第一話
「Nolaノベル」にも投稿しています。以前投稿した「校庭開放」を削除の上、加筆修正したものです。
「校庭に入ったら小学生になってください」
「はい?」
受付に不意にそう言われた私は、やはりまずい店に入ってしまったな、と顔をしかめた。
――――――――――――――――――――――――――
「校庭開放」
広告枠の中央に太く大きくそう書かれていたので、パラパラと新聞を読んでいた私の目にもすぐに留まった。
「エコノミスト」なんて大層な肩書きを持つ私は、株価やら為替やらその他ニュース諸々を新聞で把握するのが毎朝の日課となっていた。もっとも、新卒2年目の私がそれだけで経済の動向の分析ができてるとは言わないが。
ともかく、新聞はそんな理由で購読してるため普段広告をまじまじと見るなんてことはないのだが、今回は違った。その目を引く漢字4字に加えてその下に添えられているキャッチフレーズが私の心を揺さぶったからだ。
「〜子供心を忘れたあなたが子供になれる場所〜」
子供心。なんていい響きだろう。大人になった今、小学生の頃が恋しくて仕方がない。小学5 年生の春から父親の仕事で中学卒業まで間、アメリカに住んでいた私は持ち前の英語力でそれなりの高校、大学を卒業し、それなりに有名な企業に就職した。
だから、別に今の生活に不満があるわけじゃない。なんなら小さい頃は大人の方が良いとさえ思ってた。好きなゲームが欲しければ誕生日を待たずとも手に入れられるし、お菓子だって1日100円までじゃない。親にも先生にも腹立つことを言われないし、なんて自由気ままなんだと。
でも、大人になってから小学生の時間の崇高さに気づいた。家に帰ってランドセルを玄関に投げ捨てるや否やみんなと待ち合わせしてる公園に向かって急いで自転車を漕ぐ。そして公園ではよい子の鐘が鳴るまでゲームやら鬼ごっこやらに没頭する。そんな子供たちが作り出す「空間」に敵うものはないのだと。
「7時から10時とはやけに短いな」
校庭開放の広告の箇所を熱心に読みながら私はぽつりとつぶやいた。どうやら校庭開放は住んでるところの最寄りと会社のある駅のちょうど間の駅から少し歩いたとこにある店舗らしい。しかし、営業時間が19時から22時なうえ平日だけとはそれほど儲かってるということなのだろうか。なまじエコノミストなんて職業についてるのもあってその営業スタイルには関心を示さずにいられなかった。
当然、胡散臭さも感じた。ネットで検索して出てきたホームページに書いてる情報は新聞の記載に毛が生えた程度だったし、口コミも一切なかった。それでも新聞に掲載されてることと家から近いこと、「子供になれる」という魅力的な売り文句は、仕事以外スカスカの私スケジュール表を埋めるには十分だった。