嘘をつくのがとても上手い
授業間の十分休憩、陽の周りにはたくさんの生徒が集まる。
普段は無口でおとなしい生徒も、陽の前では饒舌だし、ゴリゴリの体育会系の生徒も、楽しそうに陽と話す。
今日は陽キャの男子が数人集まっていて、昨日の部活であったことなどを、楽しげに話している。
「陽の腕のリストバンド、どうしたの?痛めたの?」
一人の男子生徒がそう言った。
陽が腕を上げた瞬間、制服がまくり上がって見えた手首には、普段はつけていないリストバンド。
それを疑問に思い、その生徒は尋ねた。
その瞬間、陽の隣の席に座る彩花の心臓がドクンと跳ねる。
陽がリストバンドを付けている理由が、手首の傷を隠すためだと気が付いたから。
もしここで陽が自傷行為をしている事がバレてしまえば、みんなはどう思うだろう。そんな考えが彩花の脳内をよぎる。
彩花が考えたことは、何とか守らなくては、という事だった。
しかしいきなりの事でどうすることもできず、あたふたとしていると、陽は先ほどまでの笑顔を崩さず、何の違和感もなく答えた。
「あぁ、これね。好きなバンドのドラマーが付けててさ、かっこいいから真似してたんだよね」
まるでその質問に対する返答を用意していたかのように、陽は平然と答えた。
その瞬間、彩花は凄まじい恐怖を感じだ。
陽という人間が、とてつもなく嘘を付くのが上手くて、笑顔があまりにも自然だったから。
まるで自分が見ている陽という存在のなにもかもが、嘘に塗り固められたもののような気がして、自分のすぐ横に座る人間の本質が、全く見抜けない。
彩花が冷汗をかいているうちにも、「好きなバンド」という話題からさらに会話を広げていく陽。
友人と楽しそうに笑う陽の笑顔は、彩花には偽物に見えて仕方が無かった。
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