気にしてないよ
「ごちそうさまでした」
佳菜が目が覚めたタイミングで佳菜の母が帰宅してきて、しばらくするとご飯になった。ちなみに、佳菜の父は今日は帰ってこないらしい。
佳菜は昔から料理が得意だった記憶がある。
佳菜とは若干気まずい雰囲気ではあったものの、食卓は会話が絶えることなく、悪い雰囲気ではなかった。
「あれ、もういいの?」
佳菜の母が訪ねてくる。
俺が食べたご飯の量は佳菜よりも少し少ないくらい。
一般的な男子高校生と比べれば、おやつにもならないくらいの量だろう。
一人一人小皿に分けて提供されるのではなく、テーブルの中央に大皿が盛られる形式だったので、ご飯を残しているわけではない。
「まぁ、ぼちぼちお腹いっぱいなので。おいしかったですよ」
「そう?昔はあんなにいっぱい食べてたのにねぇ……」
俺の食べる量の少なさに、佳菜の母は驚いているが、空腹感が満たされたのは本当だ。
食器を片付け、しばらくリビングでテレビを見る。
「ねぇ、陽君」
すると、佳菜の母は真剣な表情で俺に話しかける。
「お母さんの事、大丈夫?」
その瞬間、一瞬リビングの空気が凍り付くようだった。
というより、カーペットでごろごろしていた佳菜だけが勝手に凍り付いた。
「ええ、全然大丈夫ですよ。今日のご飯も、少し母の味に似てましたよね」
俺は特に気にすることなく、佳菜の母の言葉に答える。
なぜ佳菜の母がこんな事を訪ねてきたのか。
それは今年の一月に俺の母が死んだからだ。
中学二年の時、両親が離婚し、俺は母に引き取られた。突然の引っ越しもそれが原因だ。
しかし、今年の一月に母は死に、俺は父の元へ戻る事になり、こっちの高校を受験することになる。
何で佳菜の母が知っているのかと思ったが、俺の母と佳菜の母は仲が良かったので、離婚の事も、母が死んだ事も、知っていたのかもしれない。
「ちょっ!ママ!」
佳菜が慌てて佳菜の母を止めようとする。察するに、俺の母の事情は佳菜も知っているのだろう。
「いいよ、佳菜」
俺は優しく佳菜に伝える。
こういうデリケートな話は嫌がる人もいるのかもしれないが、俺は全く平気だ。
「その……凄く心配だったの。急な事だったから陽君辛かっただろうに……」
佳菜の母も俺の事を心配してくれていたらしい。
俺は笑顔で答える。
「全然大丈夫ですよ。本当に平気ですから」
その言葉に、嘘はない。
本当に、俺は母の死なんて、一切、気にしていないのだ。
その数分後、俺はトイレで吐いていた。
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