので、文字だけだと「お姉言葉?」に見えるかも?

紀州弁は、関西弁の中でも聞き辛いのかも知れませんが、ここで紀州弁を知る場所のひとつになればいいなと思います。

とはいえ、あくまでも主観「紀州弁」です。

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