片瀬おかゆー!
「はい、召し上がれ」
十数分後、机に運ばれてきたのは、おかゆだった。
まぁ、病人に与える食事と言えば定番だろう。
しかし俺は、どうにも食欲がわかなかった。
キラキラ光るお米も、漂うだしの香りも。全部吐き気を催すだけだった。
また、頑張らないとな。
これを無理やりお腹に詰め込んで、小便をするふりをしてトイレに行って、静かに食べたものを、胃から吐き出す。
「いただきます」
今からやる事を脳内で整理して、スプーンでおかゆをすくった。
目の前に持ってきて、少し冷ますために息を吹きかける。
そうしている間にも吐き気は酷くなって、とても完食できるような気がしなかった。
それでもご飯を残すことはダメな事だし、少しでも食べるのをためらえば、それは失礼に値する。
「あ…んっ……」
意を決して、それを口の中に入れた。
「……ぐすっ……う……うぅ……」
「⁉」
「ちょっ!市川君⁉」
片瀬さんの母と、片瀬さんは俺を見て驚きの反応を示す。
でも、それでも、俺は溢れる感情を抑える事ができなかった。
俺は泣いていた。
「うぅ……う……」
「っ!ごめんっ!市川君!おいしくなかった⁉」
慌てた様子で、片瀬さんは俺に尋ねた。
違うんだ。違うんだよ。
俺が泣いているのはね、
「おい……ひい……」
俺が泣いているのは、君が作ってくれたご飯が物凄くおいしかったからだよ。
最後に泣いたのは、いつだっただろう。
もう最後の一滴まで涙を流したつもりだった。
母が死んだ時も、涙は出なかった。
でも、まさか片瀬さんのおかゆを食べただけで泣いてしまうだなんてね。
「片瀬さん……凄くおいしいよ……」
最後に人のご飯を美味しいと思ったのは、吐かずに食べれたのはいつだっただろう。
人のご飯を食べれない身体になって、初めて、こんなにおいしいものを食べた。
それから俺は、ずっと涙を流しながら、おかゆを残さず食べた。
食べ終えると、すぐに眠気が襲ってきて、目が覚めると、もうすっかり日は落ちていた。
家に帰るときも、片瀬さんは何も聞かなかった。
ただ、この恩は必ず忘れない。
そう誓った。
片瀬さんかわよ
この作品が少しでもいいなと思ったら★★★★★と感想ブックマークをよろしくお願いします




