第三話
「ごめんなさい。おっしゃってる意味がよくわからないのですが」
あまりに唐突な店員の小学生になれ、と言う指示に私は自分の耳を疑った。
「校庭内では大人であることを忘れていただきたいのです。口調を小学生っぽくしたり……」
「小学生を演じろってことですか?」
私が半笑いで呆れたようにそう話を遮ると店員はいたって真剣な口調でこう返した。
「演じるというのは少し語弊があるかと存じます。もちろん口調とかはそうかもしれませんが、校庭には遊具や遊び道具があってそれらで遊ぶお客様もいらっしゃるわけですからその空間に入れば小学生になったも同然です」
「はあ」
「逆に言えばですよ、皆さん小学生になってるわけですから校庭では勝手に大人に戻るような行為は慎んでください。例えば仕事の電話に出たり、他の方と連絡先を交換したり。あと、校庭外の話をしたりするのもおやめください」
「他のお客さんも皆さんなりきってるんですか」
「ですからあまり演じるとかなりきるとかいう言い方は……」
店員が少し呆れたようにそう答えたので私は咄嗟にすみません、と謝った。
「小学生の頃した遊びは大人になっても楽しいものです。ただ実際には周りの目が気になって一緒にそのような遊びをしてくれる人はいません。その点、ここであればお互いに知らない間柄ですから思う存分楽しめます。それに、仮にここで知り合いになっても小学生でいる間に知り合った仲ですから、外に出たら他人みたいなものです」
知らない間柄の方が緊張したりもしそうなもんだ、なんて反論が出かかったが、店員の言ってることにも一理ある気がした。
「一応ドームは12ヶ所の出口から出られるようになってるので、皆さん時間をずらしたり出る場所を変えたり工夫されてます。わざわざ”大人の状態で”外で会う必要はないので」
まあ知り合いも少ないし、最悪その出口とやらからすぐ出てしまえばいい。私は半ばやけくそでそのルールを了承した。
すると店員は、ではお好きなタイミングで、お辞儀をしてメニューやら受付表やらを手際よく片付けはじめた。
小学生になるなんて本当にできるのだろうか。急になんともいえない緊張感が高まってきた。しかし、受付を済ました以上、このだだっ広い部屋にいつまでもいるわけにいかない。私は意を決して白い扉に向かって進みその戸を開けた。