猫は撫でて欲しい
適当な空き教室に陽菜を連れこむと、陽菜は周りを見渡して、明るい声で話しかけてくる。
「ねぇ、ひーくん。こんなところに連れ込むなんて、シたくなっちゃったの?」
嬉しそうに、そして当たり前のように、陽菜は俺にそう尋ねる。
その誘いに一瞬全力で首を縦に振りそうになるが、慌ててそんなことをするためにここに呼んだのではないと自制をする。
しかし、そんな俺に追い打ちをかけるように陽菜と体温を分け合うかのように接近してきて、ピンを背伸びをして俺の耳元で囁く。
「会いたかったよ。ひーくん。大好き」
耳元で囁かれる明るいけど、沈むような、猫が甘えるみたいな声に、嫌でも思い出す。中学時代の事を。
俺が動けないでいると、陽菜はまた調子に乗って、俺の身体を確かめるように弄る。
「少し背のびた?顔もカッコよくなってる」
だけど、それに気が付くと、陽菜は不安そうな表情になる。
「手首の傷、無くなってるんだね。それにピアスも付けてない。タバコもやめたの?」
すると陽菜は脅すように、誘導尋問をするかのように俺の耳元で囁く。
「別の女でも見つけたの?私にはひーくんしか居ないのに?」
うーん……重い。怖い。むずむずする。
思春期ですから、男の子ですから、そんなことをされてしまっては俺の息子は反応しないわけが無くて、ソレを撫でるように触った陽菜は、またうれしそうに微笑む。
「よかったぁ。まだちゃんと覚えてるんだね」
そしてそのまま、その可愛い唇を、俺に近づけて……
「って!ちがーーーうっ!」
「わわっ!」
「違うよ!なんで陽菜がここに居るんだよ⁉」
「えー。そんなこと気にするー?」
「するだろ」
「まぁ、ひーくんが聞きたいって言うんだったら、いいけどね」
そうして、俺たちはやっと椅子に腰を下ろし、なんで陽菜がここにいるのかを話し始めた。
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