第16話 「異世界ムトンランティア」
異世界転移!
転移先は、地球とほぼ同じ大きさの惑星ムトンランティア。
ムトンランティアは、まるでRPGのような異世界だった。
晴蘭と海音と千春は、ムトンランティアにて、魔晶石をゲットするために、冒険者として活動開始だ。
文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。
••✼••保健室••✼••
俺達は、学校の保健室に居た。
もしもの時に、良子さんが動きやすいからだと言う。
「「「ムトンランティア?」」」
「そうじゃ! 剣と魔法の異世界ムトンランティアへ行ける、異世界ゴーグルじゃな」
「コレが、異世界ゴーグル?」
「なんか、ふつぅーのゴーグルですね?」
「うん 水泳に使うヤツ・・・」
「見た目はな じゃがコレは・・・・」
良子は、海に潜る人がよく使うゴーグルを持って話してくれた。
異世界へ飛ぶ?のなら、VRゴーグルとかヘルメットみたいなのとかを想像したが、でもソレは余りにもありふれた水泳用のゴーグルだった。
早い話が、水中メガネだな。
こんなモノに、異世界へ転移できる魔法が付与されているのか?
こんな小さなモノで?
異世界へ行けるなんて信じられない。
でも魔法だから、常識や、既成概念や既有概念、物理的法則なんか完全に無視した不思議な力。
有り得るかも? 行けるかも知れない。
本当に行けたら?
すんげーワクワクすっぞ。
「ホンマに、だいじょぶなんですか? コレ・・・」
「大丈夫じゃ! 私は魔晶石などこの世界に無い物を調達するために何度も使用している」
「「「ええっ?!」」」
なんと良子は、魔晶石などを調達するために、もう何度も使用していると言う。
へぇ~ 良子が使用している魔晶石って、異世界産なんだ?
じゃあ、他になにを?って思ったけど、今はいっか。
では良子は、ムトンランティアで、どれくらい活動しているのだろう?
「じゃあ、今までどれくらいムトンランティアで活動してるんですか?」
「うぅむ そうじゃなぁ? 確かに何度も行っては来たが、もうここ10ヶ月以上は行っとらんな つまり、ムトンランティアでは、2週間以上行っていない事になるな」
「「「じゅっかげつで、にしゅーかんー?!」」」
「おう、なんじゃ? 信じられへんのんか?」
「「「そりゃあ、まあ・・・・・・」」」
そりゃそうだ。
異世界へ精神がダイブする漫画やアニメがココ最近流行ってるようだが、でもそれは時間の差なんてない。
意図的に、時間を何倍も早く流れるように設定しているアニメなんかもあるけど、アレは研究所みたいな巨大な施設だ。
良子が持つ、ちっぽけなアイテムなどではない。
そんな既成概念があるせいか、疑ってしまう。
でも、魔法だ。
本当に行けたら、どんなに楽しいだろう?
日本の現実の煩わしい事柄から離れて、異世界とやらで思い切り自由に活動してみたい!
それに、良子の言う異世界ゴーグルでのムトンランティアで活動する1日は、この世界の1時間だと言う。
また逆に、ムトンランティアへ初イン後、こちらで1日だと、ムトンランティアでは1時間と言う事になるらしい。
だから、ちょっと、ややこしい。
でも、グループで活動するとき、コチラでの少しくらいの時間差なら、アチラでの他の仲間と、それほど差ができないと思う。
だから、仲間と一緒に行くなら、都合が良い。
ただ、この世界から物を持ち込んだり、異世界から持ち出したりと、それがまだ成功した事が無いという。
なんとなく当たり前なような気がするが。
でももし、それが妖精なら、きっと一緒に異世界間の移動ができるはずだと言うのだ。
妖精と契約すると言う事は、妖精と精神が繋がるからだと。
なるほど。
要するに、異世界で妖精と契約して、一緒に戻って来いって事だな。
「なんとまあ・・・・・・」
「とにかく、行ってみよらよ!」
「うん! 行こ行こ!」
「よっしゃ!」
俺達4人は、「異世界ゴーグル」を装着した!
ゴーグルが顔に密着した瞬間!
ファッと、頭の中に冷たい空気が入ったような感覚になった。
そして、ほんの数秒で意識がブラックアウトした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
ピンポーン!
『ようこそ! ムトンランティアへ』
「うおっ?!」
ふと気が付くと、長い眠りから覚めた感覚だった。
として目を開けた・・・つもりだった。
でも、瞼を開けた感覚も光も感じない。
身体を動かしてるもりだが、動いている感覚もない。
立っているつもりだった。
でも、足に地面に立っている感覚も、体重も感じなかった。
たった一粒の光さえも無い、真の漆黒の闇だった。
そして、その数秒後に突然、PCで定型文を読み上げた様な、無機質な女性の声が聞こえた!
『あなたは今、あなたの住む世界と、ムトンランティアを繋ぐ異世界軸空間に居ます』
「うわっ! ちょっと待って! 海音は?! チャルは?!」
『ムトンランティアへ行く前に、あなたの身体能力と、魔法適正を測定します』
「おい! 聞けよ人の話!! 海音と千春はどこに・・・」
ピンポーン!
「んなっ?! なんや?」
『あたなは、魔法使いに適性があると認定されました! ムトンランティアへ転移する事を許可します』
「きょかぁ?!・・・そうか、これば一人一人設定されるもんなんやな? だから俺1人で・・・」
『あなたの性別は女性ですね』
「え? もぉ~事務的やなぁ・・・はいはい どーせ女ですよぉ!」
突然聞こえた謎の無機質な女性の声は、耳に聞こえると言うよりも、頭ん中に響くって言うのが適当か。
ここは、どうやら晴蘭の住む世界と、ムトンランティアと繋ぐ、異世界軸と呼ばれるターミナルのような空間であり、声の主はこのターミナルの管理者のような存在のようだ。
その声は、晴蘭がこの空間に入ったのを感知したのを合図に起動するシステムのような、そんな感じがした。
それはまるで、最近始めたスマホのMMORPGゲームに初めてアクセスした時のようだった。
声は、晴蘭の質問には答えず、事務的に作業を進める受け付け職員のようだった。
まあ、本物のゲームでも、そんなもんだ。
『あなたのステータスは次の通りです』
ピロン!
「お!」
電子音が鳴り、目の前に晴蘭のステータスパネルが表示された!
⚫===========⚫
=====STATUS=====
名前 セーラ
性別 女
年齢 13
種族 女性魔法使い
職業 魔法幼女
=============
LV 1
HP 100
MP 128
STR 2
ATK 3
DEF 2
INT 29
SPD 4
LUK 3
EXP 0
=============
称号
【異世界百合っ娘予備軍】
⚫===========⚫
「おお~~~って、相変わらず基本ステ低うっ!!」
『次に、あなたのアバターを作成します』
「ほおほお! この世界で活動する身体やな! さてさて、どんな風に設定しようかな? やっぱし男よなあ? 身長は180くらい? んで、聖剣とか使ってみたいしぃ?」
『あなたの外見的ボディ・アピェレンスをゴーグルからスキャンしました」
「・・・・・・え?」
『あなたのアバターは、次の通りです』
目の前に、この世界ムトンランティアでの活動するボディー(アバター)が表示された!
「んなっ?! って裸ぁ?! はあ━━━?! ちょおっと待て━━━っ!! いやいやいや! 勝手に決めるな! これやったら、今の俺まんまやないかぇ!! んなもん却下や! 却下ぁ!!」
なんと! 異世界で活動するアバターは、現実の晴蘭そのまんまだった。
性別も男に変えて、剣士か聖騎士にしたかったのに・・・
『次に、服装を設定します』
「え? お! 服装ね! えーと、どんなんがあるんかなあ?」
『服装は、次の通りに決まりました!』
「って、それしか無いんかえ?! なんなよ! せやったら、一々言うな!」
すると、いつの間にか服を着ていた。
アバターとはいえ、異世界へ裸で放り出されるのかと思ったので、取り敢えずは、ホッとした。
でも、どこかの国の民族衣装のような、街娘のような可愛らしい服装だった。
『次に初期ボーナスとして、50ボイントのステータスポイントを還元します』
「え? あーもー! 身体はどうにもならんのかえ!! しゃあないなぁ~もお! ボーナスね? はいはい! ステータスに適当に追加したらええんやろ! ほんなら、ええ~~~と」
晴蘭は、ボーナスポイントを、ステータスのどれに与えるか悩んだ。
基本ステに振ろうと思ったけど、魔法職の晴蘭には、あんまり腕力とか体力とかは関係無いような気がした。
そこで、初めての異世界(本当は2回目)なので、ラック(運)に全部入れたった。
⚫===========⚫
=====STATUS=====
名前 セーラ
性別 女
年齢 13
種族 女性魔法使い
職業 魔法幼女
=============
LV 1
HP 100
MP 128
STR 2
ATK 3
DEF 2
INT 29
SPD 4
LUK 53
EXP 0
=============
称号
【異世界百合っ娘予備軍】
⚫===========⚫
「よし! これでええわ」
『最終確認です これでよろしいですか?』
ピロン!
『はい』『いいえ』
また電子音が鳴り、ステータスパネルの下に、『はい』『いいえ』のボタンが表示された!
「あれ? もう終わり? チュートリアルとかないん?」
『・・・・・・・・・・・・』
「あーないんね? はいはい! 無愛想やなぁ」
どうやら、チュートリアルは無いようだ。
晴蘭は仕方なく、本編(?)を始める事にした。
晴蘭は、『はい』に触れた。
すると、今まで表示されていたものが消えてしまった!
と、思いきや、もう終わりのようだった。
『では、どうぞお気を付けて!』
「あ、もう終わり? はいはい、どうも・・・って、お気を付けて?! それって、どーゆーこっちゃ? 普通は、『お楽しみください』とちゃうんかえ?」
シュワワワワワワ~~~
「ああーもお! 結局、事務的かえ!!」
目の前の真っ暗な空間が渦を巻いた気がした!
真っ暗な黒から、次第に真っ白へと変わる!
「うぉわっ!! ちゃんと最後までゆって~~~」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
気が付くと、大きな噴水の前に立っていた。
直径7~8メートルくらいの大きな噴水の周りには、綺麗な花模様のモザイクタイルが敷き詰められている。
その噴水は待ち合わせ場所としてもランドマークになるようで、何組もの冒険者パーティーらしきグループが集まっていた。
そんな冒険者達は、剣士、剣闘士、魔法使い、魔術師、僧侶、魔剣士、様々な職種を一目で分別できる防備を整え、種族も人、獣人、亜人など、ゲームやアニメさながらの異世界観を醸し出していた。
異世界名物?のエルフが居たのは、感動ものだった。
その他にも、街人、街娘、商人、衛兵なども足早に忙しそうに歩き回っている。
「ふぉ━━━!! まさに異世界!!」
「「「ザワザワ・・・・・・」」」
「おっと! やっぱし俺、みんなに見えてた?」
晴蘭は、ゲーム感覚だったので、思わずバンザイをして、そう叫んでしまった。
どうやら、通り行く人達にも、晴蘭が見えているようだ。
ゲームの様に、プレイヤーがどんな言動をしても、周囲の人達は何も無かったかのように知らんぷりして、決まった動きで、決まった範囲をグルグルと歩き回るものだと思ってた。
プレイヤーが、決まった言動をすればフラグが立ち、そしてイベントが始まり、「YES/NO判定」でフラグを回収すれば、クエストが起動する。そう思ってた。
でも、違った。
誰一人として、同じ人が同じ場所を歩いている訳でもなく、同じ人同士が同じ会話をしているのでもなく、同じ行動をしている訳でもない。
もちろんゲームのように、頭の上に街人や冒険者や商人などと「タブ」が付いている訳でもない。
少し落ち着いて、手足を動かしたり、歩いてみたり、走ってみたり、ほっぺを叩いたり抓ったりしてみて、自分の存在を確かめた。
手足を動かす感覚が感じる!
ちゃんと地に足が着いている感覚もある!
噴水からは水の匂い! 風を感じる!
マジすげー!
ただ不思議だったのは、晴蘭がこの世界にログインしたその瞬間に当然現れた!って事になるはずなのに、誰も驚いた様子も無い。
あたかも、最初から晴蘭はここに居たかのように、誰も気にする様子も無い。
それは、どういうシステムになってるんだろう?
でもまあ、あれこれと考えたとしたも答えなど出ない
そういうものだと、無理やり納得した。
「お!! すごっ!! これ、ホンマに異世界の現実?! すんげぇ━━━!!」
「「「ザワザワ・・・・・・」」」
「へぁはっ?! おっとっと! いかんいかん・・・」
異世界へ来れたことがあまりにも嬉し過ぎて、はしゃいでしまった!
傍を通る人に、「なんじゃコイツ?」みたいな怪訝な顔をされてしまった。
やっぱし見えてるんだ!!
俺は、目立たない様に平常心を装った。
とはいえ、こんな所にポツンと1人少女が居たら、目立っとは思うが。。。
しかし、こんな事をしている場合ではない。
もう来ているかどうかは分からないが、海音と千春と良子を見付けなきゃ!
噴水の周囲を探してみる。
・・・・・・居ない。
俺と同じ場所へ来るんじゃないのか?
どうしよう? ここには居らん!
取り敢えず待ってみる。
すると、目が合った男性から声を掛けられた。
「こんにちは! ここは、冒険者の街トスターだ!」
「わっ! お、おう・・・」
言葉は日本語だ。
遠くに見える店らしき建物が並ぶ列には、日本語のカタカナ表記の看板。
男性の話は続く。
「昔は鉱山として栄えた街だったんだが、今は採掘量はグンと減っちまってな。それでもこの街には、世界最大級のトスターダンジョンがあるから、世界中の冒険者達がダンジョンでの一攫千金狙って、集まって来る街なんだー!」
「あ、う、うん」
「なんとトスターダンジョンの最高攻略階層は48階層! しかも、調査によると、50階層以上あると噂されていてな、未踏のエリアもまだまだあるって話だ!」
「・・・・・・」
「なにしろ、このダンジョンのモンスターや宝物からは、ユニー・クアイテムがわっさわっさ出るし、ダブル・ユニークなども稀に出るって言うじゃねえか?!」
「お?! ユニーク・アイテム? それって、どんな・・・」
「なにしろダフル・ユニーク・アイテムと言やあ、商店に売っても儲かるし、貴族や王族に売りゃあ、たんまりご褒美が貰えるって話だ! つーわけで、この街は、ユニーク・アイテムで栄えているって言っても過言じゃねえってわけ!」
「お、おお・・・」
「つまりだ! この街では・・・」
「これ、スキップできやんの?」
なんじゃ?! いきなり???
なにこの人??? めちゃくちゃNPC感バリバリに醸し出してる・・・
いや! 『私はNPCです!』と言っているかのような、この立ち位置、立ち振る舞い!!
なんでもいいが、そろそろ先へ進みたいのだが、コイツの話はいつまで続くんだ?
そして、数分後。。。
「さあ、これは初めて、この街へ来てくれた人への記念だ! ちゃんと胸に着けておいてくれよな!」
「お? あ、うん」
「じゃあな!」
「・・・・・・」
マシンガントーク・オジサンは、俺の服の胸に羽を付けてくれた。
なんだコレ? 募金の羽?
ようやく、NPC・・・じゃなくて、初心者出迎え人・・・じゃなくて、この街について教えてくれた親切なオジサンの話が終わる頃には、立ちん坊になった足が痺れてしまった。
もう何十分経ったか?と思うほどの長い時間に感じた。
結局、「ユニーク・アイテム」については、何一つ聞けなかった。
ってゆーか、アイツはやっぱりNPCなんじゃ?!
そう思って、またあの話を聞くのは嫌だけど、アイツにもう一度接触してみた。
「あの、もしもし?」
「お! やあ! こんにちは! ここは、冒険者の・・・なんだ? さっき話した嬢ちゃんじゃないか!」
「え゛っ?! おぃやん、NPCとちゃうの?!」
「ん? 何だ? おいやんえぬぴーしーって?」
「え? ああ、いや、この街に初めて来た人に、この街について説明してくれる人?みたいな・・・」
「ああ、だから今しがた説明したじゃないか?」
「あ、うん もうせーへんの?」
「するわけないだろう! 俺は、領主様から報酬を貰ってだな、初めて見る奴が居たら、来る人来る人に、この街の良さを説明してやってくれって言われてるんだ さっきお前さんに付けた羽があるだろ? その羽を一見さんに配れば、1人につき100ゴールド貰えるってバイトしてんだよ」
「バイトかえ!」
「ああそうだ! だから、既に羽を付きの奴には用は無い! 仕事の邪魔だから、さっさと行きな!」
「!・・・・・・」
なーんなんじゃこりゃあ?!
本物の人かよ?! NPCちゃうかったやん!
そりゃスキップできへんわな!
なんか、親切なのか不親切なのか解らん!
やっぱしここは、異世界の現実?
その通り! この世界は現実の異世界!
晴蘭の住む世界とは完全に別世界であり、パラレルワールドではないので、この世界に適応した晴蘭達が存在するわけではない。
従って、この世界の晴蘭達の精神と、この世界へやって来た晴蘭達の精神が同化してアクティブ化するわけでもない。
この世界は異世界なのだから、この世界に適応した晴蘭達が存在するわけが無い。
晴蘭達は、肉体を自分の世界へ置いて来ているので、たとえこの世界で活動停止(HPが0)になっても、肉体は魔力で生成されているので、3分間の間に蘇生が施されなければ、肉体は魔力へ変換され、そして精神体(魂)は自分の世界の肉体へ強制転移されて本当に死んだりはしない。
そしてまたログインしたなら、「始まりの地」に魔力によって身体が復元されるシステムだ。
まるで、母船や母星に本体を置き、テレパシーなどで遠隔操作できる生体アンドロイドで地球で活動する宇宙人みたいだな。
だが、この世界の人々は活動停止、つまりHPが0になれば死ぬ。
紛れもなく、地球とは違う異世界の現実世界なのだ。
それでもこの世界にも精霊は存在する。
なので、悪意が淀んで濁った魔力で生まれたモンスターの討伐や、盗賊などの輩から襲われた時の正当防衛や、襲われている者を助けるために止む無い攻撃による致死には、「精霊の倫理には反しない」ので、晴蘭達が冒険者として他者の命を奪う事になっても問題ないが、それ以外での「精霊の倫理に反する行為」では、縛りが科せられる。
「とにかく、現実なんよな? ココ・・・なんでもええけど、早くアイツらを見付けやな!!」
晴蘭は、噴水広場で海音と千春と良子を探し回った。
だが、1時間経っても見付からなかった。
「あーしんど! どないしょ? ぜんっっっぜん見付からん!!」
なんだかもう、泣きそう・・・
周囲には、自分よりもずっと背が高く大きな人ばかり。
地球の人のように、スラッとした人ばかりではなく、冒険者のようにガッチリした身体付きの人が多い気がする。
なるほど。冒険者の街か。
確かここは、地球とほぼ同じ大きさの惑星ムトンランティアと聞いた。
なんにも知らない世界でたった1人。
スマホも無い、公衆電話も無い、サーピスカウンターも無い、警察も無いのだ。
だが、なぜか「アニマル・ストラップ」があった!
晴蘭は、急いでアニマル・ストラップを操作したが、地図は表示されるものの、誰の反応も無かった。
まだ、誰も来ていないのか?
だから反応が無いのか?
それを知ると、余計に不安になってきた。
実は、「アニマル・ストラップ」を持ち込めたのは、晴蘭だけだった。
理由は不明が、物をムトンランティアへ持ち込む事のできるのは、晴蘭だけなのである。
それを晴蘭は、まだ知らない。
しかし、アニマル・ストラップが反応がしないのであれば、はぐれた3人を探す手段が浮かばない。
完全に一人ぼっちになってしまった。
小学低学年の夏休みのとき、夏祭りで迷子になったのを思い出した。
丁度、こんな感じだった。
数多くの大人達に周囲を囲まれて、今自分がいる場所が、街のどこになるのかも分からない。
下手に異動すれば、きっと迷子になる。
声を出して、助けを呼ぶ勇気も出ない。
息が出来ない気がする。
なんだか空気が無い?
息を吸っても吸っても、まるで酸素が足りないかのように苦しい。
死ぬんじゃないかと恐怖する。
首が絞め付けられてる気がして、襟口を広げようと手で強く引っ張る。
それでも呼吸が楽にならない。
呼吸が荒くなる。
頭がクラクラする。
めちゃ孤独で寂しくて堪らない。
怖くて怖くて堪らない。
晴蘭が本気で泣きそうになったとき、不意に後ろから声をかけられた。
「晴蘭「セーラちゃ「セーラ!」
「っ?!」
「お前、どこに居ったんじゃ? 宿屋にも居らん、ギルドにも居らんしで、ずっと探して歩き回ったんじゃぞ!」
「えぅふっ! ふぇう~~~」
「「「 ?! 」」」
「セーラちゃん?! なんで泣いてんの?」
「どした晴蘭?! 誰かに虐められたんか?」
「もしかして、寂しくて泣いてたぁ?」
「マジかよ だっさ!」
「・・・」
「「あははははははは!」」
「えううううううう~~~」
「「「 !!!! 」」」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:~~~!!」
「「「どしたぁ━━━━━━!?」」」
晴蘭は、異世界で孤独で寂しくて、そんなとき海音達の顔をやっと見られて、安心感からか泣き叫んでしまった。
目から涙を流し、鼻から涙と鼻水の混合水を流し、口からはダー(よだれ)を流し、握り拳を顎の下でクロスにし、足を不自然なほどに内股にして泣く晴蘭は、誰が見てももう完全に、ギャン泣きする小さな女の子だった。
よく転生もの漫画アニメなどで大人が子供に転生したとき、大人のはずの精神が子供の身体に影響されて幼くなってしまうような事を描写されているが、晴蘭のソレは、まさにソレなのかも知れない。
それに晴蘭はまだ中学1年生の子供のである。
精神がより低くなるのは、容易いだろう。
「お前がっ・・・えぅうえふっ・・・いれらいららぁ~~~!!」
「「「 ?!・・・・・・ 」」」
「いったい、どうしたんかの?」
「はい・・・前にもこんな晴蘭見ました」
「そうかえ? ううむ・・・これは」
「セーラちゃん・・・」
「ふむ! 今回は、ここでの活動を見送った方がええかも知れんな」
「「ええええ━━━?!」」
「?!」
そして、晴蘭は記憶が飛んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
••✼••保健室••✼••
「あれ? 知らない天井・・・」
「お! やっと起きたか晴蘭」
「だいじょぶ?」
「もう落ち着いたかえ?」
「・・・・・・うん」
気が付いたら、知らない天井が見えた。
ここは異世界か?
ってゆーか、なにこの悪趣味な天井の板!!
「ここは、学校の保健室じゃよ」
「保健室ぅ?」
なんと天井板が、酒とタバコのパッケージで埋め尽くされていた。
様々な銘柄の酒パックとタバコケース?
めちゃ教育に悪いでしょ!
って、誰やねんアンタ?!
片桐先生だった・・・
酒とタバコが好きなのね?
七星とか、ボーロボロとか、草の冠とか、縦綱とか・・・
どうせ、魔法で変えたのでしょ。
問題になる前に、後で戻てしておけよ。
なんとなく、片桐先生の人柄が垣間見えた気がした。
「うむ 私らが先にログアウトしてから、お前さんのゴーグルを外したんじゃ」
「!!・・・なるほど 物理的強制ログアウトか」
「まあ、もう少し寝とけ」
「・・・・・・はい」
このように、良子が行ったのは、晴蘭が言うように「物理的強制ログアウト」と呼ぶ。
何かトラブル起きたときに、仲間の誰かが先にログアウトして、まだ異世界にログイン中の奴らのゴーグルを外して、強制的にログアウトさせるのだ。
これはあくまでも、緊急処置だ。
今回の晴蘭は、普通ではなかった。
まるで、過呼吸のような症状だった。
良子は、その時の晴蘭の様子を見て、すぐにそれが何かが解った。
「パニック障害」
「人に酔ったんじゃなあ」
「「ヒトに酔ったあ?」」
「うむ パニック障害の症状のひとつじゃ」
「「!・・・・・・」」
「厳密には、パニック障害なんちゅーもんは誰にでもあるもんじゃが、ある特定の事柄を引き金に多大な症状が起きるのが、精神医学的概念のパニック障害じゃ! セーラのそれは過呼吸による、『過換気症候群』と言うんじゃがな、過呼吸で酸素を取りすぎると、体内の酸素と二酸化炭素とのバランスが崩れて、様々な症状がでる 身体が痺れたり、見える景色の色が黄色や緑に変わったり、頭痛、吐き気、動悸、まあいろいろじゃ 死ぬとさえ思うほどにな」
「そんな・・・」
「可哀想なセーラちゃん」
「心のどこかに、その原因となるものがあるはずなんじゃが、大抵は発症の原因の根本となるため、記憶の奥底に無意識に沈めてしまうもんじゃ じゃから、本人でさえもなかなか見付ける事は難しい」
「はぁ・・・」
「それにな、たとえ原因そのものを自覚し、助けを求め人に教えたとしても、本人としては決して解決できるなんて思わないもんじゃ 下手に教えても『そんな事で?』なんて言われるんじゃないか?とか、ソレを利用して悪さをされたり、弱みにされたりするんじゃなかと、勘ぐってしまうもんなんじゃ」
「! そんなん、せーへんのに」
「私かて・・・」
「そうじゃな お前さん達は、そんな事なんぞせんじゃろうな」
「「しません!」」
「うむうむ じゃがな? 心の病というモノは、どんなに正当性に考えても労わっても倫理的に考えても、本人にしかその恐れや不安は理解できんもんなんじゃよ」
「「・・・・・・」」
「きっと今回この様な事になったのは、初期設定の時に、私達よりも晴蘭が少し遅くなり、ログインも私達よりも遅くなったせいじゃろな コチラとアチラでは、時間の流れが違う 僅かな差でも、アチラへ行けば、時間の差は大きくなるもんじゃ」
「なるほど」
「そっか・・・」
「とにかく、晴蘭が起きたら、今日はもう帰れな」
「「はい・・・」」
結局、今日の海音と千春は、ギルドの場所と宿屋の場所を把握したまでで、晴蘭はログインまでで終わってしまった。
海音と千春に申し訳ない。
そして、学校からの帰り道。
••✼••学校からの帰路••✼••
「・・・・・・すまん」
「もうええからぁ~! セーラちゃん気にし過ぎ!」
「そーやぞ? お前はお前のペースで進めたらええんじゃよ」
「そうそう! 次からは、私がずっと傍についててあげるからね!」
「はは・・・うん」
なんでだろう? 以前にも、こんな事があった。
海音と母親との3人で買い物へ行ったとき。
そして、今日。
思い起こせば、どちらも大人達に囲まれてから可笑しくなった。
きっと、何かのトラウマなんどろうけど、晴蘭のまだけっして長くはない人生で、思い当たる事柄なんて思い出せない。
なのに、二度とも同じような出来事で起きた事だった。
学校の保健室で、寝たふりをして片桐先生の話を聞いていたが、自分にも見付ける事の難しい何かが、きっと恐怖の要因として作用しているのだとは思う。
二度あることは三度ある。
これは絶対に、また起きるに違いない。
晴蘭は、漠然とした「何か」に不安になるのだった。
そして次の日の放課後、開かずの間にて。
••✼••開かずの間••✼••
「良いか? 今回も私も付いて行くが、最長でも2日間じゃ! それ以上はダメじゃ! 目標としては先ず、宿屋にチェックインをし、冒険者ギルドで冒険者登録までとする。余裕があれば、街を散策するくらいなら良いが。じゃがくれぐれも、2日間だけじゃ! ログアウトの場所は宿屋の階段の下じゃ。どんな理由があろうとも、時間が来れば、宿まで無理にでも連れてって、私が強制ログアウトさせるからな!」
「「「はい!」」」
晴蘭、海音、千春は、異世界ゴーグルを着けた!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
••✼••ムトンランティア••✼••
【トスターの街の噴水広場】
「お?!」
「あ、今日は3人一緒みたいやね!」
「うん みたいやな!」
「よし! 行くか!!」
「「おお━━━!!」」
こうして晴蘭達は、いよいよ本格的にムトンランティアにて活動開始だ!
剣と魔法のファンタスティックな異世界ムトンランティア。
ドキドキワクワクがとまらない!
だが、晴蘭に起きた異変が気になるところ。
今後、この現象が、晴蘭達にどのように影響を与えるのか。。。
って、ところですかねぇ~
剣と魔法のファンタスティックな異世界ムトンランティア構想は、むかし、20年ほど前からある、どっぷりハマったゲームの、MMORPGにかなり影響されています。
それくらい、大好きなゲームだったのですよね。
レベル500近くまで上げたのに、アカウントを盗まれてしまい、アイテムも十数億のお金もパー! やる気も⬇⬇⬇
また新たにアカウントを作成したものの、今はレベル180ぼとで無期限の休止ちぅ。




