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竜亡き星のルシェ・ネル  作者: 不手折家
第二章 別荘での暮らし
35/79

第035話 旅立ち

 それから長い間、イーリは嗚咽を噛み殺しながらゲオルグの亡骸を抱きしめていた。

 しばらくして、そっと離れると、


「ルシェ、ネイ」


 と言った。


「……うん」

「地中に四角い穴を掘って、ゲオルグを凍らせておけるか?」

「できるけど……」

「なら、頼む」


 ゲオルグをここに埋葬したままにするのだろうか?

 そんなことはしたくなかった。いつここに二の矢、三の矢の敵襲が来るとも限らない。

 そして現場検証のようなことをして、ゲオルグの亡骸が暴かれる……それは嫌だ。きちんと弔いたい。


「ルシェ」


 イーリがおれを見ていた。


「安心しなさい。あとで人を来させてクシュヴィの森まで移送させる」

「あとって、いつ頃になる?」

 土中なので氷は溶けにくいが、一ヶ月も溶けない氷を作るのは大変だ。

「遅くても、一週間後には私が呼び寄せた手勢が来る」

「えっ?」


 一週間後?

 最初から、ミールーンの部隊を呼んで――というか、迎えに来させていたのか。

 あと、たったの一週間。それが間に合っていたら、こんな風に戦わず、もっと安全に移動できていたかもしれないのに。


「手を打つのが遅すぎたと思うか?」

「いや……」


 分からない。

 ただ、近頃のおれは毎週のように魔獣を狩っていたので、その数が加速度的に増えていることは感じていた。

 それは魔族の前線が近づいていることを意味しているので、こうやって安穏と暮らしていてもいいのだろうかと、おぼろげには思っていた。

 引っ越さないでいいのかな、と考えないでもなかったが、その辺りの判断はイーリがするだろうと思い、判断を委ねていたのだ。

 その考えが間違っていたとは今でも思わない。イーリはおれよりずっと正しい判断ができる。


「事実、遅かったのだ。だからゲオルグは死んだ」

「どういうこと?」


 自分の判断ミスでこの事態になった――と言っているのだろうか。

 まさか。


「私は、どうしてもゲオルグを失いたくなかった。あの家を離れたあと、私たちと別れてどこかの戦場で人知れず死ぬなど、絶対に許せなかった。私は、それで判断を誤ったのだ。口説き落としてから急いで手勢を呼んだが、クシュヴィの森は大陸の反対側にある……到着するまでに、時間がかかりすぎてしまった」


 ああ、そうだったのか。


「私は馬鹿だ。判断を誤って、ゲオルグを失ってしまった……」

「そうは思わない。ゲオルグがいつ折れるかなんて、いくらイーリでも分かるわけない」


 そりゃ、ゲオルグが心変わりする時期を読んで予め呼んでおく――みたいな行動ができればよかったのだろうが、それができれば最初から苦労はしてない。


「いや、とっくにあの家は安全なエリアではなくなっていた。とっくに去っているべきだったのだ」

「そしたらゲオルグは放浪に戻って、どっかの戦場に向かってた。断言するけど、ゲオルグは絶対そうしていたよ。そんなところで独りで死ぬより、ゲオルグはずっと幸せだったはずだ。今は自罰的になっているのかもしれないけど、その想いを否定したらだめだ」

「……ルシェは優しいな」


 イーリは自嘲的に微笑んだ。

 その表情からは、イーリの深い悔恨と、傷ついた心から流れる血の色が見えるようだった。


「優しくないよ。むしろ怒ってる。そりゃ生きてたほうが良かったけど、ゲオルグはそこそこ幸せな死に方をした。その生き様は否定してほしくない。というか、たとえイーリでも否定したら許さない」

「……そうだな」


 聞いているのか聞いていないのか、イーリは頷いた。

 悪くないなどと言われても、そうは思いたくないのだろう。自分に罰を与えたい、自傷したいような気持ちが、安易な赦しに逃げようとする心を(なじ)って、許さないのだ。

 その気持ちも痛いほど理解できた。

 今のイーリは、起きてしまった出来事に対して、着地点を探っている。いつか自分なりの着地点を見つけるまで、苦しみ続けるのだろう。


「少し遠くに穴を造って、氷を張るよ。ネイ、手伝ってもらえる?」

「……うん」



 ◇ ◇ ◇



 ゲオルグを凍らせたあと、おれはゲオルグの杖入れ、そしてバルザックの持ち物だった流体金属の聖剣を奪った。

 複雑な制御方法があるらしい聖剣を当てずっぽうで動かしていくと、わりとすぐに流体金属を回収する操作を見つけた。わずかに散らばっていた流体金属を回収すると、包み方を工夫して荷物に入れた。


「イーリ、亜竜はどうする?」

「先を急ぐ。運が良ければ回収できるかもしれない」


 放置していくようだ。

 亜竜の死体は付呪士(エンチャンター)にとっては宝の山のようなものだ。例えば骨や歯は星竜の鱗の下位互換のような性質を持っていて、中級品の付呪具に使える。

 そして、特定の器官は星鱗よりずっと貴重な素材になることがある。星鱗のような万能に使える素材にはならないが、極端(ピーキー)な特質を帯びていて、用途ごとに適切な使い方をすると凄まじい効力を発揮する。

 例えば、ゲオルグが持っていた五本のツララ(ソークローデュ)は、ネル家の至宝である、三千人の軍勢を一息で凍らせたと言われる大冰竜の”負の世界の杭”(アンムンドゥス)と呼ばれる結晶体を少しだけ削って作られた。”負の世界の杭”(アンムンドゥス)には周囲と熱交換する性質があり、放っておくと勝手に冷たくなってゆく。今は背負い袋に入っているが、電気を流してみたら超伝導性があった。


 大冰竜は特別に大きく偉大な古竜だったが、ミールーンの近くをねぐらにして周辺に寒冷化をもたらしたので多大な犠牲を払って討伐された。この二匹の屍傀亜竜(しかいありゅう)が大冰竜と同じくらい偉大な竜だとは思わないが、素材には大きな利用価値があるだろう。

 ただ、どんな価値があっても命には代えられない。


「そうだね、もう一度敵が来るかもしれないし」

「ああ。きっと近くに怪鳥族(ハルピー)監視者(ウォッチャー)がいる。今も私たちを見ているだろう」


 イーリは、あらぬ方向を眺めながら言った。

 は?


 怪鳥族(ハルピー)は、とても臆病な性格の魔族だ。優れた知能を持っており魔術も扱えるが、魔族の領域ではあらゆる交通網から断絶した山岳地帯の峻険な崖のような地域に暮らしていて、侵略する敵が来ると争うことをせず、村をあっさり棄てて別の場所に移ってしまうという。

 臆病すぎて争いには向かず、発見されるとすぐに逃げる。戦争では、その性質を活かして隠密偵察の役目を担わされている。


「もしかして、下の村が襲われたときから?」

「そうだ」


 ずっと見ていたっていうのか。

 しかし、腑に落ちる点は多かった。

 下の村の軍勢を討伐――解放してから、襲われるまでの時間がいくらなんでも短すぎた。三時間かそこらしか経っていなかったはずだ。

 つまり、敵は三時間の間に味方に被害を知らせ、バルザック率いる飛竜の部隊を急行させ、しかも既に家を放棄して通常考えられるルートを外していたおれたちの位置をつきとめ、攻撃したことになる。そんなことは、どう考えたって不可能だ。一番時間のかかる探索というフェーズが丸々抜けている。


 それに、村を襲った部隊が小規模だったのも不可解だった。アリシアを尋問していた魔王族は、最初からゲオルグとイーリを探していた。だが、運良く二人が滞在している町を引き当てたとしても、ゲオルグ一人に簡単に殲滅されてしまうような戦力では、その場で皆殺しにされて逃げられてしまうだけだろう。それでは意味がない。

 つまり、町を襲った部隊は最初から捨て駒で、ずっと遠くから監視要員の怪鳥族(ハルピー)が観察していたのだ。

 最初から、ゲオルグとイーリを発見したら監視者(ウォッチャー)が迅速に連絡をし、バルザックの部隊が急行してくる仕組みが整えられていた。監視者(ウォッチャー)はその後も遠巻きに追跡を続け、おれたちの動きを逐一報告していた。そして、そいつは部隊が全滅した今も、ここにいるかもしれない。


 ああ……まったく、おれはなんて馬鹿なんだろう。

 それが分かっていたら、いくらでも打つ手はあったのに。


怪鳥族(ハルピー)は、いると分かっていても潰すのが難しい。ものすごく遠くからこちらを見ているし、周囲に擬態する術を心得ている」

「イーリ、それは状況が違うよ」


 おれは親指と人差し指で輪っかをつくって、魔術を編んだ。

 指の間に光を遮断する力場を作り、遠赤外線域を選択して通すようにする。光量を絞ってあたりの地面や木々が暗く見えるようにし、輪っかを通して辺りを見た。

 熱をもった物質は全て電磁波を放っている。その熱放射は、体温や気温の領域では遠赤外線となり、太陽ほどの温度になると可視光の帯域となる。そして温度が高くなるにつれてエネルギー量は増えてゆく。

 木の葉の間に隠れたり迷彩色を纏ったりするのは簡単だが、熱放射まで偽装するのは恒温動物にとって容易な芸当ではない。


 そして、少し遠くの木の上に熱源体を見つけた。


「いたよ。麓の町なら目の良さを活かして遠くから観察できただろうけど、ここは尾根だ。勾配がなだらかすぎて、山頂からも見下ろせない。観察するには近くに寄るしかない」


 おれは木の上で隠れている魔族に、指向性の強力な閃光を放った。目を潰して逃げられないようにしたあと、間髪入れずに初速を重視した氷の礫を散弾のように発射する。

 ぱさっ、と枝が揺れて木の葉が擦れる音がして、和製のホラー映画に出てきそうな、目がギョロッと大きい鳥人間のような魔族が落ちてきた。

 落ちたところに火球を投げつけると火だるまになったが、礫が命中した時点で気を失っていたのか暴れ狂う様子もなかった。


「……はあ」


 おれはなんて馬鹿なんだろう。この厄介な監視者の存在を知っていれば、尾根に到着してから始末する時間はいくらでもあった。

 そうしたら、バルザックにこちらの正確な位置を掴まれることはなかっただろう。あるいは、そこから更に方向を変更すれば、それを知るすべはなかったはずだ。

 後知恵や結果論ではなく、事前に得ていた情報をきちんと分析すれば推察できたはずだったのだ。特に、イーリとゲオルグを名指しで狙っているという情報は、「なら逃げなきゃ」という以上に、値千金の判断材料だった。


 自分の甘い考えがもたらした現実を思うと、悔恨と共に身震いが襲ってきた。

 おれはなんて馬鹿なんだろう。そのせいでゲオルグを失ってしまった。

 きちんと自分で考えられていれば、アリシアや町の人たちだって助けられていただろう。

 イーリとゲオルグに思考を預けて、甘ったれていたのだ。そのせいで、多くのものが手のひらからこぼれていってしまった。


「どうしよう……ひどい間違いをしちゃった。もう……取り返しがつかない」

「大丈夫」


 イーリは、かつてと同じように、そっとおれを抱きしめた。


「私も、嫌というほど自分の無能を感じている……でも、ルシェはよくやっている。ゲオルグは怒っていないよ」

「でも……アリシアが」

「安心しなさい、アリシアは無事なはずだよ」


 イーリは何を言っているのだろう。

 バルザックは、アリシアたち村の皆を焼き殺したと言っていた。まさか忘れてしまったのだろうか?


「……あれは奴の吐いた嘘だ。考えてもみなさい。あんな監視者がいたなら、情報を村の人々に頼る必要はないだろう。一直線にここへ、脇目も振らずに来たはずだ。途中で彼らを見つけていたとしても、王の行列でもないただの村人に、竜の翼を翻してまで息を吹きかけていったとは思えない」


 そう言われると、苦渋を煮詰めたような頭の中に、清い水が注がれ、一気に思考が明瞭になったような気がした。

 ああ、確かにそうだ。所詮は連中の気まぐれだから、可能性はゼロとはいえないけれども、限りなく低い。


 ああ、そうか。アリシアは無事なのか。


「さ、行こう。たぶん来ないとは思うが、ここも安全とはいえない。もう、私は家族の誰も犠牲にしたくはない」

「……うん」


 背を向けて歩きはじめたイーリに、おれはついていった。



 ◇ ◇ ◇



 十日後、おれはこれから去る大都市オルメリスの城壁を見ていた。


 首都というだけあって大規模な防衛施設を備えたオルメリスは、これから前線が迫ってくるに従って危険になるにしても、現在はまず安全な場所といえた。イーリはホテルに宿泊すると、呼び寄せていた私兵たちに連絡を取った。

 二日後、二十三人からなる私兵が到着した。彼らは正規軍ではないらしく、全員が異なった荒々しい装備を身に着けていたが、身のこなしから一流の戦士であることは明らかだった。


 彼らは謎の人物であるおれの存在が疑問そうだったが、イーリがこれからの仕事を説明し、一時的におれの指示に従うよう命令すると、すぐに動いてくれた。

 市場で荷馬車を五台購入して一晩の休息をとると、翌朝から移動を始めた。それから二日をかけて、襲撃があったあの場所まで到着した。


 前線から遠く浸透して活動できる手駒が尽きていたのか、魔族の第二派は来ていないようだった。ただ、離れていた間に崖崩れが起こったようで、竜の一体は下に流されてしまっていた。

 二体の竜を解体するのは結局一日がかりの作業で、それから馬車に積み込む作業が挟まり、氷漬けのゲオルグの遺体と共にオルメリスに戻るまで、合計して十日間もかかってしまった。


 オルメリスの通行税を払い、城門を出て交通の邪魔にならないよう少し進むと、私兵たちは出発の前に門番に(あらた)められた馬車の幌を締め直そうと、せかせかと働きはじめた。

 いよいよ出発だ。

 馬車に乗り込もうとしたイーリに、おれは声をかけた。


「イーリ、ごめん。おれは行かないことにするよ」


 そう言うと、イーリは珍しく驚いた顔をした。

 足をかけていた馬車から降りると、


「なぜだ。どこに行く」


 と、厳しい顔をしておれに言った。


「枢機の都、ヴァラデウムだよ。クシュヴィの森とは、少し方向が違う」

「なにを――なにを、調べにいくんだ」


 そう言いながらも、ヴァラデウムという単語を耳にしただけで、イーリは全てを察してしまったようだった。


「イーリを救う方法」

「――そう、か」

不死業(ふしごう)のこと、おれに隠していたね。離れている間に、メークトから聞いた」


 さすがのイーリも、そこまでは気が回らなかったのだろう。

 彼らはイーリの私兵だが、ネイと違って特に口止めをされていなかった。ヴァラデウムで魔術を学んだことのあるメークトという戦闘魔術師は、他愛も無い雑談の中でおれに質問を投げかけられると、普通に答えてしまった。

 それは、魔術師にとっては禁忌でもなんでもない、ただの一般知識だったのだ。イーリは、知識の海にスポット状に穴を開けるように、おれにその情報を与えないようにしていた。


「すまない。だけど、ルシェには知らせたくなかったのだ。知ってしまえば――」

「何とかするよ」

「……何ともならないから、教えなかったのだ」

「分かってる。イーリがなにもしなかったのは、既知の技術では為す術がないからだ。方法があればなんとかしてる」


 不死業(ふしごう)への現状唯一の対抗策は、魔法を使わないことだ。別に治ったりするわけではないが、イーリはそれを忠実に守っていた。


「そうだ。残念だが、どうにもならないことなんだ」

「うん。でも、新しい方法を考えてみるよ。イーリと一緒にクシュヴィの森に行って、手伝いをするのも悪くないと思うけど……それじゃ、ただ手をこまねいているだけだ」

「そうか……」

「うん。ごめんね」


 おれがそう言うと、イーリは泣きそうな目でおれを見ながら、ぽんと手を頭の上に置いた。


「まだ小さい。子供はいつか巣立つものだというけれど、いくら何でも小さすぎる。独り立ちだとは思わないからね」

「大げさだよ。少し寄り道をして帰るだけだ」

「うん。いつでもいいから、私のところに帰っておいで」


 イーリはそう言うと、涙がこらえきれない様子で馬車に入ってしまった。

 入れ替わりに出てきたのは、ネイだった。


「ネイ」

「聞いてた。行っちゃうつもりなの?」

「そうすることにした。駄目かもしれないけど、精一杯やってみたいから」

「いいよ」


 ネイは許してくれるようだ。


「私も手伝いたいくらいだけど、ごめん。たぶん、何の役にも立たないから」

「大丈夫、おれ一人でやるよ」


 役に立たないどころか、たぶん、霊侵術(サイコマンシー)を使えばこの先様々なことが上手くいく。

 でも、倫理観の高いネイは、利己的な動機で人の頭の中を覗くことをしたがらないだろう。イーリなら、ネイの心を上手く気遣ってあげられる。


「ネイはイーリの側にいてあげて」

「うん。そうする」


 おれがそう言うと、ネイは突然おれを抱きしめてきた。


「ごめんね。私、いいお姉ちゃんじゃなかった」

「……いや、そんなことないよ。ネイは特別だ。おれのなかでは」

「私、もっと頑張って立派な人間になるから。ゲオルグさんに顔向けできるように」


 さっぱり分からなかった。

 そもそも、あんなに努力ができて、理性で己を律している人間が、一体どこが立派でないんだろう。

 実際、いくらでも悪い使い方のできる霊侵術(サイコマンシー)などという術を使えるのに、悪徳に染まらずこんな風にしていられる時点で、立派な人格者である証左じゃないか。


「ネイ、無理しないでね」

「無理ばっかしてるのは、ルシェでしょ」


 そう言うと、ネイは抱擁を解いて離れた。


「うん……じゃ、イーリをよろしくね」

「わかってる」

「ミールーンの人たちに腹が立っても、あんまり怒っちゃだめだよ」


 それが心配だ。ネイは、結構激しい口調で言うから。


「ふふっ、それは約束できないかも」

「悪口は手紙に書いて送って。そっちの状況も知りたいし。居場所は伝えるようにするから」

「うん」

「それじゃ」


 おれは自分で買った馬に跨った。乗馬の方法は、イーリの私兵たちから教わっていた。

 まだまだ下手くそだけど、旅をしている内に慣れるだろう。


「ルシェ!」


 背中からネイの声がした。


「イーリ様が、これをって」


 ぽんっ、と投げられた、包み紙を開く。中には重しのためか、金貨が何枚か入っていた。

 紙は、走り書きしたヴァラデウムへの紹介状だった。

 それは、所々インクが滲んでいた。ぽたぽたと、間断なく雨が垂れる中で書いた手紙のようだった。


「ありがとう」


 おれはそう言って、手紙を仕舞うと、馬を走らせた。

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[良い点] 本当に素晴らしい作品で、夢中になって読みました。別作も本作も、作者さんの世界観や丁寧な描写、美しく切ないストーリーなど魅力に溢れていて、なろう作品の中でもトップに好きです。別冊の書籍版を大…
[一言] 面白かった!更新待ってます!
[良い点] くぅ〜こっちの作品も面白過ぎる!!
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