うれしいよ
「あっついねぇ…」
クラス分けされたテントにて、俺はだらんと寝転がる。
変にやる気のある三年生の熱気、雲一つない快晴、照りつける太陽、風邪は一切吹く事無く、まだ六月とはいえ、かなり熱い。
クラス委員を決めた時と同じようなノリで、クラスの応援長を任された俺は、まだ運動会が始まってあまり経っていないというのに、既にダウンしていた。
「そんなに熱いなら脱げばいいじゃん、ジャージ」
するとクラスメイトが話しかけてくる。
まぁ、そうだよね。
他の生徒を見ても、ほとんどが半袖の体操服を着ている。
しかし俺は一番汗をかいているにも関わらず長袖ジャージだ。
「刺青が入っているから脱げねぇんだよ」
「実はデブなの隠してたりして?」
「バカ言え、腹筋バキバキだわ」
適当に冗談を交わしてごまかす。
しかし俺としてもジャージを脱ぎたくてしかたがない。
脱ぎたい気持ちはやまやまなのだが……手首の傷が見えてしまう。
今日に限ってリストバンドは忘れてしまうし、テーピングでも巻こうと思ったのだが、なんかそれだと格好つけているみたいで、上級生に目を付けられそうで怖い。
それにもう俺の傷は手首だけではなく、肘の部分まで広範囲に傷が出来ている。
もしそんな広範囲にテーピングを巻いていたりしたら、中二病か、リストカットをしているとバレてしまうかもしれない。
よって、俺は腕まくりすらすることができず、ただただこもる熱気に耐えていた。
「ねぇ、一宮くん」
すると、横から最近聞きなれた声。
俺がそちらに目線を向けると、何やら緊張気味というか、落ち着かない様子の片瀬さん。
「おつかれ。片瀬さん。さっきの障害物競走、カッコよかったよ」
「うん、ありがと。下から数えたほうが早かったけれどね」
追試対策で放課後に勉強を教えてもらったのも、もう二週間ほど前。
少しは距離が縮まったかと思いきや、相変わらず片瀬さんの事を知る事が出来ていない。
片瀬さんの方も、俺の事をあまり知る気が無いように思えるし、本当にただのクラスメイト、と言った関係だ。
別に仲が悪かったり、心を開いてくれないという訳ではないが、ただ単純に、物凄く仲良くなることができないだけ。
別にそれで困るようなことは無いが、秘密を知られているからか、それではさみしいと感じる瞬間もある。
「あの、これ」
すると片瀬さん、少し顔を紅くして、俺に手に持った体操服を俺に差し出す。
「……ん?」
俺が困惑していると、補足するように片瀬さんは言葉を並べる。
「一宮君体操服忘れたからずっとジャージきているのかなって思って。少し小さいかもだけど、私の体操服……って、嫌だよね、女子の体操服なんて!」
………いよいよ片瀬さんのキャラが分からなくなった。
つい今の今まで片瀬さんとは仲良くなれていないのかな、と思っていたが、案外そうでもないのか?それとも片瀬さんは優しいから単純に気を利かせてくれただけ?
とりあえず、俺の口から出た言葉、それは
「ありがと」
感謝の言葉だった。
俺の突然の感謝に、片瀬さんの頭上には?のマーク。
俺はただ嬉しかった。こうして誰かに優しくされるのが、しかも俺の秘密を知っている人物に。
心が温かくなって、それだけで満たされるようだった。
決して惚れたりはしないが。
片瀬さんも俺が好きだとか、そんなことは無くて単純な善意でこうしてくれているんだろう。そのやさしさが、俺には身に染みるようにうれしかった。
「ありがとう、でも別に体操服忘れたわけじゃないんだ。それに片瀬さんに悪いよ。汗かいてるし、しわになっちゃう。………あっ、でも片瀬さんの体操服の匂いは嗅ぎたいから今着ている方の体操服貸してくれないかな?」
「ダメです。……でもなんで体操服脱がないの?」
まぁ、そう思うよね。
俺は少し考えて、いたずらを思いついた子供のように笑う。
さっき優しくされてうれしかったから、調子に乗ったんだ。
俺ジャージをまくって、その手首を片瀬さんに見せる。
それを見た瞬間、片瀬さんの顔は青ざめるのが分かった。その反応が面白くて、そして、うれしく思えた。
「傷が見えちゃうからね。半袖は着れないんだ」
俺柔らかな笑みに、片瀬さんは困った顔をして、それがまた俺はうれしくて仕方が無かった。
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