第七話(最終話)
私はその日の帰り、いつもと同じように駅のホームで音楽を聴きながら電車を待っていた。校庭のドアを開けてからなかなか興奮が冷めない。このような形で早希ちゃんと再会するとは思っていなかったからだ。
ただ、それよりも驚いたのは10年以上経っているのにあの校庭、あの空閑の2人は当時の関係と何も変わらなかったことである。10年ぶりに起動したゲームがきちんと前にセーブした箇所から始まったみたいに2人の時間は再開した。私は校庭開放に慣れてしまったせいで忘れかけていた戻れることのない世界へ戻ることの神秘さを改めて感じた。それと同時に、あの頃の早希ちゃんに会うことで開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったようななんとも言えない罪悪感も感じた。
「あの……。これ、いま、落ちましたよ」
私がそんなことを考えながらスマホの画面ををじっと睨んでいると、ホクロが印象的な女性がそう言いながら私にひし型の目薬を手渡した。たしかに私がポケットに入れていたはずの目薬がなくなっていた。おそらく同じくポケットに入れてたイヤホンを取り出す弾みで落としてしまったのだろう。きっとそうだ。
「どうも……」
そう返すまでに変な間が生まれてしまったのを誤魔化す方法が思いつかなかった。私はその女性から目薬受け取り、女性に軽く一礼してちょうど駅に到着した電車に乗った。女性はどうやら次の各駅停車に乗るようだ。
僕は明日も校庭で遊ぶかもしれないしもう校庭には行かないかもしれない。さきちゃんも明日校庭に来るかもしれないし来ないかもしれない。
ただこの女性と私はもう会うことはないだろう。なんとなくそんな気がした。
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