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女装剤  作者: 嬉々ゆう
11/91

第10話 「俺とアイツが秘密の共有?」

パラレルワールドとは、少しだけ何かが違う世界。

特によく似た世界では、互いに干渉し合い影響を与えている。

もし、影響を与えるキッカケとなる何か判れば、何か不可思議な事が起きるかも知れない。

何かと何か、もしくは、人と人が入れ替わる事も・・・・・・



文章力が無いので、もしかしたら読み辛い部分もあるかも知れません。また「紀州弁」を意識して書いたので見苦しい所もあるとは思いますがご了承ください。あえて主観「紀州弁」を設定しました。

  



••✼••職員室前••✼••



「ほな、また後でな」


「おう・・・」



 職員室から教室のある隣りの棟に向かう。1年生の教室は1階になる。

 A組とB組はお隣同士。何かあれば直ぐに駆け付けられるし、助けを求める事もできる。

 でも、めちゃ不安・・・・


 しかし、この学校もかつては、もっと多くのクラスがあったはず。

 使われていない教室が何部屋もある。


 それよりも、教頭先生からの話では、行っていはいけない場所もあるらしい。

 何十年か前に旧校舎が取り壊された場所が新しい校庭となり、区画整理される前は、古い廃屋がいくつか建っていたらしい。

 そこを壊され新しく校舎が建ち、運動場が広くされたらしいのだ。

 今では学校の敷地内の辺鄙な場所になる、「開かずの間」なんて呼ばれている、何十年も放置されてる倉庫がある。

 以前は、農家の倉庫だったとのこと。

 それを体育用の用具室にしたとか。

 今ではそこは絶対に近寄ってはいけないと言われていた。

 何かありそで面白そうなんだけど、今はそれどころではない。



••✼••教室前••✼••



 いざ、我がB組の教室の入口の前へ来るが、あれれ?



「・・・こんな引戸、デカかったっけ?」



 マジで、そう思った。

 教室間違えたかな?って焦った。

 でも、扉の上のクラス札には、ちゃんと「1-B」って書いてる。

 間違えるはずがない。

 だって、すでに4ヶ月通った教室だ。

 久しぶりに、帰って来た感がある。

 でも、デカい!


 これは、自分の小さくなった手や、視線の高さが比較対象の基準となり、見るもの全てが大きく高く見えるのは当然なのである。

 過去に体験した空間認識は感覚として脳が無意識にてシッカリ覚えていて、今小さくなった身体で体験しする空間認識とは誤差があるので、仕方ない事である。


 これは、家でも体験した感覚だ。

 見るもの何でもデカく見えるのだ。

 教室の引戸がやたらデカい!


 意を決して、引き手に手をかけようとするが、また思い留まって手を引いてしまう。

 そんな事を何度か繰り返してしまった。


 手が痺れる・・・

 心臓がバックンバックン言ってる。

 緊張で喉がカラカラだ。

 やっべぇ・・・マジやっべぇ・・・

 いざ臆すると、余計にハードルが高くなるかのようだ。

 チビりそう・・・


 もし、ここで声でも掛けられたら、マジビビってチビってしまいそう・・・なんて考えてたら突然!!



「ねえ?」


「ふぃびぁあああ━━!!」


 ペシャン!


「いやぁ?! なにこの娘?」



 いきなり後ろから声を掛けられて、膝の力が抜けて、思わずその場に座り込んでしまった!

 ってか、同時に、なんだか急に頭に来た!

 何で俺がビビらなあかんのな?



「何なよ! いきなり急に突然に唐突に声出すなー! ビックリするやろがぁ!」


「え? え? え?」


「あっ・・・すまん」


「その、無駄に同じニュアンスの言葉を繰替えす言い回し方わ・・・・」


「・・・・・・」



 感なしに怒鳴り散らしてしまったが、振り向くとソイツは、俺のすぐ後ろの席だった、飯田(いいだ) 千春(ちはる)って奴だった。ソイツは、男女関係なく誰にでもフランクに接する奴で、かつては俺ともバカを言い合う仲だった奴だ。

 ソイツが言うように、俺は同じニュアンスの言葉をわざと繰り返し言い回す様な喋り方をよくしていた。

 もちろん、笑いを誘うためだ。

 ただ、切羽詰まった時にも、つい出てしまうときがあった。今のように・・・



「何なよ、千春かよ! ビビらせんなっ!」


「えっ?! 私、アンタと知り合いやったっけ? って、やっぱしもしかして、ホンマに・・・」


「え?・・・・・・・・・・・・はっ?!」



 がぁああああああ━━━━━━ん!!

 やってもたぁあああ━━━━━━!!

 俺のアホぉおおお━━━━━━━!!



 ガンッ!

 ドアに頭を打ち付ける晴蘭。


「いやっ! なにしてんの?」


「くぅ~~~」



 俺は、教室の引き戸に頭を強くぶつけて、自分を戒めた!

 我ながら、何てバカなんだと心の中で絶叫した!

 頭を抱えて(うずくま)っていると・・・



「・・・もしかして、白鳥(しらとり)?」


「ふぇ? な、何で分かったん?」


「やっばしぃ!!」


「んなぁはあ?!」



 なんか、めちゃ間抜けな声を出てしもた!

 あぁぁ・・・いきなり初日にバレてもたやぃしょ。

 でも、何でバレたんだ?

 確かに男のときの面影はあるには、あるとは思うけど。



「さっき、真奈美(まなみ)ちゃん先生から聞いたんやけど、転校生の女の子の名前が、好湾(すわん) 晴蘭(せいら)ってゆーやん?」


「・・・へえ?」



 「真奈美(まなみ)ちゃん先生」とは、俺のクラスの担任の先生の下の名前で、クラスの皆からも、「真奈美ちゃん」とか、「真奈美ちゃん先生」とか呼ばれていた。

 楽天主義者(らくてんしゅぎしゃ)で、いつもニコニコしてるし、ほわんほわんしてるし、「ちゃん付け」で呼ばれる由縁でもある。

 また、自分でも「真奈美ちゃんって呼んでね」なんて事も言っていた。



「んで、私考えたんよ! 好湾(すわん)って、白鳥(はくちょう)って意味やろ? んなもん! 白鳥(しらとり)しか居らんやし? しかも、白鳥(しらとり)が転校して、代わりに好湾(すわん) 晴蘭(せいら)って()が来たーみたいな言い方してたしよ! そんなん、白鳥しか居らんやん! それに面影あるし! やっばしなぁ~とは思ったけど、ホンマにアンタやったんやなあ? 男んときも前は背ぇ低かったけど、またこんなに背ぇ引くぅなってしもて~エラい可愛らしなったやぁん! ターセなんやろう?」


「お、おぅ・・・」

『ベラベラとよく喋る奴やな 確かにターセと呼ばれていたけど』


「んで最初わ、初めて見る()やー!って思って、職員室行く前からずっと後つけてたら、ターセの下駄箱から靴取って鞄に入れてたやん!」


「あっ!・・・・・・」


「そらもう! そんな事したら、『私はターセですー』って言うてるみたいなもんやし!」


「んがあああああ━━━━━━ん!!」


「はっはぁ! バレバレやっちゅーんよ!」


「・・・・・・くっ殺せ!」


「きゃははははははは!!」



 終わった・・・・・・

 教室に入る前にバレしもた。

 いやでも、コイツやったら、何とか黙っててもらう事もできるかも? ああ~でもソレやったら、コイツに弱み握られる事になるしなぁ~くっっっっそぉ━━━━!!

 セーラちゃん今世紀最大のぴーんち!

 でもココは、背に腹はかえられぬっ!



「おい! 千春っ!」


「わっ! ビックリした! なんよ?」


「俺が女の子になったっちゅーことは、他のみんなには黙っててくれ!! なっ?!」


「!・・・・ふふん ええよぉ?」

 不敵な笑みを浮かべる千春。


「んなっ?! なんなその嫌らしい笑みは?」


「別に構わへんよぉ? ほな、私が1番最初のお友達って事にしとこか?」


「?!・・・・お、おお、俺が?」


「俺?」


「あ、ああ、『俺』はマズかったか」


「ええやろ! 別に構わへんのとちゃう? 『俺っ()』でも!」


「!・・・そーやな」


「ふふん 後で、ゆぅ~っくり聞かせてもらうでぇ~~~」


「・・・・・・(汗)」



 取り敢えずは、危機は脱した。

 取り敢えずは・・・

 それに千春の言うように、『(わたし)』と言い直さなくても千春の前なら良いみたいだし、それだけでも随分と楽だ。

 でも、コイツは気を抜いたら、いつ手の平返すか分からないから、気を付けなきゃいけない。

 ある意味、虹音姉ちゃんより手強い。




「ホンマに、虹音姉ちゃんより手強いな」


「え? 誰それ?」


「いや、なんもないよ」


「ふぅ~~~ん・・・ふふん!」


「っっっくぅ~~~」




••✼••虹音の高校••✼••



 その頃、虹音は・・・・・・



「ふぇ えふぇ ぶりぃえっくしょいっ!!」


「あれ? 虹音、風邪?」


「ふぇ? なん?」


「いゃあ! 虹音! 鼻水! 鼻水!」


「うわっ! きっちゃな!」


 ずびびびっ!



 虹音は、豪快にクシャミをして、鼻水をビロォ~ンと垂らしていた。

 そんな虹音を見た女友達は、思わず虹音から飛び退いた!



「あぁあぁあ~もぉ~! 何やってのよぉ~?」


「んぶぶっ! びゃひゃっひゃっひゃ! てっちゅちょーだい! てっちゅ!」


「もぉ・・・ほら!」



 虹音は、女友達からティッシュを数枚貰うと、顔を真っ赤にして鼻をかんだ。



「ありあほぉ~」


 んぐっぶぶぅ~~! ぷぷぷぶぅ~~!!


「あぁ~あぁ~もぉ~もぉ~(汗)」



 そんな虹音の様子を見ていた女友達は、見た目に寄らない虹音のだらしなさに呆れていた。

 そして、虹音は鼻をかんだティッシュを、女友達に渡そうとする。



「にゃはははは! あげる!」


「いらんわ! 金髪碧眼美少女が、振り時計の振り子みたいな鼻水たらしてもぉ! コレがホンマに、年頃のJKかいな?」


「ふぃはははっ! (はな)たれ攻撃(こうげき)(はな)たれたー!」


「何をアホな事を言うてんのよ?」


「きゃっきゃっきゃっ!」



 虹音は、ガッチリ噂クシャミをしていた。



 そして、晴蘭の中学校にて。



••✼••教室前••✼••



「ほら、立って!」


「うえ~ん」

 後ろから千春に抱き起こされる晴蘭。


「!・・・・・・」

 晴蘭を抱えて黙り込む千春。


「・・・・・・何なよ?」


()まこ!」


「じゃかぁーしゃあゴラァ!!」


「あーもーうるっさいなぁ~~!」



 確かに、千春の方が背が高かった。

 まあ、今の俺の身長は、130センチしかないのだから、仕方ない。

 でも、こんなに面と向かって言われると、ブチ切れそうになる。



「何でもええけど、はよ中入ってよ!」


「おう? ああ、うん」


 スス━━・・・トン!



 俺は、教室の引き戸を開けて、教室の中へ入る。

 そして迷うことなく、自分の席に座った。

 良かった! 幸い、俺達以外は誰も居ない。



「よっこらしょっと!」


「ふふん」


「・・・何なよ?」


「セータ、なんかちょっと雰囲気変わったなぁ?」


「はぁん? 俺のこの 見てくれ 見たら判るやろ? 変わったんわ、ちょっとどころとちゃうわ」


「ふぅん・・・」

 頭の天辺から足のつま先まで上下何度も見返す千春。


「そりゃあ、見た目も変わりゃあお前、雰囲気もかわ「違うんよぉ!」

 晴蘭の話に食い気味に言う千春。


「はあん? 何がぁ?」


「前は、一人称が、゛ボク゛やったもん!」


「?!・・・・・・え?」



 そうなのだ。

 元々のこの世界の大晴は、一人称が「ボク」だった。

 でも今の大晴=晴蘭は、一人称は「俺」である。

 今の晴蘭は、元は別のパラレルワールドから来た大晴=晴蘭なので、そんな事など知る由もない。



「ふぅん・・・うん! 今は、゛俺゛って自分の事呼んでるし、雰囲気がぜんぜんちゃうもん!」


「そ、そんなに違うか?」


「うん! 違う! セータと何年の付き合いやと思ってんの?」


「?!・・・・・・そ、そうか?」



 そう言われれば、確かにそうだ。

 千晴とは、小学生からの付き合いで、俺が小柄だったのを、からかってきた女子達の1人だったから。

 一度は抜かした身長も、今ではまた俺の方がまた小さくなってしまったがな。クソが!



「うん! ま、今の方がええかもねぇ?」


「何で!! また俺の事を、()まこいって、からかうんかぇ!?」


「あれは、セータが男子やったからやろ? でも今は女の子なんやから、小っちゃい事をからかうやなんて、せーへんよ! 安心してな?」


「は、はは、そ、そりゃあどーも」



 俺は、漠然と不安を感じた。

「前の一人称がボク」だと?

 何じゃそりゃあ? 俺は、昔から゛俺゛だ。

 べつに変えた覚えは無い。

 コイツはいったい、何を言ってるんだ?

 さっぱり解らなかった。


 しかし、よくもまぁ俺が女の子になった事を、こうもアッサリと受け入れられるもんやな?

 でも、俺が以前は「ボク」って呼んでたって?

 確かに記憶はあるが、どうも実感があまりにも希薄だ。


 だが、この事象は、晴蘭の家族はもちろん、海音の家族も気付いていた事だ。

 何も知らず、何も気付かないのは、当の本人の晴蘭だけなのである。



 では、晴蘭のどこが違うのか?


 実は、元々のこの世界の「白鳥(しらとり) 大晴(たいせい)」は、例のあの事件の日、「大晴が女装剤を飲んで女の子に変身した日」に、この世界の大晴が蔵の扉を開けた瞬間に、この世界とは別の世界、パラレルワールドから来た大晴と、入れ替わってしまっていたのだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・


 ·····━━☞·····━━☞·····━━☞


 ここは、魔法使いの晴蘭の居る世界とは違う別の世界、パラレルワールドのひとつである。

 「魔法」という概念はあるものの、「魔法=架空の存在」とされている世界。


 この世界の白鳥 大晴は、魔法を信じ憧れるる少年だった。

 だがこの世界の「魔法」とは、「夢物語」の中のファンタジーとしての概念とでしか認識されておらず、また魔法そのものは存在しなかった。


 それに、この世界の大晴の母親 (かえで)は、生まれた時から女性であり、また祖母のサクラは魔法使いではなく、普通の人だった。


 歴史が違う。常識が違う。既成概念も既有概念も違う。

 白鳥家の歴史すら全く違っていた。


 ただ近かったのは、大晴が蔵を開けた日が半日ズレていただけで、親友の義斗(よしと)は、蔵には入らなかったのだ。

 それに、祖母サクラもまだ健在だった。


 そして、運命の日の前夜・・・


 この魔法の存在しないパラレルワールドの大晴は、魔法の存在するパラレルワールドの大晴よりも約12時間ほど早く、蔵の中へ入っていた。


 そして、大晴が蔵の中へ入って数時間が経った頃、外はすっかり日が落ちて真っ暗になっていた。

 時刻は夜の9時を回っていた。



「大晴? いつまでやってんの?」

 大晴の母親 楓が声をかける。


「ああ? うん どうせもう夏休みやし、もうちょっと見てみたい!」


「あそう? あんまり遅くならんよーにな?」


「あいよー!」



 大晴は、蔵の中にネットオークションで売れる物はないかと、探していた。

 サクラ婆ちゃんから、蔵の中の物は、自由にして良いと言われていたからだ。

 ところが、その1時間後・・・



「あれ? んもぉ! 大晴は蔵の扉を開けっ放しにしてんのかぇ? しゃーない子やなぁ?」

 蔵が開いている事に気付くサクラ。


 キィイィイィ~~~パタン!

 ガチャガチャ・・・カチン!


「あん?」

 入口を閉められた事に気付く大晴。



 なんと! サクラは、大晴がまだ蔵の中に居る事を知らずに、蔵の扉を閉めて、鍵まで掛けてしまったのだ。



「おっ?! まさか・・・」


 タッタッタッタッ!

 ガタゴタガタゴタ!


「うおっ?! 何じゃこれ?! 鍵閉まってるやんか!! おーい!」


 バンバンバン!


「!!・・・・・・マジか」



 この時、大晴は蔵に閉じ込められてしまった。

 運悪く、スマホも持っていなかった、

 大晴は、すぐさま大声で叫ながら、蔵の扉や壁を叩きまくったが、蔵の鍵が開けられる事はなかった。

 なにせ、サクラは耳が遠かったのもあり、母親も大晴は既に部屋に戻っていると思っていたので、誰も蔵を確認する者は居なかった。


 途方に暮れる大晴。


 大晴は、しばらく大声を出したり、蔵の扉や壁を叩き回っていたが、数時間後には疲れ果ててしまい、グッタリと蔵の扉にもたれかかって座り込んでいた。

 夜になったとはいえ、真夏の夜の蔵の中は蒸し暑い。

 段々と大晴は衰弱し、喉は乾くし、お腹は減るし、トイレにも行けないしで、このまま死ぬのかと思った。


 とにかく、何かしていないと不安になる。


 蔵で見付けた本を読んでみた。魔導書みたいで面白そうだが、何が書かれているのか読めない。


 うたを歌ってみた。ただ虚しいだけだった。


 箱を開けてみた。何か壁に穴でも開けられる物はないかと探してみた。壁に穴を開けられる程の頑丈な道具は見付からなかった。他に特に目に付く物は無かった。


 窓を開けようと、棚に登ってみたが、格子が付た開口部だったので無駄だった。


 何か動かしてみて、他に外に出られる開口部が無いか探してみた。どこにも開口部など見付からなかった。


 何か食べ物や飲み物がないかと探してみた。ある訳がなかった。変な水色の液体が入った小瓶を見付けた。あまりに喉が乾いたので、飲みたいという欲求に負けて飲んでしまった。甘い桃の味がした。

 その後、何だか体調が悪くなったが、酷い疲れと空腹で、身体の異変には気付かなかった。


 スイッチを操作してみた。壁かけカラクリ時計があったので、調べてみたら小さなスイッチがあったので、適当に操作した。

 何となくネジを巻いてみた。

 すると突然ゴーン!と鳴って驚いた!

 それと同時に、頭の中がフワッとして、クラクラした。

 何だか夢みたいな気分になってきた。

 時計の時刻は、9時を指していた。


 出口へ向かうが、やはり鍵は開いていなかった。



 そして、何時しか眠ってしまっていたようで、ふと目を覚ますと、もう朝になっていた。

 なんと大晴は、12時間も蔵の中に閉じ込められていたのだ。

 そうとは知らない大晴。

 とにかく、朝なら声や音を出せば誰かが気付いてくれるはず!


 大晴は、また扉や壁を叩こうと立ち上がるが、何だか妙な違和感を感じた。



「あれ? 身体が透けてる・・・・」



 そうなのだ。大晴の身体は、まるで煙のように透けていたのだ。

 途轍も無い恐怖に襲われる!

 このままだと死ぬんではないか?と思ったが、それ以前に消えてしまうかも知れないと思った!

 慌てて声を張り上げようとするが、なぜか声がまったく出ない!

 立ち上がった感覚はあるのに、地面に足を着いている感覚が無い!?



 『何じゃこれ?! どないなってんじゃ! 消える?! 消えてまう!! 嫌や! 消えたくない!! 誰か助けて!!』



 自分では思い切り叫んでいるつもりなのに、まったく声が出ない?!

 手を目の前に動かしても、煙のように透けた手が薄っすらと見えるだけ。

 嫌だ! 死にたくない! 消える! 消えたくない!!


 大晴が、精一杯叫んでも声は出ないのだが、外から何やら音がした気がした。

 音は普通に聞こえるようだ。


 確かに音がする! 声もする!! え? 誰の声? 義斗?!

 蔵の外に居るのは義斗だと分かった。

 だが、もう1人の声もきこえる。

 誰だろう?

 え? 自分の声? 有り得ない!!

 でも、助かるなら誰だっていい!!



 『義斗━━!! ここを開けてくれ━━!!』


 精一杯、声にならない声を張り上げる!

 そして・・・・・・



 ガチャガチャ・・・・・・カチン!



 蔵の鍵が開いた音が確かに聞こえた!


 と、その瞬間!!


 何か身震いがし、心の中の何かが火花を散らして弾けたようなイメージが浮かんだ。

 それと同時に頭がフラッとした感覚に襲われた!!


 いったい何が起きたのか、理解できなかった。

 しばらくすると、扉が縦に割れたかのように、縦に一筋の眩しい光が差し込んだ!

 大晴は、扉が開いたと確信して、扉に向かって飛び出した!


 ・・・・・・が、何かにぶつかったような気がしたが、何の音も衝撃も無く、気が付いたら、義斗と一緒に蔵の扉を外から開けていた。


 何だ? 何が起きた?

 蔵から出たいと思っていたはずなのに、今は蔵の中へ入りたいと思っていた。


 ・・・・・・何が何だか解らなかった。


 この時、2つのパラレルワールドが干渉し合い、互いに影響を与え、魔法の存在しないはずのパラレルワールドへ転移した大晴は、女の子へと変身してしまったのだった。



☜━━⋯☜━━⋯☜━━⋯


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・



 晴蘭は千春に、夏休み中に自分に起きた事を包み隠さず全てを話した。


 自分が魔法使いの家系の息子だった事も、女装剤を飲んでしまって、女の子に変身してしまった事も。

 でも本当は、魔法の存在しないパラレルワールドの住民だったのだが、そんな事など晴蘭は知る由もない。



「どうしたん?」


「え? ああ、うぅん! 何でもええけど、俺が元男の゛白鳥(しらとり) 大晴(たいせい)゛って事は、絶対にみんなには秘密やぞ?」


「分かってるってぇ! 言わへん言われん!」


「・・・ホンマにだいじょぶやろなぁ? もし、俺が元男の白鳥 大晴やとみんなにバレたら、俺はこのガッコには居れんようになるんやからな!」


「そんな事ないやろう?」


「そんな事ある! だいたい、気持ち悪いやろう?」


「ええ? 何が?」


「いや、だから、俺は元男のなんやぞ? お前、女になった俺のこと気持ち悪いって思わへんのんか?」


「うぅん! 別に思わへんよ? 小っちゃくて、可愛いとは思うけど?」


「かわっ・・・か、からかうな!!」


「本気で可愛いと思ってんのにぃ~」


「う、うぅ、うっさいわぁ!!」


「んじゃ、私らだけの、秘密な! ひ・み・つ♡」


「ひみつぅ? お、おう・・・」



 千春は、晴蘭の頭を抱え込むように、後ろから晴蘭を抱きしめた。

 晴蘭は、千春に弱みを握られてしまった感があるが、どうやらしばらくの間は、この学校に居られそうだと思って少しホッとした。



 千春は、俺の首に巻き付くように後ろから俺を抱きしめる。

 

 コイツ、こんなベタベタする奴だったっけ?

 ああ、そうか。今の俺は女の子だからか。。。

 あれ・・・?

 なんか良い匂いする。

 はて? どっかで嗅いだことのあるこの匂い。なんだっけ?

 あ、そっか。

 母親と、虹音姉ちゃんと、海音の匂い?

 甘い香りだった。

 なんで、コイツからこの匂いが?



 それは、いわゆる「女の子の匂い」である。


 この匂いは、余程意識しないと、女の子同士では気付かないものだ。

 よく気付くのは、異性である男の場合である。


 男が感じる「女の匂い」や、女が感じる「男の匂い」のように、異性としてなら良く気付くものだ。

 あと、特に女性、母親になると、「男の子の匂い、女の子の匂い」に、よく気付くものらしい。


 つまり晴蘭は、身体は正真正銘の「女の子」だが、心は未だ「男の子」だということだ。

 だから女の子の匂いに敏感に感じられたのだ。



 はは・・・コイツも女の子やったんやっけ。

 こうやって見ると、なかなか可愛い顔してるやん?



 晴蘭は今まで千春のことを「苦手な嫌な奴」としか思わなかったのに、急に女の子として見た瞬間だった。



「ホンマに、小っちゃく可愛くなったなぁ?」


「うっさい黙れ! 小っちゃいゆーな! ナデナデすなっ!」


「ねえ、ツインテールにしてもいい?」


「はぁっ?! 嫌じゃよそんなガキっぽいのん!」


「うぅん 絶対似合うと思う! 絶対に可愛いと思うんやけどなぁ?」


「嫌じゃっつったら、嫌じゃー! ああーもぉ! 抱きしめるな!」


「あはははははっ! ホンマに可愛い! セーラちゃん♡」


「せっ・・・セーラぁ? くっ 殺せぇ!」


「きゃははははは!!」


「・・・・・・」



 晴蘭は、千春に無闇矢鱈(むやみやたら)とベタベタされる事に困っていたが、正直なところ満更でもなかった。


 この時、千春のステータスにある称号の、「紀州真性百合(きしゅうしんせいゆり)娘予備軍(こよびぐん)」が、「紀州真性百合(きしゅうしんせいゆり)()」に、書き変わった!


 そして晴蘭のステータスの称号もまた、「紀州百合(きしゅうゆり)娘予備軍(こよびぐん)」から、「紀州真性百合(きしゅうしんせいゆり)娘予備軍(こよびぐん)」へと書き変わった。



 かつて、俺を「チビ」と言ってからかってきて苦手だったはずの千春は、俺のことを「セーラちゃん」と呼ぶ秘密を共有する女仲間になった。





「千春」。

彼女は、かつて大晴を小さいからと、からかっていた女の子の1人だった。

そんな娘に、弱みを握られる羽目になった晴蘭。

これから、どうなる事やら・・・


ってな感じです。

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