第五話
校庭開放の魅力にすっかり取り憑かれた私は校庭に行く日を次第に増やし、しまいには営業日である平日はほぼ毎日通うようになっていた。店の強気の値段設定も校庭に行って得られる満足感に比べればどうでもよくなっていた。校庭内でよく遊ぶ友達もできた。私にとってこれは普段の生活を忘れて小学生に戻れる画期的な手法となっていた。
とはいえ別に魔法で小学生になれるわけではない。身も蓋もない話だが、日によっては今日は小学生になれないなというときもあるのだ。しかし、私はそんな日こそ必ず校庭に行くようにしてた。どんなに現実世界で憂鬱なことがあっても、子供たちが遊んでいるのを見ながら1人でボーッと鉄棒をしたりしていると、ストレスの溜まった会社員から先生に怒られて落ち込んでる小学生のような気分になれるのだ。
正に今日はそんな日だった。仕事で自分でも信じられないようなミスをしたのだ。明日からこの処理に追われることを考えると胃が痛くなる。それでも私が向かう先はいつもと同じだ。最低限今日やらなければならなかった不手際の処理を片付けると残りは明日に回して、19時半ごろには退勤した。
それからはいつもと同じだ。会社から家に帰ってカバンを玄関に投げ捨てると、さっさと着替えを済まして家をでる。そして家に帰ってきた電車と反対方向の電車に乗って校庭の最寄り駅まで向かい、小走りで店まで急いだ。店に着いた時刻は21時近くだった。着替えやら何やらを考えるとこのように一度家に帰ったほうが効率がいいと気づいたのである。それでも今日は仕事が長引いたから1時間遊べるかどうかというところだろう。
店に入ってすぐ受付の女性に20時台スタートの料金6,000円を受付に手渡し、校庭への扉を開けた。最初の頃に比べると大分慣れたものである。
扉を開けて校庭に入った僕は
「ひかるくん!やっと来た!今日は氷鬼やろー」
と言うなおきくんにごめん、今日はいいやと返して隅の方にある砂場へと歩いた。悪いが今日は1人で砂の小山でも作っていたい気分なのだ。
僕が誰もいない砂場に座って砂を触り始めてすぐだった。1人の少女が少し震えた声で背後から僕に話しかけてきた。
「ひかる君は、みんなと一緒に遊ばないの?」
「今日はそんな気分じゃないんだー」
不貞腐れたようにそう言いながら振り返った私はとてつもない衝撃を受けた。一瞬何かルール違反をしてしまった錯覚に襲われたが、絶句して声が出なかったことが幸いした。