大丈夫だって
体育祭が終わり、夏が近づいてきた。
この時期になれば制服も衣替えになり、「胸のサイズに合わせて服を選んでいたらデブに見えるから」という理由で、胸がぱっつんぱっつんで他の部分はやや小さめのサイズという、いかにもスケベな格好の制服を着た幼馴染を眺めるのが楽しくて仕方がない。
こんなのがついこの前まで中学生だったとかマジかよ……。
衣替えがある事は分かっていたので、しばらく前から手首を切るのを辞め、上腕や肩を切るようにしていたので、手首の傷跡はもう無くなっている。
あまりにも傷の後が多いので治るか不安だったが、傷自体は浅かったようで、薄く跡が残っているくらいなので人にバレるようなことは無いだろう。
しっとりじめじめ暑いこの時期、学校に登校すると、いつも通り片瀬さんはすでに登校しているようで、席で一人本を読んでいた。
というより、いつも俺が来るのが遅刻ギリギリなだけなのだが。
「おはよ、片瀬さん」
挨拶はいつも俺からする。しなかったときは無いが、しなければきっと片瀬さんの方から挨拶をしてくれるなんてことは無いだろう。
「うん、おはよう」
「今日は何読んでるの?」
「今日はねぇ…」
片瀬さんと朝の何気ない会話。
片瀬さんとはだいぶ仲が良くなったと思う。
そもそも片瀬さんがあまり友達を作るような性格ではないという事もあってか、片瀬さんと一番仲のいい男子は俺と言っても良いのではないだろうか。
まぁしかし、物凄く仲が良くなった、という訳ではない。
あくまでも「隣の席の人」から、「ただの友達」になったくらいだ。
「あっつ……」
ふと、片瀬さんが暑そうに、髪をなびかせた。
その瞬間、わずかに汗でしっとりとした真っ白なうなじが見えて、ちょっといやらしいなって思った。
「片瀬さんってさ、髪綺麗だよね」
「え、そう?……ありがと」
俺が褒めると、分かりやすく嬉しそうにしている。
あまり褒められるのに慣れていないのだろう。
高校に上がるタイミングで赤紫っぽく染めた髪は、若干色が深くなってはいるのの、ちゃんと定期的に染め直しているようで、根元から毛先までとてもきれい。
入学時よりも少し伸びた髪はしっとりつややかで、後ろを通る度凄く良い香りがする。
俺は片瀬さんの横顔をよく見てみるが、めちゃくちゃ可愛い。
各それぞれのパーツは整っているし、可愛いと言って問題ないだろう。
かといってクラスのアイドル的存在になるようなことは無いのだけれど、彼女の事を好きな人は三人居てもおかしくない。
「片瀬さんってさ、普通に可愛いよね」
「はいはい、ありがと。ジュース奢ってほしいの?」
「別にたかりたいわけじゃないさ。ただそう思っただけ」
「ふーん。そう言うのは一宮さんに言ってあげなよ。市川君が言えばきっと喜ぶよ」
とまぁ、こんな感じで。俺のセクハラにも付き合ってくれる。
片瀬さんはとてもいい人なのである。
「ねぇ、市川君」
俺がそんなことを考えながら片瀬さんを見ていると、突然片瀬さんの顔が近づいてきた。
「ちょっと顔赤くない?」
突然の片瀬さんからの指摘。
誰にも気づかれないと思っていたが、まさか片瀬さんに見つかるとは。
「いやぁ、片瀬さんの可愛い顔見てたらドキドキしちゃったのかもー」
「そう言うの良いから……熱あるんじゃないの?」
俺の冗談を気にもせず、片瀬さんは心配そうな視線を向けてくる。
そして俺の額へと手を伸ばす。
「ほら、やっぱりすごく熱い。絶対熱あるって……」
「大丈夫だって」
「でも、早退した方が……」
いつだかの、手首の傷を心配された時とは違う。
あの時の心配はとてもとてもうれしかった。
でも今日の心配は違った。
ほんのちょっとだけ、うっとおしくて、イラっとした。
だからつい、人間らしいところを見せてしまった。
「もう、大丈夫だって」
ほんの僅か、棘のある言葉で言ってしまった。
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