お腹なんて
「市川君瘦せた?」
片瀬さんは俺の目をのぞき込むように尋ねた。
その眼を見ると、嘘を付くのが何となく罪悪感が沸いてくる。
「気のせいだよ」
「うそ、絶対痩せてるよ。それに顔色も悪いし。ご飯ちゃんと食べてる?ちゃんと寝てる?」
「片瀬さんは俺のおかんか」
まぁ、俺のおかんは死んでいるのだが。
「そう言うのいいから、ちゃんと健康的な生活してるの?」
もう嘘はつかせないと言わんばかりに、片瀬さんは俺の目を見て問う。
それは反則だ。
「はぁ、……ごめん。嘘ついた。あんまりご飯食べてないし、あんまり寝てない」
俺は諦めて答えた。
「あんまり」と答えたが、実はあんまりではない。
ご飯は一日一度食べればいい方。食べてもすぐに吐く。
睡眠も眠れない日が何日も続いていた。
それにもかかわらず炎天下の中バイト漬けの生活を送っているのだから、熱中症にもなるだろう。
「……ちょっと待ってて」
そう言って、片瀬さんは立ち上がる。
向かったのはキッチン。
片瀬さんが何をしようとしているのかはすぐに分かった。
「片瀬さん。ホントに気にしないで、大丈夫だから!」
「市川君、いいから。休んでて」
まるで子供に囁くように、片瀬さんはそう言った。
片瀬さんの母の方に視線を向けるが、片瀬さんの母も真剣そうに俺を見ているだけ。
困ったなぁ……
人の善意は、時に受けて側にとっては迷惑になる瞬間もある。
例えば今がそれだ。
片瀬さんが良かれとやっているこの行動。それは俺にとっては物凄く困る事だ。
「……お腹なんて、空いてないよ。もうこれ以上、俺を苦しめないでくれよ……」
俺は小さな声で呟いた。
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