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竜亡き星のルシェ・ネル  作者: 不手折家
第三章 枢機の都、ヴァラデウム
54/79

第054話 魔族の性質


「ほら、ひとまず家に帰ろうか。これだけの騒ぎだと軍隊がやってくるだろうから、この場にいたら捕まっちゃう」


 おれはベレッタから離れると、手を差し出して立ち上がるのを手伝った。


「……うん」

「こういうときは、先手先手を打たないとね」


 そう言いながら、おれはあらぬ方向に向かっていった。

 先程つくった穴のところにたどり着くと、おれは一度その穴に降りて、切断した板を地表に取り出した。

 板はその厚みから考えると、かなり軽かった。建造物の重量を軽くするためだろうか。

 ゲオルグの聖剣もそうだが、神族はセラミック系の素材を扱うことに長けていたようだ。セラミックの弱点である耐衝撃性、割れの問題をクリアして、こんな場所にも使っている。


「ルシェ、なにやってるの?」

「これだけはごまかしておかないと。後でまずいことになる気がする」


 おれは外に放り出した板を片側はめ込むと、ポケットに入れっぱなしだった財布から銀貨を取り出し、とろとろと融解させて接合していった。

 セラミック系の素材は金属のように融合させることはできないから、こうやってごまかすしかない。銀なら質感が多少似ているからごまかせるだろう。酸化して目立ってくるころには、表土に覆われているはずだ。

 最後に表面をなだらかにすると、まあパッと見わからない、というくらいにはなった。


「よし、逃げよう」


 おれはベレッタの手を取り、その場から離れた。


 ◇ ◇ ◇


「とんでもないことをやらかしてくれたな」


 事件があった夜の次の朝、おれは早速エレミアに呼び出されていた。

 顔がマジだった。


「ばれてしまいましたか」

「警吏が時系列を整理したら、お前の借りた部屋が崩壊したところから事件が始まっている。しらばっくれるのはやめろ。時間を無駄にしたくない」

「それで、死者や怪我人は?」


 結局のところ、問題なのはそれだ。


「……怪我人が四人いるが、いずれも軽症だ。同じ建物の住人が察しがよくて助かったな。崩落するまえに逃げ出したようだ」

「それはよかったです」


 あの大爆発で怪我人が四人で済んだのなら、運がいいほうだろう。歩けない老婆でも居住していたら死んでいたかもしれない。


「なら、賠償でかたがつきますか?」

「……その話の前に、まずなにがあったか言え」

「ちょっと友人と喧嘩をしただけですよ」


 おれがそう言うと、エレミアは眉をひそめた。


「ベレッタ嬢とか?」

「まあ、そうです。ちょっとした誤解が発端だったので、今は問題ありませんよ」

 嘘だけど。

「問題がないわけあるか。市街地で起こったら何千人、何万人の死者が出たレベルの大爆発だ。局地的な地震が起きたんだぞ。ちょっとした誤解とやらでそんな行動を起こす危険人物は、さすがに都市に置いておけん」

「なら、放逐しますか?」

「……そうなるが、庇うわりにやけにあっさりしているな」


 エレミアも、おれの性格がなんとなく飲み込めてきたようだ。


「もし放逐したら、損害に対する賠償金は誰が払うんです? おれは払いませんよ。あの爆発を引き起こしたのはおれじゃありませんし、むしろ家財の損害をベレッタに請求したい立場ですから」

 まあ床や窓を切った覚えがあるが、どのみち全部瓦礫になってしまったのだから関係ないだろう。

「そう来たか」

 エレミアは少し感心したように笑った。

「ベレッタを拘束して借金を背負わせ、完済まで研究に従事させるという方法もあるでしょうが、当然ながら逮捕には抵抗するでしょう。あんな大爆発を引き起こした当人に対して、街中で大捕物を演じるのは得策とは思えませんね。それこそ、市中であの大爆発が起こって、犯人に逃げられるのがオチです」

「いいだろう。お前の提案を聞こうじゃないか」


 エレミアは机の上で腕を組んで、ほら言ってみろ、とばかりにおれを見据えた。


「おれが魔術の実験に失敗して大事故を起こしたということにしてください。大魔術をコントロールできなくなって、塔公園で爆発させたと。そうしたら、損害額はおれが肩代わりして支払います」

「お前一人に払える額ではない。口座の残点数ではまったく足りんぞ」


 すると、被害額は軽く一億円以上ということか。


「高くないですか? 建物が一つ二つ全壊しただけでしょう。あとは究理塔の、あの変なレンガの花壇みたいな木が何百本か崩れたくらいでは」

「あれもそうだが、衝撃波が市街地まで届いて窓ガラスを割った。ガラスの破片で体を切った者も現れるだろうから、賠償するなら彼らにも金を払わねばならない」


 そうだったのか。

 おれがやったわけではないが、悪いことに巻き込んでしまった。


「それと、天文学部が文句を言ってきている。あの一撃によって究理塔が破壊されたのではないかとな」


 あの衝撃によって?

 まあ、剣で斬って壊したことには壊したけど。


「それはよく分からない理屈ですね。そもそも究理塔は壊れていて、使えないわけでしょう」

「地震が起きるほどの衝撃が直上で発生したんだ。どこか新たに壊れていてもおかしくはないという理屈は、一応筋が通っている」

 まあ、それはたしかに。

「ですが、壊れたかもしれないから金を払えというのは無茶苦茶です。具体的に、一週間前に点検して無事だった機能が今日壊れているというのであれば、因果関係を主張するのは理解できますが、そもそも動作する仕組みさえ把握できていないんでしょう」

「それなりに弁は立つようだな。奴らが文句をつけてきたら、その調子で頑張れ」


 ……どうも、この件についてはエレミアも無理筋な要求だと思っているようだ。

 普通、賠償金額というものは残存価値で考えられる。誰も住んでいない廃屋を壊したから、新築で建てた時の金額を払えというのは、誰が考えたってメチャクチャな話だ。

 そもそも究理塔はヴァラデウムが誰かから購入したものではないし。


「まあ、当面の問題は賠償とベレッタ嬢の危険性だな」

「ベレッタに関しては、もう危険性はありません。問題は根本的に解決しましたから」


 本当はなにも根本的に解決していないが、こう言っておいたほうがいいだろう。


「お前が監督するというなら目を瞑ろう。実際、今回は人死にもでていないしな。だが、次似たようなことがあったら、今度は看過できん。覚えておけ」

「分かりました。肝に銘じておきます」

「なら、あとは賠償金だが、お前が背負い込むなら、どうするつもりだ? 一時的にイーリから金を借りるか?」


 いや、なにを言い出すんだこの人は。


「自力で弁済しますよ。いくら高くても、今の生活費になっている論文くらいのものを何本か書けば間に合うでしょう」

「研究テーマのあてはあるのか?」

「あれくらいのものなら、いくらでもあります。ベレッタにも手伝わせますから」

「そうか。なら、一ヶ月くらいの間には結果を出せよ」


 一ヶ月?

 一ヶ月も使っていられるわけがない。


「いいえ、一週間くらいでパパッと終わらせますよ。面倒な仕事は早く済ませてしまいたい性分なので」

「一週間か。ハハッ、まあ、期待してるぞ」

「ええ、期待していてください。しでかした分の責任は、ちゃんと取りますから」


 ◇ ◇ ◇


「よいしょ、っと」


 だいじなものを入れておいたチェストを瓦礫の山から運び出したおれは、埃まみれの体でベレッタの家に戻り、ゴトンと居間に置いた。


「ごめんだけど、部屋を借りるまでちょっと置いといて」

「部屋借りるの? どうせなら、大きな部屋借りて一緒に住まない?」

「は?」


 いやいや、なんでそうなるんだ。


「それは駄目。おかしなことになるから」

「おかしなことってなーに?」


 ベレッタはにやにやしながらこちらを見ている。

 からかってるみたいだ。


「おかしなことはおかしなこと。それよりさ、ベレッタのことを聞いておきたい」

「なーに? なんでも聞いていーよ」

「屍操族のこと。話しづらいかもしれないけど、詳細をできるだけ教えてほしい。どういう性質を持っているのか知っておきたいから」


 おれがそう言うと、ベレッタは一瞬だけ物憂げな顔になった。やはり話したくないのだろうか。


「いーよ。なにから話す?」


 意図的に気持ちを切り替えたのか、ベレッタは意図的に明るい顔をつくって言った。

 おれは勝手に椅子に座ると、ベッドに座っているベレッタのほうに向き直った。


「そもそも、ベレッタが話していたような性質だったら、種族自体がすぐに絶えると思う。一人から一人以上産まれなければ、どうしたって数は減っていくんだから」

「えっちな話だ」


 ベレッタはからかうように笑みを浮かべた。


「……まあ、えっちな話かもしんないけど」

「そこは、決められたお相手と交わるんだよ。つまり、無理にでもえっちするってこと」

 ……なんだそれ?

「国の管理でってこと?」

「うーん……っていうより、昔からの伝統かな? だって、どう考えたって結婚して夫婦ってわけにはいかないじゃん。一緒に寝てたらいつ刺されるかわからない相手と、一緒には暮らせないでしょ」


 うーん、まあ、それはそうか。

 ベレッタのときはおれが特殊だったからなんとかなったが、普通だったら死んでたわけだし。


「屍操族には特例があって、屍体を作っちゃった場合も、一人に限っては無罪放免なんだけどね」


 一瞬、頭が真っ白になった。

 なんじゃそりゃ。

 屍体を作るというのは、要するに殺人のことだ。殺人が無罪って……どういう社会だ。


「……まー、向こうでもそういう扱いなんだよ。魔領では、憐憫すべき者たち、って呼ばれてるくらいだからさ。つまり種族的な不幸を憐れまれてるんだ。だから一回目の殺人くらいは目を瞑ろうって考えなんだよ」

「それでも屍傀亜竜(しかいありゅう)が欲しいから制度に守られてる――っていうか、途絶えないようにされてるってこと? 強制結婚でもない、その……交配を?」


 えっちにならない表現が難しい。


「まあ、そういうこと。っていっても、向こうでは魔王族もそうだから、そんなに不思議なことでもないよ。魔王族は魔王が生まれる弊害なのか知らないけど、死産がすごく多いからさ。女の人は一人以上子供を産むことを義務付けられてるの。まあ、あっちには普通に結婚して産むって選択肢があるんだから、こっちとはちょっと……ていうか、かなり違うけど」


 たぶん大多数を占めてる魔王族でもそうなのか……本当、どうなってるんだ。

 他国の文化的な特色を否定するのもなんだけど、かなりぶっ壊れた社会のように見える。


「あ、私はまだされてないからね。そんな歳じゃないし」


 と、ベレッタは慌てた様子で付け加えた。


「でもさ、そんな状況だったら屍操族の男の子はどうなるの?」


 魔族も、イーリたちルーミ族と同じで、種族的な特徴は母系遺伝すると聞いている。

 ベレッタみたいな女性は価値のある屍操族を()やせるからいいが、男はそうはいかない。好きになった人を殺してしまう気質を帯びているのでは、社会的には殺人鬼予備軍のように扱われるのではないだろうか。


「男の子は産まれてすぐ殺されるよ。全員」

「……まじ?」

「うん。母親の手前、さすがにその場では殺さないけど。決められた崖に連れて行かれて、捨てられるって感じかな」


 …………。


「ま、そういうわけ。こっち側の感覚からしてみたら、なかなかイカれてるでしょ」

「……うん、まあね」

「そんでさー、やっぱり好きになられたら殺されるってなったら、誰も私たちに近づこうとは思わないわけじゃん。まあ、特別に保護されてるから虐められたりはしないんだけど、ずーっとうんざりする毎日だよね。だから子供の頃から魔術に打ち込んでたんだけど、そのうち才能を認められて魔王様に拾われたわけ」

「前に言ってた、屍傀亜竜(しかいありゅう)の乗り手として?」

「うん。自分で言うのもなんだけど、私、向こうでめちゃくちゃ頑張ったんだよ。最後はもう……なんていうか、誰も文句を言えない超精鋭って感じ。うちの屍傀亜竜(しかいありゅう)って、ロックハートっていう名前の体中が鎧で覆われたような地竜なんだけどさ、それに乗りながらあの超魔(オーバースペル)を使ってたら最強でしょ? 魔王様もかなり期待をかけてくれててさ」

「そりゃそうだ」


 そんなの、一種の戦術兵器みたいなものじゃないか。

 ゲオルグみたいな万能のコマを当てたら勝てるのかもしれないけど、そういった亜竜は一人しか乗せられないわけではないだろう。空を飛ぶわけではないのだから、重量制限はかなりゆるいはずだ。腕の立つのが五、六人サポートについてたら、ゲオルグでも攻略するのは難しいのではないだろうか。

 あの魔術もかなり魔力を使うらしく、戦いが終わったときは魔力が空っぽになっていたから、無限に大暴れできるわけではない。だが、敵陣に切り込んで最後に大爆発でも起こせば、一軍を崩壊させるくらいの働きは容易にできるだろう。


「だから、魔王様のこともちょっと好きになっちゃって、殺そうとしちゃったの」


 ……は?


「魔王を殺そうとしたの?」

「誤解しないでね? 生まれて初めて優しくされたから、ちょっとだけ勘違いしちゃったって感じだから。そういうのって、誰でもあるでしょ? ない?」


 いや、そんな言い訳みたいな……。


「そりゃ、とんでもないことをしでかしたね。じゃあ、魔王城であれをやったわけ?」

「うん」

「あの大爆発を?」

「うん。魔王様の居室は襲撃してすぐに壊れて、外での戦いになったから、城の中でではないけどね。尖塔が五本くらいぶっ飛んで、大聖堂って呼ばれてるホールは崩落したかな」


 めちゃくちゃだ……。


「……へ、へえ。そうなんだ」


 大規模テロの主犯だ。

 そりゃ、暗殺者の一人や二人送り込まれもする。十人、二十人送られないのが不思議なくらいだ。


「参考に聞いておきたいんだけど、魔王ってどんな戦い方するの? 強かった?」

「そうそう。ルシェのあの剣って、もしかしてゲオルグ・オーウェインの聖剣?」


 ゲオルグのことはベレッタに一言もいってなかったはずだ。

 聖剣の機能や見た目を知っていたのか。


「そうだよ。まあ、いろいろ経緯があって受け継いだ」

「じゃあ、ルシェの師匠って彼なんだ」

「うん。そう」

「へ~、なら強いはずだね。魔王様も言ってたよ。生涯でただ一度だけ負けたのは、ゲオルグ・オーウェインっていう剣士だったって」


 まあ、そりゃ認識してるだろうな。だからバルザックの部隊を送ってきたわけだし。

 そんなに意識してるなら、自分から来て正々堂々戦えやって思うが、嘘を言わず負けたと部下に伝えてるのは立派だ。


「ベレッタでも魔王には勝てなかったの?」

「無理だよ~、無理無理。私もいけるかなーと思ったんだけど、防御系の魔術の密度が桁違いでさ。二、三発の同時起爆じゃたじろぎもしないんだもん」

「そりゃすごいね」


 いや本当にすごい。

 魔力総量が多いとそういう戦い方もできるんだ。

 おれが魔力の消費を度外視しても、そんな魔術の使い方はできない。魔力の出力器自体も大きいのか。


「ルシェの言った通りでさ、相手にペースを握られちゃうと駄目なんだ。一回の攻撃に何個も起爆して、防御にも使ってると供給が間に合わなくなっちゃうんだよね。最後は五発ずつ爆発させたんだけど、それでも破れなくてさ。そのうち親衛隊に囲まれたから、もう無理ーっ! って、アレして逃げてきちゃった」

「そ、そうなんだ」


 聞けば聞くほど酷い話だ。同情するべきではないけども、ちょっと同情したくなる。手塩にかけて育ててきた最精鋭が唐突にそんなことをやらかしたら、悲しいなんてもんじゃない。


「あと、最後にもう一つ聞きたいことがあるんだけど」

「なーに?」

「ベレッタってさ、人間のこと嫌いじゃないの? 魔族って、無条件で人間を憎んでるって聞いたんだけど」


 おれがそう言うと、ベレッタは不思議そうな顔でおれを見た。


「イーリさんから聞いてないの? ミールーンの人たちは、その辺かなり詳しく知ってるはずなんだけど」

「いや、イーリとは一年ちょっとしか一緒に暮らしてなくて、その間はずっと魔術の勉強をしてたんだ」


 興味がなかったわけではないし、今思えばもっと習っておけばよかったと思うが、せっかく世界有数のプロフェッショナルに教えを受けるのだから、本を読めば分かるようなことより専門分野について教わったほうがいいと思っていたのだ。


「ふーん……そうなんだ。あのね、元々、人間のことを憎んでいるのは魔王族の人だけなんだよ」

 えっ、そうなのか。

族性(ぞくせい)には性質と性格とが一つずつあって、魔王族の性質は魔王を産むこと。性格は人間を憎むこと。だから、魔王族の人たちは別にミールーンのルーミ人のことは憎んでないんだよ。ただ、人間の領域を攻めるのにどうしても邪魔だから滅ぼしただけでさ」

「……そうなんだ。知らなかった」


 イーリが生まれた頃には、すでに今代の魔王は誕生していた。物心付いたころには、魔境は既にミールーンと断交状態にあったという。

 しかし、イーリが生まれる二、三十年前……つまり魔王不在期におけるミールーンは、かなり活発に魔境と交易をしていたらしい。


 魔境にだけ産する珍品や、強力な魔族の死体の一部は単純に素材としての需要があり、魔境に棲まう魔族も人間界の物品を欲しがったので、ミールーンを介して貿易が成り立っていたわけだ。それは結構な規模で、昔はミールーンの主要産業の一つだったらしい。

 ベレッタが、イーリなら知っているはず、と言ったのは、その辺りの歴史を知識として知っていて、国交があったミールーン人ならその程度の情報は溜め込んでいて当然という認識があったからだろう。


「それでね、大抵の魔族の性格は、魔王に従うことなんだ。屍操族の性質は屍体を操れることで、性格は屍体を好むことでしょ? だから、私はべつに人間に対してなんの感情もないし、魔王様に隷属したいとも思わないよ。こっちの人と同じように、生まれ育った国に惰性で従ってたって感覚が近いかな。愛国心? ってほどでもないけど」

「じゃ、鉄血族も、別に人間を憎んではいないわけ?」

「うん、そうだよ。魔王様に従ってるだけ」


 ……そうだったのか。

 じゃあ、本当に魔王がいなくなれば全部が終わりなんだな。魔王不在期の魔境は各種族が相争い合う戦国時代みたいなことになっていると聞いたことがあるけど、それは事実そうで、従うのはあくまで魔王個人であって魔王族ではないからそうなるのだろう。

 魔族が全員人間を憎んでいるのだとすれば、魔王が不在ならそれはそれで、団結はせずとも各自人間界に攻め込んでいるはずだ。


「でも……なんでそんなことになったんだろ」


 不思議だ。進化論の感覚からすると、そんなふうに魔王の出現に収斂するような種族の仕組みが自然に出来上がったとは思えないのだが、やはり魔力の利用が生物の進化と密接な関係がある世界では、そんな不思議なことも起こりえるのだろうか。


「ベレッタは、そうなった歴史みたいなものは教わった?」


 この世界の歴史には断絶が多く、歴史書にも詳しいことは載っていない。

 魔神帝から始まった魔導王朝の時代が第一紀とされていて、そのうち悪政がはびこるようになってきて、解放を望む人々に打ち倒された。彼らが新たに生きた時代が第二紀といわれていて、その後に第三紀があって、現在は第四紀とされている。

 年表が整然と並び、この時代の人々はこういう生活を送っていて、こういう出来事が起きた、なんていう綺麗な歴史は残っていない。発掘調査も文献調査もすっとばし、真贋定かならぬ御伽噺のような話を真に受けたような歴史書はあるのだが、そういった代物は歴史と呼ぶには値しないだろう。

 ただ、第一紀と第二紀の間に大きな戦争があったということは歴史的事実とされていて、そのとき生き残った魔導王朝の国民が魔族の先祖なのだとか、あるいは人ならぬ域まで魔導を高めた王族たちが神族なのだとか、様々な説がある。


「それは教えてくれなかった。なーんか、魔王様は知ってたみたいだけどね。魔王族にも、ここの夜帳(とばり)書庫みたいに管理されてる文庫があってさ。魔王族の場合は長老が管理してるんだけど、それは歴代の魔王と長老だけが読めるらしくて、今の魔王様は誰にも読ませてないみたい」

「それは興味あるな」

「そんなことより、今はお金集めが先でしょ?」


 ああ、そうだった。


「じゃ、楽して儲かりそうなのから始めようか。知ってることをそのまま書くのが一番手っ取り早いし」

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― 新着の感想 ―
[一言] 『魔族は魔王に従う』『魔王を倒せば平和になる』 辻褄はあうけど、屍操族を含めて魔族の設定が凄く歪に感じる。魔王抜きに魔族が群れ社会を構成するのは困難に思えるな。 ベレッタは真実を話しているの…
[一言] ベレッタの超魔、頭の出来に比して脳筋すぎるだろと思ってたけどし屍傀亜竜の騎乗に最適化されてるんだね。考えて見りゃ当たり前だけど書かれるまで気づかんかった。
[一言] 魔王に思わず同情しちゃってる所 笑えるとことですね
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