第069話 急なデート
翌日、唐突にやることがなくなってしまったので、午前中は丸焼けになってしまった部屋の解約手続きを行い、午後になってから散歩がてらベレッタの家に向かった。
居なかったら図書館にでも行こうと思いながらドアのベルを鳴らすと、
「おわっ、ルシェか。おはよ」
ベレッタが出てきた。部屋着というか、楽そうな格好をしている。
「おはよ。昨日はありがと」
「いいのいいの。それより、どしたの? 急に」
「急に暇になっちゃった」
「暇?」ベレッタは訝しげに言った。「昨日まであんなに忙しそうにしてたのに?」
「うーんと……」
おれはかいつまんで暇になった理由を説明した。
「そうなんだ。まあ、それもそうだよね。原因まで調べたんだから、あとはあっちの仕事か」
「そういうことみたい」
「じゃ、今日は丸一日オフってことね。今日はヘルミーネさんも別件の用事があるっていうから、私も家で進めようと思ってたんだ」
そりゃ都合がいい。
「ベレッタも暇なら、どっか遊びにいく?」
「うん。じゃ、ちょっとだけ待ってて。すぐ着替えてくるから」
ベレッタはそう言ってドアを離すと、小走りで家の中に走っていった。
◇ ◇ ◇
「まだお昼食べてないよね? 目をつけてたお店があるから、今から行こ」
「なんのお店?」
「バラベーダ料理のお店。よく知らないんだけど、霊魂学部で知り合った人のオススメ」
「バラベーダか。なら、たぶんお魚の料理だね。おれも初めて食べる」
バラベーダは港を多く抱える半島国家で、地理の本によると魚介料理が有名らしい。
「じゃあ、楽しみだね」
「うん」
そう返事をしたとき、差し掛かった横の路地から気にも留めないほどのそよ風が吹いてきた。
次の瞬間、唐突にベレッタが俺の服の袖を掴み、引っ張ってきた。
「わっ」
どうしたどうした、と思っていると、ベレッタは肩のあたりに鼻をおしつけてクンクンと匂いを嗅いでいる。
「えっ、なに」
「……ルシェ、なんか変な匂いがする」
「えーっと、っと……飛び込みで泊まろうと思ったら古いホテルしかなかったらしくて……洗濯を任せたからじゃないかな?」
「ふーん……そういう質の悪い洗剤の匂いじゃないけどなあ……むしろ高級な……」
やってしまった。そりゃそうだ。
「……もしかして、浮気じゃないよね?」
浮気って……付き合ってるわけでもないのに……。
しかし下手なことを言うと厄介なアレが悪化してしまう恐れがある。
「えーっと、なんで?」
と誤魔化すと、ベレッタはおれの顔を直視した。う、疑っている……。
「……でも、浮気するほど暇じゃなかったはずだし……やっぱ違うか……」
ベレッタはうすく殺気のただよう寒気のするような目をしながら、おれの袖を離した。
「じゃ、行こっか?」
さっと顔を笑顔に戻したベレッタが、にこやかな笑顔をして言った。
これが女の勘ってやつか……。
◇ ◇ ◇
「あー、美味しかった。ちょっと予想と違ったけど、ああいう料理がでてくるんだねえ」
ベレッタはどうも、でっかい焼き魚みたいなものが出てくるものだと思っていたらしい。
けれども、出てきたのは魚介をどっさりと使ったパエリアのような料理だった。
「うん。ああいう魚とか貝とかって、久しぶりに食べた気がする」
「私、焼いた川魚しか食べたことなかったからさー。けっこう感動しちゃった」
「たぶん本場で食べたらもっと美味しいよ。魚介類って運んでる間に傷んできちゃうからさ」
「そーなんだ」
「バラベーダだと、お酒で拭いた大きなテーブルに、大鍋で調理した山盛りの魚介をぶちまけて、素手で食べながらお酒を飲むのが宴会の定番なんだって。一つだけ使われてない大テーブルがあったけど、それ用なんじゃないかな」
「あー、あったあった。椅子が置いてない謎のテーブル……えっ、素手で食べんの?」
「うん。今日のは全部剥いてあったけど、殻付きのエビとかカニみたいな食材って、食器で食べようとすると面倒くさいから」
机に直接ぶちまけるのは衛生面で若干嫌な感じはするが、それを言ったら木のまな板だって同じだ。
「ふーん……でも、男の子の料理って感じだね。私はちょっとなぁ」
確かに、女の子だとソースのついた魚介類を素手でがっつくというのは嫌かもしれない。いかにも粗野な漁師料理って感じだし。
「ところでさ、次に行く喫茶店までどこで時間潰そっか?」
喫茶店まで決まってるのか。
「ベレッタの行きたいところでいいよ」
「じゃ、てきとーに散歩しながらお店まわろ」
「いいよ」
ベレッタはウィンドウ・ショッピングをしながら気まぐれに店に入り、すぐに出るのを何店舗か繰り返した。
「さっきから店に入ってるけど、買わないの? 服とか、かわいーって言ってたのに」
「うーん。なんかねー、旅の荷物になっちゃうこと考えると……」
「あー、わかる」
ゲオルグみたいに、本当にバッグ一つで暮らすというのは、いざやろうとすると結構大変だ。
「家を引き払うときに捨ちゃうことになると思うと、インテリア系のものとか買いづらいんだよねー」
「本とかも結構迷う。旅荷物に入れるにはかさばるしさ」
「そうそう。まあ、一着シャツが欲しいから、それは買いたいけど」
「じゃ、ちょっと遠回りになるけど五月二十日通りに行こっか。あそこなら揃うでしょ」
五月二十日通りはヴァラデウムの中では高級住宅街に近く、質の高い高級店が並ぶ通りとされている。
「うん。ルシェがいいなら行きたい。いこ?」
ベレッタは嬉しそうに笑って、手を組んできた。
◇ ◇ ◇
「これ、いい」
ベレッタがきらきらした目でセレクトしたのは、見た目ふつうのシャツだった。
襟がついておらず、ボタンを留めてゆく前のラインに沿って、派手にならない程度に細いフリルがついている。上品な仕立てだ。
「うん、いいんじゃない?」
「じゃ、寸法取ってもらってくるね」
当然のように仕立て専門店なので、ベレッタは体の前に当てて鏡で確認しただけで、試着をせずに寸法を取ってもらいにいった。
店を出ると、
「いい買い物した」
と、ご機嫌だった。よっぽど気に入ったのだろう。
「じゃ、次はあの店いこっか?」
ベレッタが指さしたのは、小洒落た雰囲気の雑貨店だった。
古びた感じから年季を感じさせるが、店の表向きは小綺麗な印象を感じさせる。中古品――というより、アンティークも取り扱っているようだけれども、埃をかぶっているようなものはなく、ゴミ同然の品物が並んでいる様子もない。
「インテリアは買わないんじゃ?」
「見るだけでも楽しいじゃん。嫌?」
「いや、嫌ってわけじゃないけど」
「ほらほら」
ベレッタはおれの背中を軽く押しながら、雑貨屋に連れて行った。
いざ入ってみると、ふーん……と、ちょっとだけ興味をそそられるような品々が並んでいる。
誰が作ったのか、竜の口がかたどられた置き物で、口から火が出る付呪具になっているものもあった。キッチンでは使いにくい形をしているので、客間にでも置いておいて煙草に火をつける用途なのかもしれない。
まあ、買う気は起きないけれども。
「あっ、ほねだ」
唐突に、よくわからない言葉がベレッタの口から発せられた。
「ほねだ?」
「ほね、だよ。見たことない? これ」
「なに?」
そこにはなんだか平べったい棒のようなものがあった。
たしかに骨っぽい。人間の肋骨のようにも見える。
ただ、古くなって風化した骨とは違い、質感は石に近い。
「初めて見た」
「まあ、大したものではないからね。役に立たないし」
「なんの骨なの? 化石?」
「知らない。興味ないから」
「ふーん……」
手に持って調べてみる。
折れている断面をよく見ると、組織の間からキラキラと宝石のような魔導光がきらめいていた。
それがなんとも美しい。竜人の遺骨かなにかだろうか……いや、そんな感じでもないか。やはり何かの生物の骨という感じがする……。
ふーむ……なんだか無性に惹き込まれる感じがする。
特定の動物の骨が化石化の過程でこうなるのか……あるいは、オパール化のような地質的要因でこうなるのか……見ただけでは、さっぱり分からなかった。
あとで、ものの本でも読んで調べてみようか。
「……ルシェ?」
唐突に肩を掴まれた。
「まだ見てたの? 十分くらいそうしてたけど」
えっ。
十分も?
「ああ、いや、今いくよ」
おれは慌ててほねを棚に戻した。
「欲しいの?」
「いや、欲しくないよ。ちょっと見てただけだから」
「ふーん。じゃ、買うものあるから先に外でてて」
買うものがあるのか。
おれは少し惜しいような気分を感じながら、その場を離れて店の外に出た。
ベレッタはすぐに出てきた。手にはラッピングされた棒を持っている。
「はい、プレゼント」
……そういうことか。
「ありがと」
「いーのいーの。たまにはこういうこともさせてよ。ルシェからは貰ってばっかなんだからさ」
プレゼントをした記憶はないので、これは別のもののことを言っているのだろう。
「ま、いらなくなったら捨ててもいいからさ。ほねだし」
「ほねってなんなの?」
「さあ? 私が知ってるのは、なんの役にも立たないことと、集めてる人がいるってことくらいかな」
「そうなんだ」
集めてる人もいるのか。
……どこかにこればっかり集めた博物館とかないかな。
◇ ◇ ◇
「さーて、ここが例の喫茶店だよ」
「いい感じだね」
黒に近い緑色に塗られた玄関が美しい。木目調のきれいな喫茶店だった。
ベレッタが扉を開けると、カランカラン、とドアチャイムが鳴った。
すると、店員より先に駆けてくる影があった。
小型のきつね? みたいな動物がすたたっ、と敏捷な動きで寄ってきて、こちらを見上げている。
「かわいーっ!」
ベレッタが今まで聞いたこともないような黄色い声を発した。
たしかに可愛い。大きくピンと立った耳とシュッとした顔立ちは猫と少し違い、どちらかというとフェネックに近いように見える。
これが話に聞くニャコか。ネイの家では昔飼われてたらしい。
少し待って自分に好意を持っている人間だと分かったのか、ニャコはベレッタに駆け寄ると右足の周りを回り始めた。たまに左足をからめて、∞の形に回っている。すごく活発で敏捷な動物のようだ。
「る、ルシェ、どうしよ?」
「さわっていいのかな?」
迷っていると
「いらっしゃいませー」
と、奥から声がした。
「お二人様ですか? こちらへどうぞー」
そう言いながら、ベレッタの足元にサッとしゃがむと、くるくる回っていたニャコをスパッとキャッチし、慣れた様子で抱きかかえてしまった。
直前まであれだけ活発だったので暴れるかと思ったが、意外なことに抱きかかえられた瞬間にしゅんと落ち着いていた。
「初めてなんですけど~、その子たちって自由に触っても大丈夫なんですか?」
「ええ、もちろんです。あまり嫌がることはしないであげてくださいね」
「りょーかいです」
「こちらの席でよろしいですか?」
と、壁際の席に案内された。
「はーい、大丈夫でーす」
「では、メニューをお持ちしますね」
そういって離れていくと、会話を始める暇もなく戻ってきた。
「すみませんが、お水はこの子たちが舐めてしまうので提供しておりません。お飲み物はお茶の注文をどうぞ」
そういう仕組みなのか。
「お店で出されたものを食べてしまわないのですか?」
と、おれは興味本位で質問をした。
お客様の食事には手を付けない、みたいな超越的な知能が備わっているようには見えない。
「そこは大丈夫です。お客様用のメニューのものはすべて、この子たちが嫌いな味付けにしてありますので、口をつけようとしません。もちろん、私達の口には美味しいものばかりですよ」
へー。上手くできたシステムだ。
「では、ご注文が決まりましたらお声がけください」
去り際に、店員さんは片手で抱いていたニャコをベレッタの膝の上に置いていった。
「かーわーいーいー。めっちゃ可愛すぎる」
ベレッタは店員さんのやり方を模倣して片手で上手く抱え、首筋などを撫でている。
おれはテーブルの上にあるメニューを開いて見た。
お茶が苦いものしかない。焼茶という、コーヒーに似たようなお茶がメインのようだ。
おそらく、ニャコは苦味を強く感じる味覚を持っているのだろう。食べ物は、クッキーやフロランタンのような甘いものばかりだ。
ネコ科というよりはイヌ科のように見えるが、舌に甘味を感じる機能がないのかもしれない。たぶん、甘いものには人間が気づかない程度に苦味を加えてあるのだろう。人間にとっては甘いお菓子だが、ニャコにとっては苦いだけの物体というわけだ。
下のほうには”ニャコちゃんのおやつ”というメニューもあった。餌あげもできるようになっているようだ。
「適当に注文していい?」
「いいよ~」
ベレッタはかまうので忙しそうだ。
◇ ◇ ◇
ミルク入りのコール茶が二つと、クッキーのような焼き菓子を食べ終わると、動物用のおやつが運ばれてきた。
「手に持って、少しずつ食べさせてあげてください」
と言われて、一人一つの容器が手渡される。
中にあったのは、ビーフジャーキーのような乾いた肉のような食べ物だった。
それが運ばれてきた瞬間、ベレッタの膝の上で耳を伏せて愛でられていたニャコは、急に覚醒したように耳をピンと立てた。
膝の上で立ってベレッタにねだるように頭を擦り付ける。
キュー、キュウッ、と、小さく甲高い鳴き声を発していた。ニャーとは聞こえない鳴き声だ。
「きゃーわーいーいー」
ベレッタは顔を最大限にほころばせながら、ちょっとづつ肉を与えている。
それを見ている間もなく、こっちにも一匹のニャコがやってきた。膝に前足をのっけて、ねだるように長い鼻を容器に向けてくる。
嫌な思い出が頭をよぎった。
おれは、幼い頃、アレが夜の仕事の付き合いでもらってきた猫を可愛がっていた。だが、アレが機嫌を悪くして帰ってきた夜、もみくちゃにかまって噛まれた腹いせに、床に叩きつけられてしまった。
おれは、びくびくと震えて立てなくなった猫を一晩中、なにをしてやったらいいか分からないまま、撫でてやったり温めてやったりしたが、朝には動かなくなっていた。
今となってはどうでもいいことだが……まあ、可愛いと思うものを愛でない理由もない。それに猫とはビジュアルがだいぶ違うし。
おれはニャコに餌をやりおわると、首の後ろのあたりの毛を掻いてやった。
位置を動かさないまま指だけで掻いてやると、ニャコは自分から身を捩らせて、掻いてもらいたいところに位置を調整した。そこを掻いてやると、目を細めて気持ちよさそうにしている。動物相手にこんなことをするのは、ずいぶんと久しぶりの感覚だった。
「そのうち飼いたいなー。ルシェはどう思う?」
「いいんじゃない? 一軒家でも買うことになったら」
「ま、そっか……旅ぐらしじゃ可哀想だもんね」
そのうちって、そんなすぐに飼うつもりだったのか。数年後とかの話かと思っていた。
「ほんとに可愛い。よーしよしよしよし」
ベレッタは手元のニャコをもみくちゃにしている。やられている方はうざそうにしているが、噛みついたりする様子はない。たぶん、特別温厚な子をセレクトして店に置いてるんだろうな……。
「ていうか、例の葛藤は大丈夫なの?」
その子を殺したくならないの? というと店から追い出されるかもしれないので言葉を選んだ。
「……あーっ、可愛すぎて忘れてた。でも大丈夫だよ、いくら好きでも種族ごとってことはないから。個体に執着しない限りは大丈夫」
そりゃそうか。
「でも、じゃー、そうか。飼えないんだねー。残念」
やっぱり駄目らしい。
「……まあ」
動物だったら屍体にして愛でてもだれも文句は言わないし、いいんじゃない。と言いかけたが、それはあまりに無神経すぎる気がしたので、口に出す前にやめた。
「なに?」
「いや、なんでもない」
「ルシェがそんな風に言いよどむのって、珍しいね」
「そうかな?」
そんな発想に至ったこと自体に奇妙な罪悪感を抱きながら、おれは手慰みに手元にいるニャコを抱きかかえた。
すると、なにを思ったのか、ニャコは手元からするっと抜けて、肩に飛び乗った。なぜか興味深そうに、耳や頬を嗅いでいる。耳の近くで、スンスン、と小さな呼吸音が聞こえた。
「なにそれ……うらやましすぎる」
「ひげがくすぐったいよ」
舐めてくるわけではないが、鼻の横にピンと伸びたひげが何本も生えているので、それが耳や首筋に触れてくすぐったい。
おれは肩に手をやって、ニャコを膝に下ろした。
鼻の横に生えている硬く長いひげを指でぴんぴんと弾いてみると、他人にやられると奇妙な感覚がするのか、ニャコは嫌そうな感じで前足でひげをこすった。
ベレッタはおなじことをやってほしいのか、無理やり肩に乗せようとしている。
いじりすぎたのが気分を害したのか、ニャコは肩を飛び越えて席を離れてしまった。
「行っちゃった」
「はい」
おれは身を乗り出して、膝の上のニャコをベレッタに手渡した。
「ありがと。ルシェはいいの?」
「もう十分堪能した」
たまに食べたくなる味をお皿いっぱい食べたような感じだ。もうしばらくいい。
ベレッタは反省したのか、無茶なことはせず控えめにニャコをいじっている。
「こいつのおひげって面白いよねー。ぴょんぴょん跳ねてて可愛い。なんのために生えてるんだろ。人間に可愛がられるため?」
「そんなわけないじゃん。たぶん……風向きを感じたりとか、いろいろあるんじゃない?」
ネコ科のひげはなんのためにあるんだったか……。いや、イヌ科にもひげはあるんだったか。
頭の中で雑学がくるくると巡ってゆく。
「ウィスカ」
くるくると巡る中で、頭の中で突然こうこうと輝きだした単語を、思わず口にしていた。それは、まさに動物のこの感じのひげのことを差す英単語だった。
「うぃすか? なに?」
「ウィスカだ。必死こいて観察してたのが馬鹿みたいだ」
知識だけがデータベースのようにインプットされていても、やっぱり実際に対処した経験がないと弱い。
……こんな単純なことに思い至らないなんて。
「なーんーのーこーと、って聞いてんの」
「いくつかの金属の表面にゆっくりと生えてくる、見えないくらい細い、まさにこのひげみたいな金属組織のこと。ああいう金属を使った回路では厄介者なんだ。あれだけ古い設備なんだから、悪さをしてもおかしくない」
ウィスカは特定の金属から勝手に伸びてくる厄介者で、隣の回路まで達すると短絡を引き起こしてしまう。一番簡単な対策法は鉛を添加することだが、鉛は魔力を通さないので魔導回路に使う訳にはいかない。あの回路の金属も対策は施していたのだろうが、何百年も経つ間に育ってしまったのだろう。
「あー、もしかして、それが究理塔の犯人だったってこと?」
「たぶんね」
「そっかー……」
ベレッタは、名残を惜しむように手元のニャコをくしくしと愛でた。
「そろそろ出よっか?」
「いや、別に……」
「いいの。なんか見るからにソワソワしだしちゃってるし。デートどころじゃないでしょ」
「……うん、正直そうかも」
正直、はやく行きたくて仕方がない。
「折衷案として、一緒に話しながら天文学部まで行くこと。いい?」
「もちろんいいけど、それでいいの?」
「いいよ。べつに、デートならまたすればいいもん。じゃ、行こっか」
デート相手がベレッタでよかった。
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