表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第二話

 その日は仕事も19時過ぎには片付いたので、仕事帰りにホームページに記載してた住所をたよりに校庭開放とやらがある場所に足を運んだ。できれば荷物は無い方が良いと書いてあったので、駅のロッカーに仕事のカバンを入れておいた。思ったよりも駅から遠く、30分ほど歩いたが、周りに営業中の店舗が少ないのとホームページに丸っぽいドームが目印と書いてあったので方向音痴の私にもすぐに見つけることができた。

 

 コンビニよりもこじんまりとした感じの真っ白い建物でたしかに後ろに小さめのドームらしきものがある。入口のドアのところには「校庭開放中」と彫られた木造の看板がちょうど居酒屋の「営業中」の札のように立て掛けられていた。ドアを開けて店の中に入ると、驚くことに天井も床も壁も外見同様真っ白で正面にカラオケ店のような受付のカウンターがあるだけだった。他にお客さんもいないことも相まって若干の不気味さを感じさせる。受付には暇そうに女性の店員がスマホをいじっていた。

 

 こんな店で何ができるというのだろうか。不信感が増す中、勇気を出して恐る恐る店員に話しかけた。

 

「あの、予約とかしてないのですが……」

 

 そう言うと店員は少しびっくりした表情をして持っていたスマホをポケットにしまいながらこう答えた。

 

「あら、初めての方ですか。大丈夫ですよ、満員なんてことは基本ないので。本店のシステムはご存じですか?」

 

「いえ……」

 

 そらならばと店員はメニューらしきものをカウンターから取り出して早速説明を始めた。


「本店は校庭で自由に遊べる施設となっております。フリータイムで先払い制となっております。料金はいま19:45ですので、こちらになります。」


 店員はメニューの中の「料金」と書かれた表の19時台スタートのところを指で指した。


 私は一言で言うとガッカリした。「校庭開放」なんて意味ありげな店のネーミングだったから何かあるに違いないと勝手に思っていたのだが、まさか名前のままとは。それに店員が指差した値段は8,000円。結構な額だ。客が少ないから1人当たりの単価を上げようってことだろうか。

 

 私は少しイライラしつつも平静を装って店員にこう尋ねた。


「そもそも校庭なんてどこにあるんですか?」

「そちらの扉の先です。いらっしゃる時にドームが見えませんでした?そこに繋がっているんです。午前中は近隣のお子様用に開放したりしてるんですが、夜はこのように私たちが使用しております。」


 そう言って店員は部屋の右奥を示した。最初は壁に同化していたため気づかなかったが、目を凝らすとたしかにドアらしき枠と取っ手が見えた。

 

「お帰りになる際もこちらの受付からではなくドームの出口からご自由にお帰りください。」

 

 どんどんと話を進める店員にやっぱり今日はやめときます、なんて気の弱い私は言えなかった。校庭なんて久しく足を踏み入れてないし、1日くらいいいか、8,000円というのも払えない値段じゃないし。私は無理やりそう思うことにした。


「わかりました」

 

 すると店員がどうぞ、と受付用紙とボールペンを差し出したので私はそこに名前やら住所やら簡単な記載をしてお金を支払った。

店員はありがとうございます、と用紙を受け取りレジに私が渡したお札をしまうが否や、


「あと1点重要なルールがあるのですが…」

 

とさっきより真面目な面持ちになってまた話始めた。


 おいおい、大事なことは受付とか支払いを済ます前に言ってくれよ。まさか追加料金がかかるとか言い出すんじゃないだろうな。私が怪訝な顔をしていると店員はこう続けた。


「校庭に入ったら小学生になってください」

「はい?」


 日々の仕事の疲れのせいではないと思うが。私は店員の言葉の意味がよくわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ