自殺をしようとしていたら同級生に助けられた
その夜、俺は橋の上で、自殺をしようとしていた。
ここら辺の地域で一番大きなこの橋から下に流れる大きな川に飛び込めば、まず命は助からないだろう。
幸運にも、昨日の雨の影響か、川の流れはとても激しい。
これならきっと簡単に死ねる。
俺は軽い身のこなしで、橋の柵の外側へと行く。
そしてそのまま何の躊躇も無く、俺は前に向かって倒れていった。
「え、え、え!ちょっ!ちょっ!待ってください!……待ってよ!」
このまま川にドボンするかと思いきや、俺の身体は橋から落ちることは無かった。
川に叩きつけられる痛みの代わりに襲ってきたのは首を絞めつける苦しさ。
後ろからパーカーのフードを誰かに引っ張られている。
とりあえず橋の柵を持ち、体制を立て直して後ろを振り向くと、そこにいたのは知った顔。
というより、クラスメイトだった。
名前は片瀬彩花。
クラスメイトで、とにかく普通の子という印象だ。
セミロングの髪は黒に近い赤紫色で、本人曰く、中学を卒業して義務教育から解放されたのがうれしくて、春休みに勢いで染めたけれど、凄く後悔しているらしい。
うちの高校は私立で身だしなみに関する拘束は緩いので髪を染めようが先生にとがめられることは無い。
顔はまぁまぁ整っていて、入学してしばらくたってから開催された可愛い女子ランキングでは学年七位を獲得していた。ちなみに佳菜は三位。お嫁にしたい部門では一位だった。
片瀬とは何度か話してみたが、性格は普通だ。という印象。
そんなクラスメイトBのような存在の片瀬は、俺の顔を見るなり、驚いた表情を浮かべた。
「え……なんで市川くん……」
自殺しようとしていた人物がクラスメイトだと言って、面白いくらいに動揺している。
まぁ、誰だってそうだろう。
「痛いんだけど」
俺は片瀬に捕まれた腕を見ながらそう言う。
また飛び降りようとしないように支えていてくれたんだろう。
「あっ、ごめん。って!なんで血が⁉」
さっきまで状況が読み込めていないと言った様子だったが、俺の腕と、自分の手のひらが血まみれになっているのを見て動揺している。
「ご、ごめん。私焦ってて!爪で切っちゃったのかな…痛かったよね。ごめん」
そう謝る片瀬に対し、俺は柵を跨ぎながら答える。
「ああ、大丈夫。元々だから」
そう言って、自分の手首を見せる。
俺の手首には無数の切り傷、自傷行為の痕があった。
「なに…これ」
血の気が引いた表情で尋ねる片瀬に対し、俺はいつも教室で過ごすように、ニコニコと笑って答える。
「猫に引っ掻かれちゃってさ」
もちろん、そんなことが嘘だなんて誰だってわかるだろう。
でもこの軽口が、片瀬に対してのこれ以上は踏み入らない方がいい、というけん制になる。
「片瀬はこんな時間にどうしたの?」
話を変えるべく、俺が話題を振る。
「ええと……お散歩だよ」
「そっか。夜遅いし送っていくよ」
「う、うん。ありがと……」
すっかり自殺する気も失せた俺は、そのまま片瀬を送って帰る事にした。
その間、ずっと片瀬は頭が混乱していたようだけれど、仕方のない事だ。
片瀬の家に着くまで、片瀬は何も俺自殺について詮索するような事はしなかった。
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