いいよ
中学二年、親が離婚し、俺は地元を離れた.。
別にその事に対して何か思う訳では無かったけれど、ほんの少し、あの地獄のような生活から解放された気分でいた。
でもそれは間違いで、結局どこへ行こうとも地獄であることには変わらなかった。
母は精神病を患っていた。
どうしてそうなったかは分からない。
でも、壊れた人間と生活するのは、俺にとっても苦痛でしかなかった。
家が変わっても、俺に居場所なんて無かった。
とある日の夜。俺はいつもどおりに街を徘徊していた。
もしかしたら自殺しようとしていたのかもしれない。だってそんなこと、とてもどうでもいいことなのだから。
そんなとき、後ろから可愛い声で話しかけられた。
「ねぇ、お兄さん。私を買ってくれませんか?」
そこにいたのは、陽菜だった。
確かその時は、日向 陽菜って名前だった気がする。
というのも、彼女の苗字はよく変わる。
本人から聞いた話だが、今までに苗字は五回変わっているらしい。
まるで携帯の機種変更化のように苗字が変わる彼女は学校でも見事に浮いていた。
誰ともかかわる気が無いかのようにも思える。
そんな陽菜が俺に「自分を買ってくれ」と言ってきた。
陽菜は放課後になるといつもすぐ教室から出ていくので、てっきり直帰しているのかと思いきや、援助交際をしていたのか、と俺は変な納得をした。
当時の陽菜は今と変わらない綺麗な金髪は、肩にかかる程度のショートで、体もまだ成長途中と言った感じだった。そう言ったのを好む男性は少ないようだが。
陽菜は俺の顔を見るなり、驚いた表情を浮かべる。
そして乾いたように笑顔を作って、明るい声で話す。
「あはは。転校生くん。こんなところで何してるの?夜は危ないんだぞー?」
どうにも鏡でよく見たことのある笑い方だった。
どの口が言うんだ、と言いたいが、その時の俺はどうにかしていたようで、先ほどの言葉に、返事をする。
「買うよ、君の事。いくら?」
俺がそう答えると、陽菜はまた弱った表情を見せて、俺をイライラさせる、俺にそっくりな表情で答える。
「も、もう。冗談に決まってるでしょ!転校生くんも早く帰りなよ!じゃあね」
なんだ、ヤらせてくれないのかよ。
俺はそのまま背を向け、歩き出す。
しかし、次の瞬間、服の袖が後ろに引っ張られる。
あの時の陽菜の顔は、今でも覚えている。
恥ずかしそうに、興奮したように、ドキドキと緊張をはらんだ震える声と、うつむいた、真っ赤な顔。
「い……よ」
俺と陽菜は、お互いの体温という居場所を見つけた。
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